モノをウォッチしていると、時々、あります。技術が商品に求められているレベルに追いつくことが。今回紹介する、BoCo株式会社の”耳を塞がない”骨伝導式イヤホン「earsopen」ブランドから発売された、完全ワイヤレスモデル「PEACCE TW-1」が、まさにそれです。スポーツ用としてはもちろん、高感度のマイクも搭載しているので、テレワークのウェブ会議にもおすすめです。
骨伝導とは?
骨伝導とは、空気を伝って鼓膜(中耳)を振動させ聴覚神経(内耳)に伝わる「気導音」に対して、声帯などの振動が頭蓋骨を伝わり直接聴覚神経に伝わる「骨導音」ことを言います。
これを感じるのによく知られているのは、「自分の声を録音して聞くと、これ誰の声?」と思ってしまうことでしょうね。
これは、自分が聞く自分の声は、気導音と骨導音が合わさったものだからです。録音した自分の声に聞き覚えがないのは、「空気伝導によるって伝わる音のみ」ですから、全く違うやせぎすの声に聞こえるのです。
この逆も真なりで、難聴をはじめとする耳に障害がある人に対して、振動を使ってサポートすることができます。
最も有名なのは、かの作曲家ベートーヴェンでしょうか。
彼は、20代後半に難聴を患い、ほとんど何も聞こえないの状態になり、自殺まで考えました。しかし、このとき彼は、指揮棒を歯で噛み、ピアノに押し付けて骨伝導で音を聞き取ることで、作曲を続けることができた、とも言われています。
その結果、生まれたのが、交響曲第3番「英雄」、第5番「運命」、第9番「合唱」ほか、ベートーヴェンの傑作と言われるモノ。もしかしたら、骨伝導がなければそのほとんどが生まれなかったかもしれません。骨伝導のスゴさは察せられると思います。
骨伝導イヤホンが目指すべき音
では、骨伝導で音を聞くとき、理想とすることは何でしょうか?
それは、「音楽を正確に再現できる」ということに尽きると思います。
デジタル化が進んだ今でも、音をきちんと再現するには、それなりの機材が必要です。それでも「楽しめるレベル」ということで、完全再現など夢のまた夢、というのが現実です。ですから「楽しめるレベルかどうか」がポイントです。
ところが、骨伝導イヤホンでは難しい。
正直、今まで何度だまされたことか。音楽どころか、電話機の再生音にも負けるレベルモノすらありました。一聴して「使えない」と感じたときの悔しさは、それはそれは言いしれぬモノがあります。(注:こういう書き方をすると、ベートーベンの逸話まで疑う人がいますが、ベートーヴェンは耳が聞こえる時、楽器の音と振動の感じを良く熟知しており、脳内再現ができたと思います)
骨伝導の品質が良くなったのは、ここ数年。中でも、BoCo社は、新興会社ながら、オーディオというモノを良く知っており、そのデザイン、遊び心、音質は共感できるところがあります。
今回のモデルは、その最高峰。完全ワイヤレスモデル「PEACE TW-1」です。
TECHNOLOGY(テクノロジー) | earsopen – 耳をふさがずに音を楽しむ骨伝導式イヤホン | boco – すべての「人」と「音」がもっと良い関係に | 骨伝導デバイスメーカー
最先端骨伝導技術が実現した、耳をふさがずに音を楽しむイヤホン。場所を選ばず、いつでもどこでも安全にリスニングを楽しめる。あなたをアクティブにする、新しいリスニングツール「earsopen」。
boco.co.jp
今まで聴いた骨伝導イヤホンで最もナチュラル
「PEACE TW-1」は、今流行のワイヤレスイヤホン型。専用ケースがあるタイプです。円盤とドラム缶とをつないだ独特の形状です。耳への装着は、円盤とドラム缶で耳を挟み、円盤を耳の穴側にセットします。耳たぶでも、耳たぶの上でも構いません。この装着は楽です。以前使っていたモデルでは、耳への装着が一苦労した場合もありましたが、今回は何度やっても楽に装着できました。
そして、ペアリング。
私の場合は、iPhoneでした。手動で行いましたが、すぐペアリングしました。ここらへんは、どのモデルもこなれています。
さて、音ですが、すごくイイ。かなりのものです。ここまでくると、後は微妙なニュアンスまであれば完全というわけですが、それがあったり、なかったりします。そういう微妙なところはあるのですが、基本、良いです。これならと思います。
というのは、骨伝導イヤホンに、ノイズキャンセラーはありません。必ず「外の音」が入ってきます。このため、なかなかニュアンスまで、気にすることはないのが実際のところです。
むしろ、気になるのは、時々「ビリビリ」とくる強い振動です。音楽に集中すればするほど、この強振動が不意にくるのはちょっと興醒めの感じがします。まあ原理上、しかたがないのですが。
どこで使うのか?
私が骨伝導イヤホンに注目した理由は、スポーツ用としてです。
自転車、ランニング、ウォーキング、登山、釣り。いずれも自分のペースで楽しんでいますが、途中で面倒になるときがあります。そんなとき、音楽があるとまた頑張れるのです。その時に便利なのが、骨伝導イヤホンです。というのは、身体を動かしているときに、外部音が聞けないとなると、やはり危険度が上がります。外側の音が聞こえる骨伝導イヤホンは、ベターと言えます。
注意したいのは、人前です。当然ですが、音はある程度漏れます。自分が聞こえているものは周囲にも聞かれている、という認識が必要です。
骨伝導イヤホンは、それ一つで全部対応できるイヤホンではありません。このため、分野としてはややマイナーなのですが、安全にスポーツを楽しむなら、一度試して欲しい一品です。高感度のマイクも搭載しているので、テレワークのウェブ会議にもおすすめです。特に、今回紹介したモデル「PEACE TW-1」は、ここまで磨いたかというレベル。逸品です。
BOCO
PEACE TW-1
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーを繋ぐ商品企画コンサルティング「ポップアップ・プランニング・オフィス」代表。米・食味鑑定士の資格を所有。大手メーカーでオーディオ・ビデオ関連の開発に携わる。趣味は東京散歩とラーメンの食べ歩き。