今は10代でも尿もれで困っている子がいます。日常生活でしゃがむことが少なくなり、全体的に筋肉を使わないためと考えられます。骨盤底筋群が強くなれば、膀胱の位置を引き上げ、尿をためておく機能が回復されると考えられます。非常に簡単な体操なのでぜひ試してみてください。【解説】小林さちよ(尿漏れ改善トレーナー・メイク教室さちよ)
解説者のプロフィール
小林さちよ(こばやし・さちよ)
尿漏れ改善トレーナー・メイク教室さちよ。1965 年生まれ。産後に始まった尿もれが「ジョーもれ」に悪化。40代にしてオムツが手放せない生活となったが、骨盤底筋トレーニングで改善。「運動が苦手で尿もれに悩んでいる人の役に立ちたい」と、自らの経験をベースに尿もれ改善のための指導を行う。一重まぶたやアトピー肌のためのメイク教室も行っている。
まだ40代なのにおむつだなんて……
45歳頃のこと。帰宅して、トイレのドアを見たとたんに、ジャーッと尿が出たのです。
産後にチョロッと尿もれはしていたものの、ここまで大量に突然出たのは初めてのことで、ぼう然としてしまいました。
次は、買い物帰りです。玄関のカギを開けた瞬間、ジャーッと尿が流れ始めました。慌てて玄関の中に駆け込み、尿を止めようとしたのですが、全くコントロールができません。
どちらの場合も、尿意はありませんでした。なんの前触れもなく、ジャーッと尿が出てきたのです。
チョロッという程度の尿もれならパッドで対応できるでしょうが、私の場合は量が多いので紙おむつを買うしかありませんでした。
「まだ40代なのに、おむつだなんて……。もう介護を受けている状態と変わらない。外出も不安だし、これからどうなってしまうんだろう」と自分の将来が心配になり、尿もれについてインターネットや本などで徹底的に調べました。
尿もれに悩む運動嫌いの人に伝えたい
尿もれ、つまり尿失禁は、次の二つに大きく分けられます。
(1)腹圧性尿失禁
おなかに力が入ったときに、不意に尿がもれる。病院では骨盤底筋群のトレーニングや手術を勧められることが多い。
(2)切迫性尿失禁
急にトイレに行きたくなってしまい、間に合わずに尿がもれてしまう。病院では服薬を勧められることが多い。そのほかにも、滝や水道などで流水音がしたり、水に触ったりすると、尿がもれるケースもあります。精神的な要因も大きく関わっているようです。
私については、(1)と(2)に加え、「トイレの近くに行っただけで、尿が出てきてしまう」という、精神的な要因も混合したタイプの尿もれでした。
情報を集める中で、尿もれを治すには骨盤底筋群を鍛えることが大事と分かってきました。
そして、偶然にも骨盤底筋群を鍛えるエクササイズが収められたDVDを入手できたのです。とりあえず再生してみたものの、実は私は大の運動嫌い。
DVDだけでは、どう体を動かしたらいいのかよく分かりません。ただ、DVDから聞こえる「膣を締める」という言葉が頭に残り、見よう見まねでエクササイズをやってみました。
そして、そのエクササイズを1週間続けたら、ジャーもれがピタリと止まったのです。
「これは効果がある!」と、エクササイズを指導している人の下で、直接教わることになりました。9年前のことです。
私に指導してくださった先生は、シェイプアップやトレーニングの側面を強く打ち出すようになっていったのですが、体育が死ぬほど嫌いだった私は、
「私みたいに運動嫌いで、尿もれに悩む人にこの方法を伝えたい」
と、尿もれを前面に出しつつ、ボディメイクも行うというスタンスで、私なりの「膣締め」の方法をお伝えするようになりました。
下腹のたるみやぜい肉も一掃した!
尿もれは高齢者の悩みだと思われがちですが、そうとも言い切れません。
今はなんと、10代でも尿もれで困っている子がいます。日常生活でしゃがむことが少なくなったうえ、いすに座ったときには股がパカッと開きっぱなし。全体的に筋肉を使わないためと考えられます。
ただ、最も尿もれで悩むのは、やはり産後です。私自身も19年前に2人目の子どもを出産した後に、チョロッともれが始まりました。
加えて、排便の際に出血があり、肛門が下がっている感じがいつもしていました。今思えば、脱肛(直腸の粘膜が肛門から飛び出た状態)です。
私の場合は、出産時に会陰が裂けてしまい、傷の部分に力を入れるのが怖くなりました。そのため、骨盤底筋群がゆるんでしまい、肛門も持ち上げられなくなっていたのでしょう。また、下腹はたるみ、浮き輪のようにぜい肉がついていました。
このような尿もれや脱肛、おなかのぜい肉も、膣締めで全て解消していきました。そして、尿もれ改善やボディメイクを目指す生徒さんに膣締めをはじめとした体操を指導し、その数は100人以上に上ります。
ただ、私自身については、ひどく疲れていたり、体が冷えたりすると、今でもチョロッともれることがあります。
年齢とともに体は衰えていくので、これは仕方のないこと。そういうときは、膣締めをしつつ、体を温めてゆっくり休めばすぐに治ります。
皆さんも、完璧を目指さず、無理をせず、しかし怠けない、大らかな気持ちで、尿もれとうまく付き合ってください。
前述したように10代でも尿もれがあるわけですから、重要なのは年齢ではないのです。いくつになってからでも、尿もれは改善できます。
膣締めは頻尿にも効く
尿もれに並んで悩む方が多い尿トラブルが、頻尿です。女性の場合、尿もれと頻尿を併発している人も少なくありません。
特に病気はないのに頻尿に悩まされている場合は、今回ご紹介する膣締めが効果的です。
ポイントは、筋肉です。心臓から押し出された血液が、ふくらはぎなどの筋肉の力で心臓に戻っていくことはご存じの方も多いでしょう。つまり、筋肉が衰えていると、血流が悪くなってしまうのです。
大の運動嫌いである私が言うのもおかしな話ですが、現代人は体を動かしていません。それに、日常生活の中でしゃがむ動作が少なくなりました。
こうして骨盤底筋群が衰えると、血流が悪くなり、骨盤底筋群のすぐ下にある膀胱が冷えてしまいがちです。加えて、骨盤底筋群が衰えると、筋肉によって支えられている膀胱の位置がだんだんと下がってきます。
さまざまな要因が重なって、尿をためる膀胱の機能が低下して、頻尿になっている可能性が高いと考えられるのです。
膣締め(方法は下記)を行うと、骨盤底筋群が動いて熱が作られます。すると、その周囲を流れている血液が温められます。さらに血流もよくなり、膀胱の冷えが解消されます。
また、骨盤底筋群が強くなれば、膀胱の位置を引き上げる効果も期待できます。そうすれば、尿をためておく機能が回復されると考えられます。筋肉を鍛えるといっても非常に簡単な体操なので、ぜひ試してみてください。
「膣締め」のやり方
【ポイント】
●膣を締めるときに、自分の膣の中に巾着袋があり、そのひもを上に向かってゆっくりと引っ張るようなイメージで行う
●8回×3セットくり返すのが目標だが、回数よりもゆっくりと丁寧に行うことを重視する
●朝起きたときと夜寝る前に、布団の中で行うとよい
❶あおむけになり、腰の幅に足を開いてひざを立てる。
❷かかとの位置は変えず、ひざだけを内側に寄せて軽く閉じる。
❸膣を締める。
❹締めきったら、ゆっくりと力を抜く。
*(3)〜(4)をくり返す。8回を1セットとして、1日3セットを目標に行う。
何度もトイレに行くから頻尿が悪化する
ところで、頻尿と尿もれを混同している人が少なくないと、私は常日頃から感じています。
そういう人は「膀胱に尿がためられないために、頻尿になって、もらしてしまう。だから、1日に何度もトイレに行くことが、頻尿と尿もれの予防につながる」と思い込んでしまっています。
実は、真逆です。何度もトイレに行くために、膀胱に尿がためられなくなってしまい、頻尿が悪化しているのです。
1回当たりの排尿量は、通常の人だと200~400mlなのですが、頻尿の人は100ml程度だといわれています。生徒さんのお話を聞くと、もっと少ない人も多いようです。
何度もトイレに行くことで、少しの尿しか膀胱にはたまっていないのにもかかわらず「トイレに行きたい」と感じるという、神経回路の誤作動が起こっているわけです。
こうした頻尿には、膣締めに加え、トイレに行くことを我慢する「我慢トレーニング」がとても効果的です。この方法は、病院でも指導されています。
私の場合は、「トイレに行きたくなったら、5分だけ我慢してみましょう」と、頻尿を訴える生徒さんに伝えています。
■頻尿を改善する我慢トレーニング
●トイレに行きたくなったら
→ 5分間だけ我慢してみる
*5分だと心配な場合は、3分でもOK
*我慢している間に気をそらすアイテムを用意できるとよい(集中できる本や好きなDVDを見るなど)
●5分我慢できたら
→ もう5分、続けて我慢してみる
*少しずつ我慢の時間を延ばしていく
5分間我慢できるようになったら、次回はさらに5分というように、少しずつ時間を延ばしていくのです。5分だと心配ならば、3分でも構いません。
もちろん、本当に我慢できないときはトイレに行ってください。でも、「ちょっと我慢する」という習慣をつけることが大事なのです。
この方法を試した生徒さんの体験談ですが、その方は1日20回以上行っていたトイレの回数が、2~3時間に1回程度になりました。
外だといざというときの失敗が怖いと思いますので、我慢トレーニングは家にいるときに取り組むといいでしょう。
頻尿や尿もれは、「年齢が年齢だから、当たり前のことだ」と諦めてしまう人が少なくありません。しかし、年齢は実はあまり関係ないのです。実際に、膣締めやトイレに行くことを我慢するトレーニングで、60~70代の人でも症状が大きく改善しています。
特に今回ご紹介した膣締めは、寝たままできるのに筋トレにつながります。骨盤底筋群という体の土台がしっかりするので、転倒防止にも役立ちます。
尿もれや頻尿を改善したいのはもちろんのこと、「いくつになっても自分の足で歩きたい」「不具合が少ない体でいたい」と思う方は、ぜひ今日から始めてください。