血栓が詰まって一時的に脳の血流が途絶えると、体になんらかの変化が現れることがあります。それが「一過性脳虚血発作(TIA)」です。運動障害、感覚障害、言語障害、視覚障害が起こった段階でいかに早く気がつけるかが、脳梗塞予防の重要なポイントになります。【解説】森本将史(横浜新都市脳神経外科病院院長)
解説者のプロフィール
森本将史(もりもと・まさふみ)
医学博士。脳神経外科医。IMS横浜新都市脳神経外科病院院長。京都大学医学部卒業後、国立循環器病研究センター、ベルギーのルーヴェン大学などで研鑽を積み現在に至る。専門分野は、脳卒中疾患(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血)。できるだけ薬に頼らず、脳卒中疾患を克服できるように生活習慣を改善することを提唱している。
脳出血は減少し脳梗塞は激増中!
突然発症する、脳血管の病気を総称して、「脳卒中」といいます。
脳卒中には、脳の血管が狭くなったり、血の塊である血栓が詰まったりして起こる「脳梗塞」、脳の血管が破れる「脳出血」と「クモ膜下出血」があります。
このうち、最も注意が必要なのは、脳梗塞といえるでしょう。なぜなら、日本国内には、120~140万人の脳卒中の患者さんがいますが、その7割は脳梗塞だからです。
かつて、1960年代は、脳卒中で死亡者した人の大半が脳出血でした。しかし、70~90年代にかけて、脳出血が減少したのに対し、脳梗塞が激増したのです。
脳出血が減少した理由は、検診の拡充、減塩の推奨などが考えられます。その一方で、食生活が欧米化した影響で、脂肪分の摂取量が多くなり、脳の血管が詰まりやくなって脳梗塞が増えてきたのです。
脳卒中の種類
脳梗塞は3つに分類できる
脳梗塞は、以下の三つに分類できます。
❶ラクナ梗塞
❷アテローム血栓性脳梗塞
❸心原性脳梗塞
脳梗塞の主な原因とされるものが、脳の血管に起こる動脈硬化です。動脈硬化とは、血管の老化現象で、血管の内側にコレステロールなどが蓄積して、血液の流れが悪化した状態を指します。
この動脈硬化が進んだ結果、脳内の細い血管に詰まりが生じて起こるのが「ラクナ梗塞」です。
《ラクナ梗塞》
そして、脳の比較的太い血管に詰まりが生じるのが「アテローム血栓性脳梗塞」で、「心原性脳梗塞」は、心臓でできた血栓が脳まで流れていき、脳内で詰まって起こる病気です。
《アテローム血栓性脳梗塞》
《心原性脳梗塞》
脳梗塞の前触れ「一過性脳虚血発作(TIA)」とは
いかに早く気がつけるかが脳梗塞予防の重要なポイント
脳の血管に血栓が詰まって、一時的に脳の血流が途絶えると、体になんらかの変化が現れることがあります。それが、「一過性脳虚血発作(TIA)」です。これは、いわゆる脳梗塞の前触れといえる発作です。その発作には、次のようなものがあります。
【運動障害】
体の片側が動かせない、力が抜ける。
【感覚障害】
体の片側がしびれる。感覚が鈍くなる。
【言語障害】
思うように言葉が出てこない。ろれつが回らない。
【視覚障害】
目が一時的に見えなくなる。物が二つに見える。
TIAの場合、このような前ぶれ発作は長続きしません。短い場合なら数分、長い場合でも24時間以内のうちに消えます。これは、症状を引き起こす原因となった脳血管の一時的な詰まりが解消されるからです。
すると、多くのかたが、前触れ発作を「体調が悪かったから」「年のせいだろう」などと見過ごしてしまうのです。TIAが起こった人の約30%が、その後5年以内に本格的な脳梗塞に見舞われるという報告もあります。
ですから、TIAが起こった段階で、いかに早く気がつけるかが、脳梗塞予防の重要なポイントになります。少しでも怪しい兆候があったら、必ず脳の専門医のいる医療機関を受診しましょう。
脳卒中の判断に役立つ診断法「FAST」とは
限られた時間内に治療を受けられるかどうか
残念ながら、脳梗塞の前触れであるTIAを見過ごし、実際に発作を起こしてしまった場合、できる限り早急な対処が必要です。
その際、ご家族や知人の脳卒中かどうかを判断するのに役立つ「FAST」という診断法があります。
これは、顔(Face)腕(Arm)言葉(Speech)時間(Time)の頭文字からなる言葉です。その判断の基準は、以下のとおりです。
顔(Face)
笑ったとき、顔がゆがんだり、左右どちらかがひきつったりしていないかを見極める。
腕(Arm)
両手をまっすぐ上げたとき、片腕が上がらない、もしくは、下がってしまわないかを見極める。
言葉(Speech)
「今日は天気がよい」という言葉を滑舌よくいえるかどうかを見極める。
この三つのうち、一つでもおかしなところがあれば、直ちに救急車を呼び、脳梗塞の専門病院で診てもらいましょう。
そして、時間(Time)も重要な要素です。
特に、脳梗塞に有効な治療法の一つであるt-PA治療(経静脈血栓溶解療法)は、発症してから4.5時間以内、詰まった血栓をカテーテルで除去する最新の血管内治療は8時間以内の患者さんが対象です。
発症した時間によって治療法も変わるので、いつ発作が起こったのかを医師に報告することが重要です。
この限られた時間内に、専門医がいる病院を受診して治療を受けられるかどうかが、予後を大きく左右します。
脳梗塞の予防で大事な生活習慣の改善
もちろん、脳梗塞を未然に予防できれば、それにこしたことはありません。そのうえで最も大事なのは「生活習慣」です。
くり返しになりますが、脳梗塞の主要な原因は、脳の血管で起こる動脈硬化です。動脈硬化は、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肥満、心臓病などがあると悪化のスピードが上がります。
また、タバコや大量の飲酒が危険因子であることは、いうまでもありません。脳梗塞を防ぐには、食事を改善し、適度な運動を取り入れるなど、生活を見直すしかないのです。
心原性脳梗塞については、発作が突然起こり、予防が難しいとされています。心臓の中にできた血栓は、たいていは大きい物が多いのです。それだけに脳の血管に詰まりやすく、後遺症も重くなりがちです。
脳梗塞のうち、心原性脳梗塞は、心房細動という不整脈が原因なので、前触れを感じ取ることが非常に困難です。ですから、心房細動を防ぐことが、心原性脳梗塞を防ぐことにつながります。
心房細動は、加齢のほかに、高血圧や心臓病、飲酒、喫煙、過労、ストレス、暴飲暴食、睡眠不足など、不規則な生活が危険因子とされています。先ほどもお話ししたように、日ごろの生活習慣を改善することが、発症を防ぐことになるのです。
ちなみに、脳梗塞という病気は、ご高齢のかたに多いと考えられがちですが、最近は若いかたの発症も珍しくありません。30代、40代で救急搬送されてくる患者さんが、非常に増えています。
そこには、脳梗塞を引き起こす、もう一つの要因「ストレス」があります。次の記事で詳しくお話ししましょう。
▼次の記事はこちら▼
【脳梗塞予防】原因の一つに「ストレス」も 背中を緩める肩甲骨ストレッチで自律神経を整えよう – 特選街web
ストレスをため込む日々が続くと、交感神経が過剰に緊張した状態になります。すると、血管は収縮し、脈拍は早くなって血圧は上昇します。その影響を受けて末梢血管の血流も悪化するので、脳梗塞が起こりやすい状況になるのです。【解説】森本将史(横浜新都市脳神経外科病院院長)
tokusengai.com