【ルポ】もう宴会に頼らない “昼飲み夜めし” 大変革の舞台「ネオ大衆酒場」最新トレンド

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サントリーグループの外食企業であるダイナックは、コロナ禍で売上を大きく減じて、方向転換を迫られた。それは、これまで得意としてきた「オフィス街での宴会」から脱却すること。その復興を担う新業態として飲食店が二つつくられた。一つは近年「ネオ大衆酒場」と呼称されるタイプで、昼飲みもできて夜食事もできる飲食店。もう一つはベトナム発祥の麺料理でフランスに渡りB級グルメとして定着している「ボブン」というメニューをメインにしたもの。特に前者の「酒場ダルマ」にはサントリーならでのつくり込みが見られる。

2021年6月22日、東京・JR神田駅の近くの地下に「酒場ダルマ」という飲食店がオープンした。

看板には、黒い筆文字で店名が書かれていて、代表的なメニューも記されている。いかにも大衆酒場である。階段を下りて目の前に現れた店舗空間は、老舗の居酒屋の雰囲気がある。一人でぶらりと訪れる店としては最適である。少人数でいいし、1000円前後の定食メニューもあるので、ファミリーでも楽しむことが出来る。

宴会に頼らない飲食店

「酒場ダルマ」を運営するのは、サントリーグループの外食企業、ダイナックである。
同社はこれまで、東京駅周辺、新宿駅周辺、そして大阪・梅田駅周辺にそれぞれ約30店舗を展開するなど、オフィス街の顧客を得意としていた。これらの客層はホワイトカラー、ビジネスマンで比較的に年齢層が高く、客単価は4500~5000円、そしてこれらの宴会需要が多かった。同社の売上の約40%がこれらの宴会で占められていた。

「酒場ダルマ」のロゴ。地下1階に老舗居酒屋風の空間が広がる。

新業態「酒場ダルマ」

コロナ禍は、同社のこの売上構造を直撃した。
メインとなっていた顧客層はリモート勤務となり、オフィス街での宴会需要はほとんど無くなった。これまで同社では、かつて170あった店舗を徐々に筋肉質の経営体質に変更してきたが、それがコロナ禍で加速し130までに圧縮した。

そして、新業態として開発されたのがこの「酒場ダルマ」なのである。その最大のポイントは「宴会に頼らない飲食店経営」であった。

ちなみに同店の物件は、ダイナックが経営する80坪の居酒屋だった。その店の売上の50%を、前述のような顧客による宴会売上が占めていたという。そこでこの度の「宴会に頼らない飲食店」を実践する舞台となったのである。

オープンキッチンをカウンター席が取り囲む「酒場ダルマ」。

この80坪の物件は、48坪94席の同店と、17席38席の店舗の二つに作り替えられた。
後者の店舗は「感動ボブン」という店名で、ベトナム発祥の麺料理がフランスに渡り、B級グルメの「汁なし麺」として人気が定着している“ボブン”をメインとしている。白を基調とした色使いで、ベトナムのラジオ放送をBGMに使用して、リアルな東南アジアの雰囲気がある。こちらの国々に親しむ若い女性に好まれるのだろう。この店のことは別稿に譲って、ここではのことを詳しく紹介したい。

「酒場ダルマ」と隣接する「感動ボブン」。ベトナムの大衆的なレストランをイメージしている。

「感動ボブン」の看板商品「感動ボブン」990円。トッピングと下にある米麺を混ぜていただく。

「ニューノーマルな酒場」とは?

これらの業態開発を担ったのは、ダイナックの業態開発部とサントリー酒類の営業推進本部グルメ開発部(以下、グルメ開発部)の二つで、これらが共同で進めた。キックオフは昨年の9月。ダイナックがサントリーから提案されたことは、まず「ニューノーマルな酒場」というコンセプトであった。

果たして「ニューノーマルな酒場」とはどのようなものか。グルメ開発部の担当者の意図はこのような内容だった。

昼飲みも、夜食事もできる

「テレワークをはじめ生活様式も以前とは全く変わってきている中で、さまざまな人がそれぞれのライフスタイルの中で食事をしていただくというイメージ。これまでランチは食事、ディナーはお酒という形で分かれていたが、ここでは昼飲みができるし、夜食事もできる」

ダイナック代表取締役社長の田中政明氏はこう語る。

「『酒場ダルマ』の取り組み方は当社にとってまったく初めてことでした。会議室で説明を聞いたり企画書を見ているだけでは『?』が付きまとっていました。ただ、世の中では『ネオ大衆酒場』というものがでてきています。昼となく夜となく、一人と言わず、二~三人と言わず、家族と言わず、さまざまな客層と利用動機を取り込んでいる様子を見てきて、これは当社でもできるかな、と想いを巡らしていました」

ダイナック代表取締役社長の田中政明氏。サントリーグループの外食事業のプロパーとして事業を推進する。

田中氏は店が引き渡されてから店を何度か訪れてきたが、回を重ねるたびにダイナック担当者、グルメ開発部担当者、そして店舗の調理長、店長共に、同店のコンセプトに対するそれぞれの理解が整ってきたと確信するようになった。

「酒場ダルマ」の店内。中央部分はテーブル席、壁側はベンチシートの構成。

「『酒場ダルマ』を見ていて感じたことは『お客様の使い勝手に対応しましょう』とひたすらこの考え方で店づくりを行っているということ。フードメニューを見ていて、どのメニューもお客様にとってつまみになりご飯も食べることができると腑に落ちました。またポーションがみな個食対応です。当社ではこれまでメニューのポーションを大体二名様くらいを想定していて、お一人様というものを想定していなかった。しかし、この店のメニューには、お一人様に対して全時間帯で自分の好みの楽しみ方をしてください、というメッセージがあります」(田中氏)

「豚の生姜焼き定食」990円。昼飲みができて夜も食事ができるということがポイント。

「牛すじ煮込み」490円。

ウイスキーの飲み方で強烈に差別化

大衆酒場の飲み物の定番はホッピーで、日本酒の品揃えが豊富になっている――筆者にはこのような固定観念があるが、「酒場ダルマ」にはホッピーが無い。日本酒は1銘柄のみだ。しかしながら、ウイスキーのバラエティが豊富で新しい提案にあふれている。

同店が一番に推しているのは「ハイボール」。ここでの新しい提案とは、グラスの中に「氷柱」を入れていること。これは純氷をグラスいっぱいに氷の柱(3cm×3cm×10cmくらいの大きさ)が入れてあり、グラスからハイボールがなくなったら、ハイボールをつぎ足すというものだ。

看板商品「氷柱角ハイボール」

普通の「氷柱角ハイボール」一杯目(氷柱入り)は500円(税込、以下同)、おかわり二杯目300円、おかわり三杯目以降は200円となる。「氷柱濃いめ角ハイボール」というものもあり、同じ仕組みで一杯目590円、二杯目390円、三杯目290円となっている。この氷柱は1時間以上経過しても解けないとのこと。

ドリンクの看板商品とも言える「氷柱角ハイボール」1杯目500円、2杯目300円、3杯目以降200円。ハイボールを継ぎ足しで楽しむ。

筆者が最も感動したのは「知多 お湯割り」690円というものだ。ウイスキーのお湯割りとはイメージをつかみかねていたが、これは日本酒の熱燗同様の熱さで、ほのかに甘味があった。思わず「旨い」と声が出た。これは「知多」というグレーンウイスキーの持ち味なのだという。このほか、サントリーオールド(通称、ダルマ)の水割りの前割りがある。とてもマイルドな飲み口だった。

グレーンウイスキー「知多 お湯割り」690円。ほのかに甘い味わいが特徴的。

「そういえば、サントリーはウイスキーが得意の会社」と気付いたのだが、ウイスキーを知り尽くした会社だからこその、ウイスキーの飲み方の提案なのであろう。同店がホッピーを入れていては、サントリーグループが「ネオ大衆酒場」に参入する意味はないことであろう。同店のウイスキーの飲み方提案は強烈に差別化されている。

顧客の「使い勝手」を尊重

フードメニューは定食も含めて70品目強で「大衆酒場」の定番が押さえられている。「食べたい食事がなんでも揃っている」という感じだ。中でも「とらふぐ」がキラーコンテンツになっている。切り身が10枚盛り付けられた「トラフグてっさ」490円は注文するとすぐに持ってくる。「とらふぐの唐揚げ」490円は肉厚で食べ応えがある。刺身が新鮮なのが感動的であった。

フードメニューのキラーコンテンツとも言える「トラフグてっさ」490円。「とらふぐの唐揚げ」も同価格。

「ニューノーマルな酒場」の真骨頂

筆者は、氷柱ハイボール4杯、とらふぐの唐揚げ、刺身三種盛り、オイルサーデンでほぼ3000円であった。安心感のあるお勘定であった。

同店のBGMは洋酒に合う選曲がされているが、QRコードを読み取ると、メニューを注文するページの下の方に自分でBGMを選曲できるようになっている。

店のデザインは飽きのこない普遍的な酒場の環境で、飲み物の提案、メニューの内容、客の使い勝手はとても深く考えられている。顧客の「フリー」な状態が十二分に尊重されている。これこそが「ニューノーマルな酒場」の真骨頂というものだろう。

「合鴨の山椒なべ」990円。

筆者がお勘定を終えて外に出たら、店長らしき人が店頭で道行く人に声をかけていた。ロングスカートで着飾ったアラフォー女性の二人連れがスマホのGPSを見ながら同店の前で思案している様子に、店長らしき人が「どちらのお店をお探しですか?」と尋ねたところ、「感動ボブンを探している」という。その店は同じ場所にあるが入り口は別になっていて、店長らしき人はその入り口まで二人連れを案内していった。

ダイナックの「宴会に頼らない飲食店経営」は、既に新しい顧客を生み出しているようだ。

執筆者のプロフィール

文◆千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)

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