中小企業の経営者は、元気なうちに事業承継を考えなければなりません。事業承継は想定以上に手間がかかるもの。社員に迷惑をかけないためにも、早めに取りかかりましょう。人気テレビ番組のコメンテーターとして活躍する弁護士の住田裕子さんに、近年急増中の「シニア世代の法律トラブル」について解説をしていただきました。

解説者のプロフィール

画像: 公式サイトより www.hs-and-p.biz

公式サイトより

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住田裕子(すみた・ひろこ)

弁護士(第一東京弁護士会)。東京大学法学部卒業。東京地検検事に任官後、各地の地検検事、法務省民事局付(民法等改正)、訟務局付、法務大臣秘書官、司法研修所教官等を経て、弁護士登録。関東弁護士会連合会法教育委員会委員長、獨協大学特任教授、銀行取締役、株式会社監査役等を歴任。現在、内閣府・総務省・防衛省等の審議会会長等。NPO法人長寿安心会代表理事。

本稿は『シニア六法』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。

画像: 住田裕子 (すみた・ひろこ)

会社の行く末を考える
事業承継

画像1: 【中小企業の事業承継】誰が承継するか 順序や方法、手続きのポイントを紹介(会社の行く末を考える)

中小企業の経営者は、元気なうちに事業承継を考えなければなりません。事業承継は想定以上に手間がかかるもの。社員に迷惑をかけないためにも、早めに取りかかりましょう。

 

この条文
会社法 第127条(株式の譲渡)

株主は、その有する株式を譲渡することができる。

事業承継とは、会社の事業を後継者に引き継ぐことですが、会社名義の不動産や預貯金といった一つ一つの財産だけではなく、社員や取引先との契約関係や負債のほか、社会的信用やブランドなど、目に見えない資産の承継も含まれています。

経営者が何も対策をしないまま亡くなると、経営者が保有していた自社の株式は、法定相続人が法定相続分に従って遺産分割によって分けることになります。すると、これまで事業とは無関係だった家族、場合によっては、きょうだいが経営に口を出してくるようになるわけですから、会社が混乱し、社員が辞めて廃業に追い込まれることもあります。早いうちから準備しておきましょう。

誰に承継してもらうか

一番の課題は「誰が承継するか」という「後継者探し」です。主な候補には、①親族、②役員・社員、③第三者に引き継ぐ(株式譲渡による会社売却)の3つがあります。それぞれのメリット・デメリットを以下に簡単にまとめました。

画像: イラスト/須山奈津希

イラスト/須山奈津希

廃業という選択

後継者がおらず、買い手もつかず、そうかといって家族で株式の遺産分割をしてもジリ貧になってしまう……。そのような場合には、経営者の引退と同時に廃業することも視野に入れるべきでしょう。

後継者候補のメリット・デメリット

親族
メリット

  • 経営者と利害が一致し、信頼できる
  • 意思疎通がしやすい

デメリット

  • 後継者としての能力や資質が不十分な場合がある
  • 社内で受け入れられにくい場合がある
  • 養成に時間がかかる
  • 公私混同しやすい
  • 親族間で不公平感が生まれやすい

役員・社員
メリット

  • 仕事ぶりをよく知っており、信頼できる
  • 社内や取引先の理解を得やすいことが多い

デメリット

  • 後継者本人の承諾を得にくい
  • 養成に時間がかかる
  • 後継者が株式や事業用財産を買い取る資力に乏しい場合が多い
  • 金融機関の理解が得られず、借入金の個人保証の引継ぎが困難

第三者(株式譲渡による会社売却)
メリット

  • 親族や社内に後継者がいなくても廃業せずに済む
  • 業況のよい会社の場合、承継が比較的短期間で済み、会社の純資産額に数年分の営業権が上乗せされるので売却代金が多額になる

デメリット

  • 社内で受け入れられにくい場合がある
  • 役員や社員が解任または解雇される可能性がある
  • 業況の悪い会社の場合、買い手探しに難航し、見つかっても安く買い叩かれる可能性がある

廃業は、会社の資産をすべて売却し、負債をすべて支払って清算し、残った財産を株主に配当するという流れになります。役員・従業員や取引先に迷惑をかけることにはなりますし、従業員への今後の対応策も必須ですが、経営者にとっては、むしろ肩の荷を下ろしてすっきりとした老後を過ごすことができるかもしれません。

遺留分の特則

事業承継に伴って株式等の贈与をすると、経営者が亡くなった後に遺留分の問題が起こる場合があります。そのため、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)において、遺留分に関する民法の特例が設けられており、相続人と後継者が全員で合意して書面にしておけば、後継者が旧経営者から譲渡された株式について遺留分の算定に含めないこと(除外合意)や、含めるとしたうえでその金額をいくらにするか決めておくこと(固定合意)ができるとされています。株式以外の事業用財産の贈与についても前記の除外合意が可能です。

この他にも、事業承継に伴う資金を必要とする場合に、日本政策金融公庫等が低金利融資制度を設けていたり、信用保証協会が通常とは別の保証枠を設けていたりします。その他、事業承継補助金や、相続税・贈与税の猶予制度も設けられています。詳しくは専門家に相談して対策を検討しておきましょう。

その他の条文

経営承継円滑化法 第4条(後継者のための遺留分の特例)〈株式〉

第1項 旧経営者の相続人と後継者は、全員で合意して書面にしておけば、後継者が旧経営者から譲渡された株式について遺留分の算定に含めないことや、含めるとしたうえでその金額をいくらにするか決めておくことができる。

経営承継円滑化法 第5条(後継者のための遺留分の特例)〈株式以外の財産〉

第1項 旧経営者の相続人と後継者は、全員で合意して書面にしておけば、後継者が旧経営者から譲渡された財産(株式を除く)について遺留分の算定に含めないことができる。

なお、本稿は『シニア六法』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。

画像2: 【中小企業の事業承継】誰が承継するか 順序や方法、手続きのポイントを紹介(会社の行く末を考える)
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※⑥「【相続と遺産】お墓を受け継ぐ人がいない(相続トラブル)」の記事もご覧ください。

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