これまで、切迫性尿失禁(過活動膀胱)に対しては肛門締めや骨盤底筋体操のような動きによる改善法がありませんでした。そこで私が考案したのが「お尻寄せ」「足指曲げ」です。切迫性尿失禁や過活動膀胱の症状に心当たりがある人は、ぜひお試しください。【解説】野村昌良(亀田総合病院ウロギネ科部長・ウロギネセンター長)
解説者のプロフィール
野村昌良(のむら・まさよし)
亀田総合病院ウロギネ科部長・ウロギネセンター長。泌尿器科と婦人科、両方の観点から治療を行うウロギネコロジーの専門医。これまでに1900例以上のメッシュ手術、400例以上の尿失禁手術、300例の膀胱水圧拡張手術を経験する。
尿もれの種類と原因を知ることが第一歩
「オシッコに何回も行きたい」という頻尿。「排尿がコントロールできずに尿がもれてしまう」という尿もれ(尿失禁)。どちらも悪化すると生活が制限されたり、恥ずかしい思いをしたりするつらい症状です。
成人女性の3〜4人に1人は尿もれの経験があるともいわれ、多くの人が悩んでいます。全体的に女性に多いのですが、男性にも見られる悩みです。
頻尿・尿もれには、いくつかの種類や原因があり、それを知ることが対策の第一歩になります。主なものを挙げてみましょう。
まず、尿もれの主な種類には、以下の二つがあります。
(1)腹圧性尿失禁
セキやクシャミ、運動、重い荷物を持ったり笑ったりなど、腹部に力がかかったとき、尿が「チョロッ」ともれるタイプで、中高年女性に多く見られます。妊娠・出産に伴って一時的に起こることもあります。
尿道を含む腹部の臓器を支えている「骨盤底筋」という筋肉群がゆるむのが原因で、それを鍛えるように肛門、尿道、女性の場合は膣に力を入れる肛門締めや、骨盤底筋を鍛える体操が有効な対策になります。重症で生活に大きな支障をきたす場合は、手術を検討します。
(2)切迫性尿失禁
急に激しい尿意が起こり(これを「尿意切迫感」といいます)、あまりにも突然、尿意がおとずれるため、トイレにかけこんでも間に合わないタイプです。大部分は頻尿も伴います。
これは何らかの原因で、膀胱の神経が過敏になって尿意を感じる「過活動膀胱」になっていて、切迫性尿失禁、つまり尿もれになるのです。
おしっこを我慢したり、薬で治療しますが、それらで治りにくい場合や、生活に支障をきたす場合は、仙骨神経刺激療法という治療を検討します。
これは、排尿を調節している仙骨(お尻の上部にある背骨)の神経の近くに手術で電極を埋め込み、微弱な電流で膀胱の神経の過敏性を抑える方法です。日本では2017年に保険適用になったばかりですが、海外では25万人が効果を挙げている治療法です。
腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁を併発している混合性尿失禁もあります。その際も、後述するお尻寄せと足指曲げが有効なケースもあります。
膀胱の不快感や痛みを伴う頻尿もある
一方、頻尿の主な原因としては以下のものがあります。
(1)過活動膀胱
切迫性尿失禁の項目でも説明したとおり、過活動膀胱の多くは頻尿と尿もれが起こります。なかには尿意切迫感があっても、もれるほどではなく、頻尿だけのケースもあります。
(2)間質性膀胱炎
頻尿とともに、膀胱の不快感や痛みなど、通常の膀胱炎のような症状が出ても、検査で細菌が見つからない膀胱炎が間質性膀胱炎です。したがって抗生物質は効かず、原因がはっきりわからないため「謎の膀胱炎」と呼ばれます。女性に多いのですが、患者さんの1割程度は男性です。
膀胱の壁が硬くなり、尿が少ししかたまっていなくても尿意が起こるので、私は「かちかち膀胱」とも呼んでいます。麻酔をかけて膀胱に水を注入し、強制的に膀胱を拡げる「膀胱水圧拡張術」で、治療します。
(3)膀胱下垂(垂れ下がり膀胱)
骨盤底筋がゆるんで膀胱が下がるもので、中高年女性に見られます。膀胱が引っ張られることで過敏になり、頻尿が起こります。肛門締めや骨盤底筋体操が有効ですが、悪化している場合は手術します。
このほか、冷えや水分の過剰摂取による頻尿、前述した腹圧性尿失禁のある人が、尿もれを恐れて早め早めに排尿することによる頻尿などもあります。
また、男性では、前立腺肥大や尿道のゆるみによって尿道内に尿が残って頻尿となることもあります。尿道内に尿が残りやすい人は、排尿後に念入りに陰茎を振ったり、尿道をしぼるようにしたりすると、改善する場合もあるのでお試しください。
切迫性尿失禁にも有効「お尻寄せ」と「足指曲げ」のやり方
さて、切迫性尿失禁・過活動膀胱に対しては、従来、肛門締めや骨盤底筋体操のような動きによる改善法がありませんでした。そこで、私が考案したのが、「お尻寄せ」「足指曲げ」です(やり方は下記)。
実は、前述した仙骨神経刺激療法の手術のとき、排尿を調整している仙骨の神経近くにうまく電極を置くと、患者さんのお尻と足の親指が動く現象が見られます。
ということは、この動きを行うと、排尿を調整する神経に刺激が伝わると考えられます。この理論から、「お尻寄せ」と「足指曲げ」を考案しました。
切迫性尿失禁や過活動膀胱の症状に心当たりがある人は、ぜひお試しください。
体操(1) 「お尻寄せ」のやり方
❶お尻に両手を当てる
足を肩幅程度に開いて立ち、左右のお尻に両手を当てる。
❷仙骨に向かってお尻を寄せる
お尻に力を入れて硬くし、クイッ、クイッと1秒間に1回くらいのリズムで左右の筋肉を仙骨に引き寄せる。1分程度続ける。
※1日に3〜5回行う。
体操(2) 「足指曲げ」のやり方
❸イスに座ってつま先を浮かせる
イスに座り、かかとだけを床につけ、つま先を浮かせる。足の幅は肩幅よりやや狭めのらくな位置でかまわない。
❹足の指を左右同時に曲げる
足のすべての指を1秒間に1回くらいのリズムで曲げる。親指を強く曲げるよう意識するのがポイント。クイッ、クイッと左右同時に曲げることを1分程度続ける。
※1日に3〜5回行う。