本稿から毎月、私が観た4K/8K番組のインプレッションをお届けするが、今回はその序章として、放送開始からずうっと4K/8Kを見続けてきた私が、これまで感動した番組を4Kと8Kで、ひとつ挙げよう。
執筆者のプロフィール
麻倉怜士(あさくら・れいじ)
デジタルメディア評論家、ジャーナリスト。津田塾大学講師(音楽理論)、日本画質学会副会長。岡山県岡山市出身。1973年、横浜市立大学卒業。日本経済新聞社を経てプレジデント社に入社。『プレジデント』副編集長、『ノートブックパソコン研究』編集長を務める。1991年よりオーディオ・ビジュアルおよびデジタル・メディア評論家として独立。高音質ジャズレーベル「ウルトラアートレコード」を主宰。
▼麻倉怜士(Wikipedia)
▼@ReijiAsakura(Twitter)
▼ウルトラアートレコード(レーベル)
新4K8K衛星放送は画質追求の頂点
新4K8K衛星放送は、私が長年、夢に描いていた高画質放送だ。特選街の読者歴の長い方なら、私のことをよく知っていると思うが、私は1980年から特選街の原稿を書いている。
当初は家庭用ビデオで、どこのメーカーの製品の画質が良いか、という評価記事に始まって、レーザーディスク、テレビ、カムコーダー、CDプレーヤー……などのAV機器の性能のテスト記事を、山ほど書いた。そこでは、常に画質が良い機器、音質が良い機器が勝つ。いつの時代も、よりハイクオリティを求めてAV機器は進んできたのである。
その意味で、新4K8K衛星放送はまさに画質追求の頂点。クオリティコンシャスで突き進んできた私が、注目しないわけはない。昨年11月に、右旋も左旋も受けられる、2/4/8K・CS100度放送対応アンテナ設置を完了し、シャープの80インチ・8K液晶テレビを導入した。12月1日の放送開始日当日から、4Kレコーダーで4K番組を、8Kテレビ接続のHDDで8K番組を全録(?)している。
やはり、中心はNHKだ。左旋アンテナのBS8Kは午前10時から午後10時10分まで、毎日、12時間10分、8K番組を放送。すべて地デジ・BSなど2Kとの一体制作ではなく、ピュア8Kだ。
右旋のBS4Kは、午前6時から夜0時までの一日18時間にわたり、原則として全て4K画質番組。NHKはいかに高画質に力を入れているかが分かる。月曜から金曜は分野別の編成。内容は総合など2Kメディアとの一体制作(4K制作)番組だ。
週末は、4Kオリジナル番組を充実。さらに、大河ドラマなどのスペシャル番組を2Kよりも前に先行放送する。民放は2Kからのアップコンバートがほとんどで、ピュアな4K番組はレアだ、丹念に観ると傑作もある。
それらを片っ端からみていくと、自然、紀行、ドラマ、映画、音楽、ニュース、通販……と、およそすべての分野で、ハイレゾ映像の御利益はとても濃いことが分かる。これまで体験したこともない高画質、臨場感、そして限りない本物感……を、深く感じるのである。
4K/8K番組のインプレッション
「第三の男」(4K)
本稿から毎月、私が観た4K/8K番組のインプレッションをお届けするが、今回はその序章として、放送開始からずうっと4K/8Kを見続けてきた私が、これまで感動した番組を4Kと8Kで、ひとつ挙げよう。
それが、映画だ。4K/8Kは映画にとても合う。なぜならば、映画フィルムに含まれる、もともとの映像情報量が非常に多いからだ。これまでの4K映画では、7月20日に放映された、キャロル・リード監督の 1949年製作、「第三の男」(7月20日放映)が特に印象的だった。
「第三の男」は、第二次世界大戦後の廃墟と化したウィーン地下の下水迷路を舞台にしたサスペンス映画の名作だ。当時のウィーンの暗黒をドラマティックに描くこの白黒映画は、4Kの表現性とはこれほどのものか、を堪能させてくれた。
映画が始まって一時間以上経って、交通事故で死んだはずの闇社会の大物、ハリーが初めて、姿を見せる、この有名な場面は、まさに4Kの威力全開だ。強烈な光に当たってハリーが突然登場。回りの暗部と顔の明部の対比こそ、白黒の醍醐味。4Kは、強靭なコントラストと繊細な階調感で、ドラマティックなシーンを見事に活写し、光と影に大胆に分割された、白黒映像だからこそのサスペンスを醸しだしている。
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「2001年宇宙の旅」(8K)
8Kでは、本放送開始日の2018年12月1日に放送されたスタンリー・キューブリック監督の68年制作のSF映画の金字塔、「2001年宇宙の旅」が最高だった。これまで劇場、レーザーディスク、DVD、BD……と、すべてのメディアで「2001年~」を観てきたが、8Kの2001年は、圧倒的だった。
それは、紛れもなく8K制作の成果だ。著作権を保有するワーナー・ブラザース(ハリウッド)は、キューブリック監督がフィルムに込めた思いを、引かず、足さず、そのまま8Kに移植するため、細心の注意を払った。世界にひとつしかないオリジナルの65ミリ・ネガフィルムからヒトコマずつ8Kにスキャン。8Kでの修復は、4Kより細かなキズが認識できるので、綿密な作業が必要だ。8Kグレーディング(色編集)も作品の意図を活かすため、あえて現代風のハイ・ダイナミックレンジにせず、従来の輝度、色空間で行った。監督がデザイン、色彩、質感……あらゆる部分に出した指示とはこれなのか、と8Kを観て眼を見張った。
宇宙船表面の凸凹のディテール感の生々しさ、内部造作の細やかさ、時空移動のスターゲイトの不気味な色彩感、遠近法での吸い込まれ感……など、これぞ本当の「2001年~」を体験。65ミリフィルムに込めたキューブリック監督の思いは、これほど深いものであったかが、神が宿るディテールの集合から初めて分かった。
4K/8Kは素晴らしい。これから月イチで、感動した4K/8K番組を深掘りしよう。
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※8K対応ではありません
文◆麻倉怜士(デジタルメディア評論家)