風景や被写体が同じでも、使用機材(カメラやレンズなど)が違ったり、立ち位置を変えたりすると、写真の絵柄や出来栄えも変わってきます。そこが写真撮影の難しさであり、また自然と個性が出せる写真の醍醐味でもあります。今回は、立ち位置の違いに着目します。“カメラの位置やレンズのアングルの変化で、絵柄や出来栄えがどのように変化をするか?”を、探って行きます。
執筆者のプロフィール
吉森信哉(よしもり・しんや)
広島県庄原市生まれ。地元の県立高校卒業後、上京して東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)に入学。卒業後は専門学校時代の仲間と渋谷に自主ギャラリーを開設し、作品の創作と発表活動を行う。カメラメーカー系ギャラリーでも個展を開催。1990年より、カメラ誌などで、撮影・執筆活動を開始。無類の旅好きで、公共交通機関を利用しながら(乗り鉄!)日本全国を撮り続けてきた。特に好きな地は、奈良・大和路や九州全域など。公益社団法人 日本写真家協会会員。カメラグランプリ2021選考委員。
ローポジションとローアングルとは?
ローポジション
ローポジション+ローアングル
立ち位置の違いによる変化には、主にふたつの条件が絡んできます。“どの場所から撮るか”と“どの高さから撮るか”です。場所を移動すれば、風景や被写体の写り方も当然変わってきます。そして、場所が同じでもカメラを構える高さを変えれば、見え方や写り方が変わってくるのです。ここでは、カメラの高さの違いについて述べてみたいと思います。
カメラの高さの違いは「ポジションの違い」という言葉に置き換える事ができます(まあ、場所の移動にも当てはまる言葉ですが)。そして、被写体に対するカメラ(レンズ)の角度の違いは「アングルの違い」という言葉に置き換えられます。ポジションとアングル。この2つの要素の組み合わせによって、風景や被写体の見え方はガラッと変わってきます。
ここでオススメしたいのが、カメラを低い位置に構える「ローポジション」と、被写体を見上げる「ローアングル」です。その2つのアプローチによって、低い位置にある被写体の臨場感が増したり、高さのある被写体をダイナミックに見せたりする事ができるのです。ローポジション単独と、ローポジション+ローアングルの組み合わせ。そのアプローチは、被写体の規模や撮影条件や表現内容によって使い分けましょう。
なお、低い位置から撮る事を「ローアングル撮影」と表記する人もいますが、正しくは「ローポジション撮影」です。前述の通り、ローアングルは被写体を見上げる撮り方を指します。ですから、カメラ位置が目線の高さ(アイレベル)でも見上げるように撮れば、それは「ローアングル撮影」になるのです。
ローポジション+水平アングルによる撮影
ローポジション+ローアングルによる撮影
アイレベル+ローアングルによる撮影
モニター可動式カメラのススメ
ローポジション撮影や、ローポジション+ローアングル撮影では、ファインダーや液晶モニターで画面(構図やピント位置など)を確認するのが難しくなります。私自身は、以前は寝そべりながらローポジション撮影を行っていました。まあ、そういう体勢ができない(または許されない)状況も多々あるのですが…。
しかし、可動式の液晶モニターを搭載するデジタルカメラを使用すれば、いろんな状況下で快適にローポジション撮影が行えます。カメラの高さやレンズアングルが変則的であっても、モニターの角度調節により映像を正面近くから見る事ができるのです。
液晶モニターの可動方式は、チルト方式とバリアングル方式の2つに大別できます(一部例外もありますが)。
「チルト方式」は、上下に角度調節できるタイプです。この方式のメリットには、操作の迅速さや、レンズ光軸との位置ズレの少なさなどが挙げられます。ただし、縦の構えには対応できなかったり、チルト角度の制約で画面が見づらいアングルが生じたり、といったデメリットもあります。
「バリアングル方式」は、軸を起点に上下左右に角度調節できるタイプです。この方式のメリットには、縦位置や自分撮りにも対応できる事や、極端なポジションやアングルでもきめ細かく角度調節できる、といった点が挙げられます。ですが、チルト方式よりも角度調整に手間がかかる(最初に開いてから角度調整に入る)といったデメリットもあります。
2タイプのモニター可動式カメラ
ファインダー接眼部可動式のカメラ
縦位置撮影にはバリアングル方式を!
ポジションとアングルの違いによる描写の変化
ローポジション:低い被写体の背景に変化をもたらす
上から見下ろすか? 真っすぐ前方を見るか? それとも、下から見上げるか? このカメラアングルの違いによって、被写体の写り方は変わってきます。また、被写体だけでなく、周囲の写り方も大きく変わってくるのです。
その違いが顕著に感じられるのが、背丈の低い被写体を撮影する場合です。たとえば、茎の短い花や小動物などが被写体だと、カメラポジション(高さ)の違いよって、必然的にカメラアングルも変わってきます。アイレベルやしゃがんだ程度の高さだと、見下ろすアングルになります。しかし、被写体の高さまで高さを下げると、自然と水平に近いアングルになります。その違いによって、写真全体の写りや雰囲気は一変するのです。
なかでも変化が大きいのが“背景描写”です。前者のような撮り方だと、背景には自然と地面が入ります。そして、被写体の背丈が低いため地面までの距離も近くなり、十分なボケ効果が得られにくいのです。また、地面は背景の素材としては地味で単調です。一方、後者のような撮り方だと、背景までの距離が保て、大きなボケ効果を得る事ができます。また、カメラ位置を左右に移動すれば、画面内に入る背景も大きく変える事ができるのです。
ローポジション+水平アングル
離れた場所の“日向の草むら”を背景に
ローポジション+ローアングル:広角レンズによるアプローチでダイナミックに描写
背丈の低い被写体に合わせてカメラ位置を下げるだけでなく、さらに低い位置から見上げる「ローポジション+ローアングル」。この撮影スタイルもオススメです。この際、使用レンズが広角や超広角ならば、遠近感の強調によって被写体をダイナミックにデフォルメできますし、広い画角によって周囲(主に背景)をしっかり見せる事もできます。
たとえば、広角24mmから超広角15、16mmくらい(いずれも35mm判換算の焦点距離)。この範囲のレンズを、被写体の大きさや写し込みたい背景の範囲によって選択したいですね。また、被写体が小さい場合には、最短撮影距離の短いレンズがオススメです。そういう基準でレンズ選びをするなら、一般的にはズームレンズよりも単焦点レンズの方が有利です。ただし、最近の広角ズームレンズの中には、単焦点レンズと遜色のない近接能力を持つ製品もあるので、そういった点も意識しながらレンズ選びをすると良いでしょう。
地面近くから花を見上げ、後ろの校舎の高さを強調
デフォルメ効果で堂々とした姿に!
まとめ
非日常の視点が、新たな表現につながる
ある被写体や風景に心惹かれて「これは撮りたい!」と感じた際、主にふたつの取り組み方が考えられます。ひとつは「見たままを素直に写す」という方法。もうひとつは「異なる観点で、独自の表現を目指す」という方法です。
今回提案したローポジション撮影は、どちらかと言えば後者に当てはまる方法です。しかし、被写体に演出を加えたり、特殊効果を施す訳ではなく、あくまでも“視点を変えて観察する”方法なので、作為が鼻につくような事はないはずです。
奇をてらう必要はありません。ですが、ローポジションやローポジション+ローアングルによる“非日常の視点”を意識すれば、これまでとは違う驚きや感動を覚えるでしょう。それによって、従来とはひと味違う新たな表現が可能になるのです。
撮影・文/吉森信哉