こんにちは、家計コンサルタントの八ツ井慶子です。今回のテーマは「公的年金の継続性」です。
平成16(2004)年、厚生労働省が「100年安心」を掲げて年金大改革が行われてから17年が経とうとしていますが、おそらく未だに多くの方が年金に不安を抱えたままではないでしょうか。私自身は、現状維持は無理だろうと考えています。制度の維持だけなら、給付額を思い切って減額すれば、持つには持つのかもしれませんが、私たちの老後の生活のカバーがどこまでできるのかは、別問題になると思います。

独自試算ではありますが、私が「現状維持は無理だろう」と思うに至った試算の一つをご紹介したいと思います。家計コンサルタントならでは(?)の試算ではないかと思います。本稿を通して、“公的年金制度って、早くどうにかしないといけないんじゃないの?”とあらためて考えるキッカケになれば非常にありがたいです。

できるだけ、年金制度をご存じない方でもお分かりいただけるような表現に努めましたが、どうしても、公的年金制度を理解していないと、言葉や計算式の意味合いがわかりにくい箇所があるかもしれません(学校で教えてくれたらいいのに、といつも思いますが…)。その場合は、わかりにくい箇所は軽くお目通しいただく程度で大丈夫です。何とか最後までお付き合いいただけたらと思います。

保険料アップで年金財政は健全化?

では、まずは「年金財政」からみていきましょう。図表①をご覧ください。

年金財政については、厚労省のHPに毎年度「公的年金各制度の財政収支状況」として公開されています。ここから各年度(平成14年度~令和元年度)のおもな数値を拾いながら作成しました。

日本の年金制度は「賦課(ふか)方式」といって、現役世代から徴収した「保険料」を、高齢者を中心とする今の受給者に、年金として「給付」する世代間扶養の制度です。

ですから、年金財政をみる際には、「給付額÷保険料収入」で、保険料のみでどのくらい給付額をカバーできているかが計算できます。それが、表中の「カバー率」です。直近の令和元(2019)年度で73.81%。年金大改革が行われた平成16(2014)年度の61.64%と比較すると、グッと改善されている印象です。

【図表①】公的年金各制度の財政収支状況

厚生年金保険料収入①給付費②カバー率
おもなできごと保険料率
(%
億円変動率
(前年比)
億円変動率
(前年比)
①/②
マクロ経済スライド
発動2回目
令和元年度201918.3390,9041.85%529,6070.70%73.81%
平成30年度201818.3383,7952.98%525,9251.06%72.98%
平成29年度201718.3372,6874.12%520,4031.35%71.62%
短時間労働者10月平成28年度201618.182357,9275.88%513,4811.36%69.71%
マクロ経済スライド
初発動
平成27年度201517.828338,0653.82%506,5920.71%66.73%
平成26年度201417.474325,6404.86%503,009-0.31%64.74%
平成25年度201317.12310,5392.99%504,5831.33%61.54%
平成24年度201216.766301,5192.55%497,9411.90%60.55%
平成23年度201116.412294,0192.50%488,6750.12%60.17%
平成22年度201016.058286,8541.55%488,0951.36%58.77%
平成21年度200915.704282,483-1.98%481,5574.63%58.66%
平成20年度200815.35288,1862.18%460,2692.89%62.61%
平成19年度200714.996282,0293.52%447,3382.18%63.05%
平成18年度200614.642272,4353.49%437,8092.37%62.23%
平成17年度200514.288263,2422.62%427,6942.76%61.55%
年金大改革平成16年度200413.934256,5250.75%416,2003.32%61.64%
総報酬制導入平成15年度200313.58254,618-3.39%402,8212.84%63.21%
平成14年度200217.35263,555391,71167.28%
公的年金各制度の財政収支状況(厚労省発表の資料を元に筆者作成)

このことには、保険料のアップが大きく貢献していると思われます。年金大改革では保険料のアップが決定され、実際に上がってきました。しかし、現役世代にとっては負担増です。

公的年金には「国民年金」「厚生年金」があります。
国民年金保険料は、定額制で、加入者の所得などにかかわらず同額の徴収です。
一方で、厚生年金は、保険料率こそ一律ですが、収入(厳密には、収入ではなく「標準報酬(月)額」)に料率を乗じて保険料が計算されるため、収入の高い人ほど負担する保険料も高くなります(上限あり)。将来の老齢年金も納めた保険料に応じて変動しますので、人によって、いくらの保険料負担で、将来いくらの年金がもらえるかは異なります。

表中の「厚生年金 保険料率」は、その年度で適用された保険料率です。
令和元(2019)年度は、18.3%。平成15(2003)年度は13.58%です。わずか5%ほどのアップと思われるかもしれませんが、それはあくまで「変動幅」。18.3%-13.58%=4.72%。「変動率」でみると、18.3%÷13.58%≒1.347…と、実に35%ほどのアップなのです。

つまり、同じ収入の場合、この間に「厚生年金保険料」は約35%アップしました。かりに、月1万円の保険料だったとしたら、1万3,500円にアップしたわけです。かなりの負担増が行われていました。

国民年金保険料も、同期間に月13,300円から16,900円にアップしました(実際の国民年金保険料は、物価スライドなどの影響で決定されるため、ズレが生じています)。こちらも、変動率は27%ほど。家計にとっては厳しい“値上げ”です。

厚生年金の方が、国民年金よりも年金財政全体に占める割合が大きいため、図表①には厚生年金の保険料率の変化のみを載せていますが、見ていただくと、保険料率の上昇とともに「保険料収入」も、リーマンショックの翌年である平成21(2009)年度を除けば、しっかり伸び続けていることがわかります。

一方で高齢者数の増加も進み、「給付費」も増え続けています。ただし、増加ペースは「保険料収入」よりも鈍いようで、「カバー率」は、さきほど触れたように上昇傾向にあります。この点では、年金財政は健全化に向かっているといえそうです。

将来いくらの年金がもらるか4パターンで試算

政府は、厚生年金の加入者を増やそうと、平成28(2016)年10月から、いわゆるアルバイトやパートなどの短時間労働者の、社会保険の強制加入を導入しました(要件あり)。

厚生年金保険料は、労使折半といって、基本的に雇用者が負担する保険料と同額を、会社も負担します。ですから、この制度の導入をめぐっては、女性パートを多く抱える小売業から大反発があり、当時は頻繁に報道されていましたので、覚えていらっしゃる方も多いと思います。

ここから、家計コンサルタントらしいであろう試算をご紹介したいと思います。図表②です。

簡単にいいますと、現役時代にいくらの保険料を負担して、将来いくらの年金がもらえそうか、その「負担率」をみます。かりに「負担率100%」であれば、現役時代に納めた総保険料と同額を、将来年金として受け取る、ということを意味します。「負担率」が低いほど、不足分を税金や積立金等でカバーする必要が生じ、年金財政にとっては負の影響が生じることを示唆します。

【図表②】一人あたりの年金収支を考えてみる

画像: *老齢基礎年金年額は令和3(2021)年度の額 *国民年金保険料は令和3(2021)年度の額 *老齢厚生年金年額は、平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数で試算 *平均標準報酬額は、20万円、40万円、62万円の3パターンで試算 *厚生年金保険料の総納付額は労使合計で試算 表:筆者作成

*老齢基礎年金年額は令和3(2021)年度の額
*国民年金保険料は令和3(2021)年度の額
*老齢厚生年金年額は、平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数で試算
*平均標準報酬額は、20万円、40万円、62万円の3パターンで試算
*厚生年金保険料の総納付額は労使合計で試算

表:筆者作成

ただし、さきほど述べた通り、日本の年金制度は賦課方式なので、この試算はある意味、現実的ではありません。ですが、現役世代の属性によって「負担率」がどう変わるかをみることで、どういった方の年金加入者が増えれば、年金財政にとってプラスに働くか、あるいは負担が重くなるかといった“大きな流れ”をつかむには有効だと思います。年金財政の試算というと、マクロ的な試算が多く、一般の方にはピンときにくい印象がありますが、この試算は個人レベルの数値をみますので、比較的イメージしやすいのではないかと思います。

ひとつお断りさせていただくと、ここでは「老齢年金」のみの試算です。厳密には、「障害年金」「遺族年金」もありますが、財政規模に占める割合としてはほとんどが「老齢年金」だからです。ご了解ください。

では、図表②をご覧ください。試算条件を大きく4つに分けました。「現在」「超長寿」「2022年度改正」「カット率試算」です。

以下、試算条件をまとめますと、

現 在

・保険料は20歳から60歳までの40年間(480月)負担する
・65歳から85歳までの20年間、年金を受け取る

超長寿

・保険料負担は「現在」と同じ
・65歳から100歳までの35年間、年金を受け取る

改 正

・保険料は20歳から70歳までの50年間(600月)負担する
・75歳から100歳までの25年間、年金を受け取る(年金額は65歳時の1.84倍)

カット率

・保険料負担は、「改正」と同じ
・75歳から100歳までの25年間、年金を受け取るとして、「現在」と同じ「負担率」となるように年金のカット率を試算(年金額は65歳時の1.84倍)

なお、厚生年金加入者が負担する「①保険料総納付額」については、雇用者と企業負担を合わせた合計額としています。

ここで、言葉の確認をしておきましょう。
「国民年金」から給付される老齢年金は「老齢基礎年金」。「厚生年金」から給付される老齢年金は「老齢厚生年金」といいます。現役時代、ずっと自営業者などの国民年金のみの加入者は、老齢基礎年金しか給付されませんが、会社員や公務員などの勤務者は、老齢基礎年金と老齢厚生年金の2階建てで、給付されることになります。

また、繰り返しですが、「老齢厚生年金」に関しては、収入に応じて負担する保険料は異なり、将来受け取れる年金額もそれに応じて計算されます。そこで、今回は収入水準ごとに3パターンで「老齢厚生年金」を試算しました。具体的には、「平均標準報酬額」が20万円、40万円、62万円の3パターンです。

「平均標準報酬額」とは、ざっくりいいますと、現役時代の「賞与を含めた給与の平均」を月割りにした額になります(上限があるので、高所得の人は単純に年収を12で割った平均を出しても求められません)。ちなみに、令和元(2019)年度の厚生年金加入者の「標準報酬額」の平均は、445万円(およそ月37万円)なので、「40万円」の試算内容が、いまの全体像に近いと考えられます。

考察できること

図表①と②から考察できることは、

・「現在」条件の場合、平均標準報酬額40万円では、労使合計の保険料総納付額と年金総支給額がほぼバランスするので(負担率95.83%)、この額以上の収入の方々が厚生年金に多く加入すると、年金財政は安定化に向くと考えられる。

・しかしながら、「超長寿」の条件では、いずれも「負担率」が大きく下がることから、いまの公的年金制度は寿命の延びには対応しているとは言い難い。

・令和4(2022)年度に「改正」が行われると、年金の支給開始年齢を、いまよりさらに5年間遅らせるようになる(現在は70歳まで支給開始を遅らせることができるが、それが75歳まで可能に)。このとき、年金額は65歳時と比べ、1.84倍となることも決定されている。かりに70歳まで厚生年金に加入し、「保険料収入」が増えたとしても、増額された年金を100歳まで受給するとした場合の「負担率」は大きく改善することはない。このことから、高齢者の加入者を増やすことや、年金の繰り下げ者を増やすことは、年金財政改善に大きくは貢献しないと考えられる。

・かりに、「現在」の「負担率」となるまで年金がカットされると想定すると(薄黄色で塗りつぶしたセル参照)、将来的に半分以上カットされて、ようやく“維持”と考えられる

まとめ

年金財政のプロではありませんが、この試算を通して、少なくとも現在の公的年金制度が超長寿化に対応しているとはいえないことはお分かりいただけるのではないでしょうか。「人生100年時代」とはよくいいますが、人間の寿命が100歳で止まる保証はありません。もっと延びれば、さらなる財政悪化は必至です。

また、これから少子高齢化はさらに加速し、高齢者数は増加、現役者数は減少します。今回の新型コロナによるパンデミックの影響で新生児数が減り、少子高齢化の勢いは増すといわれています。加えて経済もよくありません。財政悪化の材料がいくつも重なっている状況です。

頭のいい官僚や政治家の方々が、こうした事実に気づかないとは到底思えません。情報量も多いですし、より詳細な状況を把握されていることでしょう。しかも、もっと以前から。それでもなぜ、年金改革が遅々として進まないのか、不思議でなりません。政治家まかせがよくないとしても、政治が動かないと制度改革もできないので、とても難しいところです…。どなたかいいリーダーはいないものでしょうか。

それでも、まずは私たち一人ひとりが社会保障改革をもっと大ごととして捉え、強く関心を持つことがやはり大事ではないかと思います。小さな一歩ですが、進まないよりマシでしょう。そして、いつか一定規模になれば、何かを動かす力にきっとなると思うのです(半分、自分に言い聞かせています)。みなさんはいかが思われるでしょうか。

実は、今回あらためて年金財政のデータを調べていて、個人的にとても驚いた数字がありました。思わず、厚生労働省に電話をして、「なぜですか?」と聞いてしまったくらいです。次回は、その内容をご紹介するとともに、医療や介護のデータからも考察できることをお伝えしたいと思います。もちろん、その背景には、今回の原稿では触れませんでしたが、常に「ベーシックインカム」の可能性を考えています。その点もどうぞ心の隅にとどめておいていただけるとうれしいです。

執筆者のプロフィール

画像: 執筆者のプロフィール

八ツ井慶子(やつい・けいこ)

生活マネー相談室代表。家計コンサルタント(FP技能士1級)。宅地建物取引士。アロマテラピー検定1級合格者。城西大学経済学部非常勤講師。

埼玉県出身。法政大学経済学部経済学科卒業。個人相談を中心に、講演、執筆、取材などの活動を展開。これまで1,000世帯を超える相談実績をもち、「しあわせ家計」づくりのお手伝いをモットーに活動中。主な著書に、『レシート○×チェックでズボラなあなたのお金が貯まり出す』(プレジデント社)、『お金の不安に答える本 女子用』(日本経済新聞出版社)、『家計改善バイブル』(朝日新聞出版)などがある。テレビ「NHKスペシャル」「日曜討論」「あさイチ」「クローズアップ現代+」「新報道2001」「モーニングバード!」「ビートたけしのTVタックル」など出演多数。
▼生活マネー相談室(公式サイト)
▼しあわせ家計をつくるゾウ(Facebook)

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