皆さんのご自宅には、何種類の洗剤がありますか?食器洗い用、ガス台や換気扇のアブラ汚れ用、トイレ、お風呂、床、窓、網戸、家具、車……。それぞれ別の洗剤を使い分けていると、相当な数になるでしょう。さらに消臭や除菌のスプレーも加わるかもしれませんね。でも実は、一般家庭の汚れは主に4種類で、洗剤は5つあれば十分なのです。【解説】本橋ひろえ(ナチュラルクリーニング講師)
解説者のプロフィール
本橋ひろえ(もとはし・ひろえ)
北里大学衛生学部化学科(現・理学部化学科)卒業。化学系の企業に就職し、化学事業部にて水処理事業、化学薬品販売、合成洗剤製造などを担当。退職後も洗剤に興味を持ち続け、2006年より東京を中心に各地でナチュラルクリーニング講座を開設。現在はオンライン講座にも力を入れている。『ナチュラルおせんたく大全』(主婦の友社)、『ナチュラル洗剤そうじ術社』(ディスカバートゥエンティワン)など著書多数。
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合成洗剤を使わないと掃除が楽
一般に市販されている多くの合成洗剤は、泡が消えるまで入念にすすいだり、何度も水拭きしたりする必要があります。しっかり落とし切れないとカビや雑菌の栄養源となり、洗剤の意味がなくなってしまいます。「すすぎや2度拭きが面倒で、掃除がおっくう」という人は多いのではないでしょうか。
私も以前は掃除が嫌いでした。また、肌が弱い私は、合成洗剤の刺激が強すぎることも、掃除のハードルを上げていました。大学で化学を専攻し、卒業後に入った会社では合成洗剤の製造を担当しました。汚れを落とすしくみや洗剤の特性については、よくわかっています。結婚して主婦業を担ったとき、汚れを見極めて、それを落とす方法を考えたら、多くの洗剤は必要ないことがわかりました。それが、私のおすすめする「ナチュラルクリーニング」です。
使うのは、「重曹」「過炭酸ナトリウム(酸素系漂白剤)」「石けん」「クエン酸」「アルコール」の5つ。これらを、「場所」ではなく「汚れの種類」で使い分けます。合成洗剤は使いません。
家の汚れは大きく分けて4種類
皆さんのなかには、お風呂、トイレ、床、窓、網戸、家具などを、それぞれ別々の洗剤を使って掃除しているかたが多いのではないでしょうか。でも、たまに「場所ごとに洗剤を変える必要はあるのかな」と疑問に思ったりしませんか?
その直感、正解です。実のところ、一般家庭の汚れというのは、大きく分けて4種類しかありません。
(1)ホコリやチリなどの洗剤がなくても落ちる汚れ
(2)アブラ汚れを代表とする酸性の汚れ
(3)水アカなどアルカリ性の汚れ
(4)カビや雑菌
この4種類に、ほぼ集約されるのです。
必要な洗剤は5つ
汚れの性質によって洗剤を選ぶ
中学時代に習った、酸性・アルカリ性・中性という液体の性質を思い出してください。汚れが落ちるしくみは、酸とアルカリが交じり合う「中和」です。酸性の汚れにアルカリ性の洗剤、もしくはアルカリ性の汚れに酸性の洗剤を使って中和すると、汚れが緩んで落ちやすくなります。
ナチュラルクリーニングで使う洗剤のうち、重曹と過炭酸ナトリウム、石けんはアルカリ性、クエン酸は酸性、アルコールは中性です。
さて、では前項の(2)アブラ汚れを代表とする「酸性の汚れ」には、何を使えばいいでしょうか。酸性の汚れは、ガス台の周りに飛び散った食用油のほか、食べ物のカスや人体から出る皮脂や角質(アカ)、汗、尿なども含まれます。そう考えると、食器や衣類、壁や床、キッチン、お風呂など、家中に酸性の汚れがあります。実は、家庭内の汚れの8~9割は、酸性の汚れなのです。軽い汚れには重曹、強い汚れや除菌が必要なときには過炭酸ナトリウムを使います。石けんも酸性の汚れを落としますが、水でしっかりすすぐ必要があるので、食器洗いやお洗濯のように、水ですすげる場所で使います。
前項(3)のアルカリ性の汚れには、クエン酸が活躍します。浴室の鏡やシンク、電気ポットについた水アカや、お風呂小物の石けんカスなど、アルカリ性の汚れを緩めて落とします。ただ後述しますが、毎日の掃除にクエン酸を必ず使う必要はありません。クエン酸は、重曹よりは登場回数が少ない洗剤です。
アルコールは、掃除には欠かせない洗剤の一つです。除菌作用はもちろん、水が使えない場所のアブラ汚れを落としたり、カビを防止したりするときに活躍します。
では前項(1)の「ホコリやチリ」は、どうやって落とせばいいのでしょうか。
洗剤がいらない汚れもある
ホコリやチリは初期段階なら洗剤いらず
毎日掃除しても、普段使っていない「開かずの間」でも、たまっていくのがホコリやチリ。衣類や布製品から出る綿ボコリがメインなので、フワフワしている初期の段階なら洗剤は必要ありません。掃除機やハンディワイパーなどで取り除きましょう。放っておくと、髪の毛や角質、食べ物のカスなどが絡まって雑菌やカビ、ダニのすみかになります。さらに時間が経つと室内のアブラ汚れとも混じり合い、洗剤がないと落ちない頑固汚れになってしまいます。面倒なようでも、こまめにハンディワイパーや掃除機でホコリを取ったほうが、実は楽なのです。
アブラも熱いうちなら洗剤不要
例えば、ガス台の油跳ねや液だれは、時間が経つと落としにくくなります。汚れたと思ったら、その場で拭き取るのが一番簡単で確実。使い捨てできる紙や布を、手の届くところに置いておきましょう。
水アカ対策は乾拭きが基本
浴室の鏡や蛇口についた白い汚れは、水アカです。水アカはアルカリ性の汚れなので、中性洗剤やアルカリ性の洗剤では落ちません。「毎日、中性洗剤で洗っているのにきれいにならない」というのは、汚れと洗剤のミスマッチです。
水アカを落とすにはクエン酸を使うのが効果的ですが、クエン酸水をスプレーするのは週1回、それでも白い汚れが目立ってきたら、月1回クエン酸水で湿布をすればOK。水アカの原因は水道水中のミネラル分なので、毎日の掃除で行うのは、水気を残さないようにする「乾拭き」です。水を使ったら周りをさっと拭く。これだけで鏡や蛇口の掃除が完了するなら、すごく気が楽になりませんか?
多方面で大活躍する「重曹」
ふだん掃除には重曹水が便利
前述したように、家の汚れのほとんどは酸性の汚れです。ふだんの掃除には、1%の重曹水をバケツに作ってぞうきんに含ませ、あちこち拭いてしまいましょう。床も壁もコンロも食器棚も、窓や網戸も、重曹水で掃除できます。トイレも基本的に重曹水でOK。皮脂や便、ついてすぐの尿ハネは酸性なので、重曹できれいになります。嬉しいことに、1%濃度の重曹水なら二度拭きは不要!それだけで、拭き掃除のハードルが下がりますね。
注意点は2つ。重曹は水に溶けにくいので40度のお湯に溶かすことと。そして、1%濃度を守ることです。1%の重曹水は、2リットルのお湯なら重曹は小さじ5杯、200mlのお湯なら重曹は小さじ1/2杯です。これ以上重曹を入れると、乾いたあとに重曹が白く浮き出てしまい、二度拭きすることに。たくさん入れても洗浄力は上がらないので、1%濃度を守りましょう。また、重曹には、水が傷むのを止めるほどの力はないため、作りおきができません。重曹水は、その日のうちに使い切りましょう。
重曹はクレンザーの代わりにもなる
「磨き洗い用にクレンザーを常備している」というご家庭も多いでしょう。実は、重曹はクレンザーとしても使えるのです。重曹は水に溶けにくい性質があるので、直接振りかけるとクレンザーの代わりになります。シンクや浴槽の掃除に最適です。100均ショップなどに売っているハチミツボトルに重曹を入れておくと、手軽に振りかけられて便利です。
「セスキ」ってどんなもの?重曹との違いは?
数年前から「セスキ炭酸ソーダ」という洗剤が人気です。重曹よりアルカリが強いので汚れ落ちがよく、冷たい水に溶けやすいのが特徴です。ただ、手肌への刺激も強く、二度拭きやすすぎが必要です。洗浄力が強くても、二度拭きやすすぎが面倒で掃除のハードルが上がってしまうのでは、本末転倒。私は、簡単なお掃除をこまめに行って汚れをためず、重曹で落ちるうちにお掃除することが大事だと思っているので、セスキは使いませんし、おすすめもしていません。
漂白と除菌ができる「過炭酸ナトリウム」
ギトギトのアブラ汚れ落としや除菌・漂白ができる
過炭酸ナトリウムは、つまり酸素系漂白剤のことです。「色柄ものの衣類を漂白する洗剤」というイメージがありますが、アルカリが強めで、除菌も漂白もできる優れた洗剤なのです。過炭酸ナトリウムは、お湯に溶かして漬けおきすると、効果が上がります。60度のお湯2リットルに過酸化ナトリウムを小さじ1杯が目安。食器やふきん、水筒などの除菌・漂白ができますし、ギトギトのアブラで汚れた換気扇や五徳を漬ければ、汚れがスルリと取れます。
アルカリ度が高いので、肌が弱い人は取り扱うときに手袋をした方が安心です。また、漬けおきのあとは、しっかりすすぎをしましょう。
泡で汚れを包み込む「石けん」
しっかり泡立てて一気に流す
石けんもアルカリ性なので、アブラ汚れなどの酸性の汚れ落としが得意です。泡で汚れを包み込むので、たっぷり泡立てて、泡が消えないうちに一気に洗い流すことが大切。泡が消えると、汚れが元に戻ってしまいます。また、石けんのすすぎ残しは雑菌やカビのエサになるので、しっかり洗い流しましょう。洗い流すのが鉄則なので、基本的には食器やふきんの手洗い、衣類の洗濯などに使用します。アブラ汚れを落としやすくするためにも、石けんの洗浄力もアップさせるためにも、40度前後のお湯を使うのが効果的です。
水周りで良い仕事をする「クエン酸」
水アカなどのアルカリ性の汚れを落とす
クエン酸が活躍するのは、お風呂場や洗面所などの水周りです。鏡や蛇口についた水アカや、お風呂のイスや手桶などについた石けんカスといった、アルカリ性の汚れをゆるめて落としやすくします(つまり、水アカや石けんカスは、中性洗剤・アルカリ性洗剤では落ちないということです)。また、アンモニア臭や焼き魚、タバコのにおいを洗い流したり、ペットのトイレ周りを掃除したりするのにも適しています。
ちなみに人間のトイレも、尿の飛沫が残って時間が経ち、アンモニア臭を発しているようであれば、クエン酸での掃除が効果的です。逆にいうと、アンモニア臭のする汚れは、一般的なトイレ用中性洗剤では落ちません。「掃除したのに、なぜかにおう」のは、そういうわけです。
もう一つ、「魚焼きグリルを重曹で洗ったのに、いつまでも魚くさい」というときも、クエン酸が活躍します。重曹でアブラやたんぱく質の酸性の汚れを取った後、クエン酸スプレーでアルカリ性のにおい成分を中和。この2段階でスッキリします。
クエン酸には「混ぜるな危険」の表示があります。クエン酸は塩素系の洗剤と混ぜると有毒ガスを発生させてしまうので、絶対に避けてください。また、大理石や鉄などは酸に弱いので、クエン酸は使わないようにしましょう。
1%のクエン酸水をスプレーする
水200mlにクエン酸小さじ1/2杯を入れて混ぜ、スプレーボトルに入れて使いましょう。2~3週間で使い切ります。水周りにつく水あかや石けんカスに、クエン酸水を吹きつけてぞうきんなどでふき取ります。汚れが固まってしまっていたら、クエン酸パックをしましょう。クエン酸水を吹きつけた後にキッチンペーパーを貼りつけ、さらにスプレーをして10分おくと、汚れが緩んで落ちやすくなります。クエン酸は、残っていると金属がさびたり傷んだりするので、しっかり洗い流してください。
水を使えない場所の掃除に便利な「アルコール」
除菌のほかにアブラも溶かす
掃除用洗剤として使うときは、35%濃度のアルコール水にして、スプレーボトルに入れると便利です。劣化しにくいので、3ヵ月くらいは使えます。ただし、アルコールで傷つくプラスチックボトルもあるので、「アルコール使用可」のものを選びましょう。水110mlに消毒用エタノール(アルコール分80%程度)を90ml入れて、合計200mlにするのが目安です。
アルコールは消毒薬ですから、除菌やカビ予防の効果が高く、さらにアブラを溶かす作用があります。また、揮発性が高いのもメリット。水拭きができない家電や畳、カビが発生しやすい押し入れの中などは、アルコール水を吹きかけた布で拭くのがおすすめです。パソコンのキーボードやテレビのリモコンは、アルコールを浸した綿棒で、すきまの汚れを取ります。ニスやワックスが塗装された家具や床は、アルコールで拭くとはがれてしまうことがあるので、注意しましょう。また、引火性があるので、火を使っているときは使用を避けてください。
汚れを落とさなければニオイは消えない
消臭剤や消臭スプレーを常備しているご家庭も多いでしょう。でも、ニオイは汚れのサインです。ニオイの発生源を取り除かなければ、ニオイは消えません。ニオイの原因を確かめて、その元となっている汚れに合った洗剤で掃除をしてください。キッチンのアブラ汚れのにおいなら、重曹や過炭酸ナトリウムでしっかり掃除を。カビ臭さなら、お掃除+除菌を。「冷蔵庫に重曹を置いて消臭剤にしている」という人がいますが、意味がありません。冷蔵庫から悪臭がしたら、腐敗した食べ物がないか、すぐ確認!取り外せるところは外して洗い、外せない内棚の汚れはアルコール水をスプレーして拭き取りましょう。
まとめ
「どんな汚れを落としたいか」を考えると、使う洗剤が見えてきます。そして、汚れに合った洗剤を使うと、簡単にきれいになります。さらに、毎日の掃除で「二度拭き」や「すすぎ」をしなくて済むのは、ほんとうに楽です。掃除が苦にならないので、汚れがたまらず、ベトベトやガチガチになりません。ホコリ取りや水周りの乾拭きをするだけでも、格段に家がきれいになります。特に梅雨の時期は、カビや雑菌も繁殖しやすくなるので、この機会に掃除の仕方を見直しましょう。ナチュラルクリーニングは、短時間で効率よく、楽にお掃除できる方法です。お掃除が嫌いな人や忙しい人にこそ、ぜひ実践していただきたいと思います。