「SDGsで変わる消費生活」〈その1〉で家庭から出るプラスチックごみの行方を追いかけ、〈その2〉で海洋プラスチック汚染の現状や原因を調べました。すると、プラスチックを使い続ける現在の私たちの生活にこそ、「プラスチック問題」の本質があることに気づきます。〈その3〉では、その解決策を探ってみましょう。
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日本のプラスチック戦略
「3R+Renewable」
日本のプラスチック戦略では、解決のための基本原則に「3R+Renewable」を掲げていますので、これを手掛かりにします。
「3R」は、すでにお馴染のReduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)ですが、問題の顕在化とともに中身も変わってきているようです。
また、新たに加えたRenewable(リニューアブル)によって、従来のプラスチックに代わる新しいプラスチックの導入を推進しています。もっとも、新しいプラスチックには、いろんな分類があるし、よく似た言葉が使われているしで、まぁ、ややこしい!
プラスチック問題を整理してみると……、日本の解決への道のりも見える?
まずは、プラスチックの何がどう問題なのか、〈その1〉や〈その2〉を振り返りつつ整理してみましょう。
家庭から出たプラごみは、他のプラごみと合わせて86%も有効利用されています。しかし、62%まではサーマルリサイクル(熱回収)として焼却され、21%のマテリアルリサイクルも、うち約4割はプラごみのまま輸出れていました(2020年時、〈その1〉の図表(4)および図表(5)参照)。
私たちが、家庭でプラごみをちゃんと分別し、外出先でポイ捨てなどしなくても、予期せぬ紛失や災害時などにプラごみとなって環境中に流出しています。流出したプラごみは環境中で分解されることなく残り続け、やがて海へと流れ着き、生き物たちを苦しめ、海洋汚染の原因となります。
特に厄介なのがマイクロプラスチックと呼ばれる5mm以下のプラスチック片です。太陽光によって劣化し細かく砕かれたものだけでなく、私たちの生活からも合成繊維のクズ、タイヤの摩耗粉などとしてマイクロプラスチックは発生しています。さらに、私たちが普段に使っている洗顔料や洗剤などにも、マイクロプラスチックを発生させるものがあります。生活の場から発生したマイクロプラスチックも、風雨によって海洋へと流出します(〈その2〉の図表(5)参照)。
マイクロプラスチックは海洋では海流に乗って拡散し、ほとんど取り除くことさえできません。このまま放置すれば、2050年までには海洋プラごみ量が海の生き物の総重量を上回るという試算もあります。
こうした問題は、海洋プラスチック汚染に関する調査や研究が進んで、国際的に注目され顕在化しました。これまでプラごみを輸出していた中国などの輸入規制もきっかけとして、プラスチック問題解決への機運が高まってきています。日本でも、レジ袋の有料化や「新プラ法」による使い捨て(ワンウェイ)タイプ12品目の使用合理化が義務付けられました。(〈その2〉の図表(4)参照)。
次に、日本のプラスチック問題解決のための基本原則「3R+Renewable」に沿って、解決への道のりを探ってみましょう。
Reduce(リデュース)は「3R」の中で最も重要
「3R+Renewable」の最初に検討するのはReduce(リデュース)です。一般に、ごみを「減らす」という意味で用いられます。出るごみが減れば、ごみ処理にかかるコストも減らすことができるので、「3R」で最も重要だとも言われています。
単に「使用削減」するだけじゃない!?
とはいえ、単に使用を減らせばいいというものでもありません。たとえば、図表(1)のように「ボトルウォーターの容器比較」をしてみると、それぞれにプラス面とマイナス面があります。私も普段はペットボトルの飲料を買わずにマイボトルを持ち歩くようにしていますが、災害時のためにペットボトルの水を常備しています。
さらに、世界には衛生的な飲み水を簡単に得られない地域もあります。そうした地域へ届けようとすれば、図表(1)から、プラスチック製のボトルウォーターを選ぶでしょう。
つまり、プラスチックでなくても構わないか、プラスチックのほうがいいのか、その都度判断する必要があります。
なぜ、その都度判断するかと言えば、プラスチックより安価で、持ち運びやすく、ごみにもならない代替素材があったなら、代替素材を選ぶでしょう?
たとえば、英国発の「Ooho(オーホー)」は、食べられる天然素材で膜をつくって水をコーティングしたものだそうです。持ち運びやすく、中身を飲み終わった後は食べてもいいし、生分解性なので土へ還すこともできると言います。まだ、私は実物を見たことはありませんが、ボトルウォーターを代替するものとして期待できそうです。
プラスチックは、もともと従来の素材を代替することで現在のような市場を作ってきました。新たな素材に取って代わられたとしても不思議はありません。
Reuse(リユース)って何?
Reuse(リユース)とは「再使用」することですが、できるだけ「繰り返し使う」ことが求められます。使っている間は、新しい製品に買い替えることもなく、ごみとして捨てることもないからです。
すべての製品は、原料を調達して製造・輸送・販売、そして使った後に廃棄処分されるまで、環境に負荷をかけます。こうした原料から製造、廃棄にいたる製品のライフサイクルを通じで環境負荷を評価する手法(視点)を「ライフサイクルアセスメント(LCA)」と言います。
たとえば、レジ袋。多くの人がレジ袋をもらわずマイバックを持ち歩いていますが、レジ袋のLCAをCO2 排出量に換算すると、環境省『3R原単位の算出方法』によれば、Lサイズ1枚(6.8g)当たり33g-CO2です。
つまり、レジ袋を辞退すると、33g-CO2分の環境負荷を減らすことにつながります。しかし、代わりに使うマイバックだって、環境に負荷をかけていますよね。
どのくらい繰り返し使えばいいの?
国連環境計画(UNEP)の報告書『Single-useplastic bags and their alternatives』によれば、レジ袋(ポリエチレン製)より環境に及ぼす影響を小さくするには、綿製バッグなら50~150回、厚手のプラスチック(ポリプロピレン製)バックなら5~10回は使う必要があります。
厚手のプラスチック製のほうが、薄手のレジ袋よりもLCAによる環境負荷が大きくなるのは当然でしょう。一方で、綿製の環境負荷の大きさには驚きます。厚手のプラスチック製の10倍から15倍にもなるようです。
UNEPは、レジ袋を禁止したり、特定の材質のものを推奨するより、「再使用率」を上げることが重要だと言います。そのうえで、環境負荷を最小にする方法は、すでに自宅にある袋を使い続けることですって!
Recycle(リサイクル)
日本国内で盛り上がる?リサイクル機運
Recycle(リサイクル)は、一般的に「再生利用」と訳されますが、日本のプラスチック戦略においては「再商品化」と言い、容器包装リサイクル法でも義務付けられています。
家庭ごみで最もかさ張る容器包装プラスチック(〈その1〉の図表(1)-1参照)。
私たちが分別して出したプラごみは、市町村などの自治体を経由して、日本容器包装リサイクル協会へ引き渡されると、再商品化により「再商品化製品」を作り、それを利用した「再商品化製品利用製品」にして販売されています。……う~ん、ややこしい!
PETボトルの場合を図表(2)のように図解してみました。フレーク状にしたり、粒状のペレットにしたものが「再商品化製品」です。次いで(⇨)、これを原料に製品化したシートやボトル、繊維などが「再商品化製品利用製品」です。2つの円グラフの中心の「販売量」も一致しています。
独自にプラごみを回収してリサイクルする企業が増えている
ただし、協会に引き渡される容器包装プラごみは、ほんの一部に過ぎません。最近は、独自にプラごみを回収してリサイクルする企業も増えています。
たとえば、セブン&アイ・グループの店頭でのPETボトル回収は、TVCM等で盛んに宣伝されているので、よく知られています。リサイクルするには使用済みPETボトルを集める必要があるので、消費者に協力を求めるために宣伝したり、ポイントを付けたりしているのでしょう。こうして年間に約4億本を回収し、グループのオリジナル商品やその包材に活用しているそうです。
さらに、先述のリサイクル協会もセブン&アイもマテリアル(材料)リサイクルが主流のようですが、ケミカル(化学的)リサイクルを行っている企業もあります。一般にマテリアルに比べケミカルのほうが、リサイクル後の材質劣化がないと言われます。
たとえば、日本環境設計の子会社ペットリファインテクノロジーでは、石油由来のバージン材と同等の品質に再生しています。しかも、何度リサイクルしても品質が劣化しないので、繰り返し「ボトルtoボトル」の水平リサイクルができるということです。
以前に日本のPETボトルリサイクル技術は世界的にも優れていると聞いたことがありました。しかし、せっかく優れた技術を開発しても、使用済みPETボトルを十分に集められなかったそうです。なぜなら、国内のリサイクル業者より中国のほうが高く買い取ってくれたからです。
現在は、中国などの輸入規制によって、日本の輸出量も減りつつあります。今後は、日本の優れた技術がさらに磨かれ、リサイクル精度が上がっていけば、いいね!
Renewable(リニューアブル)で「バイオマスプラスチック」の導入推進
Renewable(リニューアブル)は、日本のプラスチック戦略に新しく加えられた「R」です。「再生資源の利用」として、日本では「バイオマスプラスチック」の導入推進をマイルスストーン(中間目標)にも掲げています。
バイオマスとは、従来のプラスチックの「石油由来」に対し、「生物由来」を意味します。
従来のプラスチックの問題については、冒頭に整理しました。最も厄介なのは、プラスチックが環境中では分解することなく残り続けることです。最終的に海へと流れて海洋汚染の原因となるばかりか、マイクロプラスチックになってしまうと取り除くことさえできなくなります。
これに対して、生物由来ならば環境中で分解してくれそうに思われますが、"そうは問屋が卸さない"ようです。
生物由来だからといって、分解するとは限らないからです。
図表(3)のように、生物由来⇔石油由来と生分解性⇔非生分解性の4象限で、プラスチックを分類することができます。
従来のプラスチック(左下の象限)は石油由来で非生分解性ですが、石油由来でも生分解性プラスチック(右下の象限)もあれば、生物由来でも非生分解性プラスチック(左上の象限)もあります。生物由来の生分解性プラスチックは、右上の象限だけです。
そして、生分解性か否かを問わず生物由来のものを「バイオマスプラスチック」、生物由来か否かを問わず生分解するものは「生分解性プラスチック」と言います。
では、生分解するなら石油由来のプラスチックでもいいかというと、化石燃料である石油を使う以上、CO2を増やします。やはり、生物由来の生分解性でなければ、CO2も海洋汚染も減らせません。
新たな分類「バイオプラスチック」って?
ところが、生物由来の生分解性プラスチックも、どのような環境中で分解するか、分解までにどのくらい時間がかかるか等々、それぞれ異なります。つまり、生物由来の生分解性なら、何でもいいわけでもありません。
たとえば、バイオマスプラスチックの「ポリ乳酸(PLA)」。図表(3)では生分解性と非生分解性の中間にマッピングしました。分解するとはいえ、60℃以上の温度が必要で、自然に60℃以上になる環境はほとんどないでしょう。分解しなければ、従来のプラスチックと同じように海洋汚染の原因になります。
このため、ポリ乳酸を日本バイオプラスチック協会は非生分解性に分類しています。しかし、欧州のバイオプラスチック協会では生分解性に分類しています。
こうした違いを分かるようにグラフ化したのが、図表(4)の「バイオプラスチック市場と内訳~世界と日本の比較」です。
「バイオプラスチック」とは
似たような言葉ですが、日本がマイルストーンとして導入を推進する「バイオマスプラスチック」とイコールではありません。なんて、ややこしい!
「バイオプラスチック」は、「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の総称です。図表(3)のプラスチック分類で言えば、従来のプラスチックを除く、他の3分類すべてを含む言葉(用語)です。
これらの似て非なるプラスチックを一括りにしてしまうのは納得できない気分ですが、その内訳を図表(4)で確認してみましょう。
世界と日本の大きな違い
すると、気になるのが世界と日本の大きな違いです。世界ではバイオプラスチックの4割以上が生分解性です。欧州バイオプラスチック協会の分類に従ってポリ乳酸を加えれば、生分解性が過半を占めます。一方、日本では生分解性は1割にも満たず、ほとんどが非生分解性です。
できれば生分解性のほうが望ましいように思われますが、やはり、ここでも"そうは問屋が卸さない"ようなのです……、一体どういうことでしょう?
次回の記事へ続く……
まとめ
今回は、日本のプラスチック戦略の基本原則「3R+Renewable」に沿って、解決への道のりを考えてみました。
Reduce(リデュース)とは、単に「使用削減」することでなく、他に代替できる素材と比べて必要かどうか、その都度判断しながら使用していくことです。
Reuse(リユース)では、「再使用」を「繰り返す」ことが求められます。それはプラスチックに限りません。たとえば、レジ袋の代わりに使うマイバックが綿製のものなら、レジ袋より環境負荷を減らすために50~150回は使う必要があります。
Recycle(リサイクル)といえば、日本ではサーマルリサイクル(熱回収)が主流で、本来の意味での「再商品化」の割合は余り高くありませんでした。しかし、中国などのプラごみ輸入規制もあって、国内でのリサイクル機運が高まりつつあります。マテリアル(材料)だけでなく、ケミカル(化学的)な水平リサイクルも進めば、いいね!
Renewable(リニューアブル)は、日本のプラスチック戦略に新たに加えられた「R」です。「再生資源の利用」として、日本では「生物由来」の「バイオマスプラスチック」の導入を推進しています。従来のプラスチックの「石油由来」とは異なり、環境にはいいように感じますが、石油由来を生物由来に替えても、プラスチック問題が解決するわけではありません。じゃ、どうする?
プラスチック問題の解決策につてい〈次回の記事〉でさらに考えます。
執筆者のプロフィール
加藤直美(かとう・なおみ)
愛知県生まれ。消費生活コンサルタントとして、小売流通に関する話題を中心に執筆する傍ら、マーケット・リサーチに基づく消費者行動(心理)分析を通じて、商品の開発や販売へのマーケティングサポートを行っている。主な著書に『コンビニ食と脳科学~「おいしい」と感じる秘密』(祥伝社新書2009年刊)、『コンビニと日本人』(祥伝社2012年刊、2019年韓国語版)、『なぜ、それを買ってしまうのか』(祥伝社新書2014年刊)、編集協力に『デジタルマーケティング~成功に導く10の定石』(徳間書店2017年刊)などがある