腕ブラブラ体操は、腕を横に振りながら上半身をひねる、両腕を前後に大きく振るなど、とても簡単なものです。「体を引き締めたい、やせたい」「腰痛やひざ痛を改善したい」「足腰を強化して、つまずきや転倒を防ぎたい」けど運動が苦手で…という方でも、やっていただけば、インナーマッスルの代表的な筋肉である「大腰筋」を鍛えられ、症状はどんどん改善されていきます。【解説】鈴木亮司(パーソナルトレーナー)
解説者のプロフィール
鈴木亮司(すずき・りょうじ)
1977年生まれ。がんばらないトレーニング「体芯力®︎」のパーソナルトレーナー。 日本体芯力協会会長。高齢者を中心に18年間で延べ3万人以上のトレーナーを務める。自宅や公共施設での指導、セミナー講師、トレーナーの育成業務などを行っている。主な著書に『体のたるみを引きしめる!「体芯力」体操』(青春出版社)がある。
「らく」だからこそ効果がある
「こんなにらくな動きでいいんでしょうか?」「これで運動になっているんですか?」
普段、私が体操を指導していると、そんな疑問の声がよく聞かれます。私が指導している体操は、筋肉を使っているという感覚がほとんどない、らくでゆるやかな動きだからです。
あまりにも簡単なので、読者の皆さんも行ってみたとき、「本当に効果があるの?」と思われるかもしれません。しかし、その効果のほどは、これまで私の指導を受けた大勢の人たちが実証しています。
その体操こそ、今回ご紹介する「腕ブラブラ体操」です。
私は、これまでの累計で約3万人に体操を指導してきました。指導を受けに来る人の目的として多いのは、「体を引き締めたい、やせたい」、「腰痛やひざ痛を改善したい」、「足腰を強化して、つまずきや転倒を防ぎたい」などです。
腕ブラブラ体操は、腕を横に振りながら上半身をひねる、両腕を前後に大きく振るなど、とても簡単なものです。しかし、やっていただけば、前述の症状などはどんどん改善されていきます。
健康づくりに役立てたいという一般の人たち以外に、私は、アマチュア、プロを問わず、アスリートの指導もしています。彼らは、パフォーマンスや成績の向上を日々目指していますが、腕ブラブラ体操は、このような目的にも効果を発揮します。
「筋トレ第一」という思い込みを捨てた
きつい筋トレとは真逆のゆるい体操で、なぜこうした効果が得られるのでしょうか。実は最初、私自身も不思議でした。
私は、スポーツトレーナーとして働きながら、格闘技をしていました。自らもスポーツをするトレーニングのプロでありながら、常に悩んでいました。
まじめにトレーニングをしているのに、競技成績が伸び悩み、ケガや足腰の痛みが絶えなかったからです。これらの原因を「筋力不足」と考えた私は、さらに必死で筋トレに励みました。
しかし、あるとき、耐えられないほどの腰痛に襲われ、鍼治療を受けたところ、痛みが取れ、体が動きやすくなりました。しかし、また練習すると不調になります。
こんな状態をくり返すうち、「何かおかしい」と思った私は、鍼の先生に相談してみました。すると、「わき腹を伸ばしてみなさい」と言われたのです。
そこで、わけもわからず毎日、わき腹を伸ばしていると、痛みがなくなり、競技成績も伸びてきたのです。
これをきっかけに私は、「筋トレ第一」という思い込みを捨て、「負担がかからない体の動き」を探し始めました。日本の古武術や、中国の気功の動きを参考にして、らくで効果的な動きを見つけていったのです。
そこで気づいたのが、古来からの武術に共通した動きが「ひねり」であることでした。そして、その「ひねり」を取り入れた体操を自分で作り始めたのです。
自分で試して効果があった体操は、指導を受けに来る人にも実践してもらいました。すると、多くの人たちの症状が改善されていき、私は体のひねりこそ、症状の改善に重要だと確信しました。
しかし、実践で作り出した体操だけに、「この動きで体がよくなるのはなぜですか」と聞かれると、答えられません。ずっと理論づけが課題になっていました。
そんな中で知ったのが、東京大学名誉教授・小林寛道先生の研究でした。小林先生は、「体幹深部筋」の重要性に着目され、数々の科学的な検証をされています。
体幹深部筋とは、文字通り、体の深部にある筋肉、最近知られてきた言葉で言うと、「インナーマッスル」のことです。その代表が、上半身と下半身をつないでいる「大腰筋」という筋肉です。
筋トレでは大腰筋は鍛えられない
私が作ったひねりの体操を検証すると、すべて大腰筋をはじめとする、体幹深部筋を強化する動きだったのです。
一般の人にわかりやすいように、私はこれを、体の芯の筋肉、「体芯筋」と呼ぶことにしました。
体芯筋をうまく使えることを「体芯力」、自分が開発した体操を「体芯力体操」と名づけました。
数ある体芯力体操の中でも、ご紹介する「腕ブラブラ体操」は、誰でも簡単にできて、効果が高いのが魅力です。
この体操が、なぜ高い効果をもたらすのか、小林先生の研究を知り、ようやく理論的にも納得できました。
体の筋肉は、体の外側にあるアウターマッスルと、内側にあるインナーマッスルに分けられます。
ボディビルのように、きつい筋トレを行うと、主にアウターマッスルが鍛えられます。アウターマッスルを鍛えれば、見た目に強そうな筋肉がつけられますが、俊敏な動きや、しなやかな動きができなくなり、ケガや痛みを招きやすくなります。
一方のインナーマッスルを鍛えると、体が動きやすくなり、ケガを防ぐことができるのです。腕ブラブラ体操は、インナーマッスルの代表的な筋肉である「大腰筋」を鍛えられます。
大腰筋は、体の深部にあって意識されませんが、上半身と下半身をつなぐ非常に重要な筋肉です。しかも、周囲の筋肉と連動して動くので、大腰筋がしっかり使われることが、転倒やつまずきの防止、腰痛、ひざ痛の改善などにつながります。
また、大腰筋は大きな筋肉なので、鍛えれば基礎代謝(安静時にも使うエネルギー)が上がり、やせやすい体にもなります。その上、鍛えるときに腰周りを動かすので、引き締まったきれいな体になります。
以上のことからもわかるように。腕ブラブラ体操が「ひねる」動きを取り入れているのは、ひねりが大腰筋を鍛える唯一の動きであり、血行も促進させるからです。
代謝が促され血圧、血糖値も安定する
また、腕ブラブラ体操は、肩甲骨周りの筋肉を使うため、背骨の両ワキを通っている自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)の調整効果もあることがわかっています。
腕ブラブラ体操を行っていると、冷え、むくみ、不眠、便秘、肩こり、四十肩・五十肩などが改善したという声が多く聞かれます。
また、血圧や血糖値、コレステロール値などが下がったという報告もよく聞きます。これらは自律神経が整った結果と考えられます。
また、小林先生の研究では、深部の筋肉を使う体操には、脳の血流をよくする効果があることも確認されています。
腕ブラブラ体操を行って、視界や視野がスッキリしたという声が聞かれるのも、頭部への血流量が促される結果と思われます。研究では、認知症対策に役立つ可能性も示唆されているのです。
らくな動きで大きな効果がある腕ブラブラ体操を、健康づくりに、ぜひお役立てください。
疲れず簡単!腕ブラブラ体操のやり方
【両腕ブランブラン体操】
❶両足のかかとをつけて、まっすぐに立つ(あごを引いて背すじを伸ばす)。
❷両腕の力を抜いて上半身を左右にゆっくりひねる。顔は正面を向いたまま動かさない。
❸(1)、(2)の手順を1~2分=1セットとして、1日3~5セット目標で行う(腰痛のある人は無理をしないこと)。
*上半身をひねるときは、股関節からひねるように意識して、腕は後からついてくるイメージで行うとよい。
*上半身をひねる早さは、ひと振り1秒程度が目安。左右にテンポよくひねる。
×両腕ブランブラン体操の間違ったやり方×
両足を開いて立ち、体をひねったときに顔を横に向けるのは間違ったやり方。
両足を開き、顔を横に向けてしまうと、大腰筋に力が伝わらず、鍛えることができない。
【両腕ブランコ体操】
❶両足のかかとをつけて、まっすぐに立つ(あごを引いて背すじを伸ばす)。
❷両腕を前後に大きく振る。前方の腕は肩から目線くらいの高さまで上げる。後方の腕は45°くらいの高さまで上げる(もっと上げられる人は、高く上げてもよい。無理な人は、上げられるところまででよい)。このとき、前方、後方、どちらの手のひらも上向きにする。
❸(1)、(2)の手順を1~2分=1セットとして、1日3~5セット目標で行う(腰痛のある人は無理をしないこと)。
*腕は前後に放り投げるイメージで行う。下半身は股関節から動かすことを意識して行う。
×両腕ブランコ体操の間違ったやり方×
両足を開き、左右どちらかの手のひらが下に向いているのは間違ったやり方。両足を開いたままだと動きにブレが出てしまい、大腰筋を効率よく鍛えられない。また、手のひらを下にしてしまうと、腕からわきにかけての筋肉が使われず、それらにつながる大腰筋まで刺激が伝わらない。
腰が痛い人向けの体操
腰痛でひねる動作ができない人は、左右の腕を、前方、後方へ同時に振る。このとき、手のひらは必ず上に向ける。手のひらを上に向けることで、腕がねじれ、大腰筋まで刺激が伝わる。無理のないように、できる可動域から始めること。