【副鼻腔炎の治療法】咳との意外な関係 漢方薬で症状は治せるの?

美容・ヘルスケア

呼吸器内科専門医の杉原徳彦医師は、長引く咳は「鼻」が原因のことが多いという。鼻に炎症があると、気管支に向かって炎症性の物質が鼻水とともに流れ、それが原因で気道が敏感になり、咳が出やすくなるという。鼻の炎症が副鼻腔炎だった場合の治療法について、そして漢方薬の効果について解説してもらった。

解説者のプロフィール

杉原徳彦(すぎはら・なるひこ)
医療法人社団仁友会仁友クリニック院長。医学博士。専門は呼吸器内科。日本内科学会認定医、日本アレルギー学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、全日本スキー連盟アンチドーピング委員。著書に『つらいせきが続いたら鼻の炎症を治しなさい』(あさ出版)などがある。
▼研究論文と専門分野(NII学術情報ナビゲータ)

長引く咳の原因は「副鼻腔炎」の場合がある

長引く咳の原因が副鼻腔炎の場合、どのような治療が行われているのか解説しましょう。

副鼻腔炎は、大きく

(1)急性副鼻腔炎
(2)慢性副鼻腔炎

の2つに分類されます。

長引く咳の原因となるのは、おもに(2)の慢性副鼻腔炎です。

その治療法として、薬物療法がメインとなります。
そして、それでも効果が見られない場合や、重症の慢性副鼻腔炎の患者さんの場合、手術の選択肢も出てきます。

ここでは、薬物治療について見ていきましょう。

代表的な2つの薬物治療

薬物療法で一般的に行われているのが、

マクロライド系の抗菌薬を投与する(3〜6カ月)
ステロイド薬やマクロライド系の抗菌薬+ネブライザー治療(霧状の薬液を鼻から吸入する)

というものです。

マクロライド系の抗菌薬には、バイオフィルムという、炎症の原因となっている細菌たちを生息させている、薄い「テント」のような膜をはがす効果があります。
住処であるバイオフィルムを奪われた細菌たちは、無防備な状態となってしまいます。

すると、体の免疫システムによってかんたんに細菌を死滅させていくことができます。
その結果、粘膜の炎症は解消していくわけです。
この治療は非常に効果があり、治療した患者さんの7〜8割で、副鼻腔炎の症状が改善するといわれています。

ちなみに、抗菌薬は、投与量が多くなると、その薬が効かない細菌(耐性菌)を出現させるため、基本的に長期投与は避けなければいけません。

ただ、マクロライド系の抗菌薬は、それほど細菌を殺す力は強くなく、専門家の間でも、「殺菌剤」ではなく、「抗炎症剤」(炎症を抑える作用をもつ薬)として位置づけられています。
そのため、投与量を少量に押さえつつ、あえて長期的に投与する方法が採られているのです。

こうした、マクロライド系の抗菌薬を使った治療+ネブライザー治療という副鼻腔炎のベーシックな治療によって、長引く咳は、早い人でだいたい1週間以内に改善が見られ始めます(咳については、咳止めも同時に処方します)。
一方、副鼻腔炎そのものの治療については、年単位を覚悟する必要があります。

また、後鼻漏の症状が強い患者さんには、「鼻うがい」によるセルフケアも、ベーシックな治療と併用して、日常生活で行ってもらうようにしています。
鼻うがいを続けることで、副鼻腔にたっぷり溜っている膿を少しずつ取り除いていくことができ、後鼻漏の症状もやわらぎやすくなります。

「好酸球性副鼻腔炎」は気管支ぜんそくと合併しやすい

なお、好酸球性副鼻腔炎の患者さんの場合、こうした治療は効きません。
これは、好酸球という白血球の一種が、粘膜の炎症部分で過剰になる疾患で、鼻水や鼻づまりのほか、嗅覚障害なども生じます。
手術しても再発をする可能性が高く、2015年には難病に指定されています。

気管支喘息と合併しやすいことで知られており、長引く咳の原因が好酸球性副鼻腔炎というケースもあります。
この場合は、ステロイド薬を使った薬物療法が一般的ですが、症状が改善しても再発する可能性が高くなります。
ステロイド薬の長期使用は副作用のリスクがあるため、再発をくり返す場合には、手術となる場合もあります。

しかし、手術をしても再発率が高く、治りにくいのが現状です。
ただし、近年は好酸球性副鼻腔炎を合併している重症喘息の場合は、たいへん高額な薬剤ですが、生物学的製剤も非常に効果があります。

副鼻腔炎で「手術」となるケース

副鼻腔炎でも、アレルギー性鼻炎と同じく、手術も検討される場合があります。
それは、

・ベーシックな治療で効果が出ないとき
・一般的な治療ができないとき(鼻腔内のポリープが大きくなるなど)
・日常生活に重度の支障があるとき(嗅覚障害や味覚障害など)
・好酸球性副鼻腔炎のとき

などになります。
副鼻腔炎の手術は、現在、内視鏡を用いて行われるのが一般的です。

鼻腔と副鼻腔とをつないでいる「自然口」の周辺の骨を削ってその口を大きくする、鼻腔内をふさいでいる鼻茸を切除する、といったことを行っていきます。
そうすることで、副鼻腔内に溜った膿を取り除き、かつ副鼻腔でつくられる鼻水が鼻腔に流れ出しやすくなります。

ただ、手術で副鼻腔内から大量の膿を取り出すことができても、その粘膜そのものには炎症が残ることもあり、その場合は再発しやすくなります。
好酸球性副鼻腔炎に関しては、非常に再発率が高いのです。
再発となれば、薬物療法によって治療を続けたり、状態によっては再手術をしたりというケースもあります。

漢方薬で「長引く咳」は治せる?

患者さんの中には、西洋薬に対して抵抗感をもつ方もおり、「漢方薬で治せませんか?」と相談を受けることがあります。
もちろん、漢方薬の中には、こうした疾患に効果があるものもあり、治療でも使われているケースが少なくありません。

私は漢方医ではないので、この本でくわしくお伝えすることはできませんが、咳や痰、鼻水、鼻づまりなどの症状に効く漢方薬としては、以下の図表に示すものが知られています。

  • 麦門冬湯(バクモンドウトウ)
  • 五虎湯(ゴコトウ)
  • 清肺湯(セイハイトウ)
  • 辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)
  • 小青竜湯(ショウセイリュウトウ)
  • 荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ)
  • 葛根湯加川芎辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)

患部にフォーカスして治療をしていく西洋医学と異なり、東洋医学での治療の基本は、「くずれている体のバランスを、もとに戻す」治療となります。
炎症が起こっているのは、東洋医学では「そこに過剰な熱がある」という解釈になります。

そこで、漢方薬等でその熱を体のほかの場所に分散することで、その部分をニュートラルな状態にし、炎症を解消していく、という治療法になります。

さらに、治療によって体のバランスが整うことで、本来の自然治癒力を取り戻し、自分に備わっている抵抗力で細菌等もとり除いていける、と東洋医学では考えます。
なので、漢方薬は西洋薬のように、細菌等に直接働きかけるタイプの薬ではありません。

「漢方薬は効果が出るのに時間がかかる」はウソ

漢方薬の場合、長期間、継続して飲まないと効果が現れないのではと思われるかもしれませんが、それはじつは誤解です。

体質や症状などに合った漢方薬であれば、西洋薬と同じくらいの即効性があるといわれています。
逆に、すぐに効果が出ない場合は、その漢方薬が合っていないといえます。

なので、漢方医であれば、それこそ1週間飲んでも効果が出ない場合、その人に合うものを診察で探っていき、別のものを処方していくといいます。

そして、もう1つ、多くの方が漢方薬について誤解しているのが、「漢方薬には副作用がなく、安全である」です。

しかし、残念ながら、漢方薬にも副作用はあります。
なかには、空咳や動作中の呼吸困難などを症状とする「薬剤性間質性肺炎」など、重篤な副作用が出ることもあります。

そもそも漢方薬は、さまざまな生薬の組合せによってつくられています。
その中には激しい副作用をもたらすものもあり、それを打ち消しつつ、効果を最大限に発揮できるように、何千年とかけてその組み合わせが試行錯誤されてきたわけです。

そうした長い歴史の中でつくられていったものであるぶん、安全性はある程度確保されていますが、副作用はけっしてゼロではありません。リスクについては西洋薬と同じくらいと考える必要があります。

また、漢方薬の中には、ドーピング検査に引っかかるものもあります。
成分に「麻黄」という生薬が含まれているもの(五虎湯、小青竜湯、葛根湯加川芎辛夷)などです。

そのため、アスリートの世界では、「漢方は使うな」という指導が行われているくらいです。
漢方薬にはこうしたリスクがあることを考慮し、服用する際には、やはり専門医の診断をきちんと受けて、その判断に従うようにしましょう。

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◆杉原徳彦(すぎはら・なるひこ)
1967年8月13日生まれ。杉原家は江戸時代から続く医師の家系で、17代目の医師になるものとして生を受けるが、レールの敷かれた人生に反発し、高校時代は文系を選択。部活のスキーの大会で肩関節を脱臼し手術を受けたことで、医師の仕事のすばらしさに目覚め医師を志す。94年、杏林大学医学部を卒業。2001年、同大学院修了。東京都立府中病院(現・東京都立多摩総合医療センター)呼吸器科勤務を経て現職。自らも喘息を患った経験があり、教科書通りの医療では良くならない患者がいることに疑問をもち、上気道と下気道の炎症に着目した独自の視点で喘息診療を行っている。仁友クリニックを設立し、喘息治療で功績を残した杉原仁彦は祖父にあたる。

※この記事は書籍『つらいせきが続いたら鼻の炎症を治しなさい』(あさ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。

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