耳の下にある顎関節が痛くなったり、口が開かなくなったりする「顎関節症(がくかんせつしょう)」。顎関節症のほとんどは、あごを動かす筋肉の緊張やコリから起こるもので、そのメカニズムは腰痛など他の運動器の痛みと似ています。自然の経過や、セルフケアで改善することが多いこともわかっています。顎関節症の正体を正しく知ることが、不安を解消し、症状を改善することにつながります。【解説】島田淳(日本顎関節学会理事・歯科顎関節症専門医・指導医、歯学博士)

解説者のプロフィール

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島田淳(しまだ・あつし)

日本顎関節学会理事、歯科顎関節症専門医・指導医、歯学博士、医療法人社団グリーンデンタルクリニック理事長。東京歯科大学非常勤講師、神奈川歯科大学付属病院特任教授。日本補綴歯科学会専門医・指導医、日本口腔顔面痛学会評議員、口腔顔面痛専門医・指導医、日本歯科心身医学会評議員。『歯医者に聞きたい 顎関節症がわかる本』(一般社団法人口腔保険協会)などの著書がある。
▼日本顎関節学会(公式サイト)
▼グリーンデンタルクリニック(https://www.green-dc0418.com/)(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

取材・構成/狩生聖子

顎関節症ってどんな病気?

顎関節症は、「あご(顎関節)が痛む」「口が開かない」「あごを動かすと音がする」という3つの症状が特徴的な病気です。意外に知られていませんが、この病気は歯科が中心となって診療しています。気になる症状があれば、歯科に相談してください。

20~50代の女性に多い

「平成28 年歯科疾患実態調査」をもとに、顎関節になんらかの症状が見られる患者数を推定すると、約1900 万人にも上ります。20~50代の女性に多い症状であることもわかっています。女性に多い理由として、女性ホルモンであるエストロゲンの影響が考えられています。また、筋線維や関節のやわらかさには男女差があり、よりやわらかい女性の方が、顎関節症を引き起こしやすい可能性があるといわれています。さらに、健康意識の差から、女性の方が医療機関を受診する機会が多いことも影響していると推察されます。

顎関節症の原因は?

顎関節症の症状の主な原因は、あごの動きに関連する筋肉の使いすぎや緊張です。

あごを動かす筋肉には、主に下顎に付着する大きな筋肉(咬筋・こうきん)、頭の横の筋肉(側頭筋)、耳の後ろから鎖骨に伸びている筋肉(胸鎖乳突筋)があります。これらの筋肉が、使いすぎや緊張によって血流悪化に陥ると、コリや痛みを生じます。いわゆる筋肉痛の状態です。あごを動かしたときに痛むのは、筋肉痛と考えれば当然といえます。

画像: 筋肉のコリや緊張により痛みが起こる。 (イラストAC)

筋肉のコリや緊張により痛みが起こる。

(イラストAC)

顎関節症はストレスによって悪化しやすい

顎関節症は、こうした筋肉のコリや緊張にいくつかの危険因子が積み重なることで、より発症しやすくなると考えられています。

危険因子の一つに、顎関節の靭帯の損傷や関節のズレ、骨の変形などが挙げられます。ただし、関節のズレや骨の変形があっても、痛みが出るとは限りません。こうした点においても、顎関節症は腰痛と似ています。

また、もう一つ注目されている危険因子が、ストレスです。顎関節症の痛みは、ストレスによって悪化しやすいことがわかっています。

ストレスがかかると、交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、交感神経が過剰に働きます。この結果、血管が収縮し、血流が悪化して痛みが起こりやすくなります。加えて、ストレスにさらされると、無意識に歯を食いしばることが増えます。あごの筋肉や関節に負担がかかることによっても、痛みが起こりやすくなるのです。

口が開かない「開口障害」とは

顎関節症の症状の一つに、口が開かない「開口障害」があります。これは、顎関節を構成する「関節円板」という組織が関与しています。顎関節の上下の骨の間にある関節円板は、クッションの役割をしています。関節がなめらかに動くようにしたり、かみしめや咀嚼の衝撃を和らげたりしているのです。

画像: 関節円板は、下あごと上あごの間にある。 (イラストAC)

関節円板は、下あごと上あごの間にある。

(イラストAC)

口を開けると、関節円板は下あごの骨といっしょに前へに移動します。

画像: 関節円盤は、顎関節の動きに合わせて移動する。 (イラストAC)

関節円盤は、顎関節の動きに合わせて移動する。

(イラストAC)

関節円板が本来の位置からズレたり、スムーズに移動できなかったりすると、口を開けようとしたときに引っかかり、顎関節の動きを妨げます。これが開口障害です。

実を言うと、関節円板のズレは多くの人に起こっている現象で、ズレていても、あごの動きがスムーズであれば問題がないことがわかっています。また、口を開けるとき「カックン」という関節音がする人もいるでしょう。これは、ズレた関節円板が本来の位置に戻る音です。音だけで痛みがなければ問題はなく、治療の必要はありません。

ほとんどはセルフケアで改善

以上のような理由から、顎関節症では、あごや歯を削るなどして構造に影響を及ぼすような、外科的治療法はまず用いられません。この病気のほとんどは、あごの筋肉の血流や関節の動きをよくするセルフケアで、改善することがわかっています。さらにいえば、歯科を受診せずとも1週間くらいでよくなるケースも多いのです。

一方で、ストレスの影響が強い人や、痛みにとても敏感な人、または緊張型頭痛や自律神経失調症、過敏性腸症候群や線維筋痛症、精神疾患など、他の病気を併せ持っている患者さんは、一般の歯科では対応が難しい場合もあります。そうした方々は、顎関節症の専門医に相談することをお勧めします。



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