世紀の転換期にあたる2000年前後から、写真の世界も“フィルムからデジタルへ”と、大きな転換期を迎えました。そして、この流れと勢いは一気に加速して、カメラメーカー各社から、続々とデジタルカメラの新製品が発売されるようになります。コンパクトカメラだと1年に2、3回。一眼レフでも1、2年に1回。そのくらいのハイペースで、後継機や後続機が発売されていたのです。現在では、そんな怒涛の新製品ラッシュは収まっていますが、中古カメラ店やネット上の情報などで、これまでに発売された各社のデジタルカメラはチェックできます。すると、現行製品とは趣の異なる旧型モデルを、いくつも見つけられるでしょう。今回は、そんな旧型デジタルカメラの中から、今でも十分実用的で魅力的なモデルを4機種ほど選んで紹介したいと思います。(※以下、おすすめ1~4の番号は、順位を表わすものではありません)
執筆者のプロフィール
吉森信哉(よしもり・しんや)
広島県庄原市生まれ。地元の県立高校卒業後、上京して東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)に入学。卒業後は専門学校時代の仲間と渋谷に自主ギャラリーを開設し、作品の創作と発表活動を行う。カメラメーカー系ギャラリーでも個展を開催。1990年より、カメラ誌などで、撮影・執筆活動を開始。無類の旅好きで、公共交通機関を利用しながら(乗り鉄!)日本全国を撮り続けてきた。特に好きな地は、奈良・大和路や九州全域など。公益社団法人 日本写真家協会会員。カメラグランプリ2021選考委員。
〈おすすめ1〉ニコン D7000
“ワンランク上”感のあるミドルクラス一眼レフ
このD7000が発売された当時、私はAPS-CサイズのD300(D7000発売時のAPS-Cサイズフラッグシップ機D300Sのベースとなるモデル)を使用していました。この頃のニコン製デジタル一眼レフの上位機種の多くは、撮像センサーの有効画素数が1200万画素くらいでした。そう、35mm判フルサイズの機種も含めて…。
しかし、APS-Cサイズミドルクラス機として登場したD7000の撮像センサーは「1620万画素」なのです。もちろん、センサーの画素数だけで、カメラの優劣は決められません。ですが、35ミリ判フルサイズの高画素フラッグシップ機D3Xに次ぐ高画素機となれば、嫌でも注目度は高まります(D3Xは2450万画素)。
そして、センサー画素数以外の基本仕様や撮影機能にも、目を見張るものがあります。グレードの違いで差が出やすいファインダーの仕様も“ペンタプリズム採用、視野率100%、倍率0.94倍”と、フラッグシップのD300シリーズと同等なのです(従来のミドルクラス機D90の視野率は96%)。D90と同程度の小型軽量ボディながら、上面と背面にマグネシウム合金製カバーを採用し、高い防塵防滴性能を確保、といった信頼性の高さも魅力です。
さらに、記録メディアが“SDXC対応のダブルスロット仕様”という点にも注目が集まりました(D300Sは“CFカードとSDHC対応のダブルスロット”という仕様でした)。これによって、総撮影枚数を増やす、万が一に備えて撮影データをバックアップ、撮影データをコピー、といった使用法が可能になるのです。
これらの仕様や機能に魅力を感じ、発売と同時にD7000を購入しました。そして、D300と併用しながら、次第に“自分のDXフォーマットのメイン機”になっていったのです。
ニコン D7000のココが魅力!!
●従来のミドルクラス機を超える高画素センサー採用
●フラッグシップ機並のファインダー仕様&信頼性ボディ
●利便性の高いSDXC対応ダブルスロット
SPECS Nikon D7000
形式:デジタル一眼レフ 撮像センサー/有効画素数:APS-CサイズCMOSセンサー/1620万画素 記録媒体:SD,SDHC,SDXC ファインダー倍率/視野率:約0.94倍/約100% モニター:3.0型/約92万ドット ISO感度(拡張含む):100~25600 連続撮影速度:最高約6コマ/秒 サイズ(幅×高×奥)/質量:約132×105×77mm/約780g(バッテリーとSDカード含む) 発売年月:2010年10月 発売時の参考価格:14万円前後
〈おすすめ2〉キヤノン EOS Kiss X5
バリアングルモニター搭載で機動性アップ!
キヤノンの「EOS Kiss」は、フィルム一眼レフ時代から“エントリーユーザー向けブランド”として、圧倒的な存在感を放っていました。2003年には、そのブランドコンセプトを引き継ぐデジタル一眼レフ版の初代機種「EOS Kissデジタル」が発売されます。そして、センサーの高画素化やボディの小型軽量化が進んだ後継モデルが、次々と発売されていきました。
このEOS Kiss X5は、EOS Kissデジタルの第7世代にあたる機種です(派生モデルもあるので7機種目ではありません)。その最大の特長は、自由に可動させられるバリアングル液晶モニターが採用された事です。それによって、ハイアングルやローアングル時だけでなく、カメラを縦位置に構えた際や、自分撮りをする際にも、モニター映像を確実に確認する事ができるのです。
また、初代機種では630万画素だった撮像センサーも、3倍近い1800万画素まで高画素化されています(前機種のEOS Kiss X4から)。ちなみに、この1800万画素という数値は、上位機種のEOS 7DやEOS 60Dと同じです。
エントリークラス機で重要視される“おまかせ撮影モード”も進化しています。従来の「全自動モード」では、撮影シーンに応じて露出やAFやAWB(オートホワイトバランス)などが自動設定されていました。しかし、新たに搭載された「シーンインテリジェントオート」では、それらの自動設定に加えて、写真の仕上がり設定であるピクチャースタイルも自動で設定され撮影モードなのです。
キヤノン EOS Kiss X5のココが魅力!!
●自由な撮影スタイルを可能にする、バリアングル液晶モニターを採用
●撮像センサーの画素数は、上位機種と同じ1800万画素
●さらに自動化が進んだ「インテリジェントオート」搭載
SPECS Canon EOS Kiss X5
形式:デジタル一眼レフ 撮像センサー/有効画素数:APS-CサイズCMOSセンサー/約1800万画素 記録媒体:SD,SDHC,SDXC ファインダー倍率/視野率:約0.85倍/約95% モニター:3.0型/約104万ドット ISO感度(拡張含む):100~6400 連続撮影速度:最高約3.7コマ/秒 サイズ(幅×高×奥)/質量:約133.1×99.5×79.7mm/約570g(バッテリーとSDカード含む) 発売年月:2011年3月 発売時の参考価格:9万円前後
〈おすすめ3〉オリンパス XZ-1
薄型金属ボディに大口径「ZUIKO」レンズを搭載
高性能なレンズや機能を搭載し、ボディの素材や仕上げにもこだわった、いわゆる“高級コンパクトデジカメ”。そういう製品は現在も残っていますが、かつては各社から多くのカメラが発売されていました。
ここで紹介するオリンパス XZ-1も、そんな製品のひとつです撮像センサーには1/1.63型CCDセンサーが採用されています。このセンサーの面積は、一般的なコンパクトデジカメに使われている1/2.3型の約1.5倍で、当時は「大型センサー」と謳っていました。また、センサーの種類もCMOSではなくCCD。このあたりにも、時代が感じられます。
このカメラの特長や魅力はいろいろありますが、最も大きな特長は、オリンパスが誇る“ZUIKO”の名を冠した(コンパクトデジカメでは初)大口径4倍ズームレンズの搭載でしょう。その画角は35ミリ判換算で28-112mmで、開放F値はF1.8-2.5になります。そして、金属製で質感の高いボディは、薄型で携行性に優れています。
さらに、外部フラッシュを装着するホットシューの近くに「アクセサリーポート」を搭載。これによって、電子ビューファインダー(EVF)や外部ステレオマイクなどの専用アクセサリーが、ホットシューに装着して使用できるのです。こういったコンパクトデジカメでは珍しい拡張性の高さも、このカメラの魅力的なポイントです。
オリンパス XZ-1のココが魅力!!
●コンデジ初“ZUIKO”銘柄の大口径4倍ズームレンズ
●スタイリッシュで質感の高い金属製薄型ボディ
●EVFも装着できるアクセサリーポートを搭載
SPECS OLYMPUS XZ-1
形式:コンパクトデジタル 撮像センサー/有効画素数:1/1.63型CCDセンサー/約1000万画素 記録媒体:内蔵メモリー,SD,SDHC,SDXC ファインダー:専用電子ビューファインダーVF-2取付け可能 モニター:3.0型/約61万ドット ISO感度(拡張含む):100~6400 連続撮影速度:約15コマ/秒(約500万画素以下で) サイズ(幅×高×奥)/質量:110.6×64.8×42.3mm/275g(電池とカード含む) 発売年月:2011年2月 発売時の参考価格:6万円前後
〈おすすめ4〉ペンタックス Q
レンズ交換式で世界最小&最軽量
レンズ交換式のデジタル一眼レフやミラーレスカメラには、大型の撮像センサーが採用される。…そんな通説を覆す、1/2.3型の小型センサーを採用したのが、ペンタックス Qです。有効約1240万画の1/2.3型センサーは、小型でも効率良く光を取り込める裏面照射型CMOSセンサー。そして、新画像処理エンジンの画像処理プロセスによって、高精細で階調豊かな描写を可能にしています。
また、トイカメラのような極小サイズでも、ボディの作りが上質なのも魅力的なポイントです。上位のデジタル一眼レフやミラーレスカメラのようなマグネシウム合金ボディを採用し、軽量化と堅牢性の両立を実現しています。さらに、ボディ内蔵の手ぶれ補正機構”SR(Shake Reduction)”や、超音波振動によるゴミ除去システム”DRII(Dust Removal II)”など、この極小サイズからは考えられないような、高度な撮影機能も搭載しているのです。
そして、何よりも魅力的なのが、ボディと同様に小型軽量な交換レンズ群です。そのラインナップは、画質を追求した高性能レンズと、遊び心が感じられるユニークレンズに大別できます。対角魚眼から望遠ズームまで、そのレンズ総数は8本。
「PENTAX-01 STANDARD PRIME」は47mm相当(※35mm判換算での焦点距離。以下同様)で開放F1.9の標準単焦点レンズ。「PENTAX-02 STANDARD ZOOM」は27.5-83mm相当の標準ズームレンズ。「PENTAX-06 TELEPHOTO ZOOM」は83-249mm相当でズーム全域で開放F2.8の大口径望遠ズームレンズ(ここまで高性能レンズシリーズ)。「PENTAX-03 FISH EYE」は17.5mm相当で対角160度の画角が得られる対角魚眼レンズ。「PENTAX-04 TOY LENS WIDE」は35mm相当の広角単焦点レンズでトイカメラのような柔らかくて味のある描写が特徴(ここまでユニークレンズシリーズ)。
(※)1/2.3型センサーを採用するQや後発機Q10に装着した時の値。1/1.7型センサーを採用するQ7では換算焦点距離も変わる
以上、8本の中から5本を抜粋して紹介してみました。
「こんな小さいボディとレンズ群。しかも、撮像センサーも小さいし、画質的に大丈夫?」
正直、ペンタックス Qが登場した時には、そういう不安も覚えました。ですが、実際に使用してみると、予想通りのサイズ感や使用感とは対照的に、描写性能は予想以上に良好でした。もちろん、ボケ描写(ボケの大きさ)などに関しては、大型センサーを採用するカメラには敵いません。しかし、トイカメラ感覚で使用しながら、実は本格的な描写や表現が得られる。そんなQシリーズには、他のカメラでは得られない楽しさがあるのです。
ペンタックス Qのココが魅力!!
●トイカメラ並の小ささ&軽さ
●堅牢で高品位なマグネシウム合金ボディ
●個性的な小型軽量の交換レンズ群
SPECS PENTAX Q
形式:デジタル一眼カメラ 撮像センサー/有効画素数:1/2.3型CMOSセンサー/約1240万画素 記録媒体:SD,SDHC,SDXC モニター:3.0型/約46万ドット ISO感度(拡張含む):125~6400 連続撮影速度:最高約5コマ/秒 サイズ(幅×高×奥)/質量:約98×57.5×31mm/約200g(電池とカード含む) 発売年月:2011年8月 発売時の参考価格:7万円前後(PENTAX Qレンズキット)
まとめ
約10年前の製品だが、現在とは違う開発コンセプトや質感が楽しめる
デジタルカメラが普及し始めてから20年くらい経ちますが、今回紹介した4機種はその半分、約10年前に発売された製品です。このくらい前の製品になると、経年劣化も無視できませんし、仕様や機能に古さを感じるかもしれません。
しかし、デジタルカメラ黎明期から注目され続けてきた“撮像センサーの有効画素数”は、いずれも1000万画素に到達しています。現在であっても、このくらいの画素数があれば、十分実用に堪え得るでしょう(私見ですが)。
また、最近の製品とは違うコンセプトや上質な物作りに、新鮮さを覚えたり感心する事もあります。オリンパス XZ-1やペンタックス Qなどは、特にそう感じるカメラですね。
もちろん、これらのカメラを実用品として積極的に薦める訳ではありません。ですが、中古カメラ店などで“お買い価格”で発売されていたら、興味半分で購入しても良いかと思います。そうすれば、現在の製品とは違うカメラの楽しさ(手触りや使用感、写り具合、など)が味わえるでしょう。
撮影・文/吉森信哉