2012年に発売されて大きな話題となった「ザクとうふ」、若い女性から圧倒的な支持を得ている「ナチュラルとうふ」シリーズ、レンジアップするだけで豆腐鍋が楽しめる「ひとり鍋」シリーズなど、ヒット商品を次々と生み出している相模屋食料。業界最大手でありながら、豆腐の常識を覆す商品開発を続ける同社の鳥越淳司代表取締役社長に、その秘訣や思いを訊いた。
今までにない形、おいしさ、おもしろさでヒットを連発する豆腐界の先頭ランナー
マスカルポーネのようなナチュラルとうふ
相模屋食料
相模屋食料株式会社 代表取締役社長 鳥越淳司さん
ニッチな層をねらった豆腐商品はなかった
相模屋食料(以下、相模屋)という会社をご存じだろうか。
豆腐業界でヒット商品を連発し、2010年に業界初の売上高100億円を達成。2016年には売上高を212億円にまで伸ばした、業界のトップメーカーだ。
相模屋の名前を知らなくても、同社が2012年に発売した「ザクとうふ」という商品を記憶している人はいるのではないだろうか。
人気アニメ「機動戦士ガンダム」に登場するザクの頭部を模した容器に、枝豆風味の豆腐を充填したこの商品、ガンダム世代の男性を中心にSNSなどで大きな話題となり、シリーズ累計で460万丁を販売するヒット商品となった。
豆腐業界の常識を打ち破った「ザクとうふ」とは?
「ザクとうふは、おとうふの新たな可能性を示したいという思いから開発した商品です。発売時は、スーパーのおとうふ売り場で30〜40代の男性がザクとうふをまとめ買いするという珍しい現象も起きました。もともと、おとうふへの関心が薄かった方々にも魅力を伝えられたことは大きな収穫でした」
こう話すのは、ザクとうふの仕掛け人である相模屋の鳥越淳司代表取締役社長。
自身もガンダム世代で熱狂的なファンである鳥越社長が、容器や商品パッケージ、プロモーション手法などに並々ならぬこだわりを盛り込んだことがヒットにつながった。そして、そのことは鳥越社長にある確信をもたらした。
「実は豆腐業界では、ターゲットを絞った商品は売れないと、長年いわれ続けてきました。ところが、ザクとうふのようにニッチな層をねらった商品でもちゃんと売れることが証明されたのです。業界の常識に縛られていてはいけないと感じましたね」
その思いから、次に鳥越社長が選んだターゲットはF1層(20〜34歳の女性)だった。
「それまで私は、若い女性はおとうふをあまり食べていないと思っていましたし、業界の常識でもそうでした。でも、実はダイエットや体型維持を目的としてよく食べているという話を知人から聞いたのです。これが、F1層向け商品の着想のきっかけになりました。高タンパクでありながら低カロリーというおとうふの機能面を残しつつ、おいしい商品を作れば、絶対に売れるはずだと考えたのです」
「豆乳クリーム」が新しい味わいを生んだ
こうして生まれたのが、2014年8月に発売された「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」だ。
「マスカルポーネのようなナチュラルとうふの最大の特徴は、濃厚なクリーム感とコクのある味わい。マスカルポーネはティラミスなどに使われるクリームチーズですが、まさにそれと同じような味と食感を実現したのです。それでいて、乳製品をまったく使っていないので、ヘルシーなのもポイントです」
マスカルポーネのようなナチュラルとうふ(192円)
マスカルポーネのようなナチュラルとうふ 抹茶(192円)
この濃厚な味わいを生み出している決め手は、食品素材加工大手の不二製油が開発した「豆乳クリーム」という素材だ。この素材は、同社が特許を取得しているUSS(ウルトラ ・ソイ・セパレーション)製法によって作られている。
これは、生乳の分離方法に近い方法で大豆を分離する世界初の技術。この技術によって、大豆を豆乳クリームと低脂肪豆乳、おからに分けることが可能になったのだ。
「それまでは、濃厚なおとうふを作ろうと思ったら、豆乳の濃度を上げるしかありませんでした。でも、このやり方では限界があります。豆乳クリームはこれを解決できるだけでなく、大豆特有の青臭さも少なくなるというメリットも持っています」
筆者も実際に食べてみたが、飲食店で何も説明されずにデザートとして提供されたら、豆腐だとは気づかないだろうと感じた。また、おいしいだけでなく、オリーブオイルやハチミツをかけるという食べ方の提案や、スイーツ商品のようなおしゃれなパッケージも新鮮だ。
マスカルポーネのようなナチュラルとうふは、鳥越社長の思惑どおり、ターゲットの嗜好にみごとにマッチ。評判はSNSや口コミによって瞬く間に広がり、ヒット商品となった。
そして今では、「モッツァレラのようなナチュラルとうふ」や「とうふで、グラノーラ。」「のむとうふ」といったシリーズ商品も生まれている。
のむとうふ(178円)
もっともっと豆腐をおもしろくしたい
ザクとうふとナチュラルとうふシリーズのヒットだけでもスゴいと感じるのだが、相模屋にはほかにもヒット商品がある。
例えば、タピオカ澱粉を加えることでもっちりとした食感を実現した「焼いておいしい絹厚揚げ」。
当初は、大豆、水、にがり以外の材料を使用していることから「邪道だ」ともいわれたが、今では年間出荷額が30億円にも上る。売上高が数十億円あれば大手メーカーだといわれる豆腐業界にあって、これが大ヒット商品なのは間違いない。
焼いておいしい絹厚揚げ(138円)
モッツァレラのようなナチュラルとうふ(213円)
また、豆腐と調味タレ、具材がセットになった「ひとり鍋」シリーズは、レンジアップするだけで手軽に一人分の豆腐鍋が楽しめる商品。
こちらも2013年の発売以来、根強い支持を得ており、年間出荷額が18億円というヒット商品だ。
もちろん、相模屋では木綿や絹、厚揚げ、油揚げといった伝統的な製法の商品も作っている。だが、そこからはみ出して、新規ジャンルを開拓し続ける鳥越社長の原動力となっているのは、もっともっと豆腐をおもしろくしたいという思いだ。
「生乳が加工され、ヨーグルトやチーズ、バターなどの乳製品になる様子を表現するのに”ミルクの木”という表現が使われます。私は、おとうふも同じように、さまざまな加工がされてもいいんじゃないかと思っているんです。要は、おいしければいいわけです。今後も業界の常識にとらわれず、新しい商品を作り続けていきたいです」
ひとり鍋 豆乳たっぷりスンドゥブ(192円)
菊乃井 木綿(358円)
Memo
相模屋は現在、豆乳を発酵させてチーズのように加工した「BEYOND TOFU」を発売に向けて準備中とのこと。「おとうふの進化形」と社長が呼ぶ新商品を、期待して待ちたい。
※掲載した価格はすべて実売価格例(編集部調べ)。
インタビュー、執筆/加藤肇(フリーライター)