PERGEAR(パーギア)をご存じでしょうか?カメラ・レンズ好きなら「最近、突如現れた超低価格のレンズブランドだっけ?」といったレベルで認識しているのではないでしょうか。最近では12mmの超広角レンズ「PERGEAR 12mm F2」を17,000円台という超低価格で発売して話題になりました。そんな「PERGEAR 12mm F2」を入手したので、解像力などの各種チャートを撮影し、その実力をつまびらかにしたいと思います。
執筆者のプロフィール
齋藤千歳(さいとう・ちとせ)
元月刊カメラ誌編集者。新しいレンズやカメラをみると、解像力やぼけディスク、周辺光量といったチャートを撮影したくなる性癖があり、それらをまとめたAmazon Kindle電子書籍「レンズデータベース」などを出版中。まとめたデータを元にしたレンズやカメラのレビューも多い。使ったもの、買ったものをレビューしたくなるクセもあり、カメラアクセサリー、車中泊・キャンピングカーグッズなどの記事も執筆。現在は昨年8月に生まれた息子と妻の3人、キャンピングカー生活にハマっており、約1ヵ月かけて北海道を一周するなどしている。
PERGEAR 12mm F2の概要
実勢価格17,000円台の12mm超広角レンズ
日本では、最近突如現れたという印象のPERGEAR(パーギア)。中国・深圳(シンセン)に拠点を置く中華系新興レンズメーカーのようです。インターネットを活用したマーケティングを得意としており、すでに日本向けの「Pergear-Japan」といったサイトも開設されています。
このPERGEARの超広角レンズ「PERGEAR 12mm F2」の最大の特徴は、17,000円台という実勢価格の安さです。多くのカメラ・レンズ好きが「12mmが1万円台?」と驚きました。ただし、35mm判フルサイズには対応しておらず、APS-C向けのレンズです。それでも18mm相当と十分に広角で、名称からもわかるように開放F値は2.0ととても明るくなっています。対応するマウントは、ソニー E、フジフイルム X、ニコン Z、そしてマイクロフォーサーズに対応するものが、それぞれの用意されます。
外観デザインは金属パーツを多用したクラシックスタイル。大きさは最大径が約66mmで長さは約59.5mm、質量は約300gです。さほど大きくはありませんが、ずっしりとした重さを感じるレンズとなっています。金属の鏡筒や各種リングの作りもよく、高級感すら感じます。AF機構やマウント部に電子接点をもたないフルマニュアルレンズで、ピント合わせはマニュアルです。
気になる光学系はレンズ構成が9群12枚。うち2枚が非球面レンズだといいます。ぼけの形に大きな影響を与える絞り羽根は10枚と多い、豪華な仕様です。
外観もスペックも非常にまともな超広角「PERGEAR 12mm F2」が、(繰り返しになりますが)実勢価格17,000円台。この実力をAmazon Kindle電子書籍『PERGEAR 12mm F2レンズデータベース』に掲載した実写チャートを元に解説していきます。
解像力
中央部はちょっと絞ればシャープ、周辺部はちょっと解像感が弱い
筆者たちは、「いまやカメラ本体によるデジタルでのレンズ補正は常識」と考えているので、使用したカメラ Sony α7R IIIのレンズ補正は初期設定のまま、各種設定を「オート」で撮影しています。ただし、「PERGEAR 12mm F2」は電子接点すらないフルマニュアルレンズなので、この恩恵は得られません。純粋な光学性能のみの結果と考えてください。
中央部からみていくと、開放のF2.0では中央部もややあまい印象。しかし、わずかに絞ったF2.8では、しっかりとシャープに解像しています。基本的にF2.8以降は中央部の解像力はほとんど変化せず、F2.8以降はきっちりシャープです。
一方、気になる周辺部は、開放のF2.0では、画像が画面の四隅に向かって流れるように描写され、解像も弱くなっています。ある意味、典型的な広角レンズの「周辺が解像しないパターン」ともいえる描写です。絞っていくと、わずかずつ改善し、F16が周辺部の解像力まで含めるとベストといえるでしょう。ただし、絞っても周辺部が中央部並みといえるレベルで解像することはありませんでした。画面の歪曲や色収差の発生は、予想よりも少なく、歪曲はわずかに陣がさ型で発生します。絞り過ぎによる解像力の低下、小絞りぼけがF22で急激に発生、F16よりも絞ることはおすすめできません。
解像力のチェック方法
レンズの解像力は、選択する絞り値でも変化するので、各絞り値でA1サイズの小山壮二氏オリジナル解像力チャートを撮影し観察しています。
周辺光量落ち
絞っても改善しない周辺光量落ちには後処理
カメラとレンズの情報のやりとりと補正がしっかりと行われている条件では、周辺光量落ちはカメラがデジタル補正するのが、最近では一般的です。ただし「PERGEAR 12mm F2」はカメラと情報のやりとりは行っていないので、純粋な光学性能での結果になっています。
焦点距離が12mmの超広角なので、絞り開放では、はっきりとした周辺光量落ちが発生しました。これについては、当然ともいえる結果でしょう。ただし、本レンズの周辺光量落ちは、絞りを絞って改善しない傾向です。そのため、周辺光量落ちを避けるために絞るという方法は、おすすめできません。
「PERGEAR12mm F2」で周辺光量落ちの影響を回避するなら、絞るよりも後処理をおすすめします。撮影時にRAW画像も撮影しておき、RAW現像時に影響を低減する処理を行いましょう。
周辺光量落ちのチェック方法
周辺光量落ちは、フラットにライティングした半透明のアクリル板を、各絞りで撮影し観察しています。
ぼけ描写
超広角にしては美しいぼけの形
12mmと焦点距離の短い超広角レンズである「PERGEAR 12mm F2」は、基本的にぼけが発生しづらく、ぼけの美しさに期待するレンズではありません。しかし、本レンズは10枚羽根と絞り羽根枚数の多い絞りを採用しており、開放F値が2.0と明るいこともあり、ぼけにも配慮しているようです。
ただし、実際に発生したぼけチャート(玉ぼけ)を観察すると、2枚の非球面レンズの影響と推察される、同心円状のシワが発生する輪線ぼけの傾向が見られます。ぼけの円の中もザワつきが多く、なめらかなぼけはあまり得られない結果です。とはいえ、超広角でも10枚羽根の絞りは効果があるようです。絞り込んでいっても、中央部のぼけの形は絞り羽根の影響によるカクツキが少なく、優秀な結果といえるでしょう。
ぼけ描写のチェック方法
ぼけ描写は、画面内の点光源を撮影して発生する玉ぼけの描写、ぼけディスクの様子を観察して、ぼけの形、なめらかさ、美しさなどを観察しています。
最大撮影倍率と最短撮影距離
思った以上に寄れるのを覚えておこう
「PERGEAR 12mm F2」の最短撮影距離は、公開されているスペック表では約20cm、最大撮影倍率は公開されていません。ミラーレス一眼などの最短撮影距離は撮像素子からの距離なので、実際にはレンズ先端から14cm程度の距離まで被写体に近づいて撮影できます。かなり近づいて撮影できるのです。ただ、いくつからのメーカーから発売されているAPS-C用の12mm超広角レンズは、どれも最短撮影距離が20cm程度なので、特別優れている数値ではありません。ただし、覚えておくと近接撮影は大きなぼけが発生しやすいので、絵作りの際に便利です。
最大撮影倍率と最短撮影距離のチェック方法
切手やペン、コーヒーカップなどが実物大になるように印刷したプリントを複写して、最短撮影距離での描写を確認しています。
実写と作例
安い超広角レンズは「普段使い」に最適
7ヵ月になるうちの息子のように、小さな子どもを超広角で撮影していると、レンズやフードをつかまれることがあります。うちの子だけかもしれませんが、赤ちゃんの指はヨダレだらけが基本。前玉に、指紋やヨダレをべっとりつけられることもよくあります。
高価なレンズだとかなり気になるのですが、「PERGEAR 12mm F2」の場合、価格が安いこともあり、あまり気にならないというのが筆者の本音です。おかげで、掲載写真のように息子を撮影するときにも、最短撮影距離ギリギリまで近寄って、レンズをヨダレでベトベトの手で触られても、ほとんど気になりません。布団のホコリがレンズについても我慢できます。軽くて小さいという点もあり、安い超広角は撮影シーンを自由にしてくれます。
しっかり絞れば広い風景もシャープに
作例はF8.0まで絞って撮影しました。おかげで画面全体の解像力はかなりアップしています。
ただし、解像力チャートなどの結果を見る限り、「PERGEAR 12mm F2」の周辺部までを含めた解像力のピークはF16。F22まで絞ると、絞り過ぎによる解像力低下が急激に発生するので、使用を避けることをおすすめします。一般的なレンズよりも、解像力のピークとなる絞り値が大きく暗いですが、光量の多いシーンでは十分に実用的です。絞り開放付近では全体解像力は弱いですが、ポートレートなどには向いていると割り切って考えるのがおすすめです。
まとめ
すべてを凌駕するロープライスというパワー
「PERGEAR 12mm F2」の光学性能を各種チャートで詳細に確認した結果は、取り立ててほめる部分を感じないという結論です。解像力は中央部は少し絞ると十分にシャープですが、周辺部はあまい結果でした。また、ぼけも絞り羽根の枚数の多さから形はカクツキが目立たないものの、質はいまひとつ。周辺光量落ちは超広角としては普通。歪曲や色収差は予想よりも少ないというところでしょうか。それなりには写りますが、光学的には平凡というか、あまりさえない結果です。筆者は使いこなしのポイントとして、開放はやわらかいのでポートレート、明るい条件での風景写真はF16、それ以外はF8.0前後と割り切っています。
このように、光学性能を追求すると気になる部分もありますが、2万円でお釣りのくる価格で明るい超広角が手に入ると考えると、非常に魅力的なレンズとなってくるでしょう。
ちなみに、PERGEARのレンズラインアップのなかでは、17,000円台の「PERGEAR 12mm F2」が高価なレンズという位置付けです。ある意味、価格真っ向勝負のPERGEARは、今後も注目したいレンズブランドといえます。
(写真・文章:齋藤千歳 技術監修:小山壯二)