現在、日本人の2人に1人が罹患すると言われるがんにおいて、罹患リスクを高める要因を調べるさまざまな研究が行われている。そうした研究を踏まえた、がんに罹るのを防ぐための心得について、国立がん研究センターの井上真奈美医師(社会と健康研究センター予防研究部部長)に話を聞いた。

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

井上真奈美(いのうえ・まなみ)

国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究部部長。1990年に筑波大学医学専門学群卒業、1995年博士(医学)、1996年にハーバード大学大学院修士課程修了。愛知県がんセンター研究所研究員、国立がんセンターがん予防・検診研究センター室長、東京大学大学院医学系研究科特任教授などを経て、2018年より現職。
▼専門分野と研究論文(KAKEN)
▼国立がん研究センター 社会と健康研究センター(公式サイト)

科学的な根拠に基づくがん予防の研究

いまや、がんは決して治らない病気ではなくなってきています。しかし、完治しても身体面や経済面、社会面など、さまざまな負担があります。それだけに、がんをできるだけ防ぎたいと考えるのは当然でしょう。現在、各メディアで、がんの予防法が紹介されています。しかし、それらに本当に効果があるかの判断は難しいといえます。

国立がん研究センターでは、がんの予防について、実際に科学的な根拠に基づく評価研究を実施。日本人において、何ががんのリスクを高めているか、大人数を対象とした研究文献を系統的に精査し、確実に評価できたものを公表しています。例えば、コーヒーを飲むことにより、肝がんや子宮内膜がんのリスクが低下する可能性があるという評価を公表しているのも、先述の評価研究を経てのものです。

画像: 「がんの発症リスクに関わる生活習慣」 出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター www.ncc.go.jp

「がんの発症リスクに関わる生活習慣」

出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター
www.ncc.go.jp

5つの生活習慣と感染への対応が重要

がんを防ぐための5つの健康習慣

画像: がんを防ぐための5つの健康習慣

胃や大腸、膵臓などと、がんは部位ごとに発生し、それぞれ異なる要因を持っています。ただ、生活習慣要因に関しては、異なる部位のがんでもある程度重複することがわかっています。

重要なのが、「①禁煙」「②節酒」「③食生活の見直し」「④体を動かす」「⑤適正体重を維持する」。もともと健康維持のために推奨されることではありますが、実際にがんの予防に効果的なことが研究によって判明しています。

画像: 歩行またはそれと同等の強度の身体活動を1日60分、汗をかく程度の運動を1週間に60分が目標。

歩行またはそれと同等の強度の身体活動を1日60分、汗をかく程度の運動を1週間に60分が目標。

5つ実践できれば、男性で43%、女性で37%がんに罹患するリスクを抑えることができます。たとえすべて実践できなくとも、3つだけでも、罹患リスクが男性で28%、女性で27%低下する結果が出ています。加えて生活習慣以外で注意したいものとして、「感染」があります。生活習慣に加え、がんと関連の強い感染に気を配ることで、罹患リスクをさらに下げることができるでしょう。

各要因のうち、特に重要なのが「喫煙」と「感染」です。両方の要因を持っていなければ、がん全体のうち男性の5割、女性の2割以上を防げるという研究結果もあります。

生活習慣の改善を無理なく、続ける

食生活においては、胃がんの明確なリスクである高塩分濃度の食品を控えることや、野菜・果物を意識して食べることが重要です。運動については、一定の運動量が推奨されるのは事実ですが、大事なのはとにかく体を動かすこと。極力階段を使う、歩く距離を増やすなど、日常生活の中でできるだけ体を動かすことを意識するのが、無理なく続けることにつながります。

画像: 塩分の高い食品を避け、1日あたり小鉢5皿分の野菜と、果物1皿分の摂取を。

塩分の高い食品を避け、1日あたり小鉢5皿分の野菜と、果物1皿分の摂取を。

体重の管理は、日本では最も誤解されがちです。がんの予防には「太りすぎず、痩せすぎず」が好ましく、痩せすぎだとむしろリスクが高くなります。肥満がリスクなのは事実だが、実際には少し小太りくらいが予防には良いでしょう。6つの項目は、身体的、経済的に過度な負担なく実践できることです。たとえ少しずつであっても取り入れていき、確実にがんに罹るリスクを減らしていただきたいと思います。

特に注意
喫煙

画像: がん死亡に寄与する割合は、男性34.4%、女性6.2%。

がん死亡に寄与する割合は、男性34.4%、女性6.2%。

短い年数の禁煙でも目に見えて効果が現れる

喫煙が大きな原因となるがんとして、肺がんがよく知られています。ところが、それ以外にも、多くのがんのリスクを確実に上げることがわかっています。例えば、近年注目される膵がんも該当します。膵がんでは、胃がんにおけるピロリ菌のような直接の原因はまだ判明していませんが、喫煙はほぼ確実な要因とされる糖尿病と並んで確実なリスク要因であることが判明しています。

たばこを生涯吸わないのが重要なのは当然ですが、禁煙で罹患リスクを生涯非喫煙者と同等にまで下げられます。そこまで下げるには20年近くかかりますが、比較的短い期間でも効果が十分に現れることを知っておいてください。

画像: 短い年数の禁煙でも目に見えて効果が現れる

例えば、男性における、喫煙に関連するがんの罹患リスクは、禁煙を続けることで、喫煙を継続している状態と比べて、5年で目に見えて低下し、10年経てばほぼ半減します。さらには、がんの種類で効果が出る期間も異なります。膵がんでは禁煙を5年続ければ、生涯非喫煙者と同等にまで低下することも確認されています。

最低でも、がんの罹患が増えてくる50代を迎える頃には、禁煙してある程度期間が経っているのが望ましいです。禁煙外来を設けている医療機関もあるため、一人では難しい場合、利用すると良いでしょう。なお、最近では加熱式たばこを吸う人も増えつつあります。先述の調査はあくまで紙巻きたばこを対象としており、加熱式たばこの影響については、今後、研究が進められるでしょう。

画像: 「日本人男性における禁煙年数と喫煙関連がん罹患リスク」 出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター www.ncc.go.jp

「日本人男性における禁煙年数と喫煙関連がん罹患リスク」

出典:国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター
www.ncc.go.jp

特に注意
感染

画像: がん死亡に寄与する割合は、男性23.2%、女性19.4%。

がん死亡に寄与する割合は、男性23.2%、女性19.4%。

感染が主な原因のがんは多くが予防可能

画像1: 【がんの予防】運動や食べ物 喫煙や感染症 罹患リスクを減らす生活習慣を専門家がやさしく解説(2020年最新版)

感染はがんの中でも患者数が多い、胃がん、肝がん、子宮頸がんの発生に深く関わっています。まず、胃がんは、主に経口から感染するヘリコバクター・ピロリ菌の持続的な感染が大きな原因となります。感染のほとんどは5歳までに起こります。そのため、成人になったら一度ピロリ菌の検査を受けるのが望ましいです。そこでもし感染が判明しても、治療による除菌が可能です。

肝がんの大きな原因となるのがウイルス性肝炎。慢性的な肝炎から進展することや、肝硬変を経て罹患したりすることが多いです。近年、ウイルス性肝炎に対しては、インターフェロンに代表される治療で、ウイルスを駆除したり、減らしたりできるようになりました。それによって肝炎を改善できるだけでなく、がんの発症リスクまで下げられます。一度、肝炎ウイルス検査を受診し、感染していないことを確認するとよいでしょう。もし感染していれば適切な治療を受けるということを心がけたい。

若年層の女性で多い子宮頸がんでは、主に性交渉によって感染するヒトパピローマウイルスが大きな原因です。多くの女性が一度は感染すると言われるほどありふれたウイルスですが、一部で感染が長期化し、がんを発生させてしまう。ただ、このウイルスの感染をHPVワクチンによって防ぐことで、がんへの進展もほぼ抑えられます。ワクチンの副反応もありますが、起こる可能性は極めて低く、海外では積極的な接種が進められています。

感染は明確な原因であるだけに、治療や予防の効果が極めて高い。検査自体、そこまで負担のかかるものではないため、一度受診していただきたいと思います。

この原稿は『最新治療データで探す 名医のいる病院2020』(発行元・医療新聞社/発売元・永岡書店)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。最新のDPCデータ(※)に基づく全26疾患・治療別、全国8661病院の最新治療実績ランキングを一挙紹介。詳細は下記のリンクよりご覧ください。

(※)DPCデータとは、「診療群分類別包括払い(DPC)制度」に基づくデータのこと。DPC制度に参加した病院は、入院患者ごとに「診断名」「治療方法」「入院日数」などのデータを厚生労働省に提出する義務がある。同省では年に1回、DPC制度に基づく疾患分類別の症例数(退院患者数)を、参加病院別に公表している。

画像2: 【がんの予防】運動や食べ物 喫煙や感染症 罹患リスクを減らす生活習慣を専門家がやさしく解説(2020年最新版)
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