腸内細菌の中には、短鎖脂肪酸という酸を作る菌があります。世の中に万能薬はありませんが、短鎖脂肪酸は、万能薬に匹敵するほどの多様な作用を持っています。キノコを常食することで、この短鎖脂肪酸が作られやすくなります。【解説】藤田紘一郎(東京医科歯科大学名誉教授)
解説者のプロフィール
藤田紘一郎(ふじた・こういちろう)
1939年中国・満州生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。東京大学医学系大学院博士課程修了。医学博士。金沢医科大学教授、長崎大学教授、東京医科歯科大学大学院教授を経て、現在、東京医科歯科大学名誉教授。専門は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。日米医学協力会議のメンバーとして、マラリア、フィラリアなどの免疫研究のかたわら「寄生虫体内のアレルゲンの発見」「ATLウイルスの伝染経路の発見」など多くの業績をあげる。1995年『笑うカイチュウ』(講談社)で講談社出版文化賞を受賞。『9割の女性の悩みをスルリと治す腸習慣』(青萠堂)など、著書多数。
腸が冷えるとエネルギーが作られなくなる
腸の冷えは健康の大敵です。腸が冷えるとエネルギーが作られなくなり、腸の働きも著しく低下してしまいます。
日々の活動のエネルギー源を産生するエンジンには、二つの系統があります。
一つはミトコンドリア系です。これは、細胞の中のミトコンドリアで、糖や脂肪などの栄養素を酸素で燃やしてエネルギーを作るもの。もう一つは解糖系で、酸素を使わず、ブドウ糖からエネルギーを作るものです。
人間は、この二つのエンジンを使い分けて生きています。子どもの頃は解糖系がよく使われますが、加齢とともにミトコンドリア系にシフトしていき、子づくりが終わると、ミトコンドリア系が中心になります。
そのミトコンドリアが体の中でいちばん多いのが、腸です。腸はミトコンドリアエンジンで動いており、腸の温度が37℃前後のとき、最もよくエンジンが動きます。
したがって、腸が冷えると、低温で動く解糖系エンジンは動きますが、肝心のミトコンドリアエンジンが動かなくなり、腸の働きも悪くなってしまいます。
腸の働きが低下すると、排便の力が弱って、便秘や下痢になりやすくなります。また、腸に集結している免疫細胞の活性が悪くなり、免疫機能が落ちてしまいます。
さらに、腸内細菌の働きも低下して、腸内環境がどんどん悪化していきます。すると、ビタミンB群など、体に必要な栄養素が作られなくなります。ですから、いつも腸を温めておくことが大事なのです。
そこで私がお勧めしたいのが、キノコとオリーブ油の組み合わせです。
キノコは腸にとてもよい食品です。キノコには、水に溶けない不溶性食物繊維も、水に溶ける水溶性食物繊維も豊富です。
不溶性食物繊維は便通の改善に役立ち、水溶性食物繊維は善玉菌のエサになって、腸内細菌を増やします。
腸内細菌の中には、短鎖脂肪酸という酸を作る菌があります。短鎖脂肪酸は、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの有機酸のことです。キノコを常食することで、この短鎖脂肪酸が作られやすくなります。
世の中に万能薬はありませんが、短鎖脂肪酸は、万能薬に匹敵するほどの多様な作用を持っています(下のコラム参照)。
また、キノコには、水溶性食物繊維の一種であるβ‐グルカンが豊富です。β‐グルカンには、免疫増強作用や、がんの抑制作用があります。
以上の成分は、どのキノコにも含まれていますが、キノコにはそれぞれ特有の成分もあります。たとえばシイタケにはコレステロールを下げるエリタデニン、エノキタケには脂肪の燃焼を促すエノキタケリノール酸があります。
ですから、多種類のキノコを食べることで、より多様な効能を得ることができるのです。その点で、「塩キノコ」はとてもよいキノコの食べ方です。
オリーブ油で腸を温める作用をプラス
この塩キノコにオリーブ油を加えると、腸を温める作用が加わって、さらに腸によい食品になります。
一般的に油には、体を温める作用があります。しかし、油をとるさいは、油の質を選ぶことが大事です。
サラダ油のような植物油は、オメガ6脂肪酸が多く、製造過程で神経毒になる成分を作るので、お勧めできません。
本来なら、健康によく、必須脂肪酸のバランスで圧倒的に不足しているオメガ3脂肪酸を含むアマニ油やエゴマ油がいいのですが、オメガ3脂肪酸は、加熱すると酸化しやすいという欠点があります。
そこで、私がお勧めするのがオリーブ油です。オリーブ油に含まれるオレイン酸は、構造的に安定して酸化しにくく、加熱調理にも向きます。
また、オリーブ油は大腸まで届き、大腸の粘膜を滑らかにして便の通りをよくするので、便秘の解消にも効果があります。
塩キノコは保存が効きますから、まとめて作っておき、食べるときにオリーブ油をプラスするといいでしょう。スープやサラダに加えれば、飽きずに食べられます。
これを2週間も続けると、腸内に短鎖脂肪酸が増えて、ダイエットなどの効果が期待できます。ぜひ毎日のおかずの一品に加え、腸の健康に役立ててください。