〈節約で生き残れる?〉値上げラッシュはこれからが本番 物価高はSDGsで乗り切れ!

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前回は、コロナ禍で使えずに貯め込まれたとされる「強制貯蓄」の実体について見てみました。日銀の黒田総裁は、強制貯蓄があるから現在の物価高も「許容」できるという発言をした後、撤回しましたが、決して「物価高」が収まったわけではありません。今回は、「物価高」の状況下でどう生き残るのかについて、お伝えしてきたいと思います。

「物価高」について

今年4月・5月と連続して、物価上昇率が2%を超えました。「物価上昇率2%」は、日銀が長年にわたり目標としてきた数値です。では、なぜ2%上昇を目標としたのでしょうか?

実は「物価上昇率2%」によって、企業は物価上昇分を販売価格になかなか転嫁できないという現実があります。一方で商品の値上がりは続き、消費者は「実質賃金」の上がらないなかで厳しい生活を強いられるという現実に直面しています。消費者は「節約」意識を強めて乗り切ろうとしますが、値上げはこれからが本番です。その限度を超えることも分かりました。

節約は長続きしません。ムリも禁物。こんなときこそサステナブルなSDGsで生活を見直してみましょう。目下、値上がりで生活を圧迫している「光熱費」と「食費」について、SDGsな視点を紹介します。

物価上昇率2%は、日銀の目標、しかし目標を達成しても、この現実は……なぜ?

現在の「物価高」の状況から見て行きましょう。図表(1)は、物価指数と前年比上昇率の推移です。

特に、前年比上昇率は今年1月の0.2%から、4月と5月と2ヶ月連続して前年比上昇率2%を超えました。しかも、2%を超えたのは、2014年4月に消費税率が5%から8%へ引き上げられたとき以来のことです。

その後の10%への消費税率の引き上げは、2度の延期を経て、2019年10月に「軽減税率」とともに行われましたが、2014年時のような物価上昇は見られませんでした。なので、今回の急な物価高には、誰もが不安に思っていることでしょう。しかし、「物価上昇率2%」は、日銀が2013年より「物価の安定」を図るために掲げてきた目標です。

物価の安定とは?

日銀によれば「お金を安心して使うことができる」こと、としています。では、なぜ、物価が前年比で2%上がると、物価が安定し、お金を安心して使うことができるようになるのでしょうか?

一般論としては、物価が安定すると、企業は安心して設備投資をし、人材を確保して賃金を上げ、人々も安心して消費できるので、生産性が向上し、経済成長していくという好循環が生まれると考えられています。日銀は、その物価安定の基準を「2%」としました。なぜ2%かと言えば、世界の多くの先進国が掲げる「グローバルスタンダード」だったからです。

もっとも、米国などは、すでに物価上昇によるインフレを抑制するために金融引き締め(大幅利上げ)策に転じましたが、日本は金融緩和(マイナス金利)策を続けています。物価上昇率2%では米国などを追従してきた日銀ですが、金融政策では追従しませんでした。これによりドルと円の金利差が開き、急激な円安が進みました。

現実は、2%の目標は達成しても、企業も人々(消費者)も安心してお金を使うことができる状況にはならなかったわけです。

企業の現実、仕入れコストの「価格転嫁率」44.3%

企業としては、原材料費とか燃料費などの高騰や円高による仕入れコストの上昇分を価格に転嫁したいところでしょう。しかし、図表(2)の企業へのアンケートによれば、今年6月時点で「多少なりとも転嫁できている」企業は73.3%ですが、このうち「すべて転嫁できている」のは6.4%に過ぎません。一方で、「まったく転嫁できていない」企業も15.3%に上りました。このアンケートを行った帝国データバンクが、図表(2)から導き出した企業の「価格転嫁率」は44.3%でした。

価格転嫁率とは

価格に転嫁したいと考えている企業が、コスト上昇分を実際の価格に転嫁できている割合を示します。それが44.3%というのは「仕入れコストが 100 円上昇した場合に44.3 円しか販売価格に反映できていない」ということになります。

業種によっても、価格転嫁率はかなり異なりますが、なかでも厳しいのが、原油高の影響を受けている「運輸・倉庫」で19.9%と非常に低い状況になっています。また、小麦価格や輸送費の影響を受けている「飲食料品・飼料製造」は33.6%で、平均を下回っています。

このように、いまだ企業がコスト高をちゃんと価格に転嫁できていない状況にも関わらず、私たち消費者は、すでに値上げラッシュにあえいでいます。

しかしながら、値上げラッシュの本番は、これからだと言われています。コストを価格転嫁できていなかった企業に加えて、すでに価格転嫁した企業でも、円安による再値上げ、再々値上げを行うとされているからです。

その事例のひとつとして、食料品の値上げについて見ておきましょう。毎日消費するものなので、気になるところです。

消費者の現実、食品値上げ止まらず!「実質賃金」は上がらず!

図表(3)は、帝国データバンクの「食品主要105社への価格改定動向調査」によって、今年に入ってから6月末日までに判明した値上げ品目数と内訳です。

値上げ累計1万5,725品目のうち、最も多くを占めたのが「加工食品」でした。6,700品目を超え、全体の約4割に上ります。調査した帝国データバンクによれば、値上げの主な要因は、練り製品や冷凍食品などの原材料となる水産物の不漁です。「調味料」も、水産物の不漁から「だし類」が値上がりしました。

次いで、値上げ品目数の多かったのが「酒類・飲料」です。麦芽やトウモロコシなどの原材料、PETボトルなどの包装容器の価格上昇が、主な値上げ要因とされます。

さらに、7月には1,588品目、8月以降10月までの3ヶ月間では7,218品目の値上げが予定されています。1ヶ月当たりの値上げ品目数でみますと、8月は7月より多い2,000品目を超え、さらに10月には3,000品目を超え、最終的には累計2万品目を超える食品が、年内に値上げされると見込まれます。

図表(4)で、「食料の物価指数」の推移も見ておきましょう。

図表(1)の「総合の物価指数」と同じく、変動の激しい生鮮食品を除きました。やはり、今年に入ってから急上昇し、5月時点の物価指数は、総合の「101.6」に対して、食料は「102.6」となっています。2013年からの推移をみると、図表中に引いた近似線(点線)の傾きが、総合よりも食料のほうが急です。2013年半ば以来、前年比がマイナスに振れたのは、コロナ禍の2020年の後半から2021年の前半に掛けてのみ。つまり、この約10年間、食料の物価指数は、ほぼ上昇し続けてきました。

これらを踏まえて、図表(4)の「実質賃金」の上昇率をみると、消費者の現実が、より鮮明になってきます。

実質賃金とは、労働者(常用雇用者)が実際に受け取った賃金から物価(持家の帰属家賃を除く総合)上昇率を差し引いた賃金のことです。実際に受け取った賃金は、今年に入ってから前年よりプラスで推移していましたが、物価上昇率を差し引くと、図表(4)のように4月と5月で、大幅なマイナスになりました。つまり、受け取った給与額が増えても、物価高によって、実質的な賃金としては減ってしまっているのです。

しかも、図表(4)の対象者は、5人以上の事務所で働く常用雇用者(パート労働者含む)に限られます。5人未満の事務所の雇用者、いわゆるフリーランスの個人事業主、年金受給生活者などは含まれません。なかには、常用雇用者より過酷な収入で生活している人も少なくないでしょう。

「節約」で耐えますか? いいえ、SDGsで行きましょう!

消費者の現実は、これから本番となる値上げによって、さらに厳しくなりそうです。こうしたときには、節約意識が高まります。しかし、節約には「我慢」がつきものです。すでに、コロナ禍でずいぶんと我慢してきたのに、さらに我慢しますか?

例えば、図表(5)-1は「食の志向」についての消費者調査のうち、経済志向(食品を購入する際には価格の安いものを選ぶ)の年代別推移を表したものです。

コロナ以前から、20~50代の世代と60・70代の世代とでは、食に対する経済志向に大きな隔たりがありました。その隔たりが、今年1月の調査で、さらに拡大しました。

20代の経済志向が高まり、30~50代との差が開きました。60・70代では、60代の経済志向が高まった一方で、70代は低下したため、その差が開きました。

70代には経済的なゆとりがあるように思われるかもしれませんが、実際には図表(5)-2のように、どの世代も「値上げを許容できない」と「10%値上げまでなら許容できる」と回答した人を合わせると、約8割にも上ります。

図表(5)-2には、水産加工品と牛乳・乳製品についての事例を挙げましたが、その他の食品でも、ほぼ同じような結果でした。特に目を引くのは、経済志向の高い20代の半数以上が「値上げを許容できない」と答えている点です。

20代以外の世代では「10%値上げまでなら許容できる」ほうが概ね多いとはいえ、それ以上の値上げを許容するのは少数です。ところが、先述した帝国バンクの価格改定調査によれば、値上げ率の平均は、加工食品と酒類・飲料が各々15%、調味料が11%、菓子が12%となっています。つまり、ほとんどの人々の値上げ許容度を超えます。もう節約でやりくりできる範囲を超えてしまっているのです。なかでも、値上げ幅が大きく、家計の負担になっている「光熱費」や「食費」をむやみに減らしては、命や健康を害する危険性もあります。

そこで、単なる節約でなく、SDGsの視点から見直してみましょう

例えば、光熱費の「節電」や「節ガス」は「省エネ」につながるSDGsに適った行動の一つです。しかし、よく「こまめに」スイッチを切ったり、温度などを調整したりするよう促されますが、よく「忘れる」ことがあります。いちいち意識するのは、ちょっとしたストレスですし、忘れたことに気づいたときに落ち込んだり、なかなか続けられないのが、節約です。

節約とは、現状の困難を乗り越えるための対策で、乗り越えれば元に戻すので、もともと続ける前提にありません。つい忘れてしまうのも、うなずけます。一方、SDGsは、続けていくことが前提なので、続けるにはどうすればいいかを考えます。

省エネ機器に取り換えたり、住宅を省エネにリフォームしたりすれば、いちいち意識しなくてすみますが、それだけの設備投資も掛かります。お金を掛けずにする方法は「習慣化」です。外出するときにカギを掛けるように、たとえば、電化製品を使った後に電源スイッチを切るといった「クセ」をつけるのです。習慣化してしまうと、ストレスは軽減されます。

次いで、食については、どんなに困難に陥ろうと、食のバランス(必要とされる栄養素やカロリーの摂取、食べる楽しみなど)をないがしろにすべきではありません。

庭があれば「家庭菜園」、ベランダがあれば「ベランダ菜園」、どちらがあってもなくても「キッチン菜園」をしてみるのはいかがでしょうか。コロナ禍にペットを飼う人が増えましたが、植物を育てるのも癒されます。

ほんのちょっとした息抜き、リラックスできる時間を持つことは、何がなくとも贅沢なことです。「貧乏ひまなし」だとしても、贅沢な時間をつくることは大切なことです。そして、育てた植物(命)をいただくことで、食を大事に思い、食品ロスやゴミを減らすことにもつながります。

しかし、ムリは禁物です。ムリは長続きしませんから、ムリするのはSDGsじゃありません。SDGsでは「貧困」や「飢餓」、「健康的な生活」への対策(ターゲット)も掲げています。先進国の日本は、他国へ援助をする側のように思われがちですが、国内でも収入格差(前編の図表(3)参照)によって問題は生じています。自分を過信せず、苦しいと感じたなら、助けを求めてください。

まとめ

日銀の黒田総裁の「値上げ許容」発言から調べ始めた「強制貯蓄」。持っている家庭とそうでない家庭の格差が浮き彫りになりなったばかりでなく、日銀が長年目標としてきた「物価上昇率2%」が達成されても、日銀がいう「安心してお金を使うことができる」ようにもなっていません。

エネルギーや原材料費の高騰に加えて、円安が進み、値上げもこれからが本番となった現在、これまでのような「節約」だけで乗り切れそうにはありません。こんなときこそSDGsの出番です。SDGsでは「だれひとりとして見捨てない(leave no one behind)」と宣言しています。

SDGsな視点で生活を見直し、生き残りましょう!

生活が厳しいときほど、時間的な贅沢が大切です。ほんのちょっとでもリラックスできる時間をつくり、決してムリせず、苦しときは助けを求めてください。あなたが生きているだけで嬉しいと思う人もいます。

執筆者のプロフィール

加藤直美(かとう・なおみ)
愛知県生まれ。消費生活コンサルタントとして、小売流通に関する話題を中心に執筆する傍ら、マーケット・リサーチに基づく消費者行動(心理)分析を通じて、商品の開発や販売へのマーケティングサポートを行っている。主な著書に『コンビニ食と脳科学~「おいしい」と感じる秘密』(祥伝社新書2009年刊)、『コンビニと日本人』(祥伝社2012年刊、2019年韓国語版)、『なぜ、それを買ってしまうのか』(祥伝社新書2014年刊)、編集協力に『デジタルマーケティング~成功に導く10の定石』(徳間書店2017年刊)などがある。

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加藤直美(消費生活コンサルタント)

愛知県生まれ。消費生活コンサルタントとして、小売流通に関する話題を中心に執筆する傍ら、マーケット・リサーチに基づく消費者行動(心理)分析を通じて、商品の開発や販売へのマーケティングサポートを行っている。主な著書に『コンビニ食と脳科学~「おいしい」と感じる秘密』(祥伝社新書2009年刊)、『コンビニと日本人』(祥伝社2012年刊、2019年韓国語版)、『なぜ、それを買ってしまうのか』(祥伝社新書2014年刊)、編集協力に『デジタルマーケティング~成功に導く10の定石』(徳間書店2017年刊)などがある。

加藤直美(消費生活コンサルタント)をフォローする
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