【原田マハのおすすめ】美術オンチがゴッホやピカソの沼にハマった……秋に読みたいアート小説の名作4選

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原田マハは今話題を集めている作家の一人。今年8月に『キネマの神様』、9月23日には『総理の夫』が映画化され、笑いあり、感動ありの心温まるストーリーに定評があります。その一方で、ピカソやゴッホ、ルソーなどを題材にしたアート小説も数多く執筆。知識ゼロの初心者でも読みやすく、一気にハマってしまいます。秋の夜長に読書を楽しみながら、アートの世界に浸ってみませんか。

小説が続々映画化する人気作家・原田マハ

映画『キネマの神様』は、ギャンブルとお酒が大好きで借金まみれの父親が、若い頃に手がけた脚本を蘇らせて奇蹟を起こすストーリー。山田洋次監督をはじめ、沢田研二や宮本信子、寺島しのぶから菅田将暉や永野芽郁、北川景子といった豪華キャストが注目されました。

さらに9月23日からは、日本史上初の女性総理大臣とその夫を描いた『総理の夫』が、田中圭と中谷美紀主演で公開されています。

これらの映画の原作者である原田マハは、1962年東京生まれ。2005年『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞し、2006年に作家デビュー。2012年『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞、2017年『リーチ先生』で第36回新田次郎文学賞を受賞しています。

『総理の夫 First Gentleman 新版』(実業之日本社文庫)

www.j-n.co.jp

前職は有名美術館にも勤務していたキュレーター

原田マハが作家としてデビューしたのは、40代になってからのこと。伊藤忠商事の新規事業開発室では、全国の地方自治体や企業のアートに関するコンサルティング業務に携わり、その後は森ビル森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館(MoMA)での勤務を経て、2002年にフリーのキュレーター(美術館等の展覧会の企画・運営などを行う専門職)として独立しました。この経歴を活かして、「アート小説」と呼ばれる、史実をベースとしたフィクションを精力的に発表しています。
▼原田マハ 公式ウェブサイト

とにかく読みやすい原田マハの「アート小説」

私は原田マハの小説が大好きですが、美術関係の知識がないためアート小説の作品は敷居が高く、ずっと避けていました。ところが、コロナ禍で自宅時間が増えたことをきっかけに、たまたま図書館で見つけた『楽園のカンヴァス』を読んでみたところ、その面白さにハマり、今も貪るように読んでいます。

原田マハのアート小説は、とにかく読みやすいことが特徴。本人が大好きなピカソをはじめ、印象派といわれるモネやゴッホ、ルソーなどが中心なので美術を知らない人でも取っつきやすい。どんなに貧しくても情熱と高い志を持ち続け、新しい絵画の世界を切り開くストーリーに感情移入し、あっという間に最後まで読み切ることができます。ちなみに「印象派」とは、「自分の印象で描いているだけじゃないか」と批評家から嘲られたことから生まれた言葉。そんなちょっとした美術知識も学べるのです。

今回は原田マハのアート小説の中で、特に感銘を受けた4作品を紹介します。まずは気になる一冊を手に取ってみませんか。

おすすめ(1)『楽園のカンヴァス』

ルソーとピカソ、2人の天才画家のアートミステリー

『楽園のカンヴァス』(新潮社)

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あらすじ

ニューヨーク近代美術館(MoMA)の学芸員ティム・ブラウンのもとに「伝説のコレクターが所有するアンリ・ルソーの名作を調査してほしい」という依頼の手紙が届く。スイスの大邸宅に向かうと、そこにはルソーの最晩年の名作『夢』に酷使した絵があり、その真贋を正しく判定した者にこの絵を譲るという。鑑定のライバルは日本人研究家の早川織絵。ふたりには手がかりとなる謎の古書を読むように伝えられる。タイムリミットは7日間。この絵は贋作か、それとも真作か?ルソーとピカソ、そして絵のモデルになった女性との関係性を紐解くアートミステリー。

アンリ・ルソー『夢』(1910年)

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みどころ(ネタバレ注意)

絵の鑑定を依頼されたティムと織江は、謎の古書を1日1章ずつ、7日間かけて読んでいきますが、この物語にハマります!ルソーの人柄や困窮した生活がイメージでき、彼が可哀そうに思えてきました。掻い摘んで紹介すると……ルソーはヤドヴィガというポーランド人の既婚女性に恋焦がれ、自分の描いた絵を送りますが、彼女にはその気はなく、絵を売り払ってお小遣いにするほど。しかし、彼女の夫は近代的だと評価し、一度アトリエに行くことを勧めます。初めて訪れたときにピカソと出会い、「あなたはルソーの女神だ」と言われてから彼を意識するように。ルソーの才能を高く評価していたピカソは、彼のために夜会を開いて2人を招き、「本気でルソーの女神になってほしい。絵のモデルとなり、永遠に生きればいい」と伝えます。最晩年、左足を失い、絵を描くための絵具もカンヴァスないルソーに、自分が絵を描いたカンヴァスを渡したピカソ。ヤドヴィガはモデルになる決心をし、描かれた絵が、『夢』に酷使した『夢をみた』という作品だったのです。

アンリ・ルソーとは?

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、パリで活躍した素朴派の代表的な画家です。「素朴派」とは「ヘタウマ」という意味。税関の役人として働きながら独学で絵を描く日曜画家でしたが、退職後は本格的に画家としての活動をスタートさせました。遠近法を活用しない独特の画風で、ジャングルに人物や動物を描いたファンタジックな世界観が特徴。当初は批評家たちの嘲笑の的となっていたものの、最晩年頃は評価を高めました。1910年パリで孤独のうちに死去。享年66。

おすすめ(2)『美しき愚かものたちのタブロー』

国立西洋美術館の誕生に隠された奇蹟の物語

『美しき愚かものたちのタブロー』(文藝春秋)

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あらすじ

日本人のほとんどが本物の西洋絵画を見たことがない時代、実業家の松方幸次郎は「日本に本格的な美術館を創りたい」という夢を実現するため、私財を投げうってロンドンとパリで絵画を買い集める。「わしは絵のことは知らん」と言っていた松方だが、美術史家の卵・田代と出会い、クロード・モネとの親交、ゴッホやルノアールといった近代美術の傑作の数々によって芸術に目覚めていく。敗戦とともにコレクションはフランス政府に接収されるものの、日仏政府間の交渉の末、日本への寄贈返還を実現させた。美術に魅せられた熱き男たちの生きざまと国立西洋美術館の礎となった「松方コレクション」の数奇な運命を描いた作品。

みどころ(ネタバレ注意)

個人的には松方幸次郎よりも、彼に代わって「松方コレクション」を守り抜いた日置釭三郎に感情移入しました。松方幸次郎は、潤沢な資本力で1万点以上の美術品を買い集めましたが、戦時下において日本の経済が悪化して破産。その松方に代わってフランスに単身で残り、絵画コレクションを守り抜いたのが、松方幸次郎の秘書を務めた元軍人の日置釭三郎でした。ドイツ軍によるフランス占領が進むなか、パリから約80キロ離れたアボンダンという小さな村に疎開しましたが、日本との連絡や送金の受け取りが困難になり、日に日に生活は困窮。ドイツ軍にいつ踏み込まれてもおかしくない状況下で息をひそめるように暮らし、命をかけて最後まで守り続けました。自分の人生を投げうってまでコレクションを守り、松方に尽くした日置の男気は感動ものです。

国立西洋美術館とは?

フランス政府から寄贈返還された松方コレクションをもとに、西洋美術に関する作品を広く公衆の観覧に供する機関として1959年4月に発足しました。本館は、日仏間の国交回復・関係改善の象徴として、20世紀を代表する建築家のひとりであるフランス人建築家ル・コルビュジエの設計により、1959年3月に竣工した歴史的建造物。2016年7月17日に国立西洋美術館を含む「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献 ―」は世界文化遺産に登録されています。
〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
※2022年春(予定)まで館内施設整備のため、全館を休館。
▼国立西洋美術館(公式サイト)

国立西洋美術館本館

www.nmwa.go.jp

おすすめ(3)『たゆたえども沈まず』

苦境の中でも絵を描き続けたゴッホの生涯を追う

『たゆたえども沈まず』(幻冬舎)

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あらすじ

世界的に有名な絵画の巨匠フィンセント・ファン・ゴッホが、まだ売れない画家だった生前のエピソードを綴った作品。1867年のパリ万博以来、フランスでは浮世絵などの日本美術が流行したが、その立役者となったのは、美術商を営む林忠正とその助手の加納重吉。多くの印象派画家が浮世絵に魅せられ、ゴッホと、兄を献身的に支える画商のテオも、大きな影響を受けた。そんな2人の前に忠正が現れたことで大きく運命が動き出し、『星月夜』という奇蹟の絵が生まれた。

フィンセント・ファン・ゴッホ「星月夜」(1889年)

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みどころ(ネタバレ注意)

ゴッホが日本に憧れ、浮世絵を模写するほどに魅了されていたこと。生前は1枚も絵が売れず、画商の弟テオの支えがなければ、画家として生きていくことが難しかったという事実を初めて知りました。兄弟ともに心身が疲弊するなか、ゴッホは新天地を求めて南フランスのアルルに旅立ち、画家仲間のゴーギャンと共同生活を始めるものの、その生活は長く続かず、自分の耳を切って馴染みの娼婦に届けた「耳切り事件」が発生。ゴッホは精神を病み、南仏の療養所に入院して鉄格子の中で絵を描き続け、37歳で自ら命を絶ちました。その極限状態でセーヌの星空と孤高の糸杉を描いた『星月夜』を見たテオは、「とうとう、フィンセントは描いたんだ。彼が、いちばん描きたかったものを」と瞳を潤ませながら言葉を発します。タイトルの「たゆたえども沈まず」は、Il tangue mais ne coule pas(揺れはするが、沈没はしない)というパリの標語。いかなる苦境に追い込まれようとも、決して沈むことのない兄弟の力強い意志と愛が心を揺さぶります。

フィンセント・ファン・ゴッホとは?

1953年3月30日、オランダのズンデルトで牧師をする父の長男として生まれました。画商や語学教師、聖職者などの職を転々としましたがうまくいかず、弟・テオのいるパリに戻り、28歳にして画家を目指します。初期は『じゃがいもを食べる人たち』のような暗い色彩が多く、パリに移ってからは印象派の影響を受けて明るい色彩に目覚め、アルル時代には『アルルの跳ね橋』『ひまわり』といった代表作を描いています。晩年は、南仏プロヴァンスの小さな町サン=レミの精神病院で療養生活を送りながら、自然を題材に多くの作品を残しました。1890年7月に37歳の若さで死去。約10年という短い画家生活の中で描いた作品は、850点以上にのぼります。

おすすめ(4)『暗幕のゲルニカ』

ピカソの若い愛人の視点から絵画制作をリアルに描写

『暗幕のゲルニカ』(新潮文庫)

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あらすじ

9.11同時多発テロが発生した直後のアメリカ――この事件で夫を亡くしたニューヨーク近代美術館(MoMA)のキュレーター・八神瑤子は、反戦を訴えるために展覧会「ピカソの戦争」を企画。ナチスがピカソの故郷であるスペインのゲルニカ空爆を描いた大作『ゲルニカ』を目玉にしようと思ったが、マドリードにある作品の借用は難しく、国連にあるゲルニカのタペストリーを借りることに。しかし、国連本部でイラク攻撃を宣言する米国務長官の背後の『ゲルニカ』には暗幕がかけられていたーー。ピカソの名画を巡る陰謀に巻き込まれた瑤子は、テロ組織に拉致をされてしまう。果たして瑤子の命は?展覧会は無事に開催されるのか?最後まで手に汗握る作品です。

パブロ・ピカソ「ゲルニカ」(1937年)

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みどころ(ネタバレ注意)

本作は、現在と過去を行き来しながら展開されるストーリー。現在はニューヨークを舞台に瑤子の視点、過去は『ゲルニカ』が制作された1937年から1945年までのパリが舞台となり、ピカソの若い愛人である写真家のドラ・マールの視点で描かれています(ピカソには正妻、愛人もいました。ちなみにドラは、『泣く女』のモデルにもなった人物です)。ピカソは1937年に開幕されるパリ万博のスペイン館に展示する350×780センチの巨大な新作を依頼されましたが、なかなか筆が進まず。しかし、「ゲルニカ 空爆される」という新聞記事を目にしたとき、その怒りと悲しみを原動力に1ヵ月で『ゲルニカ』を描き上げました。ピカソに最も近い存在として、ゲルニカ制作の過程を撮影することに誇りを持っていたドラ。現代に残したその功績は、とても大きなものです。しかし、ピカソの心が自分から離れていることを察知し、妊娠を隠して最後は彼のもとから去っていく…。ゲルニカ誕生のドラマから、ピカソの人となり、2人の関係性がみどころです。

パブロ・ピカソとは?

1881年10月25日、スペイン南部のマラガで誕生。画家で美術教師でもある父のもとに生まれ、幼少の頃から絵を描きはじめ、その才能を開花させました。キュビスムの創立者であり、ヨーロッパの絵画や彫刻において革命をもたらし、その影響は音楽、文学、建築など多分野に広がりました。ピカソが「20世紀の芸術家に最も影響を与えた1人」と言われる所以です。代表作は『アヴィニョンの娘たち』、『ゲルニカ』、『泣く女』など。作品は一般的に「青の時代」(1901-1904)、「ばら色の時代」(1904-1906)、「アフリカ彫刻の時代」(1907-1909)、「分析的キュビスム」(1909-1912)、「総合的キュビスム」(1912-1919)に分類されます。1973年4月8日、91歳で死去。

まとめ

世間に評価されずに困窮していく生活、戦時下で制限される芸術活動――。苦境の中で絵を描き続けた画家たちの高い志には、ただただ敬服します。私が特に感情移入してしまったのは、ゴッホです。日本企業がオークションで『ひまわり』を50億円以上で落札したニュースを観て以来、凄い画家だと思っていましたが、まさか、生前は1枚も絵が売れず、弟テオから生活支援を受け、孤独で、精神的にも追い詰められる中で生み出された作品だったとは……。今夏に大阪市の美術館で初めて『ひまわり』を観たときには、ゴッホの苦悩の人生が走馬灯のように蘇り、目頭が熱くなりました。ぜひ、この秋は読書と美術館巡りをセットに楽しんでみてください。

最新刊『 リボルバー』(幻冬舎)では、アート史上最大の謎「ゴッホの死」に迫る!

www.gentosha.co.jp

ー◆参考URL◆ー
原田マハ公式ウェブサイト https://haradamaha.com/
アートペディア https://www.artpedia.asia/

◆文:藤田美佐子
京都市在住。フリーランスの編集兼ライターとして観光、食、求人、医療、ブライダルなど幅広い取材・執筆活動を行う。1児の母。趣味はマラソン・トレラン、美味しいものを食べたり、つくること。原田マハの小説を読むようになってから美術館にも足を運ぶように。まさに奇蹟!

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