今、注目が集まっている「完全栄養食」。日清「All-in PASTA」は、1食で1日に必要な栄養の1/3の量を摂取できるレトルトの完全食パスタだ。ビタミンやミネラルの味は苦みやえぐみが強く、また、茹でる際に栄養素が流出してしまい、美味しい完全食づくりは難しいとされてきた。そんななか、完全食なのに美味しい!と話題のこのパスタ。どうやって美味しい完全食を開発できたのだろうか。担当者に開発の裏側を直撃取材した。
話題の商品徹底解剖!日清食品「All‐in PASTA」のキーパーソンに訊け!
必要な栄養がバランスよく含まれる食事を続けることはなかなか難しい。そこで今、注目が集まっているのが、それだけで必要なすべての栄養を摂れる「完全栄養食」だ。中でも話題なのが、2019年3月に発売された日清食品の「All-in PASTA」。13種類のビタミンや13種類のミネラル、たんぱく質、食物繊維など、1食で1日に必要な栄養の1/3の量を摂取できる商品だ。開発の裏話や製法の秘密などを、担当者に訊いた。
●キーパーソンはこの人!
約2ヵ月分の在庫が5時間で売り切れ
忙しい毎日の中で、栄養バランスの整った食事を続けることは難しい。筆者もそうだが、炭水化物や脂質は十分に摂取できていても、ビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素は不足しがちになってしまう。
そこで近年、注目が高まっているのが「完全栄養食」だ。中でも、2019年3月に発売された日清食品の「All-in PASTA」は、発売時、約2ヵ月分の在庫が5時間で売り切れるなど、大きな話題となった。
「All-in PASTAは、13種類のビタミン、13種類のミネラル、たんぱく質、食物繊維を含んでいて、1食で1日に必要な栄養の1/3の量を摂取できる完全栄養食です。一般的な乾燥パスタと比べて糖質を30%カットするなど、健康志向になっているのも特徴です」
こう話すのは、All-in PASTAのマーケティングを担当する佐藤真有美さんだ。
必要な栄養を手軽に摂取できる完全栄養食は、さまざまな商品が市場に出回っている。一方で、世間には「食事は栄養補給だけが目的ではない」とか「いくら健康のためとはいえ、おいしくないものを我慢して食べるのはキツい」といった否定的な声が少なからずあるのも確かだ。
「そこは、私たちも意識したポイントです。All-in PASTAの開発では、食事としてのおいしさや満足感も重視しました。しっかりと食べごたえがあり、味もおいしくなければ、食べ続けてもらえないからです。個人的には、自分の子供が自ら食べたいといってくれるような商品を目指しました」
栄養素をここまでたくさん入れた麺の開発は日清でも初めてでした。
All-inシリーズの開発がスタートしたのは、発売の約2年前。最初の半年は、商品のターゲットや仕様などを定めることに費やした。
その結果、商品のメインターゲット層は30~40代のビジネスパーソン男女に決まった。オフィス内で、忙しい仕事の合間にランチとして食べることを考慮すると、汁ものやにおいの強すぎるものは避けなければならない。こうして、第1弾商品としてはパスタが選ばれた。
日清食品All‐in PASTA
ビタミンやミネラル、たんぱく質、食物繊維など、必要なすべての栄養素がおいしく摂れるパスタ
●粗挽き牛肉のコクと旨みの濃厚ボロネーゼ
600円(税別)
※All-in PASTAの販売は、現在のところ通販のみ。
公式サイトはhttps://www.allinseries.jp/
●国産バジルを贅沢に使った香りとコクのジェノベーゼ
600円(税別)
※All-in PASTAの販売は、現在のところ通販のみ。
公式サイトはhttps://www.allinseries.jp/
完熟トマトに唐辛子をきかせたスパイシーアラビアータ
600円(税別)
※All-in PASTAの販売は、現在のところ通販のみ。
公式サイトはhttps://www.allinseries.jp/
栄養の流出や劣化をいかに防ぐかが課題
チームが次に取りかかったのは、麺の開発だ。だが、これが難題だった。
「これまでさまざまな種類の麺を作ってきた日清食品ですが、これだけたくさんの栄養素と組み合わせた麺は初めてでした。ビタミンやミネラルの味は苦みやえぐみが強く、また、茹でる際に栄養素が流出してしまうため、そのまま小麦粉と混ぜるわけにはいきません。さらに、賞味期限の8ヵ月間、栄養素の劣化や酸化も防がないとなりません。検討した結果、栄養成分を麺の内側に閉じ込め、外側から小麦粉ベースの層で包み込む方式にたどり着きました」
この方式を聞いて、筆者は当初、マカロニのように真ん中に穴が空いた麺を用意し、その穴の中に栄養成分を閉じ込める製造方法を想像した。だが、実際はまったく違うのだという。
その仕組みはこうだ。まず栄養素をシート状にし、それを通常の小麦粉をこねた生地で上下から挟み込む。つまり、麺生地で栄養素のシートをサンドイッチのように挟むわけだ。そして、それを薄く伸ばして製麺機に送り込む。
製麺機の切刃は、生地を切り分けて麺にする際に、麺の両サイド部分を丸め込むように工夫されている。こうして、麺の外側は通常の麺生地、内側にはビタミンやミネラルという構造の麺が出来上がるのだ(下の写真参照)。
同社では、この特許出願中の製麺技術を「栄養ホールドプレス製法」と呼んでいる。以前から、同社の「日清ラ王」シリーズなどでも採用している3層麺製法を応用したものだ。仕組みを聞くと単純なことのようにも思えるが、実際には、開発は試行錯誤の連続だった。
「小麦粉の生地はある程度の柔軟性があって伸びるのですが、栄養素は伸縮性がないためボロボロとしてしまって伸びません。研究所でさまざまなやり方を試してうまく伸ばせても、工場の量産機械ではうまくいかないことが何度も続きました」
さらに、やっと満足のいく仕上がりの麺が出来上がっても、実際に食べてみると苦みやえぐみを感じたり、食感がよくないということも起きた。また、茹でた麺を分析すると、想定以上に栄養素がお湯に溶け出してしまっていたこともあった。
こうして、300回以上の試作サイクルを繰り返し、1年間かけてようやく完成にこぎ着けた。
「開発の最終段階では、祈るような気持ちで試作を見守っていました。結果的には麺開発だけで1年かかりましたが、まったく新しい製法に取り組んだことを考えると、異例の速さだったと思います」
ソースが付属しない袋麺タイプもある
今回の取材では、麺と専用のパスタソースがセットになったカップタイプの商品3種を試食させてもらった。
まず食感だが、モソモソした感じを想像していたものの、それはなかった。乾燥パスタとは少し異なるが、これはこれで歯ごたえもあっておいしい。
また、栄養素由来の苦みやえぐみもほとんど感じなかった。ソースの味付けが工夫されていて、それらの味を打ち消してくれているのかもしれない。意識して食べてもこの程度なら、慣れてしまえば、まったく気にならないだろうという感想だ。
All-in PASTAには、ソースが付属しない袋タイプの商品もラインアップされている。自作ソースや、市販のソースで食べたい人向けだ。公式サイトにはさまざまなアレンジレシピも掲載されており、中でも佐藤さんのおすすめは、「チキンのレモンパスタ」だという。
「All-in PASTAが目指したのは、栄養バランスのいい健康的な食事を、楽しくおいしく食べられるということ。3食これだけを食べるのではなく、栄養補給のために1日1食でも、ふだんの生活に取り入れてもらえればうれしいですね」
栄養補給のために、1日1食でも取り入れてもらえるとうれしいですね。
Memo
All-inシリーズの第2弾も気になるところだが、佐藤さんによると、ヌードルタイプの商品の発売を2019年夏ごろに予定しているとのこと。どんな商品になるのか、期待して待ちたい。
◆インタビュー、執筆/加藤肇(フリーライター)