シイタケやシメジ、エノキなど、きのこは季節を問わず手に入る食材ではありますが、なんとなく「秋の味覚」のイメージです。実際、秋になると、バーベキューや炊き込みご飯などで、きのこを使う機会が増えてくるのではないでしょうか。今回は、きのこにまつわる疑問の数々を、きのこ総合企業・ホクトに取材しました。
きのこって野菜なの?
*以下、太字は筆者の質問、並字はホクトの回答です。
都市部に住んでいると、きのこは「スーパーに売っている野菜」という認識です。ズバリ、きのこは野菜なのでしょうか?
きのこは野菜ではなく、「菌類」に分類されます。
生態系の循環を考えたとき、地球上のすべての生物は、「動物(消費者)」「植物(生産者)」「菌類(分解者)」という大きく3つのカテゴリーに分けられます。きのこは野菜売り場に置かれているため「野菜」と思われがちですが、地球規模で見ると、植物や動物の死骸を土に還して循環を支える「分解者」としての働きをしているんです。
きのこは野菜ではない
植物(野菜)は基本的に光合成によって自ら栄養を作り、花を咲かせて種で増えます。きのこは花や種をつけることはなく、胞子だけで増えます。光合成は行わず、大きくなるための栄養は、土や木などからもらいます。
実は私たちが普段目にしている「きのこ」は、きのこが子孫を残すためにつくる「子実体(しじつたい)」と呼ばれる一部分に過ぎません。子実体は、配偶子(胞子)を作るための生殖器官で、植物でいうと花や実に当たります。きのこの本体は、地中に伸ばしている「菌糸」なのです。こうしたことからも、「きのこは野菜ではない」といえます。
生で食べられるの?
「きのこは分解者」といわれると、ちょっと見る目が変わりそうですね。野菜ではないということだと、きのこを食べるときに何か注意が必要でしょうか。例えば、生のまま食べても大丈夫ですか?生マッシュルームのサラダをよく見ますが……。
マッシュルームのように、きのこの中でも一部の種類は生で食べられるものもありますが、市販されているきのこは、一般的にすべて加熱が必要です。
「加熱」がおすすめ
理由は主に2つ。まず、きのこは食物繊維が多いため、生で大量に食べると消化不良を起こすことがあるためです。加えて、一部のきのこでは酵素の働きが強いものがあり、生のまま食べると体に影響を及ぼす場合があります。こうした影響を緩和する意味でも、きのこは加熱して食べることをお勧めしています。
そうなんですね。エノキなどはサッと加熱するだけでクタッとするのでわかりやすいのですが、肉厚のシイタケを網焼きにする際など、火が通ったかどうかの判断に迷うことがあります。その他のきのこについても、「(安全な状態まで)焼けた」目安があれば、教えてください。
例えばシイタケなら、笠を仰向けにして火にかけ、ひだが汗をかいたら食べごろです。そのほかのきのこも、加熱して、表面に水滴がつき始めたり、ツヤが出始めたら、火が通ったサインになります。焼き過ぎを防ぐためにも、この目安を覚えておくといいですよ。
旨味成分が多いきのこは?
「きのこの表面に水滴」が目安ですね!バーベキューのときは、生焼けにならないように、また、逆に焼き過ぎないように、よく見張っておきます。バーベキューといえば、きのこ汁のような汁物があると喜ばれるんですよね。干しシイタケの「出汁」は煮物などによく使いますが、生のシイタケや他のきのこからも出汁は取れますか?
1種類よりも数種類入れると旨味がアップ
干しシイタケに限らず、生のきのこからも美味しい出汁が取れますよ。出汁のカギとなる旨味成分には、大きく「グルタミン酸」「イノシン酸」「グアニル酸」の3つがありますが、きのこには「グルタミン酸」「グアニル酸」の両方が含まれています。さらに、この2つの成分は、含有バランスの異なるきのこを一緒に調理することで、より旨味を強く感じさせるという特徴があります。実際、1種類のきのこより2種類、2種類より3種類のきのこを入れたお吸い物に、より旨味を強く感じたという調査結果もあるんです。
違うきのこを複数使うことで、相乗効果が得られるわけですね。そういえば、俗に「香りマツタケ・味シメジ」といいますが、いわゆる「旨味成分」が多いのはシメジなのでしょうか?
まず、この言葉に出てくる「シメジ」は、現在市販されている「ブナシメジ」ではありません。「ホンシメジ」という、日本古来のきのこを指していると言われ、実際、ホンシメジは旨味成分が豊富です。
エリンギの旨味は昆布だしの22倍!
きのこ出汁に含まれる旨味成分の量を調べたデータがあります。それ(下図)を見ると、身近なきのこの中ではエリンギの旨みが非常に強く、昆布出汁のなんと22倍です。ホンシメジとの比較はありませんが、ブナシメジよりエリンギの方が多くなっていますね。
エリンギはもともと日本には生息していないきのこで、弊社が初めて1995年に本格的な栽培と販売を開始しました。ですから、「香りマツタケ・味シメジ」の言葉がうまれた当時には、まだ日本にエリンギがなかった可能性があります。
煮るときは水から?お湯から?
そうなんですね。もし、その当時エリンギがあったら、「香りマツタケ・味エリンギ」になっていた可能性も……。実を言うと、エリンギは味や香りより「歯ごたえ」を楽しむきのこという認識だったので、旨味が強いというデータを見て驚きました。エリンギの「旨味」を実感できる調理法(切り方、加熱法、組み合わせる食材など)があれば教えてください。
水から弱火でじっくり加熱
旨味を楽しむためには、エリンギを水から、弱火でじっくり加熱するのがおすすめです。きのこに豊富に含まれる旨味成分のグアニル酸は、60~70℃の温度帯で最も増えるという特徴があるからです。この温度帯をゆっくりと通過させるためにも、きのこ汁などを作るときは、煮立ったお湯に入れるのではなく、水から入れて徐々に加熱しましょう。エリンギに限らず、他のきのこも60~70℃で旨味成分が増えるのは共通しており、干しシイタケも同様です。「きのこは水から弱火でじっくり加熱」がおいしさを引き出すコツです。
また、切り方でエリンギの旨味が大きく変わることはありませんが、エリンギは「縦切り」にすると歯ごたえが楽しめ、「輪切り」にすると繊維が切れて「ホタテ」のような柔らかい食感になります。また、「手で割く」と表面積が増えて味の染み込みも良くなるので、煮物にする際にはおすすめです。
さらに、前述しましたが、きのこを複数種類合わせて使用すると相乗効果で旨味が強くなります。エリンギをはじめ、エノキやシメジ、シイタケ、マイタケなど、手に入りやすいきのこを組み合わせて、楽しんでみてください。
栄養素による健康効果は?
これからの季節、いろいろなきのこを入れた味噌汁やスープなどが美味しそうです。きのこを入れるだけでこんなに出汁が出るなら、薄味でも満足できて減塩につながりそうですね。きのこは低カロリーで食物繊維が豊富なことからダイエットに適している食材といわれますが、それ以外の成分が美容や健康に与える効果はありますか?
きのこは上記以外にも、健康・美容によい「ビタミン」「ミネラル」「アミノ酸」を豊富に含んでいます。前述したように、きのこは植物ではなく「菌類」なので、普通の野菜に含まれていないビタミン類や、菌類特有の栄養素(βグルカン、エルゴチオネイン)なども豊富です。
βグルカンやエルゴチオネインに注目
βグルカンは食物繊維の一種ですが、免疫機能を司る器官をサポートする働きがあるといわれています。アレルギーの予防や改善効果も期待されているため、花粉症の季節には話題に上ることの多い栄養素です。βグルカンは、きのこや大麦、オーツ麦などに含まれていますが、なかでも、きのこは特に含有量が多いのです。
エルゴチオネインは、きのこなどの菌類や麹菌、一部細菌のみが生成できる、アミノ酸の一種です。老化の元凶物質である活性酸素を除去する働きが認められており、アンチエイジング効果や、生活習慣病の予防などの効果が期待されています。
なるほど。「菌」ならではの栄養素があるのですね。最近、麹や酵母など、「菌」を食べることが健康に役立つという話を、よく聞きます。きのこという「菌」を食べることで、体に何か良い影響はありますか?
善玉菌のサポート役として腸内環境を整える
きのこは100%菌でできているので、「きのこを食べること=菌を食べること」と言えます。食品に含まれる菌は加熱調理や胃酸によって死滅してしまうことがほとんどで、たとえ食事で「生きた菌」を取り入れても、その菌が腸に棲み続けることはなく、便と一緒に排出されてしまいます。とはいえ、死んだ菌も、腸内で善玉菌のエサになったり、悪玉菌の出す有害物質を吸着して外に出しやすくしたりと、善玉菌のサポート役として大事な役割を果たします。
さらに、きのこに豊富に含まれる食物繊維も善玉菌のエサとなるので、腸内環境を整えるのに役立ちます。善玉菌のエサと考えると、食物繊維の豊富なきのこは、たまにたくさん食べるのではなく、少しずつでも頻繁に食べるのがおすすめです。
マツタケやトリュフの人工栽培は可能?
毎日少しずつとることで、「腸活」に役立つ食材なんですね。ところで、きのこは元来自然に生えているものですが、現在流通しているきのこは人工栽培されたものがほとんどだと思います。でもマツタケだけは、毎年秋に高価な天然ものが出回りますよね。マツタケが人工栽培できないのはなぜですか?
マツタケの人工栽培は難しい
マツタケは、生きた樹木と共生しながら生きる「菌根菌」という種類のきのこです。人工的に同じ環境を作ることが難しいため、人工栽培は容易ではないとされています。マツタケはレッドリストにも入っている絶滅危惧種なので、種の保存の観点からも、弊社でも人工栽培に向けた研究を進めています。
マツタケが人工栽培できて、もっと身近になったら嬉しいですね。高級きのこといえば、ヨーロッパで食べられているトリュフやポルチーニなどのきのこは、日本には生えていないのでしょうか。また、これらのきのこは海外でも日本でも、人工栽培はしていないのですか。
西洋ではトリュフの人工栽培も
トリュフやポルチーニは、いずれも日本でも発生しております。トリュフは和名では「セイヨウショウロ」という名で呼ばれており、ポルチーニは和名では「ヤマドリタケ」や「ヤマドリタケモドキ」と呼ばれています。トリュフもポルチーニも、マツタケ同様「菌根菌」のため、人工栽培が難しいとされていますが、西洋ではトリュフの人工栽培もされているようです。
弊社の研究所でも、トリュフなどの栽培研究を進めています。すでに、ポルチーニの一種であるススケヤマドリタケの人工栽培には成功し、日本きのこ学会第19回大会(2015年)で発表しました。今後さらに、さまざまなきのこの人工栽培や品種開発などを進めていきます。
まとめ
「きのこって野菜なのかな?」という素朴な疑問から始まったこの企画。個人的には、「エリンギは旨味が強い」という話が印象的でした。それと、マツタケやトリュフ、ポルチーニの人工栽培の研究が進んでいるというのも朗報!スーパーで普通に買える日が来たらステキですね。その日が来るのを心待ちにしています。もちろん、今普通に購入できるシメジやエノキなどのきのこたちも、香りや歯ごたえ、旨味がたっぷり!いろいろ楽しみましょう。ホクトさんのホームページは、きのこにまつわるクイズやおいしそうなレシピなど盛りだくさんです。ぜひのぞいてみてください。
▼ホクト(公式サイト)
▼きのこらぼ(ホクトのきのこ情報サイト)