マリア・モンテッソーリ博士は1800年代後半にイタリアで初の女性医師となりました。ローマにある診療所で貧困層やその子どもたちと向き合い、病気の診療だけでなく暮らし向きにも気を配り、衣服を分け与えたりしていました。モンテッソーリ博士はまず客観的に、そして科学的に子どもを観察し、何に夢中になっているのか、どのように学んでいるかを理解したうえで、子どもの学びを支える方法を考えました【解説】シモーン・デイヴィス(国際モンテッソーリ協会(AMI)認定モンテッソーリ教師)
執筆者のプロフィール
シモーン・デイヴィス
国際モンテッソーリ協会(AMI)認定モンテッソーリ教師。ブログ・インスタグラムMontessori Notebookではモンテッソーリのちょっとしたヒントや読者からの質問に答え、世界中の親を対象にオンライン・ワークショップを開いている。オーストラリア出身。現在は家族とともにオランダ・アムステルダムに在住。ジャカランダ・ツリー・モンテッソーリスクールを立ち上げ、親子クラスで指導を行っている。
訳者プロフィール
宮垣明子(みやがき・あきこ)
和歌山県出身。翻訳者。『奇跡の動物家族~命をつなぐ』(K&Bパブリッシャーズ)、『内向型のままでも成功できる仕事術』(辰巳出版)など翻訳多数。保護猫と暮らして三年目。
本稿は『おうちモンテッソーリはじめます』(永岡書店)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/朝倉めぐみ
モンテッソーリ教育の
簡単な歴史
マリア・モンテッソーリ博士は1800年代後半にイタリアで初の女性医師となりました。ローマにある診療所で貧困層やその子どもたちと向き合い、病気の診療だけでなく暮らし向きにも気を配り、衣服を分け与えたりしていました。
あるとき博士は、ローマの救護院で貧しい暮らしのなかで感情や精神に問題のある子どもたちを観察し、指先でパンくずをつまみ上げているのは食べようとしているのではなく、触った感覚を楽しんでいるのだと気づきます。そしてこの子どもたちに必要なのは薬ではなく教育だと考えました。
モンテッソーリ博士は指導法を先に作ったわけではありません。自分が医学を学んだときと同じように、まず客観的に、そして科学的に子どもを観察し、何に夢中になっているのか、どのように学んでいるかを理解したうえで、子どもの学びを支える方法を考えました。
同時に自らも教育哲学や心理学、人類学を学び、救護院の子どもたちのために試行錯誤を繰り返して教具を作りました。すると中学卒業試験を受けた救護院の子どもたちの多くが、障害のない子どもよりも高い点数を獲得したのです。モンテッソーリ博士は奇跡の教育者と絶賛されました。
その後博士は、ローマのスラム街で、共働き家庭の子どもを受け入れる施設を任され、モンテッソーリ教育法をイタリアの教育システムのなかで試すこととなりました。これが1907年1月に開校した、最初の「カーザ・デイ・バンビーニ(子どもの家)」です。
イタリアから世界へ広がる
モンテッソーリの教育
モンテッソーリがほかの国でも注目され、広まるのに時間はかかりませんでした。いまやモンテッソーリ式の教育や実践プログラムは南極大陸以外のすべての国で行われています。モンテッソーリスクールはアメリカ合衆国だけでも4500校以上、世界中に2万校を数えています。わたしが暮らすアムステルダムの人口は約80万人ですが、幼児から18歳までを対象とするモンテッソーリスクールは20校以上あります。モンテッソーリスクールの卒業生には、グーグル創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス、元アメリカ大統領夫人のジャクリーン・ケネディ・オナシス、ノーベル文学賞を受賞したガルシア・マルケスなどそうそうたる面々が並んでいます。
モンテッソーリ博士は世界中を回りながら、すべての年代の子どもたちの教育に関わり、その指導法を発展させ続けました。第二次大戦中にはインドに暮らしていたこともあります。その活動は1952年にオランダで亡くなるまで続きました。博士は自分の仕事は「暮らし方の教育」だと語っていました。つまりモンテッソーリは、教室のなかだけではなく、日々の暮らしのための教育なのです。
昔ながらの教育vs
モンテッソーリ教育
昔ながらの教育法では、教壇に先生が立ち、この年齢の子どもは今日はこれを学ぶべきだと先生が考えた内容を教えます。いわゆるトップダウン方式、みんなで一斉に学ぶ勉強方法ですね。先生が、クラス全員がアルファベットのaを覚えられるようになったと判断したら、さあ今日はaを習いましょうと始めるわけです。
モンテッソーリ教育では、子どもと大人、学習環境の3つがそれぞれに結びついています。何を学ぶかを決めるのは子ども自身で、それを大人と環境がサポートします。
教具は簡単なものから難しいものの順で棚に並べてあるので、それぞれの子どもがそのとき興味を持った活動を、自分のペースで進めます。教師や大人はその活動の様子を観察し、それはできるようになったと判断したら、ひとつ難しい段階の教具の使い方を教えます。
昔ながらの教育
モンテッソーリ教育
▼環境は子どもをひきつけ、子どもは環境から学ぶというように、環境と子どもはたがいに関係している
▼大人は環境を整え、観察し、子どもが必要とするように修正する
▼もちろん大人と子どものあいだにも、お互いを大切に思う気持ちをベースにした関係がある
▼大人は子どもを観察し、脱線しないよう、必要な部分にだけ手を貸しながら、子どもがひとりでできるようになるのを見守る
なお、本稿は『おうちモンテッソーリはじめます』(永岡書店)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。 詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※(3)「幼児のイヤイヤ期について」の記事もご覧ください。