心不全の治療では近年、「適度な運動が有効」という考え方が主流になってきました。筋肉の衰えを防げる・血流が促され心臓の負担を減らせる・炎症性物質を抑制できる、などの考え方に基づいて、現代の心臓リハビリテーションは行われています。【解説】牧田茂(埼玉医科大学医学部教授・同大学国際医療センター心臓リハビリテーション科診療部長)

解説者のプロフィール

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牧田茂(まきた・しげる)
埼玉医科大学医学部教授・同大学国際医療センター心臓リハビリテーション科診療部長・JACR日本心臓リハビリテーション学会理事長。1983年、新潟大学医学部卒業。医仁会武田総合病院リハビリテーション医長などを経て、2008年、埼玉医科大学国際医療センター心臓リハビリテーション科診療部長、10年、同大学教授に就任。研究テーマは、心疾患のリハビリテーション、内科疾患の運動療法など。日本リハビリテーション医学会リハビリテーション科専門医・同認定医・同指導責任者。

適度な運動が心臓リハビリの効果を上げる

心不全は、心筋梗塞や狭心症、心臓弁膜症(心臓の弁がうまく動かなくなる病気)、高血圧などによって、体に血液を送り出す心臓のポンプ機能が低下する病気です。

全身に十分な血液が届かなくなるため、動悸、息切れ、呼吸困難、疲労感、不眠、全身のむくみなども起こってきます。

近年、我が国では、心不全患者数は急増しており、疫学研究では、2030年には、その患者数が130万人にも達するとも予想されています。

この心不全の治療では、以前は、「安静が第一」とされてきましたが、近年、考え方が変わってきました。むしろ「適度な運動が有効」という考え方が主流になってきたのです。

理由の第一は、運動により筋肉の衰えを防げるからです。筋肉がやせ衰えれば、しだいに動くことも難しくなり、介護が必要になります。運動で筋肉を強化すれば、日常生活動作を問題なく行い、自立した生活を続けることが可能になります。

第二に、運動は血流を促すからです。運動によって末梢血管が広がり、全身の血流が促されます。これによって心臓の負担を減らすことができます。

第三に、炎症性物質を抑制するからです。心不全では、体に炎症を起こすサイトカイン(炎症性生理活性物質)の放出が続いています。運動はこの炎症を抑制することが新しい研究でわかってきています。

このような考え方に基づいて、現代の心臓リハビリテーションは行われています。私たちは、病状の再発を防ぎ、退院後の自立生活をサポートするためのプログラムを皆さんに提供しています。

その柱の一つとなっているのが、「かかと落とし」です。私たちは、「カーフ・レイズ(かかと上げ)」と呼んでいます(やり方は下記参照)。

ふくらはぎを含む下肢は、体のなかで最も心臓から遠くに位置しています。しかも、下肢まで流れてきた血液は重力に逆らって心臓まで帰っていかなければなりません。このため、しばしば、血液の戻りが悪く、血行不良が起こったり、うっ滞が生じたりします。

この戻りにくい血液を、下から上へ押し上げてやるときに役立つのが、ふくらはぎの働きです。ふくらはぎの筋肉(腓腹筋やヒラメ筋)がポンプのように収縮する(「ミルキングアクション(乳搾り)」と呼ばれます)ことで、血液を上へと搾り上げるのです。

こうした働きがあるところから、ふくらはぎは、「第2の心臓」とも呼ばれています。かかと落としは、このふくらはぎのミルキングアクションを活発にし、これによって、心臓の負担を軽減できるのです。

最初のうちは、かかと落としは数回から始め、少しずつ回数を増やしていきます。かかとは2秒かけて上げ、2秒かけて落とします。体が不安定になる人は、イスや机、壁などに手をついて行うようにするといいでしょう。

私たちのプログラムのもう一つの柱が、「ハーフ・スクワット」です。太ももの筋肉を鍛える運動で、かかと落としと併せて行うと、歩くための下肢の筋肉が総合的に鍛えられます。

心不全を防ぐ2つの運動のやり方

※いずれの運動も、体が不安定になる人は、イスの背などにつかまる。

■かかと落とし(かかと上げ)

画像1: 【心臓リハビリ】心不全の改善・再発を予防する2つの運動「かかと落とし」と「ハーフスクワット」を紹介

背すじを伸ばし、足を肩幅に開いて立つ。
両足のかかとを2秒かけて上げ、2秒かけて落とす。これを10回、朝晩行うとよい。

■ハーフ・スクワット

画像2: 【心臓リハビリ】心不全の改善・再発を予防する2つの運動「かかと落とし」と「ハーフスクワット」を紹介

肩幅より少し広めに足を広げて立つ。
ゆっくり浅めに腰を落とす。ひざがつま先より前に出ないようにする。
②の状態からゆっくりひざを伸ばす。
※②~③を10回、朝晩行うとよい。

体力が向上して腎機能値や血糖値が明らかに改善

心不全という病気は、入院中に治療・改善したからといって、安心できません。

患者さんは、もともと心臓や血管の働きが衰えているうえに、体力も落ちています。このために、無理をしたりカゼをひいたりするなど、ちょっとしたことがきっかけとなって、心機能が低下してしまうのです。心不全患者の約3割以上は、退院後1年以内に悪化・再入院しているのが現状です。

私たちは、心不全で入院された患者さんのリハビリに、かかと落としなどを取り入れて、着実な成果を上げています。

Kさん(71歳・男性)は、以前、心筋梗塞でバイパス手術を受け退院。その後、狭心症の発作などの心不全の悪化で再入院しました。このときには、腎機能障害、高脂血症、耐糖能異常(高血糖で糖尿病のリスクが高い状態)も併発していました。

治療およびリハビリを行い、心臓の機能が安定したため、10日後に退院しましたが、その際に、かかと落とし、ハーフ・スクワット、軽いウォーキングを中心にした運動メニューを、1日30~60分、週5回行うようにお勧めしました。

Kさんは、これまで運動経験が全くありませんでしたが、ご本人も、このときは危機感を強く持たれ、積極的に取り組まれたようです。

その結果、退院2年後の検査では、体力が向上し、腎機能や中性脂肪値、血糖値などが明らかに改善しました。心不全の症状も出なくなったということです。

かかと落としは、とても簡単にできる運動です。心不全が心配なかたは、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。

画像: この記事は『壮快』2019年12月号に掲載されています。

この記事は『壮快』2019年12月号に掲載されています。

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