伝統の土鍋をそのまま使った電気炊飯器「かまどさん電気」はこうして生まれた! キーパーソンに突撃取材!

調理家電

伊賀焼の老舗窯元・長谷園(ながたにえん)が開発した炊飯土鍋「かまどさん」は、2000年の発売以来、累計80万台以上を販売したベストセラー。この土鍋をそのまま使用した異色の電気炊飯器が、2018年3月に発売されたシロカの「かまどさん電気」だ。ヒット商品を連発する新興家電メーカーと老舗窯元がタッグを組み、開発期間は約4年に及んだという話題の製品について、開発経緯や苦労などを担当者に訊いた。

伝統工芸品と電化技術の見事な融合。ノウハウゼロからの開発は苦労の連続 !

<キーパーソンはこの人>
シロカ株式会社
商品本部 商品開発部 開発グループ シニアリーダー
佐藤一威さん

かまどさんのよさをそのまま継承することが最大の課題でした

本物の土鍋をそのまま使う異色の電気炊飯器

日本人の炊飯に対するこだわりは強い。誰もが、意識するとしないにかかわらず、好みのご飯というものを持っているはずだ。そのため、メーカー各社もそれぞれに工夫を盛り込んだ電気炊飯器を開発し、家電市場にはさまざまな製品が出回っている。

そんな中、本物の土鍋をそのまま使用したという異色の電気炊飯器が登場し、話題を呼んでいる。それが、2018年3月に発売されたシロカの「かまどさん電気」(実売価格例/8万6184円)だ。

ご飯を炊くかまどの雰囲気を感じさせるシックなデザイン。物理的なボタンやレバーはなく、操作はタッチパネルで行う。複雑な機能はできるだけ排除した。

「かまどさん電気は、三重県の伊賀焼の老舗窯元である長谷園さんとの共同開発により生まれました。長谷園さんの炊飯土鍋『かまどさん』で炊いたご飯は本当においしい、このご飯を電気炊飯器でも炊けるようにできないだろうかという思いが、開発のきっかけでした。約4年という開発期間を要しましたが、努力のかいがあって、自信を持っておすすめできる製品が出来上がりました」

こう語るのは、かまどさん電気の開発を担当したシロカ商品開発部の佐藤一威さん。

全自動コーヒーメーカーや電気圧力鍋など、シンプルかつリーズナブルな製品を数多く開発している同社だが、電気炊飯器の開発は初めて。他の大手メーカーからも共同開発の誘いを受けていたという長谷園を口説き落としたものの、ノウハウゼロの状態からスタートした開発は苦労の連続だったそうだ。

開発チームが最優先したのは、土鍋のかまどさんのよさをそのまま製品に継承すること。そのうえで、電気炊飯器ならではの利点も盛り込まなければいけない。

まず、最初に課題となったのは、加熱方式をどうするかということだった。

「現在の電気炊飯器で主流のIH方式は、電磁力によって鍋の金属自体を発熱させる仕組みのため、土鍋には使えません。土鍋に金属板を貼り付けるなどの工夫もしてみたのですが、これをすると、伊賀焼の土鍋の特徴や遠赤外線効果などが損なわれてしまうのです」

結局、IH方式は断念し、オーブントースターなどで使われるシーズヒーターを使う方式に変更。だが、今度は熱量が足りないという問題にぶち当たる。これは、加熱部と土鍋の密着具合を工夫するなどして克服した。

土鍋を直火で熱するため、あえてIHではなく、シーズヒーターを熱源として採用した。

加熱方式が定まった後は、土鍋にどのように熱を入れ、その熱をどうやって逃すかという課題に取り組んだ。

「何しろ、電気炊飯器を作ること自体が初めてですから、炊飯の仕組みそのものを理論的に勉強する必要もありました。と同時に、私自身が自宅でもかまどさんで炊飯し、センサーを使って炊飯時の温度推移を研究。加熱と放熱の理想のタイミングを見つけ出す作業を続けました」

初期型はなんと焼物を使うなど、過熱部の開発にはさまざまな試行錯誤が繰り返された。

土鍋の底に水温を測るセンサーを組み込んだ

ここまでで、約2年半という時間が経過。ここからは、電気炊飯器ならではの利点を盛り込む作業に取りかかった。

電気炊飯器の利便性の一つは、ボタン一つでご飯が炊き上がることだ。火加減と加熱時間の調節は手動ではなく、自動で行う必要がある。その制御のためには、センサーが必須だ。

かまどさん電気で使われている土鍋は、基本的にはかまどさんのそれと同じ構造だが、鍋底に水温を測るセンサーが組み込まれている。これは、シロカ側の要望により長谷園が製作した特別仕様品なのだ。

「我々からはほかにも要望を出しましたが、いちばん大きかったのは、陶器のサイズのバラつきの問題でした。数ミリという違いは、焼き物では問題のないレベルでも、精密機器にとっては致命的です。このバラつきをギリギリまで抑えるようにお願いしたところ、長谷園さんは製造工程をイチから見直し、既存品とは別の製造ラインを設けることで対応してくれました」

ほかにもさまざまな苦労を乗り越えて、ようやく完成したかまどさん電気は、2018の3月9日に発売が開始された。現在のところは、比較的年齢が高めの夫婦がメインのユーザー層となっているそうだ。

「年齢的に、土鍋で炊いたご飯のおいしさを子どものころに体験しているのが大きいようです。それ以外にも、高齢のためガスの火を使うのが怖いという方や、オール電化のマンションにお住まいの方からも、『土鍋で炊いたご飯が食べられてうれしい』という声をいただいています」

炊飯土鍋「かまどさん」を大ヒットさせた「長谷園」とは?

長谷園は、三重県伊賀市で天保3年(1832年)から続く伊賀焼の窯元。

歴史ある建物や工房、窯を擁し、伊賀焼の特徴を生かしつつ、調理道具から日常的な器まで、ユニークな製品を続々と生み出している。

こちらは、かまどさん。3合炊きは1万800円。ほかに5合炊き、2合炊き、1合炊きがある。

かまどさん 3合炊き

かまどさん 5合炊き

かまどさん 2合炊き

かまどさん 1合炊き

創業時から1970年代まで稼働していた登り窯は、国の登録有形文化財となっている。

七代目当主の長谷優磁氏。伝統を守りつつ、時代に合わせたモノ作りを身上としている。

古琵琶湖層の土の気孔が水分を調整

今回の取材では、かまどさん電気で炊いたご飯を試食することができた。

感想としては、いたって月並みだが「ものすごくおいしい!」のひと言。もっちり、ふっくらした食感でありながら、噛みごたえはしっかりと残っており、噛むほどに甘みを感じる。これならご飯だけで、いくらでも食べられそうだ。

「400万年前の古琵琶湖層の粗土を使用する伊賀焼の土鍋はスグレモノで、細かな気孔が無数に入っています。そのため、炊き上がった後に土がご飯の余分な水分を吸ってくれ、おひつを使う必要がありません。また、時間が経過してご飯が冷めてくると、その水分を放出して返します。つまり、冷めてもおいしいご飯が味わえるのです」

奥が元祖のかまどさん、手前がかまどさん電気の土鍋。元祖のほうがフタを含めてやや高さがあり、全体的に表面がザラザラしているが、電気の土鍋のほうは滑らかな作りだ。

左が元祖、右が電気の土鍋。かまどさん電気の土鍋には鍋底の中央に水温センサーが組み込まれている。

こうして話を聞いていると、土鍋という道具は、実は非常に合理的にできているのだと感心させられる。おいしいご飯を炊くために試行錯誤した先人たちの知恵が詰まっているのだ。

「ご飯のおいしさを左右する要素としては、炊飯器の力やお米の銘柄だけでなく、お米の保存法や研ぎ方などの作法も大きいということに、今回の開発を通して気づきました。個人的には、これは新鮮な発見であり、収穫でした。多くのユーザーさんにかまどさん電気で炊いたご飯のおいしさを知ってもらうとともに、ご飯を炊くことの奥深さにも触れてもらえれば、とてもうれしいですね」

かまどさん電気の土鍋には、中フタがついている(元祖も同様)。炊飯中はここに水がたまり、オネバとなって土鍋の中に戻っていくという。

ボタン一つ押しておけば、吸水も含めて60分で土鍋のご飯が食べられる。

今回のインタビュー中、かまどさん電気でご飯を炊いてもらった。土鍋らしい、もっちり、ふっくらした食感。噛みごたえもしっかりあって、噛むほどに甘みが口の中に広がる。

Memo 筆者は以前、土鍋で炊飯していたが、使用後の乾燥の手間がネックだった。かまどさん電気は「乾燥モード」を搭載し、約30分で乾燥が完了する。メンテナンス性もよく考慮されている。

SPECIFICATION
●実売価格例/8万6184円●サイズ/幅30cm×奥行き30cm×高さ26.1cm●重量/約7.6kg●電圧/100V●消費電力/1300W●周波数/50/60Hz●操作方式/タッチパネル●機能/予約炊飯機能、土鍋乾燥機能●付属品/取扱説明書、レシピブック、しゃもじ、しゃもじ置き、米カップ、水カップ、手ぬぐい、鍋敷き●炊飯メニュー/白米(炊飯・おこげ)1〜3合 (おかゆ)0.5〜1合、玄米(炊飯)1〜2合 (おかゆ)0.5〜1合、雑穀米(炊飯)1〜2合 (おかゆ)0.5〜1合●仕上がり/炊飯(かため・ふつう・やわらか) おこげ(こいめ・ふつう・うすめ) おかゆ(ふつう・やわらか)

インタビュー、執筆/加藤 肇(フリーライター)

※表示の価格は記事制作時のものです。

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