「足の指を鍛えて健康寿命を延ばそう」と「あしゆびプロジェクト」という、独自の取り組みを行っている大阪府泉大津市。国内産毛布において9割超のシェアを占める「日本一の毛布のまち・いずみおおつ」の『モフ草履』とは?【お話を伺ったかた】南出賢一(大阪府泉大津市長)
足指を鍛えながら地元の産業をPR
大阪府泉大津市「あしゆびプロジェクト」ホームページ
http://www.city.izumiotsu.lg.jp/ashiyubi/project.html
「足の指を鍛えて健康寿命を延ばそう」と「あしゆびプロジェクト」という、独自の取り組みを行っている自治体があります。
それが、大阪府泉大津市。大阪府の南部にある市です。泉大津市といえば、NHKの連続テレビ小説『まんぷく』で、ヒロインの夫・萬平さんが製塩業を行っていた海沿いの町ですが、江戸時代には真田紐をはじめとした繊維産業が興り、明治以降は「毛布のまち」として発展したそうです。
現在も、国内産毛布においては9割超のシェアを占めており、「日本一の毛布のまち・いずみおおつ」が市のキャッチフレーズになっています。
しかし、なぜ「毛布のまち」で、「足の指を鍛える」取り組みをすることになったのでしょうか。泉大津市役所を訪ねて、お話を伺いました。
庁舎を訪ねると、まず目に留まったのが「あしゆびプロジェクト」ののぼりと、職員の皆さんの足元です。職員の多くのかたは、5本指ソックスに、鼻緒のついた草履やサンダルをはいて仕事をしていました。
実は、これも「あしゆびプロジェクト」の一環で、自然と足指を使って歩くことができるように、職員に鼻緒のついたはき物の着用を推奨しているのだとか。
もちろん、南出賢一市長(39歳)も、スーツに草履で登場です。
「これは、私が編んだ『モフ草履』なんですよ。庁舎内ではこの草履をはき、外出のときは足袋形の靴をはいて、あしゆびプロジェクトを市内外に広くPRしています」(南出市長)
草履を脱いで見せてくれながら、熱のこもった説明が続きます。
「『モフ草履』とは、泉大津市の特産品である毛布の、へりの部分(毛布の周囲に縫い付けられている素材)で編んだ布草履のことです。昔から地元の人は、毛布を生産したさいに余ったへりを、ひも代わりにして古新聞を縛ったり、畑の野菜や花を支柱に結んだりするのに使っていたほど、身近な素材だったそうです。
この毛布のへりの活用法について、地元産業の歴史を紹介している市立織編館の発案で『毛布のへりで布草履作り』を始めました。それと合わせて、自作した草履を愛着をもってはこうという『ひとり一足運動』を広めることにしたのです。地元の産業を紹介しつつ、足指を鍛えることができる、一石二鳥のアイデアです」(南出市長)
また、職員の皆さんは、鼻緒のついたはき物の着用に加え、週3回、始業前に「あしゆび体操」を行っているとのこと。
「これらの効果を検証するため、延べ203人の母趾(足の親指)と第二趾(足の人さし指)の挟む力のビフォーアフターを測定しました。そのうち、効果比較が可能だった79名の測定値の平均を比べたところ、ほとんどの年代で、数値が上昇していました。この取り組みは、今後も継続して実践していきます」(南出市長)
《2018年測定平均値比較》
職員の皆さんからは、
・足先が冷えなくなり、湯たんぽがいらなくなった
・足先の踏ん張る力がついたように感じる
・人を避けるときに体がぐらつかなくなった
・草履をはき始めた頃は、歩くときによく脱げていたが、足指に力がついて脱げなくなった
などといった感想が聞かれたそうで、効果を実感していることがわかります。
ちなみに「モフ草履」の名称は職員のかたがたの投票によるもので、市のマスコットキャラクター「おづみん」がモフモフの羊ということもあり、音の響きがかわいい「モフ草履」が選ばれたということです。
「モフ草履」の作り方は、毎月開催している講座で、5名のモフ草履アンバサダーさんから直接教わることができるほか、市のホームページでも、作り方の動画が公開されています。
ひとり一足運動 毛布の縁で「モフ草履」をつくろう
http://www.city.izumiotsu.lg.jp/kakuka/kyoikuiinkai/oriamukan/1534231197075.html
健康な体の土台づくりに足指の力が不可欠
ところで南出市長は、いつ頃から足の指に注目し、どういった経緯でプロジェクトを始めたのでしょうか。
「平成29年1月に市長に就任し、平成30年度から『あしゆびプロジェクト』をスタートしましたが、足の指に注目していたのは5年以上前からです」(南出市長)
元気な泉大津をつくるには、地域産業の活性化と市民の健康増進が不可欠。市議会議員時代からさまざまな勉強会を重ねるうちに、自然と、健康な体づくりに足の指や足の裏が重要だと考える人が周りに集まっていたのだとか。
「現代人の多くは、浮き指、偏平足、外反母趾、巻き爪など、足指になんらかの異常を抱えていると言われています。高齢者の要介護の原因となる転倒は、足指が浮いていることでリスクが高まります。
幼児期から日常の遊びや生活の中で足指を鍛えることで、体幹を安定させ、正しい姿勢を身につけ、生涯寝たきりにならない健康な体を維持するための土台づくりが必要です」(南出市長)
こうした思いから、プロジェクト化を行い、「あしゆび体操」のほかにも、整形外科医の指導による「転ばぬ先のあしゆびケア」という3分間マッサージや、スポーツトレーナー監修の「あしゆび体幹体操(初級・中級・上級・こども向け)」などを次々と発表してきました。
各体操は、泉大津市のホームページで動画を見ることができるようになっているので、読者の皆さんもやってみてはいかがでしょうか。
市長ご自身も、「あしゆびプロジェクト」の効果をすでに実感しているそうです。
「私は、高校・大学とボクシング部に所属して、毎日ハードな練習で汗を流していました。ところが、引退してすっかり運動習慣がなくなった20代後半頃から、冬になると足の冷えを感じるようになりました。
しかし、昨年から草履をはき、あしゆび体操をしているうちに血流がよくなって、いつの間にか冷えがなくなり、腰痛も改善されました。また、足指がしっかり開くようになり、外反母趾の痛みも軽くなったという職員もいます」(南出市長)
国内のみならず海外からも注目
現在、市内すべての公立幼稚園・保育所・認定こども園で、4歳・5歳児を対象に「あしゆび体操」「あしゆび体幹体操」のほか、足指ジャンケン、フットパズルなどの遊びを実践してもらっているそうです。
さらに「あしゆびプロジェクト」のモデル園となった施設では、子どもたちに、園内で協賛企業の足袋形シューズをはいて活動してもらい、今後、足指の力や体力向上効果を検証していく予定とのこと。
手始めに、昨年10月と今年3月の開眼片足立ち(目を開けて片足で立つ)の秒数を計測して比較したところ、4歳児の平均が、18.2秒から30.0秒に大幅アップ!5歳児の平均も41.7秒から52.6秒へとアップしており、手ごたえを感じている様子。
「それに、足袋形シューズは『忍者みたいでカッコイイ!』『かけっこが速くなった!』と子どもたちに大人気なんですよ」(南出市長)
健康面だけでなく、楽しさや面白さ、機能面の訴求もポイントなんですね。
高齢者にも、転倒予防・寝たきり予防・認知症予防だけでなく、「足指を鍛えて姿勢が整うと、若々しく美しく見えますよ」と、美容面からアピールするのもいいかもしれません。
「おかげさまで、『あしゆびプロジェクト』は新聞各紙で取り上げられたほか、NHKの番組で世界へ配信され、大きな注目を集めています。私たちは、このプロジェクトが、日本全国の共通課題の解決モデルになると確信しています。今後も、市民の皆さんと楽しく取り組みながら、泉大津市から全国に発信していきたいと思います。
現在、大阪府立大学の先生と連携して、エビデンス作りに取り組んでいますので、間もなく発表できる予定です。そして、将来的には、7万5千市民の足のデータを測定し、ビックデータ化して活用できれば、と考えています」(南出市長)
若いエネルギーで、官民連携プロジェクトを推進する泉大津市長。今後の展開から目が離せません。
大阪府泉大津市「あしゆびプロジェクト」ホームページ
http://www.city.izumiotsu.lg.jp/ashiyubi/project.html
取材・構成/羽田野友美子