【変形性股関節症とは】痛みは関節軟骨のすり減りによる炎症で起こる 日本では40~50代の女性に多く発症

美容・ヘルスケア

痛みの出る部位は脚の付け根(そけい部)の前面です。歩いているときに、あるいは歩きだしたときに股関節の前側が痛い、あるいは太ももの前側が痛むというのであれば股関節の疾患が疑われます。【解説】大川孝浩(久留米大学医療センター病院長/整形外科・関節外科センター教授)

解説者のプロフィール

大川孝浩(おおかわ・たかひろ)
久留米大学医療センター病院長/整形外科・関節外科センター教授。1990年、久留米大学大学院医学研究科修了。済生会二日市市病院整形外科部長、米国ベーラー医科大学への研究留学を経て、2019年より現職。日本整形外科学会専門医・スポーツ認定医・リウマチ医。主な著書に「変形性股関節症は自分の骨で治そう」(共著、メディカ出版)などがある。

脚の付け根の前側に痛みが出る

変形性股関節症は、関節軟骨がすり減って炎症が起こり、股関節の周辺に痛みを訴える病気です。

炎症をそのまま放置しておくと、関節の変形が進行し、慢性的な痛みのために、歩行が不自由になり、日常生活にさまざまな支障が出てきます。

痛みの出る部位は、脚の付け根(そけい部)の前面です。歩いているときに、あるいは歩きだしたときに股関節の前側が痛い、あるいは太ももの前側が痛むというのであれば、股関節の疾患が疑われます。

股関節の病気にはさまざまなものがあります。その中で、股関節の痛みを訴える患者さんの多くに変形性股関節症がみられます。

加齢に関係して発症する病気ですが、後で記すように日本では比較的若い、40~50代の女性に多く発症しています。

股関節への過剰な負担で関節の軟骨がすり減る

どうしてこうした病気が進行するのでしょうか。

股関節は胴体と脚をつなぐ関節で、体の中で一番大きく、骨盤の左右にあります。構造はお椀状の骨盤のくぼみ(寛骨臼)に、球状の、脚の骨の先端(大腿骨頭)がはまり込んでいます(下図参照)。いわば寛骨臼が丸い屋根のようにかぶさっていて、大腿骨頭の約80%を覆っています。

日常の動作で、ここには大きな負荷が絶えずかかっています。

例えば、片足で立つと、大腿骨頭には体重の約3倍近くもの力がかかります。時速5kmで歩くと体重の約4.8倍、かけ足や軽いジョギングでは体重の5.5倍から7.2倍の力がかかります。あおむけに寝て、片足を上げるだけでも、1.8倍の力がかかります。

関節にかかる負担を和らげるために、寛骨臼と大腿骨頭の表面は、関節軟骨という、弾力のある柔らかな組織に覆われていて、股関節にかかる衝撃を吸収するクッションの役割を果たすと同時に、関節の動きを滑らかなものにしています。

この関節軟骨が、股関節にかかる過剰な負担によってすり減ると、すり減った軟骨のかけらが炎症を引き起こし、痛みを訴えるようになります。

さらに軟骨がすり減ってくると、衝撃を吸収する能力が低下して、骨と骨とが直接ぶつかって変形し、痛みがさらに増していきます。

日本人の股関節症は加齢だけが原因ではない

こうした関節症は、股関節に限らず、肩やひざ、足首など全身の関節に起こる可能性がありますが、関節によって特徴があり、あまり痛みのない関節症もあります。場所によって発生頻度にも差があります。

また、関節症には一次性と二次性とがあります。
一次性というのは、関節症の原因となる疾患がなく、形状に異常を伴わないもので、主に老化現象として起こってくるものです。

欧米の変形性股関節症のほとんどがこの一次性で、加齢や肥満によって起こってきます。年齢も60代以降に多く発症します。

これに対して、関節の形状の異常やなんらかの疾患を伴うものを二次性といいます。こちらは単純に加齢による病気とはいえません。

日本の変形性股関節症では、圧倒的に二次性が多く、9割以上を占めています

最も多いのは、発育性股関節脱臼(乳児期に股関節がはずれた状態)や、寛骨臼形成不全(発育の過程で生じる股関節が不完全な形状)があるときに発症するもので、40〜50代の女性に多く発症する傾向があります。

素人判断は禁物専門医に受診しよう

診断はレントゲン撮影で行われ、四つの病期に診断されます。

(1)前股関節症
(2)初期股関節症
(3)進行期股関節症
(4)末期股関節症

専門医は、股関節の痛みを訴えてはじめて受診された患者さんのレントゲン写真を見るとき、まず寛骨臼形成不全があるかどうかを確認します。

股関節症の初期と末期のレントゲン写真

次に注意するのが、「関節のすき間」です。

このすき間を医学用語では「関節裂隙」と呼び、関節軟骨の厚みを表しています。このすき間がどのくらい残っているか、すなわち軟骨がどれくらい残っているかが、股関節症の進行度をみる大きなポイントになります(上の写真参照)。

変形性股関節症の症状は気づきにくいことが多々あります。はじめは運動後や長く歩いた後などに、股関節に限らず、お尻や太もも、ひざの上などに鈍痛として現れ、数日すると治まってしまいます。

症状を見逃していると、徐々に進行し、関節の可動域が制限され、以前と比べて足の爪が切りにくくなってきたり、靴下の着脱が難しくなってきたりします。変形のある側の足が短くなり、肩をゆすって歩くようなことも出てきます。

痛みは運動時だけでなく、安静にしても現れ、耐え難いものになってしまいます。生活に支障が出る前に、股関節の専門医を受診することをまず考えましょう素人判断は禁物です

股関節の動きが悪くなると日常生活にさまざまな支障が出る

この記事は『安心』2019年10月号に掲載されています。

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