高齢化が進む地域でその足をどう確保するかは全国共通の課題でもある。その課題を解決すべく国土交通省が中心となって進められているのが、「グリーンスローモビリティ」だ。国土交通省は今年9月、補助金を支給して実証調査する6地域を選定。今回はその一つ、千葉県四街道市の事業を取材した。

執筆者のプロフィール

会田 肇(あいだ・はじめ)

1956年茨城県生まれ。大学卒業後、自動車系出版社の勤務を経てフリージャーナリストとして独立。カーAVやカーナビなど、カーエレクトロニクスの分野を中心にレポート活動を展開しつつ、カメラ系の評論も行う。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
▼日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ会員)
▼走りも楽しいエコカーの実力(イミダス)

グリーンスローモビリティとは

高齢化が進むエリア内を8輪電動バスで低速走行

グリーンスローモビリティとは、20km/h未満で公道走行を可能とした4人乗り以上の電動モビリティを対象としたもの。選定される車両は環境負荷が少なく、狭い路地も通行が可能な車両であることが条件で、選定後は高齢者の移動手段や観光客の周遊などにも活用できる“新たなモビリティ”となることが期待されている。

画像: 停留所は住宅街に細かく設定し、利便性を高めることを重視した

停留所は住宅街に細かく設定し、利便性を高めることを重視した

画像: 参加者からは買い物への身近な足として好評な意見が多く聞かれた

参加者からは買い物への身近な足として好評な意見が多く聞かれた

画像: 運転手以外に保安要員が常に乗車して運転をサポートした

運転手以外に保安要員が常に乗車して運転をサポートした

四街道市の実証実験が実施されたのは11月30日~12月11日までの12日間。四街道市の千代田地区内の2路線を6日間ずつ走行した。このエリアは昭和40年~50年代に開発された住宅地で、高齢化率は四街道市内でも高い方に入るという。そのため、運転免許を返納する人も多く、生活の足を今後どう確保していくかが課題となっていた。

一方でこのエリアの最寄り駅はJR物井駅で、近所には大型スーパーも点在。これを結ぶ路線バスがあるものの、住宅地の隅々まで走ってくれるわけではない。実証実験に参加した人たちからは「(路線バスだと)バス停が遠く、買い物した荷物を持って帰宅するのがつらい」という声が多く聞かれた。そこをどうサポートできるかが実験のポイントとなる。

普通免許でも運転できるのが特徴

画像: 8綸を直接小型モーターで駆動する低速電動バス「eCOM-8」。操舵は前6輪で行う

8綸を直接小型モーターで駆動する低速電動バス「eCOM-8」。操舵は前6輪で行う

使われた車両は電動コミューターを手掛けるシンク・トゥゲザー(本社:群馬県桐生市)が開発した低速電動バス「eCOM-8」。最高速度は19キロという低速域で走ることを前提として開発された車両で、乗車定員を10人(運転手と保安要員を含む)とすることで普通免許でも運転できるのが特徴だ。車内は木製の横長シートが向かい合う形で設置されているが、シートベルトは装備されていない。これは基本的に路線バスと同様の扱いである上に、最高速度20km未満で走行することがその理由だ。

近所までの買い物に役立つ身近な“足”として概ね好評

「eCOM-8」はインホイールモーターを組み込んだ全8綸で走行し、前の6輪で操舵する。電源は交換脱着ができるリチウムポリマーバッテリーを採用し、航続距離はフル充電でおよそ40キロ。今回の四街道市の実証実験では、昼を挟んでバッテリーを交換しながら利用する流れとなっていた。車内は木製シートということもあり、着座した印象は硬めだ。しかし、走り出して路面から伝わる衝撃は8輪車であるにもかかわらず十分にいなされており、乗り心地は想像以上に良好だった。

画像: 車内には木製のシートが向かい合わせて取り付けられていた

車内には木製のシートが向かい合わせて取り付けられていた

画像: 運転席の速度計。最高速度は時速19キロで走る

運転席の速度計。最高速度は時速19キロで走る

画像: バッテリーは脱着式で、この日は午前と午後に分けて使用した

バッテリーは脱着式で、この日は午前と午後に分けて使用した

ルートは路線バスでは難しい住宅街の奥まで入り込んでおり、停留所も細かな間隔で用意されていた。初めて参加した70代の女性は「自宅のすぐそばまで来てくれるからとっても楽。これなら買い物に使いたくなる」と話し、別の70代女性は「歳を取ると何かと億劫になりがちだけど、これなら気軽に乗って出掛けられる」とも気軽に乗れるメリットを実感している様子だった。一方で「無料で乗れるのはありがたいけど、長く続けるなら少しでもいいから料金を徴収して欲しい」「年間パスという形もあると便利」といった声も聞かれた。

ダイヤの組み方もポイントになりそうだ。買い物に出掛けても待ち時間が増えれば利用者にとっては不便となって利用を敬遠する可能性もあるからだ。四街道市では今回の実験で1時間程度の間隔で走らせ、買い物が終わったらちょうど良い時間に乗って帰れることを目指したという。また、車両が団地内のどこを走っているかをスマホの地図上で確認できるサービスを用意するなど利便性にも配慮した。

課題はドライバーの確保

今回、実証実験に使用した「eCOM-8」は国土交通省から貸与される形で運行されたが、四街道市では既に来春の導入を目指して議会で承認済み。今後は車両の選定に入っていくが、運用方法はまだ白紙の状態で、無料で乗車できるようにするのか、あるいは料金を徴収するのかも決まっていないという。特に課題として上がってるのがドライバーの確保だそうで、実験を実施する際も、不慣れな車両を扱うということで進んで手を挙げる人はいなかったという。

画像: ルートは多くのショッピングセンターを利便性を高めた

ルートは多くのショッピングセンターを利便性を高めた

これについて「eCOM-8」を開発した(株)シンク・トゥゲザーの宗村正弘社長は、「昨年はグリーンスローモビリティに選定されて実証実験に参加できたが、今年は下り坂で時速20キロを超えてしまう可能性があることで選定から外れた。四街道市で採用されるよう、リミッターを装着するなどして対応したい」と話す。合わせて「現行モデルはパワーステアリングの装備や障害者用として後部に専用の扉も設けたほか、車幅を10cm広げて乗りやすさを高めてもいる」(宗村社長)という。

12日間でのべ520人が利用。来春、正式導入を目指す

画像: 12日間でのべ520人が利用。来春、正式導入を目指す

四街道市が発表した資料によれば、12日間でのべ520人が利用。時間帯によっては1回のルートで1~3名の時もあったようだが、全体としては10人前後が利用することが多い。実証実験という環境下でもこの実績が残せたのは、それだけ地域の人々が利便性の高い生活の足を求めていることの証しとも言えるだろう。高齢者など社会的弱者にとって日常の足をどう確保すべきか、それは全国レベルで喫緊の課題となっている。今後の四街道市の取り組みに注目していきたいと思う。

取材・文/会田肇(フリージャーナリスト)

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