解説者のプロフィール

和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、35年近くにわたって高齢者医療の現場に携わっている。主な著書に『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『六十代と七十代 心と体の整え方』(バジリコ)、『老いの品格』(PHP新書)などがある。2022年9月7日「徹子の部屋」に出演。
本稿は『シャキッと75歳 ヨボヨボ75歳(80歳の壁を超える「足し算」健康術)』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
高齢者の活力を低下させる「引き算医療」
年をとるのは不安ですか?楽しみですか?
私が高齢者専門の精神科医として、患者さんの診療をスタートしたのは三十数年前のことです。
それほど昔のことではないと思うのですが、当時と今とでは高齢者の様子がまったく違います。
当時の60代、70代は外見や歩く姿もすっかり老け込んで、「おじいちゃん然」「おばあちゃん然」とした人が圧倒的多数でした。
還暦の祝いで、赤いチャンチャンコを着てもまったく違和感がなく完璧に似合っていました。
それがどうでしょう。
現在、私が診療や介護、講演会などでお目にかかる60代、70代で、いかにも老人、老人した人は滅多に見かけません。
三十数年前の同世代にくらべ、格段に若々しく元気です。60歳の人に赤いチャンチャンコを贈ろうものなら、「もっとオシャレなものが欲しいんですけど……」と言われることでしょう。
何歳まで生きるかという平均寿命も、着実に延びています。
1970年の平均寿命は、男性が69.31歳、女性が74.66歳。定年後に残された人生は、平均すると10年ちょっとでした。
いまや男性が81歳、女性が87歳を超えています(2019年)。
半数以上の人が90代まで生きる時代が、すぐそばまで来ています。
老後が10年も20年も長くなっているのです。
ここまで読まれて、「年をとるのは不安ですか?」、それとも「楽しみですか?」とたずねたら、おそらく半分以上の方は、寝たきりや認知症になってヨボヨボした自分を想像し、「不安」と答えるのではないでしょうか。
たしかに老化による脳や体の衰えを避けることはできません。
80歳以降、認知症やがんの有病率、要介護認定比率が急上昇し本格的に老化が進行します。
しかし、悲観的になる必要はありません。
「足し算」健康術をすることで、衰えをゆるやかにし80代の生活を変えることは可能です。
70代について、老年医学の権威として知られる米国の故・ベルニース・ニューガートン教授の興味深い学説があります。
ニューガートン教授は、介護や特別な医療が必要な高齢者と、必要のない元気な高齢者がいることに注目しました。
ニューガートン教授は、体力・知力がさほど落ちておらず、元気な高齢者が多い75歳までの層を「ヤング・オールド」、75歳を過ぎ、要介護になる人数が上昇傾向を見せる世代を「オールド・オールド」と呼びました。
ニューガートン教授の見解は実に納得のいくものです。
日本では75歳からは後期高齢者と呼ばれ、やはりこの年齢を境に脳卒中や心筋梗塞、がんなどさまざまな病気にかかるリスクが大きく増し、認知機能や運動機能の低下がみられるようになります。
けれども75歳までは、老いの兆しはあるものの、知力も体力も余裕があります。
元気なうちから体をよく動かし、栄養をしっかりとって、頭を使うように意識することが老化の速度をゆるめることにつながります。
70代は老いと闘える最後の世代です。「もう年だから」とあきらめることはありません。
元気に老後を送るには、70代以降は医療とのかかわり方も見直す必要があります。
たとえば、血圧が高いからと薬で血圧を下げると血液の循環が悪くなり、頭がぼんやりしてボケたようになったり、足元がおぼつかなくなったりするなど、かえって健康を損ねてしまいます。
このように数値が高いからと無理に薬で下げ、高齢者の活力を低下させる医療を、私は「引き算医療」と呼んでいます。
シャキッと元気に暮らしてこそ、よい晩年といえます。
引き算医療でヨボヨボになって過ごすなんて嫌だと思いませんか。
70歳以降は引き算ではなく「足し算」で心と体を調えていきましょう。
栄養や運動、性ホルモン、サプリメントなど、体に必要なものを足し算する「足し算」健康術をご紹介します。
いろいろなものを足し算すれば、75歳という節目を楽々乗りきり、シャキッと元気に80歳を迎えることができます。
