認知症や糖尿病は睡眠不足が影響!睡眠の質を上げる方法と正しい知識を権威が解説

美容・ヘルスケア

脳は大量にエネルギーを消費する、非常に繊細な器官です。脳を働かせていれば老廃物、つまりゴミが発生します。ゴミがたまってくると、脳の働きが悪くなるだけでなく認知症の原因にもなります。こうした脳のゴミは、実は睡眠中に大掃除されているのです。【解説】宮崎総一郎(中部大学特任教授・日本睡眠教育機構理事長)

解説者のプロフィール

宮崎総一郎(みやざき・そういちろう)
中部大学特任教授・日本睡眠教育機構理事長。1979年、秋田大学医学部卒業。85年、同大学大学院博士課程修了。国立水戸病院耳鼻咽喉科医長、秋田大学耳鼻咽喉科助教授を経て、2004年から2016年まで国内で初めて開設された滋賀医科大学睡眠学講座を担当。2016年より現職。専門は不眠症、睡眠時無呼吸症候群、睡眠学教育、認知症予防。著書は『病気の原因は「眠り」にあった』(実業之日本社)、『ぐっすり眠りたければ朝の食事を変えなさい』(PHP)など多数。

睡眠不足が脳のゴミを増やしボケを招く

『眠ったら成績が3倍アップした』

私たちは「疲れたから寝ている」だけではありません。実は睡眠中に脳は記憶を整理して再構成し、さらに脳のメンテナンスも行われているのです。

つまり、寝るたびに脳は賢くなっているというわけです。それを裏づける、研究報告を紹介しましょう。

できるだけ正確にキーボードを打つトレーニングで睡眠の記憶に及ぼす効果を比較しました(下のグラフ参照)。

《眠ると技能記憶が向上する!》

(Walker et al, 2002より)

Aグループは朝10時にトレーニングをし、12時間後に再度テストをしました。その結果、トレーニング時とほとんど成績が変わりませんでした。しかし、その後睡眠を取ってもらったところ、翌朝には、睡眠前に比べて成績が飛躍的に向上していました。

一方のBグループでは、夜のトレーニング後すぐに睡眠を取り、翌朝にテストをしたところ、成績が眠る前より明らかに向上していました。

こうした研究結果から、睡眠により技能や記憶が向上することがわかっています。ですから、テスト前に徹夜で勉強することは、逆効果というわけです。

さらに、16時間以上も起きたままの状態だと、酔っ払っているときと同じ程度にまで、脳の機能が低下することがわかっています。睡眠不足で行う作業は、酒気帯び運転と同じぐらい危険なのです。

『脳のメンテナンスは睡眠で行われる』

脳は大量にエネルギーを消費する、非常に繊細な器官です。脳を働かせていれば、老廃物、つまりゴミが発生します。ゴミがたまってくると、脳の働きが悪くなるだけでなく認知症の原因にもなります。

こうした脳のゴミは、実は睡眠中に大掃除されているのです。

私たちの脳は、1000億個以上のニューロン(神経細胞)と、その数倍ものグリア細胞で構成されています。グリア細胞は、ニューロンに栄養を補給してサポートするなどの役割を果たします。

このグリア細胞が睡眠中に縮むことで、脳に隙間ができます。このときに、脳のゴミが排出されて、メンテナンスが行われているのです。

バタンキューで眠る人は要注意!

日本では、認知症を患う人の数が2025年には700万人を超えると推計されています。認知症を防ぐには、睡眠で脳をメンテナンスすることが重要です。

また、国民病ともいわれる糖尿病についても、睡眠が影響しています。

健康な若い人で、睡眠時間を4時間に制限して6日間過ごしてもらったところ、血糖値の上昇を抑える能力(耐糖能)が低下したと報告されているのです。

そのほか、肥満や高血圧、心臓病、うつなど精神疾患も、睡眠不足が深く関わっています。

ところが、厄介なことに、睡眠不足の自覚がない人が少なくありません。理由として、現代人が夜も「なんとなく」起きていることが考えられます。蛍光灯の明るい光やテレビ、スマートフォンの画面の明るさで、昼夜の感覚がマヒしているのです。

「テレビやスマートフォンを見ながら、いつの間にか眠っていた」という場合、視覚から入ってきた情報の処理を脳が行っているため、浅い眠りが続くことになります。

睡眠には、覚醒・うとうと・すやすや・ぐっすりの4段階があり、健康な人は入眠までに15~20分かかります。ベッドでバタンキュー、横になると8分未満で眠ってしまうという、「寝つきがとてもいい」人は、睡眠不足の可能性が高いのです。

スマートフォンを使いながら眠りに落ちたり、寝床に入ったらすぐに眠れたりするのは、実は非常に不健康なのです。

寝つきがいい、は要注意! スマホを見ながらの寝落ちは浅い眠りの原因になる

『医学的に問題ないことで悩んでいる場合も』

私が診療を行ってきた中で、「昔よりも眠れない」「理想の8時間睡眠ができない」など、医学的には問題はないのに深刻に悩んでいるケースもありました。

睡眠についてはさまざまな情報が世の中に出回っていて、医師の観点からすると、非常識と思える内容も目につきます。

例えば睡眠薬については、依存性が強いと思い込んで我慢して使わない人もいますが、正しく服用すれば安全な薬剤です。

さらに、薬と同等かそれ以上に効果のある「認知行動療法」もあります(詳しくは下項参照)。

今回は睡眠に関する正しい知識をお伝えするので、読者の皆さんには誤った思い込みを捨てて、それぞれの人にとって、最適な睡眠を見つけてほしいと思います。

最新研究で判明!長く深く眠りたいなら運動や筋トレで筋肉量を増やすといい!

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不眠症とは

「寝ても疲れが取れない」「スッキリと起きられない」など、睡眠に関する悩みは人それぞれ違うでしょう。睡眠に不満があったとしても、健康上はあまり問題がないこともあれば、逆に不満はなくてもすぐに対処が必要なこともあります。

まず、不眠症とはどのような状態を指すのか、確認しましょう。
不眠症と診断されるのは、次の3つの症状が1カ月以上続いた場合です。

(1)入眠障害 なかなか寝付けない
(2)中途覚醒 何度も目が覚める
(3)早朝覚醒 朝早く目が覚める

実は、「熟睡感がない」という感覚は、不眠症の診断基準には入らないのです。

(1)朝起きたときに疲れがない
(2)昼間に眠気がなく、普通に活動ができる

この2つを満たしていれば、睡眠時間は足りていて、睡眠の質には問題がないと判断されます。

『高齢者は長く寝るほど高血圧のリスクが上がる』

また、睡眠時間は長ければいいというわけでもありません。睡眠時間と、高血圧になるリスクについての調査を紹介しましょう。

7~8時間睡眠で高血圧になるリスクを1とした場合、32~59歳では睡眠が5時間以下だとリスクが1.6倍になり、睡眠時間が長くなるほどリスクが低くなりました。

ところが60~82歳では、睡眠が5時間未満の場合は0.85倍、逆に9時間以上になるとリスクが1.31倍になり、睡眠時間が長いほどリスクが上がったのです。つまり、若い人と高齢者ではまったく逆の結果が出たということです。

『体調維持には最低6時間の睡眠が必要』

睡眠は年齢の影響を受けます。年を取るほど、中途覚醒の時間が長くなり、睡眠は浅くなることがわかっています。

ポイントは、「基礎代謝量」です。

基礎代謝量とは、生命維持のために消費する必要最小限のエネルギーで、筋肉量に比例します。若い頃は筋肉量が多いうえ、活発に体を動かすので、長く、ぐっすりと眠れたのです。

しかし、年齢を重ねるとともに筋肉量も減り、活動量も減っていくため、睡眠時間も減ることになります。言い換えれば、長く、深い睡眠は不要になってくるわけです。

それにもかかわらず、長く寝ようとして寝床でじっとしていれば、「眠れない」と悩むうえ不活発になり、高血圧のリスクが高くなるのは当然のことだと考えられます。

その場合、よく眠るために、適度な運動や筋力トレーニングを取り入れることをお勧めします。筋肉量が増えれば基礎代謝量も増え、ぐっすりと眠れるようになるはずです。

アメリカの睡眠財団の発表によれば、26~64歳の場合、推奨睡眠時間が7~9時間、許容睡眠時間は6~10時間となっています。

《年代別の推奨睡眠時間》

(アメリカ睡眠財団のデータより)

許容睡眠時間には4時間もの幅があります。理由の一つは、長く眠らないと調子が出ない「ロングスリーパー」と、短時間睡眠でも平気な「ショートスリーパー」がいるからです。

実は、睡眠は個人差が大きいものなのです。ですから「8時間睡眠がいい」という、科学的な根拠はありません

ショートスリーパーは、人口の5~10%といわれていますが、多くの人は最低6時間は眠らなければ、体調は維持できません。

『「朝活」より「夕活」のほうが効率的』

加えて、朝型と夜型という違いもあります。私たちの体温は1日の中で変動していますが、朝型と夜型では次のように異なります。

朝型……午後9時頃から体温が下がり始め、翌日午前3時頃に最低となる。その後上昇に転じ、午前6時頃にはかなり高くなる。
夜型……午後11時頃から体温が下がり始め、翌日午前7時頃に最低となる。上昇に転じるのはそれ以降。

体温が上がると体は活動モードになり、下がるとお休みモードに入ります。夜型は午前7時に体温が最低になるため、朝になってもスッキリと起きられないのです。

ですから、朝早くに勉強や趣味などの活動を行う「朝活」や「朝練」をしても、効率が悪いうえ、睡眠不足になります。

朝型・夜型にかかわらず、人間の体温は夕方から高くなり始めるので、「夕活」や「夕練」のほうが効率的なのです。朝型か夜型かを知るためには、下にチェックリストがあります。

読者の皆さんも睡眠時間の最低ラインを6時間と考えたうえで、ご自分に最適の生活パターンを探ってください。

《朝型・夜型セルフチェック》
(1)から(6)の質問に答えて、点数を合計します。9点以下なら、朝型。10~15点なら、どちらとも言えません。16点以上なら夜型です。

❶1日の予定が特に何もないとき、あなたは何時に起床しますか?
・午前7時より前……(1点)
・午前7時から9時の間……(2点)
・午前9時以降……(3点)

❷仕事のある日は、らくに起床することができますか?
・らくに起床できる……(1点)
・少しつらい/日によってつらいときもある……(2点)
・とてもつらい……(3点)

❸朝、起床後30分間の目覚めはどのように感じますか?
・目覚めている/さわやかだ……(1点)
・気分は日によって異なる……(2点)
・眠い/疲れている……(3点)

❹好きな時間に就寝できるなら、何時に就寝しますか?
・午後10時30分より前……(1点)
・午後10時30分から午前0時の間……(2点)
・午前0時以降……(3点)

❺夜遅くに働くことは、日中に働くのと同様に容易だと感じますか?
・容易ではない……(1点)
・ときどき容易だと思う……(2点)
・いつも容易だと思う……(3点)

❻あなたが眠りたいときはいつでも簡単に眠ることができますか?
・ほとんどできない……(1点)
・ときどきできる……(2点)
・たいていできる……(3点)

(Getting a Good Night’s Sleep,1998より引用)

快眠体質に変わるコツ

「カーテンを10cm開けて寝る」「朝の納豆」「外出」が快眠体質に変わるコツ

『眠くないなら寝床に入らない』

睡眠薬には、「恐ろしい薬」というイメージがあるようです。「依存性が強い」「量が増えていく」などと思われることもありますが、誤解です。

ただ、いまだに睡眠薬について誤解しているかたがいるようで、「前のお医者さんは睡眠薬を出してくれなくて、不眠が治らない」と訴える60代女性のAさんが来院しました。

睡眠薬を処方したところ、Aさんの不眠はすぐに解消しました。さらに、今では薬を使わなくてもぐっすりと眠れるようになっています。

私が用いたのは、「睡眠制限療法」という治療法です。

Aさんのように慢性不眠の患者さんの中には、「睡眠薬が全然効かない」と訴える人がいます。この場合、必要以上に寝床に入っていることで、不眠が悪化していることがあります。

そんな患者さんに私が聞くのは、「眠くもないのに寝床に入っていないか」「8時間睡眠にこだわっていないか」ということです。

先述のAさんも以前は、眠くもないのに寝床に入って、なんとか寝ようとしていました。そこに「こんなに眠れないのに睡眠薬を出してもらえない」というストレスが加わって、不眠が悪化していたのです。

そこで、「眠気が出てから就床する」「寝床の中で悩まない」というように行動を変えてもらったところ、睡眠薬を飲まなくても眠れるようになりました。

これが、睡眠制限療法で、「認知行動療法」の一つです。睡眠薬を飲んでいても効果が感じられない人に、薬以上に効くことがあります。

『睡眠で高血圧や肥満が改善した人が多くいる』

睡眠は次の2つのメカニズムでコントロールされています。

(1)体内時計機構 夜になったから眠る
(2)ホメオスタシス(恒常性維持機構)疲れたから眠る

体内時計機構については、朝の太陽光を浴びて刺激を受けることで、約15時間後に眠気を引き起こす「メラトニン」というホルモンが脳内で作られ、夜に眠りに就けます。

もう一つのホメオスタシスは、疲れることで睡眠を促す物質が、脳内にたまるというメカニズムです。

こうしたメカニズムを患者さんに理解してもらったうえで、私は睡眠のリズムを整える生活術を指導しています。

ポイントは朝です。平日でも休日でも、毎朝、ほぼ決まった時刻に起床しましょう。

そのためには、太陽光が重要です。光によって交感神経(心拍数や血圧を上げるなど全身の活動力を高める神経)が刺激され、筋肉や内臓が活動モードに入るからです。

眠るときにはカーテンを10cmほど開けて、朝になったら太陽光が寝室に差し込む状態にしましょう。

次に重要なのが、食事です。食事も交感神経を刺激するので、リズムの調整につながります。

お勧めは、「トリプトファン」が含まれている納豆や卵、牛乳といった食品です。トリプトファンは必須アミノ酸の一種で、体内で「セロトニン」という物質に変換された後、メラトニンになります。

3番目は社会活動です。家の中に閉じこもらずに、朝は外出して太陽光をじゅうぶんに浴びましょう。

睡眠の質がよくなり血圧が10mmHg以上も下がって高血圧が改善した人、体重が減って元気になった人、仕事の能率が上がった人など、たくさんのよい変化を私は見てきました。ぜひ皆さんも、よい眠りで毎日を気持ちよく過ごしてください。

《快眠体質に変わる3カ条》
❶カーテンを10cm開けて眠る
毎朝、ほぼ同じ時間に起きることが重要。朝の光が寝室に差し込むようにして、交感神経を刺激することで、筋肉や内臓が活動モードに入る。

❷朝食を取る
特に、眠気を引き起こす「メラトニン」に変換される「トリプトファン」が含まれている納豆や卵、牛乳がお勧め。

❸朝の外出
社会活動も、睡眠のリズムを整えるうえで重要。起きてから2時間以内に、外出して朝の光を浴びるのがよい。

この記事は『ゆほびか』2019年3月号に掲載されています。

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