今、アンチエイジング医療の分野でにわかに注目されているのが、「骨」です。顔は、数十個の骨から構成されています。骨密度が低下して、骨のボリュームが減ることで、張っていた肌がたるみ、シワが深くなるというのは合点がいく話です。【解説】阿保義久(北青山Dクリニック院長)
解説者のプロフィール
阿保義久(あぼ・よしひさ)
北青山Dクリニック院長。1993年、東京大学医学部卒業。2000年に北青山Dクリニックを設立。2010年、東京大学医学部腫瘍外科・血管外科非常勤講師。下肢静脈瘤を中心とした日帰り手術を行うほか、病気の発生を未然に防ぐための人間ドックや抗加齢医療などを積極的に提供。2009年からは、ガンの遺伝子治療にも精力的に取り組んでいる。著書に『下肢静脈瘤が消えていく食事』(マキノ出版)などがある。
骨の若返りが全身の若返りにつながる
私の専門は、ガンを扱う腫瘍外科と、下肢静脈瘤(※1)や動脈硬化(※2)などを扱う血管外科です。
私は外科医として、ガンの早期発見と手術に取り組んできました。その中で、早期発見が遅れ、手術ができないほど進行した末期ガンの患者さんとも、多く接してきました。
ガンを予防するには、日々の健康管理が欠かせない。そう感じた私は、「予防医療」や「アンチエイジング医療」と呼ばれる分野にも、力を入れて取り組むようになりました。
今、アンチエイジング医療の分野で、にわかに注目されているのが、『骨』です。
実は、「骨の若返りは、全身の若返りにつながる」と言っても、過言ではないのです。
皆さんは、骨のことを、単に体を支えているだけの組織と思っていないでしょうか。実は、骨にはそれだけでない、多様な働きがあることがわかってきているのです。
※1 下肢の静脈に長時間血液が滞り、血管が太くなって表面に浮き出て見える状態
※2 動脈の老化現象。血管が硬くなったり、血管にコレステロールなどがたまり血管が狭くなったり詰まったりする
骨の働き その❶ 血液の生みの親
私たちの新しい血液は、骨の中心にある骨髄で生み出されています。ですから、骨の状態が悪くなると、新しい血液が作られにくくなり、じゅうぶんな血流量を維持できなくなってしまいます。
こうして血の巡りが悪くなれば、じゅうぶん血が届かなかったところは肌が乾燥し、潤いが失われてしまいます。
骨の働き その❷ 筋肉の動きを調整する
骨が、血液中のミネラルを吸収したり、逆に、血液中にミネラルを送り出したりしていることを、ご存じでしょうか。
ミネラルの中でも、骨から送り出される「カルシウム」の働きは、注目に値します。カルシウムは、血液を介して、筋肉や神経、臓器などの働きをコントロールしているのです。
そのため、骨のコンディションが衰えて、血液中のカルシウムの量が減ると、筋肉の動きや、神経の働きにも悪影響が出てきます。
例えば、筋肉の動きが悪くなったり、筋肉の弾力が落ちたりする、といったことが考えられるでしょう。
これが、顔の筋肉に出ると、「たるみ」や「ほうれい線」といった形で表現される可能性があります。
そう考えると、顔の若返りにとっても、骨のコンディションを保つことは、非常に大事であると言えます。
骨の若返りに欠かせないマグネシウム
アメリカのエール大学の研究チームの発表によれば、骨密度が低下している人は、顔のシワが深いという研究結果が出たそうです。
顔は、数十個の骨から構成されています。骨密度が低下して、骨のボリュームが減ることで、張っていた肌がたるみ、シワが深くなるというのは、合点がいく話です。
特に、50代以上の閉経後の女性は注意が必要です。閉経により、女性ホルモンが減退すると、骨から血液中に送り出されるカルシウムの量が増えすぎてしまうからです。
こうして骨から流れ出すカルシウムの量が増える結果、骨密度が低下し、骨粗鬆症(※3)のリスクが高くなります。
骨粗鬆症を避け、骨のコンディションをよくする基本は、牛乳や小魚に含まれるカルシウムを多く摂ることです。
ただし、覚えておいていただきたいのが、カルシウムは「マグネシウム」がなければ、体に吸収できないということです。
カルシウムにとって、マグネシウムは相棒のような存在。カルシウムは、マグネシウムといっしょに摂取する必要があるのです。
マグネシウムを豊富に含んでいる食品は、大豆と海藻です。
豆腐などの大豆食品には、マグネシウムだけでなく、カルシウムもいっしょに含まれているので、一石二鳥です。
また、大豆食品の中でも納豆には、骨の形成を活性化する「ビタミンK」が含まれています。そして海藻には、骨の劣化を防ぐ「葉酸」が含まれています。
以上のことから、大豆食品や海藻は、骨のコンディション維持に非常に役立つ食材といえます。
※3 骨密度が低下したり、骨質が劣化したりした結果、骨がスカスカになってもろくなる症状
血糖値の急上昇を避け、骨をさびつかせない
これらを基本に、次に挙げる食材を摂取するとよりいいでしょう。
・魚(イワシやサケ)、卵、キノコ
血液中のカルシウム濃度を一定に保ち、余分な流出を防ぐ「ビタミンD」を多く含む
・緑黄色野菜
骨のさびつきを防ぐ「ビタミンC」を多く含む
・豚肉、のり
骨を劣化させる成分が増えるのを防ぐ「ビタミンB群」を多く含む
最後に、骨の若返りを図るには、骨をさびつかせる「糖化(※4)」を、できるだけ避けましょう。
骨の糖化は、食後に血糖値が急上昇するたびに進みます。短時間で炭水化物や糖質を大量に食べると、血糖値が急激に上がり、糖化を招きます。炭水化物や糖質の早食い・ドカ食いは、避けるようにしましょう。
糖化を避け、大豆や海藻などを積極的に摂取することが、骨を劣化させない秘訣です。
※4 体内のたんぱく質が糖と結びついて変性する現象。細胞を劣化させる原因になる
骨の劣化を避けて顔を若く保つ栄養の秘訣
❶カルシウムの相棒であるマグネシウムを取ること。豆腐や納豆などの大豆食品、海藻がお勧め
❷魚や卵に含まれるビタミンD、緑黄色野菜に含まれるビタミンC、豚肉やのりに含まれるビタミンB群も、骨の老化を防ぐ
❸糖化は骨をさびつかせる。短時間の間に糖質を食べすぎないこと