「子育てでイライラして、とてもつらい。そんな風に感じている自分は、母親失格だ」と悩みを抱え込んでいるお母さんは少なくありません。背景にあるのは、マスコミやインターネットなどであふれ返っている情報に振り回されて、ありのままの子どもの姿を見失っていることではないでしょうか。【解説】白崎あゆみ(マザーズコーチングスクール認定トレーナー)
著者のプロフィール
白崎あゆみ(しらさき・あゆみ)
1981年6月27日、福井県鯖江市生まれ。
上智大学外国語学部フランス語学科卒業後、アビームコンサルティング株式会社を経て、MRO北陸放送でアナウンサーとして10年勤務。出産後はコーチングに転向。マザーズコーチングスクール認定マザーズティーチャー取得後、実績の高さから講師育成トレーナーとなる。TCS認定プロフェッショナルコーチの資格も取得し、コーチングセッションや保育園・幼稚園・こども園向けのナーサリーコーチングなどを行うほか、大手企業で管理職向けコーチング研修やエグゼクティブコーチングを提供している。
▼白崎あゆみ公式サイト(HP)
本稿は『子どもの自己肯定感が高まる天使の口ぐせ』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/有村綾
ケンカに対して怒っても仲直りにはつながらない
みささん(東京都)
子ども:みきさん
小学1年生のみきさんと小学3年生のお姉さんは、2人ともシール集めが趣味。それを知っていたおばあちゃんが、2人のために、たくさんのシールを買ってくれました。
しかし、これがケンカの原因になってしまいました。
どのシールをどちらのものにするのかで、「それ、私の!」「嫌だ」とリビングでもめていました。それがいつまでも続くので、お母さんは怒ってしまいました。
「ケンカをするなら、捨てます! 全部持って来なさい」
みきさんは「お姉ちゃんのせいで」と言って、泣き始めてしまいました。
悪魔の口ぐせ
「ケンカをするなら、捨てます!」
天使の口ぐせ
「私も欲しいなぁ」
子どもたちの激しいケンカに嫌気が差し、極端な罰則を提示するのは、よくやってしまう怒り方だと思います。ケンカに限らず、思わず「捨てるよ!」と怒ったことがある人は多いのではないでしょうか。罰をちらつかせるのでは、子どもに恐怖心を植え付けるだけです。
お母さんが、みきさんたちに取ってほしい行動は何でしょうか。言い争わずに、2人で仲良く分け合ってくれることです。ですが、一度ケンカが始まってしまうと、なかなか冷静には戻れません。そこでぜひ試してほしいのが、ケンカへの参戦ではなく、ルールを覆す第三者の投入です。「そのシール、私も欲しいなぁ」。これまで2等分だと思って争っていたのが、お母さんが入ってくることで「どれならあげてもいいか?」に思考が引っ張られ、「2人でシールを分ける」という状況がリセットされやすくなります。子どものケンカの原因によっては、このやり方ではうまくいかないかもしれませんが、「親は一歩違う場所に立てる立場」と思えると、出てくる言葉も変わってくるかもしれません。
謝るように促したら猛烈に怒り始めた
ふみさん(滋賀県)
子ども:りくくん
公園で、4歳のりくくんは友だちと鬼ごっこをして遊んでいました。
りくくんが鬼の番のときに、友だちは靴が脱げてしまいました。それで靴を履き直しているところを、りくくんがタッチして「捕まえた!」と大喜び。友だちは「そんなのズルじゃないか!」と怒りだして、ケンカになってしまいました。
りくくんのお母さんは慌てて寄っていき、「靴が脱げたときはお友だちを待っててあげなきゃダメだよね! 謝りなさい」と声をかけると、りくくんは「なんで!」と猛烈に怒り始めました。
悪魔の口ぐせ
「謝りなさい」
天使の口ぐせ
「聞かせてくれる?」
ほかのお母さんの手前もあり、とにかく自分の子どもを謝らせて、この場を収めようとしてしまうことはありますよね。
しかし、よく考えてみると、りくくんにはりくくんの主張があるのに、一方的に謝らせるとは、少々乱暴な対応だったかもしれません。
小さいうちでも子ども同士のケンカは、本人たちに解決させるのが一番だと思いますが、エスカレートしてきたら大人の仲裁は必要です。そんなときは、たとえ、その場を目撃していたとしても、「どうしたの? お話を聞かせてくれる?」と、両方の話を聞くようにしましょう。
おそらく、どちらも「相手が悪い、相手のせいで」と主張すると思います。それを大人が「〇〇くんはこうしたかったんだね、〇〇くんはこうだと思ってたんだね」などと、お互いの言い分を整理してあげましょう。こうしたプロセスは、幼い子どもが「相手にも言い分がある」と理解することにつながっていきます。
ありのままの子どもの姿を見よう
「子育てでイライラして、とてもつらい。そんな風に感じている自分は、母親失格だ」と悩みを抱え込んでいるお母さんは少なくありません。背景にあるのは、マスコミやインターネットなどであふれ返っている情報に振り回されて、ありのままの子どもの姿を見失っていることではないでしょうか。
そのようなお母さんが目にしている世界に、自分の子どもはいないのです。そこは、とてもにぎやかで、さまざまなもので満ちあふれているのですが、とても寂しい空間。ですから、その世界を見ている限り、寂しさから不安やイライラが押し寄せてくるのです。
私からお母さんたちにお伝えしているのは、「あなたの子どもだけを見ていればいいんですよ」ということです。
そのための具体的な方法の一つが、何気なく使っている言葉を変えること。普段の口ぐせを変えるだけでも、お母さんが見る世界は大きく変わります。なぜなら、人間は言葉を使って考え、何をどのようにとらえるのかを判断をしている動物だからです。
例えば、反射的に「無理」という言葉が出てくる人は否定的な世界を、「信じられない」が出てくる人は前例にとらわれた世界を見ているという傾向がわかります。
こうした言葉は思考停止を招いたり、自己肯定感を低くしたりすることから、マザーズコーチングスクールでは「悪魔の口ぐせ」と呼んでいます。
今、あなたが見ている世界を変える第一歩が、「悪魔の口ぐせ」に気付くこと。
私が息子にかけてしまった「学校で嫌なことはなかった?」という言葉も、「悪魔の口ぐせ」に当てはまります。「学校は嫌がらせをされる場所だ」という私の思い込みが表れているだけではなく、息子に「僕は嫌がらせを受けるような存在の人間かもしれない」という不安を抱かせてしまったからです。
私は息子のためを思って言っていたつもりでしたが、実際は息子がいじめを受けることで、私の心が再び傷つくことを恐れていたのかもしれません。そんな気持ちで発せられた「悪魔の口ぐせ」で、息子の自己肯定感を低くし、疑心暗鬼を植え付けそうになっていたのでした。
ありのままの自分を肯定的に受け入れる自己肯定感は、マザーズコーチングスクールにおいて大切な感覚であり、考え方でもあります。
なお、本稿は『子どもの自己肯定感が高まる天使の口ぐせ』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。