【親指ダイエット】我慢しなくても自然に痩せる?大学教授が失敗を重ね導き出した減量のコツ

美容・ヘルスケア

どんなダイエットでも開始直後は気合いが入ってるので、無意識のうちに食べる量を制限します。飽きるまでは多少なりとも体重が落ちるんです。それならば「ダイエットしてますねん」という感覚をできるだけ長くキープできれば、必ずやせられるはず……。【解説】仲野徹(大阪大学病理学教授・医学博士)

解説者のプロフィール

仲野徹(なかの・とおる)
1957年、大阪市生まれ。大阪大学医学部医学科卒業後、内科医から研究の道へ進み、京都大学医学部講師、大阪大学微生物病研究所教授を経て、2004年から大阪大学大学院・医学系研究科・病理学教授。著書に『(あまり)病気をしない暮らし』(晶文社)ほか多数。

特定の食材を食べ続ける方法は必ず失敗する!

皆さん、はじめまして。私は、大阪大学で「病理学」という学問を教えております。これは、「病気がどのようにして起こるのか」を研究する学問です。

そこで今回は、『病理学におけるルドルフ・ウィルヒョウの系統的病理解剖への貢献に関する考察』でも講義しようと思ったのですが、編集部のかたに断られてしまいました(笑)。しかたがないので、「ダイエット」についてお話しします。

実は私、「ダイエット入門」の達人なんです。くれぐれもいっておきますが、ダイエットの達人ではなく、「入門の達人」。さまざまなダイエットを試みるのが趣味で、これまで10数種類ほども試してきました。

その輝かしい成果として、25年前には87kgあった体重が、現在では、77kg前後です。ありがたいことに、20代のころと同じくらいで落ち着いています。

肥満の尺度であるBMI値は、正常値ギリギリの25未満に保たれています(BMIは、体重=kgを身長=mで2回割った数値)。ちょっと甘いですが、ダイエット成功者といっても差し支えないでしょう。

では、どんな方法でダイエットに成功したかをご紹介する前に、涙なしには語れない失敗例について触れておきましょう。

まずいえることは、失敗したダイエット法のほとんどが、短期間でやめたものです。効果がなくて断念したのもあれば、飽きてしまって、いつの間にかやめてしまったのもあります。

世間で喧伝されるダイエット法として定番なのが、「低カロリー(エネルギー)ダイエット」です。とにかく、カロリーが低い食材でおなかを満たしてしまえばいいと。その理屈は、シンプルですしもっともです。

私が試したのは、寒天。みそ汁に混ぜて飲むとか、トマトジュースを固めたトマト寒天を食べるとかいう方法です。

確かに、寒天をとれば多少おなかが膨れるので、そのあとに食べる量は減ります。「これは、ついに開眼だ!」となるはずなんですが、いかんせんマズい。

トマト寒天を数ヵ月続けたところ、少し体重は減りましたがあきらめました。作るのもじゃまくさいし、食事の前にトマト寒天を口にすると、なんともわびしい。そのうえ、私に向けられた家族の視線が、寒天よりも冷たかったし……。

寒天に限らず、「特定の食材を食べ続ける方法」は、やはりお勧めできません。

ふだんの食事よりはカロリー量が減るので、多少はやせますが、とにかく続かない。理由は、飽きるから。たとえ朝だけといっても、毎日同じ食材をとり続けるのは、飽きてしまってあきません。

次は、「炭水化物(糖質)制限ダイエット」。カロリー計算などというめんどくさいことせんでも、炭水化物をズバッとやめたらどうしたってやせるやろ!という方法です。

私も達人ですから、炭水化物制限をやってみました。すると、みるみる体重が減るではありませんか。「これは、ついに開眼だ!」と再び喜んだのはいいのですが、体調がえらく悪くなりました。

炭水化物を制限するというのは、非常に偏った栄養状態になるわけですね。やせるというより、やつれているんではなかろうかと。

だいたい、タコ焼き、お好み焼き、うどんなど「粉もん」文化の本場である大阪で暮らしている、筋金入りの大阪人である私が、そもそも続けるのは不可能でした。

運動の消費カロリーなぞたかが知れたもの

食べ物があかんのなら、体を動かしたらええんちゃうか、ということで、肉体改造系のダイエットにも挑みました。

まず、「骨盤のゆがみを直すエクササイズ」。これは、やらなきゃよかったダイエットのぶっちぎり1位です(笑)。たちまち、生まれて初めてギックリ腰になりました。

次に、「呼吸法を取り入れたダイエット」。名前は忘れましたが有名な俳優さんがやってた、めっちゃめちゃ深呼吸する方法です。これはやせたような、そうでもないような……。

そもそも、運動してやせるというのは非常に難しい。確かに、運動してカロリー消費をすれば、ダイエットに役立つでしょう。でも、どんなに激しい運動をしても、消費カロリーなんてたかが知れてるんです。

例えば、体重65kgの男性が、時速8kmで1時間走ると、消費カロリーは500~600kcal。ビール大瓶1本が250kcalなので「よう汗かいたわぁ」なんて2本も飲んだら元の木阿弥。運動したあと、飲まず食わずというわけにはいきません。

かくして、達人である私が見つけ出した法則は、「どんなダイエットでも、始めてすぐは体重が減る」ということです。

開始直後は「やせたるで」と気合いが入ってるので、無意識のうちに食べる量を制限します。だからこそ、飽きるまでは多少なりとも体重が落ちるんです。

それならば、ダイエットしてますねん」という感覚をできるだけ長くキープできれば、必ずやせられるはず……。

この単純にして明快な原理から私が導き出した、究極にして至高の方法こそ、「親指ダイエット」です。次の項で、その全貌をご紹介しましょう!

ダイエット中であることを条件反射で思い出す

私が導き出したダイエットの原理は、「ダイエットをしている意識を常に持てば、必ずやせられる」というものです。

たいていの人は、ダイエットをしているはずなのにそれを忘れ、ついつい食べてしまう、これが失敗の原因です。そこで、食事中でも「あ、ダイエット中やったわ」と思い出し、食べる量を少しでも減らすことができれば、そして、そういう状態が長く続けば必ずやせるのです。

誰でも食事をするとき、必ず利き手の親指のつめが目に入ります。そこにダイエット中であることを思い出させる印をつければ、食べ過ぎを防げる……。こうして誕生したのが、「親指ダイエット」なのです(下の図参照)。

はて、どんな印がいいかと思案したところ、大好きな漫才師である大木こだま師匠を思い出しました。「チ」と大きく書いた親指の腹を突き出し、「そら、チッチキチーやでぇ」という往年のギャグです。

そこで私も「チ」と書こうと思ったのですが、指の腹とつめとは逆。キとチを入れ替えて「」と書くことにしました。

利き手の親指のつめに、カタカナの「キ」と書いておく。ダイエット中であることを意識することが目的なので、シールを貼るのもよい。食事の際に親指のツメを見るたび、ダイエット中であることを思い出す。

必要なのは、ダイエット中だと自分で意識することなので、何も書かなくてもけっこう。シールを貼るのもいいですな。私の友人の細君は、「ブタ」と書いたそうですが、そこまで卑屈にならんでもええでしょう。

さて、この親指ダイエットに賛同してくれたのは13人。フェイスブックで仲間を募りました。私を含めた総勢14人のうち、女性9人、男性5人で、年齢は30代~50代(発足当時)でした。

とりあえずのお試し期間とした3ヵ月が過ぎたところで、おおよそ満足できる成果が得られました。

全員の減量の平均値は3.8kgでした。1ヵ月めの平均が2kgだったので、まずまずのペースです。いちばんいい結果を出したK君は、1年かけて18kgの減量に成功。かくいう私は、5kg減が目標でしたが、4.7kg減で、ベルト穴を一つ縮めることができました。

親指ダイエットをやってみて感じるのは、あまり苦もなく楽にやせられたということです。これは、正直少し驚きました。

まずは、とりあえず始めることが肝心です。実際、2~3週間も経つと、何も書かなくても、利き手の親指のつめを見ただけで、「パブロフの犬」のように、条件反射で「あぁ、ダイエットしとるんやった」と思い出せるようになってきます。

そして、始めてから2ヵ月もすると、自然と体がダイエット状態に慣れるのか、意識せんでも食べる量が減ってきます。そうなったらしめたもの。おまけに、体重が減り出したらそれが快感になって、我慢しなくてもダイエットを続けたろ、という気になってくるものです。

食べ物を残すことをためらわない!

この親指ダイエットには、三つの掟があります。

まず、ダイエット仲間を募ることです。私の場合、フェイスブックでグループを作りました。これが、大きな成果を上げたのは間違いありません。

月に1度、メンバーで成果を発表する機会を設けました。うまくいってもいかなくても、体重の増減を申告しなければいけないという箍(たが)があると、日ごろから節制するものです。

パソコンやインターネットをお使いにならないかたであれば、ご近所や老人会などでお仲間を募ってみてはいかがでしょうか。

二つめの掟は食べ物を残すことをためらわないです。

私くらいの世代は特に、「食べ残しは罪」みたいな感覚があるもの。しかし、目の前にある食べ物を、アフリカで飢えている恵まれない子供に分けてあげられるはずがありません。

食べ残しはあえて捨てる→やせて健康になる→医療費を浮かせる→ユニセフに寄付!というように気持ちを建設的に切り替えてください。慣れてくると、あらかじめ少ない量を見極められるようになって、食べ残しも減ってくるものです。

食事の面で最悪なのが、食べたい物をいっさい断つこと。好きな物は食べてけっこう。ただし、量を減らして残すのです。我慢して限界を超えると、すさまじい反動で食べてしまい、かえってリバウンドします。

三つめの掟は、激しい運動は不要!けど、せめていっぱい歩きませんかです。

歩くことは、体への負担が少ない最良の運動法。いつもの電車やバスを一つ前で降りて、できるだけ歩く習慣を身につけていただきたい。ウォーキングというと苦しそうですが、長めの散歩と考えたらとても楽しい。

私は、毎日の歩数と朝の体重を記録しています。手書きのグラフを始めて、すでに12年。ダイエットにおいて、記録することは絶対に効果的です。

どないです?お金は全くかからないので、ぜひお試しください。もし、失敗しても「あのオッサン、ええ加減やわ」と笑い飛ばしたらええだけです。

この記事は『壮快』2019年7月号に掲載されています。

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