身のまわりのものは、ほとんどがごくシンプルな形の組み合わせに置きかえられます。立体物を描くには、パースという遠近感を表現する技法を理解することが大切です。基本的な立方体の描き方と、「透視図法」の使い分けについて、著者の松原美那子さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
松原美那子(まつばら・みなこ)
デッサンのオンラインスクール「ピリカアートスクール」代表。武蔵野美術大学にて、中学高等学校の美術教員免許を取得。大学卒業後、東京都府中市にてアートスペースをオープンし、若手アーティストの個展や街中アートウォーク、版画国際交流展などの企画運営に携わる。2008年より、オンラインにてデッサンスクールを開校し、日本全国、海外を含め、述べ10,000人以上の受講生にデッサンを指導。受講生は、美大受験生、漫画家、アニメーター、デザイナー、インテリアコーディネーターなど多岐にわたる。現在、沖縄を拠点に、高校や大学などでも、デッサンの講義を行っている。「林先生の初耳学(TBS)」「中居正広のミになる図書館(TBS)」などテレビ出演多数。
本稿は『はじめてのデッサン教室 60秒右脳ドローイングで絵が感動的にうまくなる!』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/こつじゆい、佐悠
立体物を描くときも基本は○△□と中心線!
まずは○(円)△(三角形)□(四角形)で全体の形をとらえる
立体物を描くには、パースという遠近感を表現する技法を理解することが大切です。
ただ、最初からパースを気にしすぎると、かえって全体の形をとらえにくくなったり、バランスが狂ったりしがち。
描いてみたものの「なんか不自然」ということにならないように、立体的な表現を目指す場合も、まずは○(円)、△(三角形)、□(四角形)でアタリをとる習慣をつけましょう。
その後、奥行きや面の見え方を意識しながら線をプラスすると、立体物も上手に描けるようになります。
▼○(円)△(三角形)□(四角形)でアタリをとった例
(1)つぶした空き缶のアタリを、大まかに○△□でとっていく。
(2)飲み口とタブ、缶のへこみをよく見て線を描き込む。
(3)色の濃いところと薄いところをよく見て陰影を描き、立体感を出す。
中心線も意識する
立体的な表現を目指す場合も、中心線を意識することは大切です。
中心線を意識せずに描きはじめると、左右や上下、前後のバランスが崩れ、仕上がったときに違和感を覚える原因となります。
いちいちアタリや中心線を描くのは面倒に感じるかもしれませんが、絵をすばやく、的確に描くのに欠かせないプロセスです。
立体物や、形が複雑なモチーフを描くときこそ、アタリと中心線をまずは意識しましょう!
▼○(円)△(三角形)□(四角形)でアタリをとり、中心線を入れた例
(1)リンゴのアタリを大まかに○と□でとり、中心線を描く。
(2)切ったリンゴの形を大まかに描き、芯の位置を確認する。
(3)リンゴの切り口と芯をしっかり描き入れる。
(4)丸いリンゴのハイライトの位置や、切り口の種の部分を描く。
(5)ハイライトを残して、リンゴの皮を塗る。
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立方体の描き方上面を少しすぼめると、自然な奥行きが生まれる!
パースを理解すると奥行きを表現できる
下の図は、立方体をほぼ正面から描いています。影などをつけていなくても、立体的に見えますよね。
立体的に見えるのは、上面を奥に向かってすぼめて描いているからです。
「近くのものは大きく、遠くのものは小さく見える」という遠近感を表現するための技法を「遠近法」または「パース」といいます。
パースにはさまざまな技法がありますが、「奥行きを示す線はすぼまる」のが基本。
これを少し意識しながら描くだけで遠近感が生まれ、自然な立方体を描くことができます。
奥行きのタテ線に角度をつけないと、奥のヨコ線の長さが短くならず、不自然に。
▼じっさいに立方体を描いてみましょう。
(1)まず正面の正方形を描く。
(2)奥行きのタテ線をすぼめて描く。すぼめる角度は左右同じに。
(3)奥行きのヨコ線を、1で描いた正方形の上辺と平行になるように描く。
▼パースの基本を理解しましょう。
パースの代表的な技法「1点透視図法」
「パース」をくわしく解説します。
まず、人の目で見た「3次元」の世界を、平面の「2次元」に再現するためのテクニックがパースです。
代表的なのが「透視図法」で、モチーフの奥行きを示す線は奥に行くほど近づき(すぼまり)、やがて交差します。
この交差する点を「消失点」といい、消失点が1点のものが「1点透視図法」です。
立方体のように、モチーフを正面から見て描くときに使います。
多少角度がついたとしても、ある程度正面から見れている場合は有効です。
本稿は『はじめてのデッサン教室 60秒右脳ドローイングで絵が感動的にうまくなる!』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
立方体の練習 60秒ドローイング積み木を描いてみよう
1点透視図法を忠実にまもる必要はありません。
まずは、なんとなく奥がすぼまる意識をもって描いてみましょう。
▼積み木を60秒で描くポイントを見てみましょう。
(1)まずは前面の正方形を描き、奥行きを描いて立方体をつくります。
(2)辺をそれぞれ3等分しておき、それを結ぶ。
(3)上面はパースがついているので、中心線を見つけてから線を描くとよい。
この積み木は小さな立方体の集合体のため、まず全形として大きな立方体を描き、それに沿ってひとつひとつのブロックのディテールを描き加えると素早く描けます。
奥行きの線が短く、上面がすぼまるように台形になっていればOK。
POINT
濃い色の部分を塗りつぶすとき、まずタテにザっと塗り、ヨコに塗るときに隅まで塗ると、スピードアップできます。
色が同じブロックでも、光の当たり方によって濃淡があります。
ひとつひとつていねいにバリュー(色のグラデーション(階調))の差をつけることで、よりリアルな描写になります。
手前の面は濃く、上面は明るくを意識。
▼ステップアップ 立方体は直方体にも応用できる
世の中には立方体をはじめとするさまざまな四角い立体物がありますが、基本は立方体の応用です。
辺の長さを調節するだけで、多様な立体物に応用することができるため、まずは立方体を描けるようになることはとても大切です。
直方体になったとしても、1点透視図法の考え方は同じです。
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立方体の描き方斜めから描くときは、側面をすぼめる
側面をすぼめて、手前の辺は垂直に描く
立方体をほぼ正面から描く場合は、奥行きを示す上面をすぼめることで立体感が生まれます。
一方、斜めから描く場合は、側面をすぼめるのがポイント。
側面の上下の辺を奥に向かってややすぼめて描くだけで、立体感を表現できます。
また、一番手前にくる辺を、紙に対して垂直に描くのも重要です。
手前の辺が傾いていると、モチーフ全体が傾いて見えてしまうので注意しましょう。
側面の上下の辺をすぼめて描かないと、ゆがんで見えてしまう。
▼じっさいに立体物を斜めから描いてみましょう。
(1)手前の辺をまっすぐに垂直に描く。
(2)正面と側面の上下の辺を描き、平行な線で結ぶ。
(3)上面の辺を描く。
▼パースの基本を理解しましょう。
斜めから描くなら「2点透視図法」
モチーフを斜めから描くときは、「2点透視図法」を用いるのが一般的です。
2点透視図法では、奥行きを示す線は、左右に存在する2つの消失点に収束します。
一方、一番手前にくる辺のように高さを示す辺は収束せず、平行線となります。
奥行きを示す上下の辺を伸ばすと、2つの消失点に収束します。
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立方体の練習 60秒ドローイングキャラメルを描いてみよう
斜めから立方体を描くときと同じように、側面をすぼめて奥行きを出すことを意識してキャラメルを描いてみましょう。
▼キャラメルを60秒で描くポイントを見てみましょう。
(1)テーブルとの接地部分をよく観察しながら、下の2つの直方体を描く。
(2)それぞれの辺の傾きに注意しながら、上の直方体も描く。
(3)奥行きを表す面を描き、水平、垂直に合わせて陰影を描く。
キャラメルは立方体ほど高さがなくて、少し平べったい形です。
この形さえ描ければ、溝を描くだけでキャラメルらしくなります。
重なり合って濃く見える部分に陰影をつけると、立体感が強調されます。
さらに陰影を加えます。キャラメルの表面の溝や、切り口の細かな凹凸、角の丸みや光沢も描写してみましょう。
よりキャラメルらしさが伝わります。
▼ステップアップ 高さを強調する「3点透視図法」
2点透視図法は、左右に2つの消失点がありますが、さらに、上下どちらかの方向に消失点を1つ加えると3点透視図法になります。
1点透視図法、2点透視図法では、奥行きを示す線だけが消失点に収束しますが、3点透視図法の場合、高さを示すタテの線も消失点に収束します。
本稿は『はじめてのデッサン教室 60秒右脳ドローイングで絵が感動的にうまくなる!』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
パースはどうやって使い分ければいい?
透視図法はモチーフによって使い分ける
パースの代表的な技法である「透視図法」は、消失点の数によって「1点透視図法」「2点透視図法」「3点透視図法」の3種類があります。その使い分けについて紹介します。
▼1点透視図法
▼2点透視図法
▼3点透視図法
1点透視図法
モチーフを正面から描くときに用います。たとえば、地平線までまっすぐ続く道路や線路、並木道、道路沿いに林立する家並みなどを正面から描きたいときは、1点透視図法を使うといいでしょう。
2点透視図法
正面からではなく角度をつけて描くときに、消失点が左右に2つある2点透視図法を使います。
3点透視図法
高さのあるモチーフを、下から見上げるような、または上空から見下ろすような構図で描きたいときは、3点透視図法の出番です。
高さを示すタテ線を上または下に向かってすぼめるほど高さが強調され、迫力が出ます。
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なお、本稿は書籍『はじめてのデッサン教室 60秒右脳ドローイングで絵が感動的にうまくなる!』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。絵を描くことに、芸術的な才能が必要だと考えていませんか? それは思い込みです。デッサンのように「見たままに描く」という技術は、文字を書けるようになるのと同じで、だれにでも身につけられる技術です。絵をうまく描けるようになる、とっておきの練習法。それが「右脳ドローイング」です。左脳の論理的な思考が入ると、処理が追いつかず混乱してしまい、結果として絵が描けなくなってしまいます。そこで、右脳ドローイングでは60秒という短い制限時間で絵を描くことによって、左脳のはたらきをおさえます。右脳は短い時間でもはたらくので、形をとらえる練習を効率よくおこなえます。本書は、60秒で絵心を引き出す新しいデッサンの教科書です。やさしく丁寧にそのメソッドを解説しています。