酢は独特の酸味やにおいが苦手な人も多く、どんなに体によいと知っていてもなかなかとり続けることが難しい食品の一つともいえるでしょう。そこで相乗効果が2倍どころか、5倍になって現れるという「ミカン酢」をご活用することをお勧めいたします。【解説】小泉幸道(東京農業大学名誉教授)
解説者のプロフィール
小泉幸道(こいずみ・ゆきみち)
東京農業大学名誉教授。1951年生まれ。1973年東京農業大学農学部醸造学科卒業。1997年東京農業大学教授に就任。専門は発酵食品学。発酵食品の科学的な成分変化と機能性に関する研究を行う。著書に『NHKあさイチ 驚きの効果 ハチミツ&酢のパワー』(NHK出版)、『元気がほしいカラダには酢が効く!ー酢の健康パワーと痩身効果』など多数。
お酢博士も認める「ミカン酢」の薬効
私は「酢」の研究を始めて43年、筋金入りのお酢博士です。
酢の持つすばらしい薬効は、次の項目でご紹介しますが、酢の独特の酸味やにおいが苦手な人も多く、どんなに体によいと知っていても、なかなかとり続けることが難しい食品の一つともいえるでしょう。
そこで今回紹介する「ミカン酢」をご活用することをお勧めいたします(作り方は別記事:「ミカン酢」の作り方&活用レシピ参照)。
ミカンの薬効、酢の薬効、どちらも一度にとれるうえ、一緒にとることで、相乗効果が2倍どころか、5倍になって現れるというすばらしい飲み物です。
それでは、ミカン酢の薬効についてご説明しましょう。
ミカンと酢どちらも骨を強くする!
(1)骨粗鬆症予防
ラットによる実験で、酢には骨粗鬆症を予防する効果があることが確認されています。
この実験では、骨粗鬆症のモデルとなるラットに、酢を含んだエサが32日間継続して与えられました。
その結果、酢が入っていないエサを与えられたマウスと比較して、カルシウムの吸収率、骨のカルシウム含有量ともに増加したのです。
一方、ミカンの外皮に多く含まれる、色素成分であるβ‐クリプトキサンチンにも、骨の形成を促進し、骨の破壊を抑制する効果が確認されています。
血糖値の上昇を抑制する効果
(2)糖尿病の予防
β‐クリプトキサンチンには、糖尿病の発症リスクを下げる効果があります。
10年に及ぶ追跡調査によって、β‐クリプトキサンチンの血中濃度が高いほど、糖尿病の発症率が低くなることが確認されました。
一方、酢にも血糖値の上昇を抑える作用があります(詳しくは下項参照)。
作用機序がまったく異なるため、二つを一緒にとることで、糖尿病の予防にさらに役立つと期待できます。
(3)便秘の改善
ミカンの実の薄皮に含まれているペクチンは、水溶性食物繊維の一種です。腸内環境を整え、善玉菌を増やす働きがあります。
一方、酢をとると、胃や腸が刺激され、蠕動運動が活発になります。この相乗効果で、ミカン酢は便通をよくして、便秘を解消してくれます。
(4)ダイエット
ミカンの外皮に含まれる酸味成分のシネフリンには、脂肪の分解を促す消化酵素のリパーゼの働きを活性化する作用があります。また、体脂肪の蓄積を防ぎ、代謝も高めます。
ミカン酢でとるのもよいのですが、シネフリンに限って言うと、焼きミカンにして食べるのもお勧めです。
焼きミカンの作り方は、ミカンをトースターやコンロで外皮が黒くなるまで焼くだけです。すると、外皮の成分が実に浸透するので、ミカンの実だけ食べても、シネフリンの成分が摂取できます。
また、ミカンに含まれる食物繊維のペクチンには、腸内環境を整える作用や、コレステロールの吸収を抑制する作用もあります。脂質異常症の予防改善にも有効です。
酢にも、内臓脂肪や腹囲を減らす効果があります。
実際、酢を大さじ1杯、12週間とり続けた実験では、血中コレステロールと血中中性脂肪の減少が確認されているうえ、CTスキャン(コンピューター断層撮影)の画像診断では、内臓脂肪も有意に減少したことが確認されています。
ミカン酢の液体も果実もどちらも栄養満点!
ミカン酢は、酢の酸味が苦手な人でも、ミカンと氷砂糖のおかげでまろやかで、さっぱりと飲みやすいドリンクになっています。水やお湯で3~5倍に希釈して飲むとよいでしょう。
一方、漬けたミカンにも酢の有効成分が入っています。ただのミカンよりはるかに優れた健康効果があるので、ぜひ外皮ごと食べてください。
なお、ミカンは熱によって損なわれる有効成分もあります。ミカンの健康効果を余すところなく得たい場合は、ミカン酢を作って、5日間ほど常温で置いてから飲み始めるとよいでしょう。
油料理や納豆にも酢をかけて食べる
私は、酢の研究者でもあるとともに、実は、無類のお酢好きでもあります。
私の大好物といえば、酢をたっぷりかけた堅焼きそば。酢を瓶ごとお店に持ち込んで、ドボドボと堅焼きそばにかけます。量にして80mlはかけるでしょうか。見た人は、例外なく驚きますが、これがおいしいのだからしかたありません。
酢には、油の粒子を細かくする作用があるため、油料理との相性が抜群なのです。油のうま味はそのままに、さっぱりとした味わいになるから、はしが止まりません。
それから、納豆に小さじ1杯ほどの酢をたらすのも絶品です。納豆のネバネバが酢で膨らんでふわっとなり、独特のにおいも消えます。納豆が苦手な人でも、これなら食べやすいのではないでしょうか。
酢は、料理の味をワンランクアップさせてくれるほか、驚くほどの健康効果を持っています。それこそ、酢の真骨頂といえるでしょう。
では、すでに科学的に証明されている、数多くある酢の効能についてご説明しましょう。
大さじ2杯の酢で血圧が下がった!
(1)血圧の上昇抑制
酢の主成分である「酢酸」には、血圧を上昇させるホルモンを穏やかに抑える働きがあります。
高血圧の人を対象にした実験では、1日に大さじ1杯(15ml)の酢をとるグループと、大さじ2杯(30ml)の酢をとるグループに分けて、血圧の変化を調べました。
その結果、大さじ2杯とったグループでは、8週間で最高血圧が平均15mmHg程度、最低血圧は平均6mmHg程度、低下することがわかりました(上の図参照)。
ちなみに、血圧が正常な人の場合、酢を飲んだことで、血圧が下がりすぎることはありませんので、ご安心ください。
注意したいのは、酢の血圧を下げる効果は、「飲み続けないと得られない」という点です。
この研究でも、8週目に酢の摂取を止めたところ、その後は血圧が上昇しています。ただし、摂取前よりも上昇することはありませんでした。
また、塩分の取りすぎは高血圧によくないことは知られていますが、実は、酢には塩味を引き立てる作用があります。
酢を少量、料理に加えることによって、少量の塩でもおいしさが引き立つのです。ぜひお試しください。
酢を加えると血糖値の上昇がゆるやかになる
(2)血糖値の上昇抑制
酢には、糖の吸収を穏やかにして、食後の血糖値の上昇を抑制する効果もあります。
食事と一緒に、大さじ1杯(15ml)の酢をとったときの血糖値の変化を調べた実験では、酢をとらないときと比較して、血糖値の上昇がゆるやかになっていることがわかります(下の図参照)。
血糖値の急激な上昇は、肥満の原因になるだけでなく、糖尿病になるリスクや動脈硬化を進行させるリスクも高めます。
しかし、酢を料理や飲み物に加えると、血糖値の急上昇を抑えることができるので、糖尿病の予防や改善に有効です。
(3)カルシウムの吸収率アップ
カルシウムは「食べても体内に吸収されにくい」という難点がありますが、酢と合わせてとると、吸収率が高まります。
特に、殻つきの貝や骨つき肉を煮るときに酢を加えると、貝殻や骨のカルシウムが煮汁に引き出されます。
例えば、シジミのみそ汁なら、酢を加えることによって4.4倍ものカルシウムが煮汁に溶け出します。
このとき加える酢の量は、煮汁300mlに対して、大さじ1杯。この量なら酸味も残りませんから、煮汁を飲んで、カルシウムを補給しましょう。
最後に、酢の選び方ですが、酢には米酢、黒酢、リンゴ酢などのいろいろな種類がありますが、健康効果にかかわる酢酸の量に変わりはありません。
どの酢でも、健康効果は同じなのです。ただし、黒酢にはアミノ酸が含まれるため、代謝アップなどプラスアルファの効果が期待できます。
私のお気に入りは、かつての教え子が石垣島で作っている米酢です。アミノ酸の含有量が、黒酢よりも圧倒的に多く、味もいいからです。
酢の効果は毎日、継続してとらないと得られません。その点、ミカン酢にしておけば、毎日おいしく飲み続けることができます。
ぜひ、お気に入りの酢を見つけて、ミカン酢を作って飲み続けてください。いつの間にか元気になっていることでしょう。