今回のプラスチック問題では「海洋プラスチック汚染」について取り上げます。その1では、家庭から出るプラごみの行方を追いかけてみたところ、86%も有効利用されていました。きちんと分別して出せば、海洋プラ汚染を引き起こすことはないように感じられます。ところが、海洋プラごみのなかには、日本が輸出したプラごみが含まれていたり、そもそも生活のなかで「マイクロプラスチック」という微細なプラごみを排出していたり、海洋プラ汚染の原因は、やはり私たちの生活の仕方にあったのです。
海岸への「漂着ごみ」の調査から
すでに海洋へ流出してしまったプラごみをすべて取り去ることはできません。今後、プラごみを増やさないようにするために、一昨年の「レジ袋有料化」に続き、今年4月には「プラスチック資源循環促進法(プラ新法)」が施行されました。しかし、これだけでは十分とはとても言えません。さらに、私たちの生活の仕方への見直しが求められます。どう見直すべきかを考えるためにも、プラごみがどのように発生し、海洋汚染にまで及んでいるのか、まずは、知るところから始めましょう。
そこで目を引くプラごみは……?
海岸の清掃活動(ごみ拾い)に参加したことがある方もいるでしょう。たくさんのごみを拾ったのに、次も参加してみると、またごみだらけ。拾っても、拾っても、なくなる気配がありません。
環境省では、2010年度から全国各地で「海洋ごみ」の実態把握調査をしています。海洋ごみが、どのように発生するのか、そのメカニズムを解明するためです。しかし、そのメカニズムは、未だによく分かっていないということです。
海洋ごみは、「漂着ごみ」「漂流ごみ」「海底ごみ」に分けて調べられています。図表(1)は、漂着ごみのうち、人工物についての内訳です。
海岸には、流木や海藻などの自然物も打ち上げられます。海岸によって、自然物と人工物の割合は異なりますが、図表(1)で人工物の内訳をみる限り、プラスチック類の割合が非常に高いことが分かります。図表(1)によるプラスチック類は、容積比率で83%、重量比率で64%、個数比率で78%にも及んでいます。いかにプラごみが多いかを知ることができます。
プラごみのなかでも「漁具」の割合が目を引く
プラごみのなかでも、割合の高さから目を引くのが「漁具」です。漁網やロープ、フロート(ブイ)などで、漁具の多くもプラスチック製なのです。
水産庁によれば、こうした漁具は産業廃棄物として処理するのが原則ですが、塩分や砂などが混じって分別しにくいため、放棄・投棄されやすいとして、リサイクルしやすい漁具やリサイクル技術の開発が進められています。また、予期せぬ流出も少なくないようです。東日本大震災のときには、漁港の浮桟橋が津波によって米国の西海岸に流れ着いたということもありました。
次いで目を引くのが、個数比率で34%を占める「PETボトル」です。海岸の清掃活動に参加したことのある人なら覚えがあるでしょうが、見つけやすく拾いやすいためです。
一方で、「ポリ袋・食品容器」の割合は思ったほど高くありません。というのも、海洋を漂う「漂流ごみ」となっていることのほうが多いからです。
漂流ごみは、海岸に打ち上げられたり、また波にさらわれたりしているうちに砕かれ、小さなプラスチック片となって、一部は漂流を続け、一部は漂着し、また一部は海底へと沈んでいきます。その途中で、海の生き物に食べられてしまうこともあります。
環境省の漂着ごみ調査では、2.5cm以上のごみを拾うことになっているそうですから、たとえ3cmほどのプラスチック片であったとして、それがポリ袋かどうか、もう見分けられないかもしれません。
問題は、こうしたプラごみが、海やその沿岸で捨てられたものばかりではないとうことです。
プラごみはどこから海へ?
ワースト1位の中国の決断!
図表(2)は、2015年に科学誌『サイエンス』に掲載されジャンベック博士らによる論文から、国別のプラごみ排出量のうち「陸から海へ流出したプラごみ」の推計値をグラフ化したものです。
推計値は2010年時のものですが、現在でも多くの出版物などで引用されています。多分、これほど大規模に海洋プラごみ問題を分析した研究がなかったからでしょう。そして、海洋プラごみ問題の本質は、陸にあると突きつけました。陸とは、私たちが生活している場のことですから、その生活の仕方に問題があると指摘したのです。
さらに、陸から海へプラごみの流出量の多いワースト10ヶ国には、中国を筆頭にアジアの国々が数多く並びました。図表(2)には、20位の米国と30位の日本の流出量も掲出しているので、一見すると、新興国や途上国の問題のように受け取られかねませんが、先進国も決して蚊帳の外ではありません。なぜなら、先進国の多くは、米国も日本も欧州の国々も、中国へプラごみを輸出していました。それは、自国でリサイクルするよりコストが安かったからです。
ところが、中国は2017年にプラごみの輸入規制を開始し、翌年には輸入禁止に踏み切りました。経済成長を遂げた中国の国内でもプラごみが大量に発生するようになったうえに、輸入プラごみまで処理しきれなくなったからです。
こうした規制に踏み切る以前から、野積みされたままのプラごみによる環境汚染が深刻化していたと言います。その大部分は、陸から海へと流出していたのです。
日本は、2017年まで100万トン以上を中国へ(香港を含め)輸出していました。中国が規制したことで、全体としての輸出量は減りましたが、ベトナムやマレーシアなど東南アジアの国への輸出は増えました(<その1>の図表(5)参照)。
図表(2)と合わせて考えてみれば、中国と同じように、東南アジアの国々でもプラごみによる環境汚染が起きていると想像できます。アジアの国々から海へと流出したプラごみのなかには、日本から輸出されプラごみもあるはずです。日本を含む先進国は、どこまで状況を把握していたでしょう。現在でも、日本では輸出したプラごみも含め、自国の有効利用(リサイクル)率として換算しています。
マイクロプラスチック
どこがどう"厄介者"なのか?
海洋プラごみ問題は、一国の政策だけで解決できるものではありません。自国のプラごみは自国で処理することにしても、すでに海へ流出したプラごみは、海流に乗って拡散してしまい、海岸清掃を繰り返すだけでは取り切れないからです。
プラスチック自体は、軽くて丈夫で無毒なのですが、太陽光にさらされると劣化して小さな破片になっていきます。また、用途によっては添加剤を加えますが、その添加剤が溶け出したり、一方で海水中の汚染物質を吸着したりします。
もともと石油からできているプラスチックは、油に似た汚れを吸着しやすいそうです。吸着した汚染物質は蓄積され、一方で溶けだした添加剤のなかには後に有害なことが分かったものもあります。
5mm以下となった破片を「マイクロプラスチック」と言います。大きなプラごみなら大きな生き物しか飲み込めませんが、小さくなるほど多くの生き物に食べられやすくなるのも問題です。
図表(3)のように、日本近海の東アジア海域は、北太平洋の16倍、世界平均の27倍ものマイクロプラスチックが浮遊していることが分かりました。先述の図表(2)で、陸から海へのプラごみ流出量の多いワースト10ヶ国にアジアの国々が多かったので、流出したプラごみが砕かれマイクロプラスチックになった量も多くて当然かもしれません。とはいえ、日本に住んでいる私たちにとっては、やはり衝撃的です。
さらに、衝撃的な報告が2016年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で行われました。
「このまま何の対策も講じなければ、2050年までに海洋プラごみの重量が海の生き物の総重量を超えるだろう」といった趣旨の警鐘を鳴らしたのです。この警鐘は世界を駆け巡りましたので、聞き知っている人も多いと思います。
図表(4)で、海洋プラごみに関する主な国内外の動きを時系列に追ってみましょう。
2015年の科学誌『サイエンス』への掲載論文や2016年のダボス会議での報告によって、海洋プラごみが国際的課題としてクローズアップされ、翌2017年の中国によるプラごみ輸入規制が追い打ちとなり、2018年に「EUプラスチック戦略」や「海洋プラスチック憲章」ができました。
日本は、海洋プラスチック憲章には署名しませんでしが、1年遅れの2019年に「プラスチック資源循環戦略」と「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を発表しました。
「2050年までに海洋プラごみによる追加的な汚染をゼロにすること(海洋プラごみゼロミッション)を目指す」と、世界中へ向けて公約したのです。
生活のいたるところでマイクロプラスチックは発生!
マイクロプラスチックは、陸から海へと流出したプラごみが破片となったものばかりではありません。海へと流出する前から、陸で生活する私たちの周りでも多くのマイクロプラスチックが発生しています。
図表(5)は、国連自然保護連合(IUCN)による2017年の推定ですが、主な発生源は「合成繊維」や「タイヤの摩耗粉」、「シティダスト」などです。
「合成繊維」とは、衣服などを洗濯したときに糸くず状のマイクロファイバーが排水とともに流れ出したり、着ている間に摩耗して空気中に飛散したりするマイクロプラスチックです。
「タイヤの摩耗粉」は、走行によってすり減り、風塵のようにまき散らされるマイクロプラスチック、「シティダスト」は、タイヤや「道路塗料(標識など)」以外、たとえば人工芝、建築用の資材や塗料、靴などの摩耗により空気中に漂うマイクロプラスチックです。
また、割合は少ないものの、「マイクロビーズ類」も流出しています。歯磨き粉とか洗顔料、洗濯洗剤や柔軟仕上げ剤、芳香剤などに配合されることもある「マイクロビーズ」や「マイクロカプセル」という「人工のマイクロプラスチック」です。
先述ように、プラスチックは汚れを吸着しやすいので、皮脂などを含む油汚れを落としたり、カプセル状にして香り成分を閉じ込めておき、使用するたび香るようにしたりといった利用がされています。
生活をしているだけで、マイクロプラスチックを大量に排出している
こうして発生したマイクロプラッスチックは、空気中へも飛散しますが、屋外なら雨水とともに、家の中なら下水道を通って、下水処理施設へ流れたり、そのまま川や海へ流れたりします。下水処理施設へ流れたものも、微細になれば処理し切れずに、やはり海へと流れ、海洋汚染の原因となります。
いくら家庭でプラごみを分別しても、そのプラごみが適正に処理されたとしても、私たちは生活しているだけで、マイクロプラスチックという微細なプラごみを大量に排出しているのです。
しかも、海洋へ流出したマイクロプラスチックは回収できないばかりか、どのようになっていくのかさえ、未だ追跡できないでいると言います。
さらに、海洋汚染ほどには報じられていませんが、大気中からもマイクロプラスチックは検出されています。
生活からプラスチックを締め出してしまわない限り、マイクロプラスチックの発生を止めることはできそうにありません。しかし、プラスチックをまったく使わないというのも非現実的です。では、どうするの?
日本の戦略を見てみましょう。
これ以上増やせない!プラごみ対策
日本の戦略は「3R+Renewable」
海に貯まってしまったマイクロプラスチックを取り除けないとすれば、これ以上増やさないようにするしかありません。
日本は、図表(4)のように2019年の「プラスチック資源循環戦略」によって「3R+Renewable」の基本原則を打ち出し、2020年に「レジ袋有料化」、2021年に「プラ新法」を成立(2022年に施行)させました。
マイルストーン(中間目標)も、以下のように設定しています。
(1):2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制(リデュース)
(2):2025年までにリユース・リサイクルが可能なデザインに
(3):2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクル
(4):2035年までに使用済みプラスチックを100%リユース・リサイクル等により有効利用
(5):2030年までに再生利用を倍増
(6):2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入
太字にしたリデュース、リユース、リサイクルは、お馴染の「3R」です。
ただし、リサイクルについては「リサイクル等」、「再生利用」といった異なる言い回しも使っています。どう違うのでしょう?
環境省に問い合わせたところ、単にリサイクルという場合はマテリアル・リサイクルとケミカル・リサイクルによる再生を指し、「リサイクル等」の「等」によってサーマル・リサイクル(熱回収)を含み、「再生利用」では国内で行うマテリアル・リサイクルに限定しているという説明でした。
日本は、先述のように自国のプラごみを輸出しています。輸出分はマテリアル・リサイクルに加えているので、「再生利用」では、輸出分を引いているということです。
何とも紛らわしい言葉遣いですが、リサイクルの中身をきちんと区別していることは分かりました。
もう一つの「R」
そして、3Rには、もうひとつ「R」が加えられました。マイルストーン6番目の「バイオマスプラスチック」の導入です。既存のプラスチックに代わる新素材として注目されます。既存のプラスチックは破砕し微細になってもプラスチックとして残り続けるので、バイオマス(生物由来)なら自然に返りやすいように思われます。
果たして、新素材は現在のプラスチック問題への解決策となるのでしょうか?
<さらに次の記事>へ続く……
まとめ
海洋プラスチック汚染は、海や沿岸だけの問題でなく、陸での私たちの生活のし方に起因しています。これまでの調査や研究の結果を図表を通して概観してみると、その深刻さをより感じることができたでしょう。
特に、マイクロプラスチックという微細なプラごみは、海へ流出してから発生したものばかりでなく、陸での生活のなかでも大量に発生しているのです。しかも、どんどん微細になっていくマイクロプラスチックは取り除くことができません。
日本は、2019年に「2050年までに海洋プラごみゼロミッションを目指す」として、「プラスチック資源循環戦略」により2030年までのマイルストーン(中間目標)を発表しました。その基本原則が「3R+Renewable」です。新たに加わった「R」とは何か?
さらに、私たちの生活を見直さなければならないような政策も打ち出されるのかも?しれません。
この続きは次回の記事で考えていきたいと思います。
執筆者のプロフィール
加藤直美(かとう・なおみ)
愛知県生まれ。消費生活コンサルタントとして、小売流通に関する話題を中心に執筆する傍ら、マーケット・リサーチに基づく消費者行動(心理)分析を通じて、商品の開発や販売へのマーケティングサポートを行っている。主な著書に『コンビニ食と脳科学~「おいしい」と感じる秘密』(祥伝社新書2009年刊)、『コンビニと日本人』(祥伝社2012年刊、2019年韓国語版)、『なぜ、それを買ってしまうのか』(祥伝社新書2014年刊)、編集協力に『デジタルマーケティング~成功に導く10の定石』(徳間書店2017年刊)などがある。