ビタミンDが、インフルエンザやカゼを予防する成分として近年注目を集めています。免疫細胞から分泌されるディフェンシンは、バクテリア、カビ、ウイルスまで幅広く効く天然の抗生剤であり抗ウイルス剤。その分泌に関与しているのがビタミンDです。【解説】浦島充佳(東京慈恵会医科大学教授)
解説者のプロフィール
浦島充佳(うらしま・みつよし)
1986年東京慈恵会医科大学卒業。医学博士。小児科専門医。血液専門医。2000年米国ハーバード大学公衆衛生大学院(HSPH)を卒業し、Master of Public Health (公衆衛生修士) 取得。2013年より東京慈恵会医大分子疫学研究室教授。分子生物学的手法、疫学・生物統計学的手法をバランスよく融合したユニークな学問を体系化した。予防医学の第一人者で、一次予防、二次予防の臨床試験を多数手掛けている。『病気スレスレな症例への生活処方箋』(医学書院)など著書多数。自身の健康法はランニングで、週2~3度、月100km以上を走破している
体内で作られる天然の抗ウイルス剤を分泌する
ビタミンDは、元々は骨を丈夫にする栄養素として知られてきました。例えば、ビタミンDが不足すると、くる病や骨軟化症が起こりやすくなりますし、カルシウムの吸収量が低下して骨粗鬆症(骨がもろくなる病気)を引き起こすことが分かっています。
そんなビタミンDが、免疫を調整して、インフルエンザやカゼを予防する成分として、近年注目を集めています。
多くの場合、インフルエンザやカゼは、気道粘膜細胞にウイルスが感染することで発症します。そうした感染を防いでいるのが、免疫細胞から分泌されるディフェンシンなどの抗微生物たんぱくです。
ディフェンシンは、菌(バクテリア)、真菌(カビ)、ウイルスまで幅広く効く天然の抗生剤であり抗ウイルス剤です。このディフェンシンの分泌に関与しているのが、ビタミンDです。
体内のビタミンDの量が多ければ、この天然の抗ウイルス剤が多く分泌され、ウイルス感染を阻止できます。その逆に、ビタミンDの量が少なければ、ウイルスがブロックされにくくなり、気道感染症にかかりやすくなると考えられます。
このことを確かめるために、我々の研究チームは、ビタミンDのサプリメントがインフルエンザの発症を抑制するかどうかの二重盲検ランダム化比較試験(※)を行いました。
※被験者の群を無作為に選び、医師も患者本人も飲んでいるのがプラセボ(偽薬)か分からない状態で行う客観性の高い試験法
小中学生を対象に、一方の群にはビタミンDが一日に1200IU(30μg〈マイクログラム〉)摂取できるカプセルを、もう一方の群には同じ形で、ビタミンDが入っていないプラセボ(偽薬)を渡しました。これを12月から3月までの4ヵ月間内服してもらったのです。
すると、プラセボ群では、167人中31人がインフルエンザにかかったのに対し、ビタミンD群では、167人中18人しか罹患しませんでした。
この結果から、冬にビタミンDを摂取することで、インフルエンザの発症を4割予防できることが判明したのです。
この研究を発表した論文は非常に反響が大きく、世界各国で同様の研究が次々と行われました。モンゴルではビタミンD不足の被験者にビタミンDを投与したときには、インフルエンザ発症を7割抑えたという結果が出ています。
こうした世界中の複数の研究を統合して統計的に解析(メタ解析)した結果、インフルエンザなどの上気道炎から気管支炎、肺炎などの下気道炎までの急性気道感染症を、ビタミンD投与が2割予防するという結論になりました。
日光に当たるのが最善のビタミンD対策
通常、ビタミンは体内では合成できず、食品などから摂取しなければならない成分です。
その点、ビタミンDは8~9割が体内で合成される、例外的なビタミンです。皮膚が太陽光の紫外線にさらされることで、皮膚に蓄えられていたコレステロールの一種が、ビタミンDに変換されるのです。
実は、インフルエンザやカゼが冬場に流行しやすいのは、冬にビタミンD不足に陥りやすいことと大いに関係があります。
冬は日照時間が短いうえ、紫外線も弱く、寒いので、つい家に引きこもりがちになります。また、外出する際には、たくさん着こんだり、マフラーや手袋をしたり、どうしても皮膚の露出が少なくなります。
そのため、皮膚が日光に当たる機会が減って、体内でビタミンDが合成されにくくなるのです。
実際、血中のビタミンDの濃度を夏と冬で比べてみると、夏の終わりが一番ビタミンDの量が多いのに対し、2月がもっとも少なく、濃度が半減していることが分かっています。
近頃はシミやシワなど肌の老化を進める紫外線の害を意識して、日焼け止めなどで完全防備の態勢を取っている人も多いですが、手のひらを15分日光に当てることぐらいからなら実践できるのではないでしょうか。
厚生労働省が推奨する一日当たりのビタミンDの摂取量は220IU(5.5μg)とされていますが、インフルエンザ予防を考えるなら、1200IUくらいの量をとりたいものです。
推奨量と比べて非常に多く感じられるかもしれませんが、上限は4000IU(100μg)ですし、他の脂溶性ビタミン(ビタミンA、E、K)と異なり、ビタミンDでは中毒症状の心配はまずありません。
サケ、マグロ、サバ、イワシなどの脂の多い魚が、ビタミンDの最良の供給源です。また、牛レバー、チーズ、卵黄にも少しビタミンDが含まれます。
これらの動物性食品に含まれるビタミンDは、体内で作られるのと同じ、ビタミンD3です。植物性食品だと、キクラゲやシイタケなどのキノコ類にビタミンD2(D3と同等の作用と考えられる)が含まれています。
このように食品からもビタミンDは摂取できますが、食品だけで必要量を補うのはなかなか大変です。足りない分はサプリメントなどをうまく活用するといいでしょう。