いつまでも若々しい血管を保つには元気に動ける体が不可欠。「いまさら筋トレなんて…」と思っているかたも、今回ご紹介する方法はとても簡単なものばかりです。何歳になっても、筋肉は鍛えられます。ぜひお試しください。【解説】谷本道哉(近畿大学生物理工学部准教授)
解説者のプロフィール
谷本道哉(たにもと・みちや)
近畿大学生物理工学部准教授。1972年、静岡県生まれ。大阪大学工学部卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は筋生理学、トレーニング科学。『みんなで筋肉体操』『ガッテン!』『あさイチ』(すべてNHK)など数多くのテレビ番組に出演し、体を鍛えることの重要性をわかりやすく解説している。著書に『すごい筋肉貯金』(宝島社)など。
筋力が低下すると活動量が低下し血液循環も悪化
筋肉の細胞は、年を重ねるにつれ、死滅して減少します。筋肉の数と太さのピークは20代で、30代以降は、加齢に伴い下降線をたどるのです。
筋肉の萎縮が進むことをサルコペニア(加齢性筋肉減弱症)といい、昨今、中高齢者の健康問題として大きなトピックとなっているのはご存じでしょうか。
ほうっておくと、立ったり歩いたりするのが困難になり、寝たきりの状態にまで悪化しかねません。
特に注意が必要なのは、日常生活に直結する筋肉でしょう。体重を支えている下半身の筋肉や、正しい姿勢を支えるための腹筋・背筋群といった筋肉ほど衰えやすいからです。
なかでも、太もも前面にある筋肉は、80歳を迎えるときには、ピーク時の半分近くにまで減少してしまいます。80歳を超えると、さらにそのスピードは加速します。
ここは、立つ、歩くといった、体の根幹の動作を担う最も重要な筋肉の一つですから、その衰えは問題です。
これらの筋力の低下によって体が動かしづらくなると、外に出歩いたり運動したりする機会が減り、日常の活動量がどうしても少なくなってしまいます。
すると、全身の血液循環も悪化し、血が固まる血栓も生じやすくなってしまうのです。脳血管疾患や心疾患といった重篤な病気も招きかねません。
筋肉を増やし蓄えることは何歳からでも可能!
筋肉がつけば、日常の活動量は増えます。そして活動量の増加は、若々しい血管を保つことにつながります。そのために、できるだけ筋肉細胞の減少を緩やかにし、残っている筋肉を太く育てる必要があります。
そのために私が提唱しているのが、日々の筋トレによる「筋肉貯金」。加齢とともにやせ衰えて弱くなる筋肉を、日ごろから鍛えて蓄えておきましょう、という考え方です。
筋肉を増やして貯金することは、何歳からでも可能です。70代、80代だからといって、決して遅過ぎることはありません。
むしろ、日ごろから筋肉を動かしていないかたのほうが、伸びしろがあると、前向きにとらえられるのではないでしょうか。
今回ご紹介する4つの筋トレは、どれもすぐに行える簡単な動作ばかり。空いた時間を利用すれば、続けることは難しくないでしょう。
元気に動く体づくりに欠かせないのは、第一に下半身の筋肉です。前述した太もも前面の筋肉のほか、下腹の深部にある筋肉は、歩行時に足の振り出しを担ったり、骨盤の姿勢を支えたりする働きがあります。
ふくらはぎの筋肉は歩行スピードを上げるだけでなく、血液を下半身から上半身へ戻すためのポンプの役割を担います。ここの筋肉を使うことは、全身の血流改善にもつながります。
このほか、腹筋や背筋、お尻の筋肉も、背すじがピンとまっすぐで美しい姿勢を保つためには欠かせません。
また、筋肉を動かすことで、筋肉からはマイオカインというホルモンが分泌されることがわかっています。
近年の研究によって、この物質は動脈硬化を抑制したり、脂肪の分解を促したりする働きがあると判明しました。この点からも、筋肉をきちんと使うことは血管の若返りに有効といえるでしょう。
筋力トレーニングの基本は、習慣化することです。2日に1回の頻度で、事項から紹介する四つの動作を行いましょう。
ただし、体に痛みを感じた場合は無理せず、そのときはすぐにやめてください。
暮らしの中で筋肉を貯金する習慣を身につけ、いくつになっても病気や痛みに負けない体を手に入れましょう。
《筋肉貯金が血管にいい3つの理由》
❶筋肉が鍛えられることで日常の活動量が増え、血液循環が向上!
❷筋肉から分泌されるマイオカインというホルモン物質が、動脈硬化を抑制!
❸ふくらはぎの筋肉を使うことで血液のポンプ機能が高まり、上半身への血流が改善!
筋トレ(1) スクワット
鍛えられる筋肉 : 太もも、お尻の筋肉
目安の回数:15回
❶足を肩幅に開いて立ち、イスに腰かけるイメージで、上半身を前傾させて、お尻を引きながら2秒かけて深くしゃがむ。
❷2秒かけて立ち上がる。2秒で下げて、2秒で上げるというテンポで、くり返す。
【ワンポイントアドバイス!】
きつい人は、机に手を置きながら行おう。楽にできる人は、立つときに、ひざを伸ばしきらないようにすると負荷が高まり、より効果的。
筋トレ(2) レッグレイズ
鍛えられる筋肉 : おなか、下腹深部、太もも前面の筋肉
目安の回数:10〜15回
❶イスに浅めに腰かけて、背もたれに背中を預ける。手でイスの後ろをつかむ。ソファの場合は手はお尻の横に置く。
❷両足をそろえ、上げられるところまでしっかり上げてから下ろす。2秒で上げて、2秒で下げるというテンポで、くり返す。
【ワンポイントアドバイス!】
上げられるところまで、足をしっかりと上げるようにしよう。きつい人は、ひざを深く曲げて行おう。
筋トレ(3) バックエクステンション
鍛えられる筋肉 : 背筋
目安の回数:10〜15回
❶床にうつぶせになる。
❷手を上げながら背中を反らす。上半身を上げられるところまでしっかり上げて、下ろす。2秒で上げて、2秒で下げるというテンポで、くり返す。
【ワンポイントアドバイス!】
上げられるところまで、上半身をしっかりと上げるようにしよう。折り畳んだバスタオルをおなかの下に置いて行うと、背中を反らす際の可動域を広げることができる。
筋トレ(4) かかと上げ下げ
鍛えられる筋肉 : ふくらはぎの筋肉
目安の回数:10〜15回
❶壁に手を添えて、足の親指(母趾)側に体重を乗せた状態で2秒かけてかかとを上げる。
❷2秒かけてかかとを下げる。2秒で上げて、2秒で下げるというテンポで、くり返す。
【ワンポイントアドバイス!】
下げるときには、地面にかかとをつけないようにする。楽にできる人は、段差のあるところで行うと、より効果的。壁に手を添えて、くれぐれも転倒には気をつけること。