“45万円EV”として日本でも注目された中国の「宏光Mini EV(ホングヮン ミニ EV)」が日本国内でも公開された。中国では、クラスが違うとは言え、台数ベースではテスラを上回る人気を獲得しているほどで、そのスペックは興味津々というところ。7月末まで公開されていた名古屋大学で実車を取材した。

公開された「宏光Mini EV」は、一般社団法人 日本能率協会が輸入したもので、まず今年6月東京ビッグサイト青海展示場で開催された『テクノフロンティア 2021』で日本初公開された。その後、解体検証を目的に名古屋大学の山本真義教授率いるパワーエレクトロニクス研究室へ移され、7月末まで大学構内で公開されたのを今回、取材させていただいたわけだ。

画像1: 名古屋大学構内に展示された「宏光Mini EV」

名古屋大学構内に展示された「宏光Mini EV」

100万円以下EVが多い中国で、さらに驚異的な価格を実現

車両は、中国国内の販売店で購入したものをそのまま日本に持ち込まれており、保安基準などの適合も受けていないため、公道を走ることは出来ない。あくまで「研究対象」として輸入されたものだという。折しも日本では、最高時速60km/hに限定した「超小型モビリティ」という新たなカテゴリーが動き出しており、そうした分野への参考にもなる公開になったとも言える。

では「宏光Mini EV」とはどんなEVなのか。車両を製造販売しているのは、上海汽車と米国ゼネラルモータースが合弁で設立した「上汽通用五菱」。2020年7月より中国国内で販売を開始しており、最大の注目点は、その価格にある。エアコンもないベースグレードなら、45万円(※8/2現在の為替レートでは49万円)という超格安を実現し、エアコンを搭載した上級グレードでも、60万円でしかない。これは、100万円以下のEVが数多くひしめく中国国内でも、群を抜く安さと言っていいだろう。

画像2: 名古屋大学構内に展示された「宏光Mini EV」

名古屋大学構内に展示された「宏光Mini EV」

画像: 「宏光Mini EV」のサイドビュー。ドアサッシュのすき間も小さく丁寧さが窺える

「宏光Mini EV」のサイドビュー。ドアサッシュのすき間も小さく丁寧さが窺える

画像: 「宏光Mini EV」のリアビュー。下部にはリアフォグも備えられている

「宏光Mini EV」のリアビュー。下部にはリアフォグも備えられている

軽自動車の全長をカットしたようなコミュータらしいスタイル

ボディサイズは、かなりコンパクトだ。上汽通用五菱のホームページによると、サイズスペックは、全長2920mm×全幅1493mm×全高1621mmで、4人乗り3ドアの超小型EVとなっている。一見すると日本が進めている超小型モビリティにも近いようにも見えるが、それよりはずっと大きい。

特に、横幅では超小型モビリティ規格を約20cmほど上回り、それは横幅1480mm以下の軽自動車規格よりも若干上回る。その意味では、横幅で軽自動車の規格を超えるものの、イメージとしては軽自動車の全長を50cmほどカットしたスタイルと思えば分かりやすいかもしれない。

タイヤサイズは、145/70R12を装着してアルミホイールを組み合わせ、ブレーキはフロントがディスク、後輪はドラム式。ヘッドライトはハロゲンランプで、バックドアの開閉は電気式スイッチで行う。充電口はフロントグリル中央のエンブレム部分を手動で開き、普通充電のみの対応となっている。サスペンションは、フロントがストラット式独立で、リアは3リンク式リジッドアクスルを組み合わせていた。

画像: タイヤは145/70R12で、アルミホイールを組み合わせる

タイヤは145/70R12で、アルミホイールを組み合わせる

最高速度は100km/h バッテリーは2種類から選べる

EVとしてのスペックはどうか。今回の車両では、移送中のバッテリー事故を防止する観点から、バッテリーは取り外されていたが、上汽通用五菱のホームページによれば、駆動用バッテリー容量はグレードによって9.3kwh/13.9kwhから選べ、航続距離は、それぞれ120km/170kmとしている。最高速度は、いずれの仕様も100km/hで、スペック上なら高速道路も走れることになる。これは最高速度を60km/hとしている超小型モビリティよりも、格上のスペックと言えるだろう。

EVとしての構造で見逃せないのは、徹底したコスト削減の手法だ。ベース車のガソリン車は、フロントにエンジンを積み、プロペラシャフトを通して後輪で駆動する、いわゆるFR方式を採用する。「宏光Mini EV」では、ここからエンジンとプロペラシャフトを取り払い、その空いたスペースを有効活用としてEV化している。つまり、電動化によってプロペラシャフトも不要となり、そのスペースを、EV化に向けて上手に活用しているのだ。

画像: ボンネット内部。左側に充電コネクタ用インバータが、右側にはブレーキ系システムなどが備わる

ボンネット内部。左側に充電コネクタ用インバータが、右側にはブレーキ系システムなどが備わる

画像: ベース車のプロペラシャフトをなくしたことで、バッテリースペースを確保できた

ベース車のプロペラシャフトをなくしたことで、バッテリースペースを確保できた

画像: 後輪駆動用のデフギアボックスに、電動モーターを直接組み合わせた

後輪駆動用のデフギアボックスに、電動モーターを直接組み合わせた

中でもユニークなのが、後輪駆動用のデフギアボックスに、ダイレクトに電動モーターを取り付けていることだ。本来なら、モーターで駆動するためのシステムを新規で組み合わせる必要があるが、なんとガソリン車で活用していた部品を組み合わせることで、EV化を実現してしまったのだ。「宏光Mini EV」では、こうした徹底したコスト管理の下、驚異的な低価格を実現したとも言える。

前2席は大人二人がゆったりと座れる広さを確保

車内に乗り込むと、コンパクトな車体からは想像できない、広々とした印象を受ける。横幅や頭上空間に余裕があることや、ダッシュボードの手前が低くデザインされていることも、その要因だろう。少なくとも、前2席は十分な空間が確保されていると言っていい。ただ、後席はホイールベースを短くした分だけ狭く、その広さは軽ボンネットバン並みで、そこに大人2人が乗車するには、かなりキツメに感じるだろう。また、運転席に座ると前輪のタイヤハウスの出っ張りが大きく、アクセルやブレーキペダルが助手席側に大きくシフトしている。この状態で長時間走るのは疲れやすいかもしれない。

画像: 車幅が日本の軽自動車よりも広いため、フロントシートは結構余裕がある。シートのホールド性もまずまず

車幅が日本の軽自動車よりも広いため、フロントシートは結構余裕がある。シートのホールド性もまずまず

画像: リアシートを折りたたむと十分な広さのカーゴスペースができる

リアシートを折りたたむと十分な広さのカーゴスペースができる

画像: タイヤハウスの出っ張りが大きく、ペダル配置は助手席側にかなりシフトして設置されている

タイヤハウスの出っ張りが大きく、ペダル配置は助手席側にかなりシフトして設置されている

画像: シフトチェンジは回転ダイヤル式。上はパワーウインドウスイッチ

シフトチェンジは回転ダイヤル式。上はパワーウインドウスイッチ

画像: ダッシュボード中央にあるエアコンコントローラーとラジオ

ダッシュボード中央にあるエアコンコントローラーとラジオ

メーターは液晶パネルを採用し、シフト操作はダイヤル式を採用するなど、時代に合わせた仕様となっている。その一方で、電源スイッチは昔ながらのキーを差し込んで回す方式で、このアンバランス感もコスト削減の一環なのだろうか。パワーウインドウは、前ドア左右に装備。オーディオ系は、ラジオが備わるだけのシンプルさだが、USB端子を備えているので、充電やスマホ内の音楽を再生できる可能性もある。ネット式の小物入れも備えるなど、格安EVとは思えない親切装備も随所に見ることができた。

画像: 前2席は大人二人がゆったりと座れる広さを確保

まとめ

この価格や仕様を見て、「日本に輸入されたら欲しい!」と思う人も少なくないだろう。しかし、その実現性はかなり低いと見るべきだ。まず、日本の法規上、車両サイズは「登録車」となってしまい、そうなると、EVとしてのスペックは低過ぎる。さらに、中国から輸入する場合は型式認定ができず、一台ごとに車検を通す作業が必要なこともハードルとなるだろう。つまり、輸入しても、様々なコストが上積みされ、本来の“格安EV”としての魅力は発揮されない可能性が高いのだ。

シティコミュータとしての利用価値を実感

とはいえ、格安EVを実現した「宏光Mini EV」の手法は、日本メーカーにとっても参考になる部分が多い。現状のEVは、“メインカー”として航続距離を長く延ばすことに注力してきたが、バッテリーを多く積めば重量も増え、その重量物を運ぶために無駄な電力を消費することになる。これは、CO2削減の観点からもマイナスだ。そうした状況を踏まえれば、むしろEVは、少ないバッテリーでシティコミュータとして普及させる方が環境にも優しいのではないか。「宏光Mini EV」からはそうした提案を感じ取ることができた。

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