居酒屋業態が低迷していて業績が悪化していた外食産業大手の「ワタミ」だが、昨年スタートした焼肉事業が好調に推移。新規オープンや業態転換によって、この下半期に多店舗展開に入る。特急レーンや配膳・運搬ロボットを導入し、人件費の削減を図るとともに人的サービスを充実。さらに、原価率を約50%にして圧倒的なお値打ち感を創造している。FC募集を開始したことから、同業他社や異業種からの問い合わせも増えてきているという。

攻めるワタミ

ワタミは今、好調な焼肉事業を軸に、「攻め」の姿勢を見せている。同社では、コロナ前の2019年の夏から焼肉事業に進出する計画を進め、2020年5月に、1号店の「かみむら牧場」をオープンした。

画像: 「かみむら牧場」の外観。コロナ禍でありながら月商3200万円を売り上げた。

「かみむら牧場」の外観。コロナ禍でありながら月商3200万円を売り上げた。

画像: 「焼肉の和民」ではアラカルトで食事をすることも可能。

「焼肉の和民」ではアラカルトで食事をすることも可能。

メニューは「食べ放題」で、サービスを特急レーンや配膳・運搬ロボットに置き換えることによってエンターテイメントと働き方改革を実現。これらによる生産性が高いことから、居酒屋業態を転換した「焼肉の和民」も展開するようになり、焼肉事業は同社における有力な事業体として位置付けられるようになった。

そのリーダーである新町洋忠氏(執行役員焼肉営業本部本部長/ワタミカミチク代表取締役社長)が、ワタミで焼肉事業が立ち上がった経緯と展望について解説してくれた。

月商3200万円

「かみむら牧場」の1号店(86.5坪・126席/京急蒲田第一京浜側道店)は、東京・蒲田の京急蒲田駅から徒歩5分の立地にある。

コロナ禍で波乱万丈のスタートを切ったが、周辺の顧客から大きく歓迎され、1カ月に1万人が来店、月商が最高で3200万円、平均で3000万円を売り上げた。

画像: 「かみむら牧場」の内装はモダンな和風で外国人に愛されるイメージ。

「かみむら牧場」の内装はモダンな和風で外国人に愛されるイメージ。

焼肉事業に着手するために、黒毛和牛の生産者であるカミチクと合弁会社のワタミカミチクを設立して、ここがフランチャイザーとなり、ワタミがマスターフランチャイジーという形で展開している。

現在は、国内が京急蒲田の店以外に、守口南寺方店(大阪府守口市)、府中店(東京都府中市)、深井店(大阪府堺市)の4店舗、海外では台湾1店舗となっている。

この業態は、郊外ロードサイドで食べ放題の専門店。食べ放題コースは、A4ランク以上の黒毛和牛が食べ放題の「和牛マニアコース」4378円(税込、以下同)、プレミアム国産牛と牛タンが食べ放題の「王道!かみむらコース」3938円、「ジャストミート!コース」3278円の3本。単品でも提供している。商品はタッチパネルで注文、特急レーンで顧客に届ける形態で、配膳・運搬のロボットが補助的作業を行う。

利用のパターンは、ハレの日のニューズが高く、例えば京急蒲田の店では、一番高いコースが売上の6割を占めていて、3世代の利用が多くみられるという。

画像: 「かみむら牧場」の彩りのよい新鮮なサラダバーも特徴。

「かみむら牧場」の彩りのよい新鮮なサラダバーも特徴。

中国で和牛需要が急増

今期(2021年12月期)は、この業態に傾注して20店舗を出店する意向。郊外ロードサイドでは、更地以外に大型のレストランの物件が出てきていて、現状、9月以降の物件を仕込んでいる状態とのこと。店舗は3レーン、6人席がメインで140席を配置。駐車場は40台収容。このようなパッケージを想定。郊外ロードサイドの他に複合施設や、海外にも広げていく意向だ。

ワタミでは、焼肉事業の構想を描く上で、カミチクという会社は欠かすことのない存在であったという。「かみむら牧場」は、国内以上に「和牛」をアピールする海外展開をメインに考えた業態であるという。「和牛」は、海外で大いに歓迎される日本を代表する食材であり、和牛だけではなく、設備機器を含めた業態そのものをクールジャパンとして提供することが「かみむら牧場」の使命として位置付けている。

新町氏はこう語る。

「特に中国では和牛の需要が急増しています。そこで、日本からの輸出が解禁されたとき、中国にいち早くスピード感を持って和牛を持っていくこと。これらがパートナーの皆さんとわれわれの役目です」

このように、同社の焼肉事業は、国内の活性化と海外市場を見据えたものとして新しいステージを担っている。

週末の売上は居酒屋時代より高い

さて、2020年に入り、コロナ禍の影響が大きくなる中で、駅前立地の居酒屋業態が厳しくなっていった。

そこで、焼肉のニーズは、郊外だけではなく駅前にもあるのではないかと考えるようになり、急遽業態を設計して、夏から10月を目指して突貫工事を行い、10月5日に「焼肉の和民」の大鳥居駅前店(東京都大田区)と横浜店(横浜市西区)を同時にオープンした。

「焼肉の和民」に転換する店舗の条件は、まず、駅前でテナント型であること。居酒屋を焼肉店に変えるためには、すべてを造り変える必要がある。また、店内に段差があったり、特急レーンを導入することができない「離れ」の席があったりする場合は、配膳ロボットを入れて対応している。

メニューは、食べ放題だけではなく単品も充実させている。食べ放題は「極上A5和民コース」4818円、「和民カルビコース」3828円、「わいわいカルビコース」3168円の3本。この他に「本格焼肉」をうたって食べ放題に入っていない上カルビを入れたり、リーズナブルなものから、本格的な焼肉を楽しむことができる。また、ダシ巻き玉子焼きやアヒージョといった居酒屋メニューもラインアップしてオールマイティな楽しみ方を提案している。

週末は昼から営業していて、週末の売上は居酒屋時代と比べるとはるかに高い。特に日曜日は居酒屋にとってはあまり需要がないが、焼肉は土曜日も売れて、それ以上に日曜日が売れる。そこで、住宅街にある居酒屋を焼肉に変えていくパターンが多い。

画像: 「焼肉の和民」の「極上A5和牛コース」4818円(税込)は130品目ありあらゆるメニューを堪能することができる。

「焼肉の和民」の「極上A5和牛コース」4818円(税込)は130品目ありあらゆるメニューを堪能することができる。

「飲める」焼肉店

この業態に「和民」という店名をつけている狙いについて、新町氏はこのように語る。

「焼肉屋さんのチェーン店をつくるということは、すごく難しいことだと思っています。まず、投資額が高い。居酒屋の居抜き出店は不可能で、全てロースターを入れて新規の形で出店していく。なかなかハイスピードで出店することはできません。その中で、どのようにしてお客様に認知をしていただこうかと考えました。そこで「和民」という名前をもう一度生かすということは正しいことだと判断しました」

画像: 店名に「和民」が付いていることで顧客からの認知のされ方は早かった。

店名に「和民」が付いていることで顧客からの認知のされ方は早かった。

また、駅前にあることから、アルコールの利用が20%を占めている(自粛期間以外)。「和民」というブランドを引き継いでいることから、顧客にとっても「飲んでいい焼肉店」という伝わり方がなされているようだ。現在23店舗ですが(5月末現在)、ゆくゆくは120店舗にしていきたいという。

これまで焼肉業態を展開してきて、月商が「かみむら牧場」で2500万円、「焼肉の和民」が1500万円というラインが見えてきたという。この二つともにFC募集を開始していて、外食の企業様に加えて他業種からの問い合わせが増えてきているという。

ロボット導入で圧倒的なお値打ち感

「かみむら牧場」「焼肉の和民」共に、特急レーンと配膳・運搬ロボットが導入されているが、この狙いと効果はどのようなものであろうか。

「それは接客サービスを良くするためです。料理を提供するということは『作業』だと思っています。そこで、料理を提供することに人間の手を使うのではなく、『接客』に生かす。お客様が困っている時にちゃんと手伝って差し上げて、居心地のよい店となるための仕事をすることに集中してもらうために、特急レーンとロボットが存在しているのです」(新町氏)

画像: 「焼肉の和民」の特急レーン。パーティルームなどで設置されていないスペースもある。

「焼肉の和民」の特急レーン。パーティルームなどで設置されていないスペースもある。

画像: 「焼肉の和民」の配膳・運搬ロボットは「PEANUT」。

「焼肉の和民」の配膳・運搬ロボットは「PEANUT」。

この仕組みによって人件費を抑えることにつながっているが、「かみむら牧場」「焼肉の和民」共に原価に投入している。「焼肉の和民」では、満席の状態でもホールに従業員が4人以上いることはない。これは居酒屋の半分以下である。そして料理を運ぶという仕事をしない。それで売上げは居酒屋の2~3倍になっている。

「かみむら牧場」の夜の客単価は4000円で原価率50%。「焼肉の和民」はアルコールが入って3700~3800円。原価率は45%弱。これらで利益をもたらすような仕組みをつくっている。この圧倒的な競争力によって新生ワタミが力強く動いているという雰囲気が感じられた。

執筆者のプロフィール

画像: 執筆者のプロフィール

文◆千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)

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