口呼吸の人は舌の力が弱いため、物を飲み込むとき舌を上あごに押しつけることができず、食べ物といっしょに空気も飲み込んでしまうのです。これを「呑気症」といいます。おなかの張りやゲップ、胸やけ、おならといった、いわゆる「ガス腹」の症状を引き起こします。【解説】今井一彰(みらいクリニック院長)
解説者のプロフィール
今井一彰(いまい・かずあき)みらいクリニック院長。日本病巣疾患研究会副理事長。『自律神経を整えて病気を治す 口の体操「あいうべ」』(マキノ出版)、『足腰が20歳若返る 足指のばし』(かんき出版)など著書多数。
口から飲み込んだ空気がおならやゲップに!
「口呼吸が体にさまざまな害を及ぼす」という考えから、私は患者さんに、鼻呼吸を指導しています。
鼻呼吸をしている人は、物を飲み込むとき、舌を上あごに押しつけてのどに送り込みます。ところが、口呼吸の人は舌の力が弱いため、舌を上あごに押しつけることができず、食べ物といっしょに空気も飲み込んでしまうのです。
これを「呑気症」といいます。空気が消化器に入ってしまうため、おなかの張りやゲップ、胸やけ、おならといった、いわゆる「ガス腹」の症状を引き起こします。
また、空気中には、ホコリや細菌、ウイルス、花粉など、さまざまな異物や病原菌が混ざっています。
鼻呼吸ならば、それらを吸い込んでも、鼻毛や鼻の粘膜に生えている線毛、粘液などに吸着され、鼻水や痰となって排出されます。
ところが、口呼吸をしていると、口の中が乾燥し、唾液による殺菌・消毒作用が発揮できなくなります。そのため、異物や病原菌が体内に入り込み、のどに炎症が起こったり、腸内に悪玉菌が増えたりします。
腸内環境が悪化すると、ガスが発生しやすくなります。これも、口呼吸によってガス腹が起こる原因の一つです。
呑気症によるガス腹は病気ではありませんが、おなかが張るのは苦しいものですし、腸内環境が悪くなれば、全身に悪影響が及びます。しょっちゅうゲップをすることで胃酸が逆流し、逆流性食道炎につながる危険性もあります。
さらに、人前で頻繁にゲップやおならが出たり、おなかがグルグル鳴ったりすると、不安や緊張が高まって、「外出できない」「人に会いたくない」など、生活に支障が出るケースも出てきます。
ぜひ早急に、口呼吸を鼻呼吸に変えましょう。
口を大きく動かすと腸が活発に動きだす
鼻呼吸を習慣化するために、私がお勧めしているのは、「あいうべ体操」と「口テープ」です。あいうべ体操は、舌と口の周囲の筋肉を鍛えるために、私が考案しました。
舌は本来、上あごについているのが正しい状態です。ところが先述したとおり、口呼吸の人は、舌の力が弱くて上あごから離れ、口周りの筋肉も緩んでいます。
舌と口周りの筋肉を鍛えて、口をしっかり閉じ、鼻呼吸に導くのが、あいうべ体操です。
やり方は、下の図をご覧ください。大げさなくらい口を大きく動かして、ゆっくり行うのがポイントです。1日合計30回を目安に、毎日続けてください。朝晩15回ずつ、朝昼晩10回ずつなど、何回かに分けてもかまいません。
■あいうべ体操のやり方
【ポイント】
・大げさなくらい口を大きく動かす。
・(1)~(4)を4秒くらいかけてゆっくり行う。
❶「あー」と、口を大きく開く。
❷「いー」と、口を大きく横に広げる。
❸「うー」と、口を前に突き出す。
❹「べー」と、舌を突き出して下に伸ばす。
*(1)~(4)を1回として、1日30回を目安に毎日続ける。
あいうべ体操で、舌が上あごに密着するようになると、空気を飲み込むことが減り、呑気症が改善します。
加えて、あいうべ体操で口を大きく動かすと、腸は「食べ物が消化管に入る」という信号を受け取り、活発に動きだします。便秘が解消して腸内環境がよくなり、ガス腹も軽減していくでしょう。
口呼吸を防ぐもう一つの方法が、口テープです。
ふだんは意識して鼻呼吸をしている人も、睡眠中は口呼吸になっていることが少なくありません。「イビキをかく」「朝起きたときに口が乾いていたり、のどが痛かったりする」という人は、口呼吸になっている可能性大です。
口テープは、薬局などで売られている医療用のテープ(サージカルテープやばんそうこう)を、唇の中央に縦に貼って寝るだけです(下の図を参照)。毎日続ければ、鼻呼吸の習慣がついてきます。
■口テープのやり方
【用意するもの】
幅12mm前後の医療用テープ(サージカルテープやばんそうこうなど)
*薬局で購入できる
❶テープを5cmほどに切る。
❷唇の中央に縦に貼り、そのまま寝る。強く貼る必要はない。朝、起きたらテープをはがす。
あいうべ体操や口テープをお勧めした患者さんからは、「そういえばゲップが出にくくなった」「おなかがグルグル鳴らなくなった」という声をよく聞きます。ガス腹でお悩みの人は、ぜひ試してください。