東京五輪2020の開会式でドローンが夜空に五輪を描いたことが話題になりました。プログラム飛行です。日本の義務教育でもプログラミング教育が始まっていますが、教育方針が曖昧な上に、予算もほとんどないのが現状と言えます。プログラミングソフトを使ったシミュレーション教育だけでは限界があるのです。これからの日本を担う子供たちに必要なのは「リアル」「生きた教育」。さて、今回はロボット掃除機、ドローンを教材として使った場合、どのくらい費用がかかり、何ができるのかをレポートします。
プログラム教育にかけられる予算
デジタル化が進まない理由
義務教育で、プログラム教育が始まりました。デジタル教育では、学校側は教科書を配布し、生徒はノートと鉛筆を用意すれば良いというものではないですね。先立つものが必要です。
会社はかなり前からデジタル化しています。今では、多くの場合、個人用のパソコン(PC)、スマートフォン(スマホ)支給されます。しかし必要なのは、それだけではありません。そのメンテナンス、アップデート、そして個々の成果を活かすためのローカルネットワークの構築、メンテナンス、アップデート。そしてセキュリティが守られることも必要です。
会社は利益を上げるので、結果が出れば「投資」としてデジタル化は問題ありません。しかし、学校はどうでしょうか? 国公立は税金で運営されています。これは逆にいうと、追加投資を嫌うということです。本当なら、教育投資へのきっちりとした評価を行い、追加投資などを行わなければならないのですが、教育へは余りされていません。しかも、教育は始めるときには1年の計画は決まっているので、少なくとも1年の間に変えることはできません。さらに数年、学んだ人が卒業するまでは同じ傾向で授業したいということもあります。
デジタル教育・プログラム教育と言うのは、今までなかったわけで、どのような教え方が正しいのかもわかりません。そのため、かなり手探り感が強く、予算もバラバラ。これらがデジタル化が進まない原因なのです。要するに、教育方針が曖昧な上に、予算もほとんどないのが、現状と言えます。
教育は国の要であり、未来でもあるといえまので、こうではいけません。では、いくら出すと創造的なプログラム教育が可能なのでしょうか?今回、生徒の興味を引きそうな、ロボット掃除機、ドローンを教材として使った場合、何ができるのかを、レポートします。
シミュレーションプログラムの限界
文部科学省のホームページの中に、「小学校プログラミング教育に関する研修教材」というページがあります。その中に記載されているのは「Scratch 正多角形をプログラムを使ってかく」「Scratch ねこから逃げるプログラムを作る」「Viscuit たまごが割れたらひよこが出てくるプログラムを作る」の3つです。どれも「シミュレーション」。
Scratchは米MIT(マサチューセッツ工科大学)がプロデュースしたのメディアラボが開発したプログラミング学習用ソフトです。「ブロック」を組みわせるプログラミングが使われています。テレビゲームとアニメで鍛えられたデジタルキッズには、楽々クリアでしょう。
これでは小学生でも飽きるかもしれませんね。持って、授業2〜3コマではないでしょうか?子どもの飲み込みは早いのです。テレビゲームほどの自在さもありませんので、正直「これではちょっとね」という感じです。今は20年代、令和の時代。80年代、昭和時代にPCが出てきて、フライトシミュレーションで、唸った時代ではないのです。ただ国は推したいですよね。理由は簡単。「無料」ソフトなのですから。
iRobot Rootによるプログラム教育
STEM教育というのをご存知でしょうか。 S:Science(科学)、T:Technology(技術)、E:Engineering(工学)、M:Mathematics(数学)の教育分野の総称です。IT社会とグローバル社会の21世紀の人材を育成されるための教育とされ、その一つにプログラム教育があります。
そして、独自のSTEMワークショップを進めているメーカーがあります。「iRobot」です。理由は、技術屋、中でもプログラマーの数が足らないからです。「泥縄」と言う感もしますが、これ全世界的な事実です。
このため、技術に興味を持ってもらおうと、子どもを対象にしたワークショップ、ルンバを使ったワークショップを進めています。(ただコロナのため、現在中断されています)
実は、このワークショップを見学させてもらったことがあります。親に連れてこられた小学生は、みんな初対面。ちょっと不安な顔をしています。白衣を着せられて、いつもと違った空気に緊張しているのでしょうか。
最初は、シミュレーションから。まだリラックスしていません。しかし、ルンバなど教材が出てきますと、途端にワクワク顔に変わります。ロボット掃除機に興味があるからかも知れませんが、一番大きいのは「リアル」であることでしょう。実機を使ってのトライ&エラーで、どんどん興味を持ってのめり込んでいくのがわかります。彼らにとってもこの上ない経験だったのではないでしょうか?
ルンバでは大きいし、高いということで、iRobotは小型のプログラミングロボット「Root」を開発、上市します。導入した学校の様子を見ると、STEMワークショップと同じく、子どもも和かに、興味深々といういう感じです。
費用は、Root rt0が29,400円(税込)、Root rt1が24,800円。1クラス、35人1人ずつに渡すと約90万円となります。これ以外に、PCもしくはスマホが必要となります。
ドローンによるプログラム教育
さて、今、メディアなどで見かけることは多いものの実物をほとんど見たことがない機器にドローンがあります。それはドローンを外で飛ばすときは、いろいろな許可が必要になることが、法律で定められているからです。
しかしドローンは、各方面で期待されています。理由は簡単。シングルローターのヘリコプターに比べると、離陸、着陸などがとてもし易いからです。クルマに乗れる容易さで、空を使うことができる可能性があるからです。実はドローン、離着陸しやすいと書きましたが、コントロールは別です。左で上下、右で同一平面の方向を定めるので結構難しい。場合によっては最後までできない人もいるかも知れません。しかし、対抗策があります。
それが自動操縦、プログラミングです。東京五輪2020の開会式でドローンが夜空に五輪を描いたことは話題になりましたが、あれがプログラム飛行です。想像力と組み合わせれば、実にいろいろなことができることがわかります。また、視点を変えると、どうしてドローンが法律で制限されているのかなど、今の問題を考えることもできます。生きた教材とも言えます。
こちらは、ワールドスキャンプロジェクトが、教材として、最軽量モデル「スカイセルフィー」とプログラムアプリを提供しています。
基本レンタルで月額2,178円(税込)。1クラスで計算すると年間約85万円です。
まとめ
義務教育の場でも「生きた教材を」
22世紀は、機械にサポートさせるのが当たり前な時代になります。OS(オペレーションシステム)は、人とマシンを上手く繋ぐ優れたシステムですが、自分の好きなことが全部できるわけではありません。
これを打破するのが、プログラム教育。新たに想像したものは、見本がないわけですから、自分でプログラムする必要があります。その部分が、欧米に比べ日本は遅れているのです。しかし、それでは、日本がリードする分野が限られてきます。そのためには、子どもに強制するのではなく、やってみたいという好奇心がエネルギーになることが望ましいのです。ひとクラス100万円。エアコンより高いのですが、日本の将来への投資と考えると安いものだと私は思います。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京歴史散歩とラーメンの食べ歩き。