モンテッソーリの基本は観察です。観察することで、子どもの分析をしない、自分の出した結論に飛びつけない、先入観を持って子どもを見ない、子どもや状況について思いこみを持たないということを学びます。この記事ではモンテッソーリ教育の基本ルールについてご紹介します。【解説】シモーン・デイヴィス(国際モンテッソーリ協会(AMI)認定モンテッソーリ教師)
執筆者のプロフィール
シモーン・デイヴィス
国際モンテッソーリ協会(AMI)認定モンテッソーリ教師。ブログ・インスタグラムMontessori Notebookではモンテッソーリのちょっとしたヒントや読者からの質問に答え、世界中の親を対象にオンライン・ワークショップを開いている。オーストラリア出身。現在は家族とともにオランダ・アムステルダムに在住。ジャカランダ・ツリー・モンテッソーリスクールを立ち上げ、親子クラスで指導を行っている。
訳者プロフィール
宮垣明子(みやがき・あきこ)
和歌山県出身。翻訳者。『奇跡の動物家族~命をつなぐ』(K&Bパブリッシャーズ)、『内向型のままでも成功できる仕事術』(辰巳出版)など翻訳多数。保護猫と暮らして三年目。
本稿は『おうちモンテッソーリはじめます』(永岡書店)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/朝倉めぐみ
モンテッソーリ教育の
基本ルール
(1)環境を整えよう
▼子どもに合ったレベルの活動を用意する。ちょうどいいレベルとは、まだ完全にはできないけれど、嫌になって投げ出してしまわない程度のもの。
▼子どもがひとりで使えるような道具かどうかの確認。トレイは幼児でもひとりで運べるサイズか、こぼした水を拭くぞうきんはあるか、何度も描き直してもなくならないくらい、絵の具やクレヨンは足りているか、クラッカーにバターやジャムを塗るときに使うバターナイフは小さい子が使いやすい大きさか、水を飲むためのコップはいちばん小さいものか、など。
▼子どもの目からどう見えるかを確認するために、大人は床に座って準備をする。子どもの目線にあわせ、絵や作品は壁の低いところに貼り、植物のプランターは子どもが世話をしやすいよう、床かローテーブルに置く。
すべてが子どもサイズに配慮されると安定が生まれます。
▼環境を整えるとは
こういった作業は、単なる「整理整頓」とは違います。子どもたちにおもしろそうだと思わせ、自由に探検して、学べるようにするための準備です。
(2)学びたいと自然に思えるように
モンテッソーリ博士は、子どもには生まれつき学びたいという気持ちがあると考えました。赤ちゃんはおもちゃを手でつかむこと、立ちあがることを何度も繰り返して覚え、歩けるようになりますが、それはまわりの助けを借りつつ、自分の力で覚えていきますね。しゃべる、読む、書くといったことも、計算や社会のこともそれと同じように学べるのです。
▼縦割りクラス
モンテッソーリスクールでは、いろんな年齢の子どもがひとつのクラスで学びます。小さい子は大きい子のやり方を見て学び、大きい子は小さい子を手伝ってあげることで自分の学びをより確かなものにします。
(3)手を使った、具体的な学びをしよう
「こう考えるといい。子どもの知性は、手を使わなくてもある程度は成長する。しかし手を使えば、もっと高いレベルまで伸ばすことができるし、子どもの個性もより強くなる」――マリア・モンテッソーリ博士『子どもの心 ―吸収する心― 』(国土社)
手は情報を具体的に脳へ伝えてくれます。音を聞いたり、物を見るだけでも情報は伝わりますが、聞いたり見たりするときに手が動いていると、脳はさらに深く理解できます。聞くだけ、見るだけでは受け身ですが、手を動かすことで自発的に学べるのです。
(4)敏感期
子どもにはあるひとつのことに特に興味を示す時期があります。これを敏感期と言います。そのことだけを学びたいと思っているので、無理強いしなくても楽に学べます。
大人はその子がいま何の敏感期なのかをよく見極め、さらに興味をかきたてるような活動をさせましょう。
大人の言ったことをそのまま繰り返したがるとか、しゃべり方を真似したがるときは言葉の敏感期。その子とおしゃべりするときにはそれまで使わなかったような言葉をたくさん使ってみましょう。すぐテーブルに登るなら、それはきっと運動の敏感期ですから、思いきり体を動かしましょう。家具によじ登るのはダメだけれど、枕や毛布を積み上げた迷路を作ったり、よじ登れる場所を作ってあげるといいですね。
▼敏感期を見逃したら
子どもの敏感期を見逃してしまったら、と心配しないで。たとえば字を読む敏感期を逃してしまったら読むことが苦手になるんじゃないかと思うかもしれませんが、逃してもちゃんと読めるようにはなります。ただし、大人になってから外国語を学ぶようなもので、敏感期よりは努力が必要になります。
▼幼児の敏感期
敏感期にどんなことをすると子どもの興味をかきたてられるか、末尾にまとめました。
(5)無意識に吸収する精神
生まれてから6歳までは、子どもはいろいろな情報をすいすいと身につけます。モンテッソーリ博士はこれを吸収する精神と書いています。生まれてから3歳までは無意識のうちになんでも吸収しているそうです。
子どもが簡単に学べるうちに学ばせることは、大人にとってはチャンスとも、責任ともいえるでしょう。
チャンスというのは、子どもが大人の姿からどんどん吸収するから。自分のまわりにあるさまざまな言葉をいとも簡単に理解しますし、家具や物をていねいに扱って、ほかの人にていねいに、親切に応対し、物をきちんと順番通りに置くといったように、生活を美しく整える大人の姿を、子どもはよく見ています。
それと同時に責任があるというのは、モンテッソーリ博士の言葉を借りれば、「よく吸収するスポンジは汚れた水もあっというまに吸い込んでしまう」からです。子どもはいいことも悪いことも簡単に真似します。何か落としたり、自分の失敗に納得がいかずいらいらと八つ当たりしたり、うまく絵が描けないと、これからうまくなるさとポジティブになれず落ちこむ大人の姿を見た子どもは、後ろ向きの感情や態度の悪さといった悪いことも、いいことと同じように吸収してしまいます。
子どもにとって良い手本になれるようできるだけ努力し、美しいものや、人に対する優しさを見せて、子どもに吸収させてあげる責任が、大人にはあるのです。
▼吸収する精神
吸収する精神には、0~3歳の「無意識の吸収」と、3~6歳の「意識的吸収」がみられます。
(6)自由と決まり
「モンテッソーリっていわゆるほったらかしで、子どもは好き勝手に遊んでいるんでしょう?」とか、その逆に「モンテッソーリスクールはとにかく厳しくて、子どもはおもちゃの遊び方まで決められてるって?」などと言われることがあります。
モンテッソーリはどちらでもありません。ほったらかしと、厳しすぎのちょうど真ん中くらいです。
モンテッソーリでは、子どもどうし尊重しあうこと、自分で学ぶこと、まわりを大切にすることなど、ほんの少しのルールしかありません。学校でも家庭でも、そのルールのなかでなら、なにを選ぶのも、遊ぶのも、考えるのも、子どもの自由です。
家庭では、暑さ寒さなど季節に合ったものであれば、自分が着たい服を自由に選べるようにしたり、ちゃんと座って食べるなら自分でおやつを出して食べてもいいことにしてみましょう。思ったことを思った通りにやるのは、その子の自由です。でも、人の気持ちを傷つけたり、物を壊したりしないというルールは作りましょう。
▼子どもが自分で決める
モンテッソーリスクールでは、自分が学ぶことは子ども自身が選びます。時間が許すなら同じことをずっとやっていても構いませんし、いつ休憩をとってもいい。他の子が活動をしているところをじっと見ていたっていいのです(ただし、それが他の子の邪魔にならないように)。まわりの子の迷惑にならなければ、教室を動き回るのも自由です。このように、大人はある程度のルールを作ったうえで、その子なりに決めた予定で成長することがあると信じ、子どもを見守っています。
(7)自立と責任
「自分でするのを手伝ってね」
モンテッソーリで学ぶ子どもは、ちゃんと自立していきます。それは子どもを早く大人にならせようと、教師がそうさせているのではありません。子どもは子どもらしくが基本です。モンテッソーリで子どもが自立するのは、子ども自身がそうしたがっているからです。
子どもは家族やクラス、社会の一員になりたい、もっと誰かのために何かしたいと思っています。自分で自分の靴を出せたとき、物を元の場所に戻せたとき、友だちを助けてあげたとき、子どもの顔には満足そうな表情が浮かびますよね。自分のことを自分でできると、子どもの心は穏やかになります。大人が大騒ぎしながら子どもの頭にTシャツをかぶせたり、ぶつぶつ小言を言いながらお風呂に突っ込んだりする必要はないのです。
自立することで、子どもは自分自身に対して、まわりの人に対して、どうやったらきちんと向き合えるかを学びます。
▼ルールのもとでの自由
「自分がしなくてはいけないこともあるということを、どうやって子どもは覚えるの?」とか「ずっと子どものやりたいことを優先していたら、子どもがわがままにならない?」と言われることもあります。でも、子どもになんでもかんでも好きなことをさせるわけではないのです。親は必要に応じて、子どもはこうするべきという愛のあるルールをはっきり決めましょう。ルールが決まっていれば、まわりの人や自分自身を傷つければすぐ大人が止めに入り、子ども同士のけんかがおさまらないときはそっと公園から連れ出すこともできます。子どもの視点で物事を見られるようになれば、けんかの相手やまわりの人(親を含めて)を思いやったり、その場所をきれいに使うというお手本を、大人がまずしてみせることもできるのです。ルールのもとでの自由が大切なのです。
(8)発達はみんな違う
子どもはそれぞれに成長するペースが違います。
モンテッソーリでは、子どもにはそれぞれペースがあることも、エネルギーの強さや集中するタイミングがみな違うことも尊重します。子どもによって学び方が違うことを尊重し、一人ひとりの成長を後押しするのです。
(9)相手を大切に
モンテッソーリスクールの教師は、大人を相手にするのと同じように、子どもと接します。子どもと話すときにもていねいな言葉づかいをしますし、体に触れる場合はまず「あなたを抱っこしてもいいですか?」と聞きます。そして子どもが自分なりに成長していくのを見守るのです。
だからといって、ほったらかしにするわけではありません。大人は必要に応じて、子どもにルールを決めます。決めるときは、子どもの言いなりではなく、大人の押しつけでもなく、お互いに尊重しあいながら、はっきりと。
▼自分で学ぶ
壊れやすいものの持ち方。友だちに「お手伝いするよ」と言うときはどう言えばいいか。自分の持ち物をどこにどうやってしまえばいいか。嫌なことを言ってしまったら、どうやって仲直りすればいいか。植物のお世話の仕方、人の気持ちを考えるにはどうすればいいか。教室をきれいにするにはどうすればいいか。子どもは自分で学びます。もちろん、幼児でも。
(10)観察
モンテッソーリの基本は、観察です。観察することで、子どもの分析をしない、自分の出した結論に飛びつけない、先入観を持って子どもを見ない、子どもや状況について思いこみを持たないということを学ぶのです。
観察していると、いまその子がどういう状態にあるかがわかります。
幼児の敏感期
こういった敏感期が何歳で出てくるかは子どもによって異なる。
言葉
しゃべり言葉に対する敏感期。おとなの口元をじっと見る、唇をぶるぶるさせる、大人の言うことをそのまま真似するなどが続く、爆発的に言葉をしゃべりはじめる。書くことに対する興味は3歳半から、読むことに対する興味は4歳半から。
▼いろんな言葉を使いたがる
▼物の名前をちゃんと言えるようになる
▼本を読む
▼幼児が反応できるようにゆったりと間を取ると、会話ができる
▼その子がやりたがることをやらせてあげる
秩序
子どもは秩序のある状態が好き。モンテッソーリ博士によると、母親と一緒に歩いていた子どもが、上着を脱がされて泣き出した。子どもが泣いたのは「外では着ているはずの上着を脱がされた」からで、母親が上着を着せると子どもは泣き止んだという。
▼次に何をするのか子どもが予測できるよう、いつも通りの順番を決める
▼どんな物にも場所を作り、すべての物がいつもその場所にあるようにする
▼子どもが「いつもと違う」ことで泣き出しても、それを理解してあげる
細かいもの
1歳半から3歳のあいだは、小さなことや、細かなものに興味を持つ。
▼細かい細工の物を飾る 絵や花、手作りの作品など
▼子どもと同じ目の高さになるよう床に座り、そこから見ておもしろく見えるように室内を装飾する
▼これらの条件に合わないものは外す
動きを身につける
幼児は歩くなど体全体を使った運動(粗大運動)と、手を使った遊びなどの運動(微細運動)を身につける。大きくなるにつれ、どちらの運動もスムーズにできるようになる。
▼いろいろな場所に連れ出して、体をいっぱいに使った動きや細かい動きをする
▼思いきり体を動かしてもいい時間を作る
感覚を研ぎ澄ます
子どもは身の回りを探検して、色や味、匂い、手触り、音などに興味を持つ。少し大きくなると、その感覚を分類するようになる。
▼屋内、屋外で、五感を使った探検がたっぷりとできるようにする
▼自由に探し回れる時間を作る
▼大人も一緒に探検する
礼儀、マナー
マナーに対する敏感期は2歳半から。大人はその前から、子どもに礼儀正しく接し、ちゃんとしたマナーをしてみせること。幼児は必ずそれを見て吸収している。
▼大人が言わなくても子どもはできるようになると信じること
▼家庭や日常生活のなかでも、知らない人に対しても、子どもの手本となるような礼儀やマナーを大人がしてみせること
なお、本稿は『おうちモンテッソーリはじめます』(永岡書店)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。 詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※(4)「モンテッソーリ教育の歴史」の記事もご覧ください。