あまり意識していないかもしれないが、毎日使っているスマホやパソコン、インターネット上にあるデータも、自分の死後には立派な「デジタル遺品」となりうる。いざというとき、残された家族が困らないよう本人があらかじめ意識して準備しておく。それが「デジタル終活」だ。
■取材協力
伊勢田篤史(いせだ・あつし)さん
日本デジタル終活協会 代表理事。「相続で苦しめられる人を0に」という理念を掲げ、終活弁護士として活動している。近著に「社長が突然死んだら?」。
デジタル遺品・遺産のトラブルを避けるなら、情報を整理して残そう
デジタル遺品というと何か特殊なものに感じるかもしれないが、現代では、自分の大事な情報がスマホやパソコンの中にしか存在していないことがとても多い。
「例えば、葬儀を行うために友人知人の連絡先を探そうにも、そのデータはすべてスマホの中。遺影に使えそうな写真も、スマホやパソコンの中にしかないということがほとんどです」と日本デジタル終活協会の伊勢田さんは語る。
遺族の手元にスマホがあり、中のデータを見られれば、解決の糸口も見つかるだろう。端末そのものはもちろんだが、中のデータも同様に遺品として扱われるのだ。
スマホの「連絡先」データを遺品として意識する人は少ないかもしれないが、デジタル遺品にはそういったものがけっこう多い。メールはもちろん、進行中の仕事の書類データ、連絡先やカレンダー、クラウドのデータなど、さまざまなサービスが統合されているGoogleアカウントなども重要だといえる。
「亡くなった方が、ネット証券口座や仮想通貨を所持していたかどうかがわからない、というケースも多いですね」(伊勢田氏)。金融関係は、遺産として意識はしやすいはず。しかし、ネット専業銀行には紙の通帳が存在しないため、まったくのノーヒントだと、遺族も苦労する。
必要な情報を整理し、残すことを心がけよう。
●デジタル遺品・遺産となりうるもの
パソコン |
スマートフォン |
USB HDDやUSBメモリー、SDカードなど |
写真(画像ファイル) |
動画ファイル%%black |
音楽ファイル |
仕事のファイル(「Office」データなど) |
メールやSMS |
ブログ、ホームページ |
日記やメモ(テキストファイルなど) |
ネット銀行 |
ネット証券 |
ネットサービス(Googleアカウント、Yahoo!Japan ID、Apple ID、Microsoftアカウントなど) |
%%SNS(LINE、ツイッター、インスタグラム、フェイスブックなど) |
オンラインストレージ(Googleドライブ、OneDrive、iCloud、Dropboxなど) |
ネット通販のアカウント(Amazon、楽天市場など) |
電子書籍(Kindle、楽天koboなど) |
ネットのサブスクサービス(Spotify、Apple Music、Amazonプライム・ビデオ、Netflixなど) |
最低限、スマホやパソコンのロックが解除できるようにしておく
先に述べたように、現代では、必要な情報の多くはスマホやパソコンの中にしかないことが多い。
スマホは、基本的に自動的にロックがかかり、解除しないと中のデータは見られない。ロック解除方法は機種やOSで異なるが、指紋や顔認証といった生体認証を設定していても、必ずパスコードが併用できる。パソコンも、ほとんどの人がログインパスワードを設定しているはず。これらの伝え方を考えておこう。
スマホのロック解除ができないと、非常に厄介だ。例えば「デジタルデータソリューション」(https://digitaldata-forensics.com/)など、有料でスマホのパスワード解析を行う企業もあるが、100%確実にロックが解除できるわけではないし、数十万円・数ヵ月間の料金や期間がかかる場合もあるという。遺族に負担をかけることになってしまうので、パスワードは確実に伝えたい。
●スマホが開けないと、どうにもならない!
●パスワードを確実に伝えよう
ネットサービスのアカウントとパスワードも確実に残しておきたい
スマホとパソコンのロックが解除できれば、遺族が中の情報にアクセス可能となるが、今は、誰もが何種類ものネットサービスに登録し、複数のアカウントとパスワードを持っている時代。
例えばiPfjoneを使っているならApple IDを、AndroidならGoogleアカウントを作る必要があり、両方持っている人も多い。また、Gmailを使っているならGoogleアカウントを必ず持っていることになる。
これらのサービスは、ログイン状態が継続されるのでそのまま使えるはずだが、何かの操作でパスワードが求められることもある。ログインに必須のアカウント名とパスワードは確実に残しておこう。
ほかにもYahoo! JAPAN、Amazon、Microsoftアカウントなどは、複数のサービスがあるので、アカウントとパスワードが重要となる。
●アカウントとパスワードの両方が必要
これらの必要な情報を、残された人にどうやって伝える?
デジタル終活で扱うのは大部分が実体のないデジタルデータだが、家族に対して「スマホやパソコンの中を探してくれ」というのでは、あまりに不親切。
整理されていないと遺族が必要な情報を見つけることは難しいし、自分が準備しないうちに突然死し、スマホのロック解除で迷惑をかける可能性もあるのは先述のとおりだ。
必要な情報を確実に伝えるには、とてもアナログな方法だが、ノートなど紙にメモを書き残すことをおすすめする。
スマホのロック解除はもちろん、各サービスのログインに必要なアカウント/パスワードなどの情報を書き込もう。何を伝えるべきか、自分のスマホを操作しながら書き出していくと、必要な情報が整理される。
一般的なノートでもかまわないが、最近は記入式の「エンディングノート」も市販されており、こういったものを入手すれば、デジタル終活もイメージしやすくなるだろう。
このようなノートやメモが完成したら、「玄関入ってすぐの棚の引き出し最下段」や「通帳と同じ場所」など、保管場所を決めて家族に伝える必要がある。
以降の記事では、「遺す」「引き継ぐ」「隠す」に分け、デジタル終活の具体的な方法を紹介していこう。
●デジタル遺産対応のエンディングノートもある
ノートやメモ帳にパスワードを書き残すのが不安な場合は?
パスワードは確実に伝える必要があるとはいえ、メモとして書き残すことに不安を覚える人も多いだろう。一部の市販品エンディングノートでは、そういった情報を隠し、必要なときに見られるよう、スクラッチシールなどが付属している。
情報を隠すのに使えるのが、書き込んだ部分に貼って情報を隠せ、必要なときにはがして見られる情報保護シート/シールだ。再び貼り付けることはできないタイプであれば、生前に誰かが見た(=パスワードが流出した)などがすぐわかる。
また、重要なスマホのロック解除方法を真っ先に伝えるよう、小さなカードにスマホのパスコードだけを書き込み、このシートで隠して自分の財布に入れておくといった活用もできそうだ。
なお、情報保護シートなどを使わず、とりあえず隠しておきたいときは、メモの上にまずセロハンテープを貼り、その上に修正テープを貼ってパスコードを隠すといい。修正テープ部分を削れば、メモを見られる。
●情報保護のためのシールを活用
■解説/大坪知樹(フリーライター)