私が寝転んで行う「楽チンひざ裏伸ばし」を思いついたのは、通常のストレッチでは、ひざ裏を伸ばすのが難しいと感じたからなのです。猫背のままだと、立ったままストレッチを行ったり、脚を伸ばした座位で前屈してストレッチを行ったりしても、ひざ裏がちゃんと伸びていないことが少なくないのです。【解説】三矢八千代(八千代スタジオプロアカデミー主宰)
解説者のプロフィール
三矢八千代(みつや・やちよ)
1952年、東京生まれ。日本体育大学大学院トレーニング科学専攻修士。83年から日本初のエアロビクスインストラクターとして活躍し、東京・中目黒のエアロビクス専門スタジオ「八千代スタジオプロアカデミー」主宰。姿勢改善、減量、高齢者の健康促進、介護予防などのオリジナルプログラムを多数開発。著書は『ロコモにならないワン・ツー・スリー運動』『高齢者イキイキ!音楽に合わせてリズム運動』ほか 八千代スタジオプロアカデミー http://www.yachiyostudio.com/
自分ではなかなかチェックできない「後ろ姿」にこそ年齢が出る
私は35年間、エアロビクスの指導をしてきました。そしてつくづく思うのは、見た目の印象は、姿勢で大きく左右されるということです。
年をとっても、背すじがピンと伸びているかたは、健康で、元気で、ハツラツと歩いている印象があります。一方、実年齢が若くても、猫背でトボトボと歩いている人は、老けて見えますし、元気が感じられません。姿勢のよしあしは、「見た目年齢」に大きく影響するのです。
皆さんは、自分の姿勢は、どのようにチェックされていますか。
おそらく、鏡の前に立ち、前から見た姿勢と、横から見た姿勢をチェックされることが多いでしょう。
でも、後ろ姿は複数の鏡がないとチェックできないので、自分が後ろからどう見られているかは、なかなかわからないものです。
でも、「後ろ姿」にこそ年齢が出るのです。姿勢が崩れて猫背になっていると、後ろ姿も格段に老けて見えます。
ファッションやお化粧でがんばって若作りをしても、後ろ姿が老けていると、ちぐはぐな印象を与えてしまうことでしょう。
自分の後ろ姿が、若々しいのか、年相応か、老けているのか――気になるかたは一度、後ろ姿の写真を撮ってもらってみてください。
実は、私は、生徒さんたちにエアロビクスを指導しているうちに、「あること」に気づいたら、うれしくなって生徒さんたちの後ろ姿の写真を撮らせてもらいます。
皆さんは、上の写真を見て、それぞれ何歳くらいだと思われるでしょうか?
ひざ裏が伸びていると皆若く見える
皆さん、どうでしたか?
後ろ姿から受けた印象の年齢よりも、実際は10歳ぐらい高い結果になったのではないでしょうか?
私のスタジオに通っている生徒さんたちは、みんな後ろ姿が若々しく、後ろ姿だけだと何歳くらいなのかまったくわからないほどです。
その秘密は、ひざ裏が伸びていることにあります。
ひざが曲がっていて、猫背になっていると、後ろ姿も格段に老けて見えます。それが、ひざ裏が伸びて、姿勢がよくなると、後ろ姿もスーッとキレイになって、年齢より10歳以上は若く見えるのです。
だから私は、生徒さんを見て「以前よりもひざ裏が伸びてる!」と気づいたら、後ろ姿の写真を撮っているのです。
写真を見ると、80代でも後ろ姿は20代に見える生徒さんもいて、「若々しさは姿勢から」というのがよくわかります。
ひざ裏が伸びていれば起こる「いいこと」
実は、後ろ姿が若々しい生徒さんたちも、最初からキレイな姿勢だったわけではありません。
意識的にひざ裏を伸ばす体操を続け、同時に、それを維持する筋力をつけるようにして初めて、姿勢の悪さが改善され、後ろ姿も美人に変身したのです。
ひざ裏が伸びて、姿勢がよくなると、いいことばかりが起こります。
肩や腰、ひざなどの痛みが軽減し、体調もよくなるので、出かけるのが楽しくなり、活動的になるでしょう。
また、ひざが伸びて、股関節周りの動きもよくなるので、可動域が広がり、歩幅も広くなります。
すると、消費カロリーが増え、体がスリムになるのも期待できます。
骨盤のゆがみも改善し、ポッコリ出ていたおなかがひっこみ、洋服がサイズダウンするかもしれません。
このように、体形が変わって、実年齢より体が若返る「リバースエイジング」が実現するのです。
姿勢が悪くなる発端はひざが伸びなくなること
こで、ひざ裏を伸ばすことの重要性を、さらにご理解いただくために、姿勢が悪くなる過程を説明しておきましょう。
加齢によって筋力が低下すると、体を支えるためにふんばろうとして、ひざが曲がります。
すると、体がバランスを取ろうとして、今度は骨盤が後ろに倒れます。
さらにそのバランスを取るために背中が曲がり、あごが前に出る、という姿勢になってしまうのです。このように、姿勢が悪くなる発端は、ひざが曲がっていることにあったのです。
猫背だからと背中を伸ばすよう意識をしても、ひざが曲がっていたら、バランスを取るため、まっすぐな背筋はキープができません。
実際に、私は長年、姿勢が悪い人を観察してきましたが、ひざがピンと伸びている人はほとんどいませんでした。そのため、私は姿勢改善のポイントとして、「ひざ裏」に注目するようになったのです。
皆さんも一度、自分が正しい姿勢で立てているかどうか、鏡でチェックしてみてください。
ちゃんとひざと背中は伸びているでしょうか? 下の写真のどちらの姿勢に近いでしょうか。
ひざ裏が伸びていないと起こる「たいへんなこと」
ひざが曲がって、猫背になってしまうと、体にさまざまなトラブルが起こります。
まず、ひざを曲げて歩くと、ひざに負担がかかり、ひざ痛が起こりやすくなります。
さらに、歩幅が狭くなり、つま先が上がりにくくなるので、転倒したり、つまずいたりすることも増えます。
高齢者が足を骨折して入院すると、歩けなくなり、そのまま寝たきりになってしまうことも少なくないので、転倒には注意が必要なのです。
また、背中が曲がっていることも健康面では問題です。
猫背は肩こりや腰痛の原因にもなり、慢性的な痛みに悩まされます。
胸が開いていないので、深い呼吸ができず、疲れやすくなってしまうのもいけません。
その結果、運動するのがおっくうになり、ますます筋力が低下したり、体重が増えてしまったりすることもあるでしょう。
また、猫背は内臓を圧迫し、肺や胃腸の機能に影響を及ぼすこともあります。
このように、姿勢の悪さによって健康を損ねる悪循環に陥らないようにする鍵になるのが、ひざ裏を伸ばすことなのです。
ひざ裏を伸ばすと、股関節が開きます。すると、体の中で最も大きな筋肉であるお尻の大臀筋と、太ももの裏側の筋肉であるハムストリングスが収縮します。
その結果、後傾していた骨盤が正しい位置に戻り、背すじもピンと伸びるようになります。
私は、寝たきりにならずに日常生活が送れる「健康寿命」を伸ばすための第一歩が、正しい姿勢だと考えています。
何歳から始めてもキレイな姿勢に大変身
近年は、スマホを見ながら猫背で歩いている若い人も多く、「この先、早く老けてしまうのでは……」と心配になります。
ハイヒールを履いている女性が、猫背でひざを曲げて、内またで歩いている姿もよく見かけます。せっかくのおしゃれなハイヒールがかっこよくきまらず、残念に思います。
加齢によって、筋肉が減り、関節も硬くなって、背中や腰が曲がってしまう人が増えるのは事実です。
しかし、 「年だから、姿勢が悪いのはしかたがない」「もともと猫背だし、治らない」とあきらめないでください。
姿勢は、自分の力で改善できるのです。簡単な運動を続けることで、何歳からでも猫背は改善できます。運動の力を信じて、キレイな姿勢を手に入れましょう。
「楽チンひざ裏伸ばし」のやり方
もし、ひざが緩んだ立ち方をしているなら、「楽チンひざ裏伸ばし」で、姿勢を改善していきましょう。
ひざを効果的に伸ばす動きの中で、もっとも楽チンで、ひざ裏が硬い人でもやりやすいのが、この楽チンひざ裏伸ばしだからです。
寝転がって、壁に沿って脚を垂直に上げるだけで、ひざ裏はもちろん、足の裏側の筋肉全体を伸ばすことができます。
「楽チンひざ裏伸ばし」は1日2回、下の❶か❷を朝の起床後と夜の就寝前に3分間行いましょう。
❶両方のひざ裏を伸ばす方法
◎壁に脚全体をつけるように、床にあおむけになる。
◎お尻はできるだけ壁に近づける。
※最初のうちはきついので、お尻は壁から離れていてもかまわない。
※忙しいときは、基本姿勢を3分キープするだけでも、ひざ裏が伸びていく。
❷片方ずつひざ裏を伸ばす方法
◎左足で壁を押しながら、伸ばしている右脚を壁に押しつける。右ひざの裏側が伸びるのを感じながら、30秒キープ。
◎終わったら、同じように左ひざの裏側を伸ばす。
☆上級者になったら
◎上記❷の体勢から、脚のふくらはぎを両手で抱え、脚を伸ばしたまま体に引き寄せる。
◎お尻から太もも裏の筋肉が伸びるのを感じながら30秒キープ。
◎反対の脚も、同じように体に引き寄せる。
ひざや腰にほとんど負担がかからないので、痛みがある人でも無理なく行えるでしょう。
ふくらはぎのむくみ解消にもなり、「脚やせ」を目指す人にもお勧めです。
ただし、最初に楽チンひざ裏伸ばしを行ったときは、「ひざ裏が硬くて伸ばしにくい」と、違和感を感じるかたもいらっしゃるでしょう。
でも、続けるうちに、ひざ裏がやわらかくなり、まっすぐ伸ばせるようになるので、ご安心ください。
また、普段から「ストレッチでひざを伸ばしています」というかたもいらっしゃるでしょう。
しかし、私が寝転んで行う「楽チンひざ裏伸ばし」を思いついたのは、通常のストレッチでは、ひざ裏を伸ばすのが難しいと感じたからなのです。
背中をしっかり伸ばさないと、太ももの後ろの筋肉や、ひざ裏がきちんと伸びません。猫背のままだと、立ったままストレッチを行ったり、脚を伸ばした座位で前屈してストレッチを行ったりしても、ひざ裏がちゃんと伸びていないことが少なくないのです。
一方、楽チンひざ裏伸ばしは、あおむけに寝転ぶため、背中は重力により必然的にまっすぐになります。脚は壁に預けてしまうので、壁なしで上げるよりも断然ラクでしょう。
こうして、力を入れずに基本姿勢を取ることができます。そのうえで、ひざだけに意識を集中して、ひざ裏をじっくり伸ばすことができます。
実際、高齢者のかたからは、「脚を上げて、リラックスするだけならできる」「体が硬くてもなんとかなる」「苦しくない」とおっしゃるかたが多くて好評です。
脚を上げるだけでも気持ちいい
もう一つ、脚を上げることにはメリットがあります。それは血流です。 心臓は、血液をヒューッと押し出すポンプの力はありますが、スポイトみたいに引き込む力はゼロです。
では、脚まで流れた血液は、どうやって心臓まで戻ってくるのかというと、それは、筋肉で血管(静脈)をピュッピュッと絞り出すように押しつぶして、心臓に戻してあげるからです。
でも、心臓よりも下のほうに流れたものを心臓に戻すには、心臓よりも高い位置に持っていくのが手っ取り早いですよね。
寝転んで脚を上げると、それだけで重力により血液が心臓に戻っていきやすくなります。脚を上げていると気持ちがいいのは、そのためです。
そういう意味では、「ラク」で「効果的」、一石二鳥です。
最初のうちは、お尻をできるだけ壁に近づけて壁に垂直に脚を上げようとすると、きつく感じるかもしれません。
その場合は、お尻は壁から少し離してもけっこうです。無理のない範囲で行ってください。
これも行いたい!「いつまでもキレイ」魔法の運動
冒頭で紹介した生徒さんたちのように、実年齢より体が若返る「リバースエイジング」を実現している人がたくさんいます。
「人生80年」は昔の話で、「人生100年」時代が到来していることをひしひしと実感しています。
そこで、「楽チンひざ裏伸ばし」とともにぜひお勧めしたいのが、「SSS八千代マジック」という3つの運動です。
楽チンひざ裏伸ばしは、曲がったひざを伸ばし、スーッとまっすぐな姿勢をイメージするものですが、SSS八千代マジックは、正しい姿勢を維持するための運動と歩くための脚力に特化した運動です。
「SSS」とは、
(1)Sit(座る)、
(2)Stand(立つ)、
(3)Stand Up(立ちあがる)の3つのSの略です。
(1)のSitでは、骨盤を正しい位置に導き、猫背や腰のゆがみ、もも、ひざ、ふくらはぎなど脚全体の硬さを改善することができます。
❶骨盤の位置を正すSit(座る)運動
◎壁に背中をつけて座り、上半身と下半身が直角になるように背中を壁にくっつける。
◎手の甲は壁につけ、あごを引いて頭も壁につける。
◎この状態を5分間キープ。
(2)のStandは、姿勢を正しく維持するために最も要となる筋肉群を鍛える運動です。O脚や変形性膝関節症の予防、尿漏れ防止といった悩みの改善も期待できます。実際に行っていただくと、筋肉の動きも意識でき、わかりやすい運動です。
❷姿勢を整えるStand(立つ)運動
◎太ももの間にボール(なければクッションでもOK)をはさみ、脚を閉じて立つ。かかとをつけて、つま先は開く。
◎ヒップに手を当てて、ボールを落とさないようヒザを軽く曲げる。
◎ヒップに手を当てたまま、筋肉がキュッと硬くなるのを感じながら、ゆっくりまっすぐヒザを伸ばす。
◎曲げたり、伸ばしたりをゆっくり何回か繰り返す。
(3)のStand Upは、スクワットのように大腿四頭筋の筋肉を鍛えます。いつまでも自分の脚で歩くための脚力を維持します。
❸脚力をつけるStand Up(立ち上がる)運動
◎いすに座り、足の裏は床につける。腕は体の横に下ろす。
◎この姿勢からまっすぐ上に立ちあがり、しっかり立って、ゆっくり座る。
◎立ったり座ったりを何度か繰り返す。
ちなみに、(3)を、片脚でもできるかどうか試してみてください。意識的に脚の筋肉を鍛えていないかたは、意外と難しく感じられるかもしれません。
この片脚Stand Upは、繰り返し行うことで歩行にじゅうぶんな筋力を維持する運動になるので、実践することが大事です。
すべてはステキに歳を重ねるために
人生の晩年を寝たきりにならずに、最後まで自分の脚で歩けたら、なんとすばらしいことでしょうか。SSS八千代マジックは、その夢をかなえる「人生を変える魔法の運動」だと、私は思っています。
ひざが緩んだら、腰が曲がり、つえをつき、車いす、行き着く先は寝たきりです。いつまでもイキイキとステキに歳を重ねるために、ひざ裏伸ばしをしていい姿勢を保ち、自分の脚で歩き続けましょう!