「大事な試験なのに電車に乗り遅れた」「歯がボロボロと全部抜けてしまう」……。嫌な夢を見ると、憂うつな気分になります。できれば素敵な夢を見て、気分よく目覚めたいものです。悪夢を見ないようにしたり、希望どおりの夢を見たりすることはできるのでしょうか。夢について心理学的視点から調査・研究を行っている松田英子先生にお話を伺いました。【解説】松田英子(東洋大学社会学部社会心理学科教授)

解説者のプロフィール

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松田英子(まつだ・えいこ)

2000年お茶の水女子大学大学院人間文化研究科修了。博士(人文科学)。臨床心理士。江戸川大学教授、放送大学大学院客員教授、文教大学大学院兼任講師、青山学院大学兼任講師などを歴任。2015年より現職。
▼東洋大学(研究者情報)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

夢を見るしくみとは

夢の素材はどこから来るのか 

そもそも夢とは、どのようなしくみで見るのでしょうか?

睡眠中の脳内は、外界から緩やかに遮断されたレンタルビデオ店のようなものと想像してみてください。そこには、私たちが直接的・間接的に経験した記憶がDVDとなって全部ストックされ、「家族」「友達」「小学校時代」「恋愛」「海外旅行」などのカテゴリーごとに棚に収まっています。

睡眠中の脳は、起きている間にうまく処理できなかった情報や感情を整理し、記憶を定着・適正化します。そうして、怒りや悲しみなどの感情を鎮静させるのです。「一晩寝たらスッキリした!」というのは、睡眠中に脳が情報を整理してくれるからです。

その過程において、情報をカテゴリー分けしたり、過去の記憶にアクセスしたりするときに、脳内で再生している映像が夢なのです。夢は、自分だけが見ることのできる「個人的なドキュメンタリー映画」といっていいでしょう。

ですから基本的に、脳が情報として記憶していない事柄は夢には出てきません。記憶の中には、自分では意識していない「サブリミナル記憶」も含まれるため、「意外な事象」が夢に出てくることもあります。

意外な人が夢に出てくる理由

ふだん交流がなく、特別の関心も払っていない人が、夢の中に登場することがあります。それを「運命かも!」と思ったり、以後なんとなく気になったり、という経験をお持ちのかたもいるでしょう。

しかしながら、これも特に神秘的な話ではありません。脳が処理しようとしていた事柄との関連や類似(時代、集団、場面、色、数字、名前の音韻が同じなど)が引き金(トリガー)となって、脳内の棚から引っ張り出された可能性が高いのです。

先日、私が見た夢をお話ししましょう。10歳くらいの男の子がチンパンジーになって、網にかかっています。網が破れてチンパンジーが出てきましたが、私には目もくれず、ハンバーガーとバナナをモリモリ食べているところで目が覚めました。「なぜそんな夢を見たんだろう」と考えてみました。

その前日、小惑星探査機「はやぶさ2」が帰還した時期で、JAXAに勤める知人と電話で世間話をしました。そのとき、ある機関で研究費のトラブルがあったという話題から、「そういえば、先日報道されていた国立大学の霊長類研究所の不正額はすごいね」という会話があったのです。メインの話題ではありませんし、チンパンジーの話はしていません。でも、睡眠中に脳が情報処理をする過程で、「霊長類研究所」に関して私が持つ記憶の一辺が、夢に出てきたのでしょう。

ほかにも、例えば山田正子さんという人に会った日は、「山」のつく名前の別の人が夢に出てきたり、山田さんとの会話に出てきた物や、そこから連想される場所や人物が、夢に引っ張り出されてきたりします。いろいろな情報がミックスされる場合が多いので、夢は荒唐無稽なストーリーになるのです。

夢を見る人と見ない人の違いは?

脳に損傷がなく、正常に機能している人なら、睡眠時間の長さにもよりますが、1日に平均で3〜5つの夢を見ます。でも、覚えていないことが多いですよね。実は、夢を見ているときは起きているときと比べて、記憶を固定する神経伝達物質があまり出ていないため、夢の記憶を覚えておくのは難しいのです。

私たちの睡眠には、ノンレム睡眠とレム睡眠の2種類があります。レム睡眠の時は「体は休んでいるが、脳は働いている状態」で、このときに私たちは夢を見ています。ただ、レム睡眠時に見た夢も、その後にノンレム睡眠がくると忘れてしまいます。起きる直前にレム睡眠で、そのとき夢を見ていると、起床後も覚えていることがあります。しかも嫌な夢、いわゆる悪夢の方が記憶に残りやすいのです。感情の強度が強いからでしょう。世界中の研究データを見ても、夢に関するキーワードはネガティブなものが多くなっています。

逆に、夢を覚えていないのは、「夢に邪魔されないほどよく眠れた」ことを意味し、脳内の情報処理がスムーズに行われたと考えられます。

性格による違いもあります。神経質で心配性の人は夢をよく見て、よく覚えています。心配性の人は、いろいろなことに不安を感じ、睡眠中に脳内記憶を掘り起こしながら、問題解決の糸口を探しているのでしょう。また、そういう人は夢に意味を持たせがちなので、目が覚めた後もよく覚えています。

逆に、大らかな性格で、日々の生活を積極的に過ごしている人は、いい夢も悪い夢も覚えていないことが多いようです。こういう人は、たとえ悪夢を見たとしても「ああ、夢でよかった!」と思って、すぐ忘れてしまいます。

夢を操ることはできるのか

希望どおりの夢を見るためには

縁起のいい初夢として「一富士二鷹三茄子」が挙げられ、毎年話題に上りますね。確実に「見たい夢を見る」ことは難しいと思いますが、「夢の素材は自分の記憶」と考えると、可能性はないわけではありません。特に、入眠前の思考が夢に影響するといわれるので、寝る前に見たい夢のイメージを膨らませたり、関連する事柄について思いを巡らせたりするのは、その情報が保存されている記憶の棚に頻繁にアクセスすることになるので、効果があるかもしれません。「好きな人の写真を枕の下に置いて寝ると、夢に出てくる」という話がありますが、これも「単なるおまじない」とは言い切れないのです。ただし、目的の人や事柄が登場したとしても、希望どおりの結末になるかどうかは別ですが……。やはり、見たい夢を確実に見る方法は確立されていないのが現状です。

「鬼滅の刃」にも出てくる“明晰夢”とは

夢の中で「これは夢だ」と気づく夢を「明晰夢」といいます。明晰夢をよく見る人なら、たとえ始まりが悪夢だとしても、夢の後半を自分の都合のいいようにストーリーを操作して、ハッピーエンドで目を覚ますこともできるでしょう。ただ、なかなか見られるものではなく、月に1回の頻度で明晰夢を見られる人は10%以下です。私自身も数年に一回くらいしか見ません。

『鬼滅の刃』でも主人公の炭治郎が鬼に夢を見させられ、途中で「これは夢だ」と気づく場面がありますね。彼は自分で自分を傷つけることで夢から覚める術を見つけますが、実際の明晰夢なら、声を出したり、指先を動かしたりするだけで起きられます。安心してください。

夢は「未来」や「知らない自分」を教えてくれる?

お告げ・予知夢は本当にあるのか?

夢は自分の見聞きしたもので構成されるので、他者からの「お告げ」のようなメッセージ性はありません。「亡くなった肉親が夢枕に立った」とか「夢で御神託が下った」というのも、科学的には「自分の記憶の断片」ということになります。ですから、自分が自分に当てたメッセージと表現するのが正しい気がします。

ただ、「自分が心の中で繰り返し想像している未来」が夢に出てくることはあります。そして、その夢(元は自分の想像)が偶然、現実と一致することもあります。そうすると人は、「夢が現実になった」という印象を強く受け、よく覚えているものです。でも、外れたときの夢は印象に残らず、忘れることが多いということです。

いわゆる「予知夢」については、ロシアの研究があります。ある消防署で、「当直の隊員が火事の夢を見ると、実際に火事が起こる」と話題になったのです。詳しく調査したところ、そもそも当直隊員は火事の夢を見ることが多く、それは火事の起こった日も起こらなかった日も同じだったのです。「火事になったら迅速に出動!」というプレッシャーが、隊員たちに火事の夢を見せた可能性が高い。そして、実際に火事が起こると、夢との関係が印象深く残り、火事が起こらなければ夢自体を忘れてしまう、ということなのでしょう。

夢占いで深層心理がわかる?

夢占いで深層心理を探ることは、心理学的にはあまり有効とは言えません。夢占いについてよく理解していないので、適当に例を挙げて申し訳ないのですが、例えば、「ソフトクリーム=恋人」というように、シンボル自体に意味づけされているような気がします。しかし、シンボルに対する捉え方は人それぞれです。夢に出てくるソフトクリームの意味するものが、人によってはプールだったり、ダイエットの課題だったり、昔子供のころに見たアリの巣だったりするので、分析できないのです。

占いの結果がよければ気分が明るくなるので、楽しむ分にはいいと思いますが、悪い結果を見て消極的になったり落ち込んだりするのはナンセンスです。

悪夢とは何か

ネガティブな情報を適切に処理してくれるのが「悪夢」

一般に悪夢は、「縁起が悪い」「心身がネガティブな状態」というイメージがあるようですが、科学的に見ると、一概にそうとは言い切れません。先ほど述べたように、夢は脳が記憶を整理する過程で見る、断片的な映像です。夢には、処理しきれなかった記憶を整理する役割があるといわれ、「ネガティブな感情を伴う情報を、適切に処理するために悪夢を見る」という説もあります。

私は、好ましくない夢を2種類に分類しています。

不快な内容ではあるが飛び起きるほどではなく、そのまま眠っていられる夢を、「不安夢」や「悪い夢」と言っています。「追いかけられる」「テストができない」「乗物に乗り遅れる」などが、不安夢の典型として挙げられます。追いかけられる夢は、世界でもよく見られる夢のトップ3くらいに入ります。

身体の不調が、夢となって現れる場合もあります。睡眠時は外界の刺激が少ないため、感覚がより体の内部に向きやすくなるのでしょう。日中は気づかない不調が睡眠中に自覚され、夢になることがあります。例えば、睡眠中に胸部や腹部の違和感を覚え、それにまつわる病気の知識が組み合わさって、「体の不調の夢」として現れたりするのです。夢を見たので検査したら、本当に病気が見つかったという例も報告されています。

睡眠が阻害されるほどの「トラウマ性の悪夢」

もう1つは、恐怖のあまり飛び起きて、眠りが妨げられてしまうような悪夢で、「トラウマ性の悪夢」といいます。大きなショックを受けたとき、それが夢にくり返し出てきたり、起きているときにフラッシュバックしたりします。後述しますが、こうしたトラウマ性の悪夢によって睡眠が阻害される場合は、医療機関への受診が勧められます。

悪夢のメカニズムを病気改善の一助に

現在、日本人の5人に1人は睡眠障害に悩んでいるといわれます。不眠とまではいかなくても、怖い夢や不快な夢にうなされたり不安になったりした経験は、皆さんお持ちだと思います。大学で教鞭を執ると同時に臨床心理士でもある私は、悪夢と不眠に悩む患者さんに対して、薬以外で助けとなるような心理療法を研究しています。

具体的には、さまざまな年代や職業のかたから、夢の内容や想い出す頻度について心理検査や聞き取り調査を行い、統計学視点から「夢想起」に関する研究を行っています。ヒトはなぜ悪夢を見るのか。そのメカニズムを解明することで、睡眠障害やうつなどの精神疾患の改善につながるのではないかと考えています。

なぜ悪夢を見るのか

私自身は、夢が持つ1つの側面として、「将来起こりうる危機へのシミュレーション」があると考えています。自分の生活をうまくやっていこう、不安を取り除こうという気持ちが、夢となって現れるというものです。

カウンセリングの現場でクライエントさんの夢を聞くと、特にそのように感じます。心が快方に向かっているとき、実際の生活が平穏になるよりも先に、夢がよくなることが多いのです。これはおそらく、自分がよりよい状態になっていくシミュレーションをしているのでしょう。

ですから、嫌な夢を見ても、「悪いことの予兆では」と気にする必要はありません。むしろ、「現実がうまくいくように脳内でシミュレーションしている」「いい方向に向かうように困難に対して努力している」と捉えたほうがいいのです。

悪夢を見ると悪いことが起こる?

「悪いことが起こる」という予測にとらわれて積極的な行動がとれなくなることを、心理学では「ネガティブな自己成就的予言」といいます。仕事や人間関係で失敗したときに、「今日は夢見が悪かったから」などと言う人がいます。しかし実際には、悪夢を見たことで「今日は悪いことが起こる日」と思い込んで本来の対応ができず、悪い結果を自分が引き寄せてしまっていることが多いのです。

くり返しになりますが、悪夢は悪いことの予兆ではありません。むしろ、対応すべきことの点検をしているのです。そして、嫌な夢を見ても「ああ、夢でよかった!」と思って忘れてしまう人の方が、健康的かつ生産的です。

悪夢を見なくする方法

悪夢を見なくするためには、「夢はミステリアスなものではなく、現実的なもの」と認識することが、最初のプロセスです。夢は、自分の記憶がランダムに組み合わさった映像に過ぎないのです。それをよく理解したうえで、悪夢を見ないようにする方法を試してみてください。

寝る前にネガティブなものに触れない

悪夢をよく見る人は、寝る前にその日の行動を振り返って反省したり、翌日の心配をしたりする傾向があります。入眠直前のインプットが悪夢の引き金となる可能性があるので、ネガティブなものはベッドに持ち込まないでください。横になってからスマホで仕事のメールを見たり、不安になるようなニュースを検索したりするのは最悪です。

原因に対処する、もしくは棚上げする

自分の状況と夢の内容を照らし合わせ、原因となっているトラブルやストレスを分析しましょう。夢に出てくるのは、気になっている未解決の事案であることがほとんどです。問題が解決すればもちろんですが、問題自体は変化しなくても、自分が気にしなくなれば、悪夢は見なくなります。

ただし、相手がいたり、結果に時間がかかったりする場合など、自分だけでは対処できないこともあります。そういうものは、いったん棚上げしましょう。「今は何もできない」ということを受け入れて、気にしないことも、悪夢を見ないためには必要です。

悪夢の内容を思い出す、人に話す

対人恐怖症など、不安障害に用いられる行動療法に、「曝露法(エクスポージャー)」という技法があります。怖い物や苦手な物にあえて触れることで、徐々に慣れさせる方法です。悪夢の場合、その内容を何度も思い返すことで、恐怖に慣れていきます。すると、次に同じような悪夢を見たときは以前ほど感情が刺激されず、不快な気持ちを軽減することができます。

悪夢について人に話したり、ブログに書いたりすることも曝露法の一つで、同様の効果があります。人に話すことで自分の本音がわかったり、会話を経て恐怖や不安が和らいだりもします。

悪夢の結末を変える

目が覚めたあとに、夢の結末を変えるのも効果的です。これは「イメージリハーサルセラピー」といって、精神科医や臨床心理士が使う方法で、PTSDの治療でも活用されています。アメリカ睡眠医学会のガイドラインでは、薬を使わない悪夢の治療法の中でトップに挙げられるセラピーです。

「電車に乗り遅れた」という嫌な夢を見たとします。そうしたら、目が覚めたあとに、「友人が車で送ってくれた」とか「臨時列車に乗れた」など、プラスの結末を考えるのです。

遅刻の夢を見る人は、「遅刻してはいけない」「遅刻したらどうしよう」と不安になっています。でも、こういう人は常に時間を気にしているので、実際には遅刻しないものです。遅刻した夢を見たら、「私は遅刻しないように気をつけていて偉い」と、自分を褒めてあげてください。そして、嫌な夢は自分の思い通りの結末に変えればいいのです。夢は自分の脳内にある個人的な映像ですから、いくら書き換えてもかまいません。

夢日記をつける

夢の内容と現実の出来事を記録するのもお勧めです。道に迷う夢は、翌週に控えた面接のプレッシャーかもしれません。それなら、面接が終わったあとは、悪夢もおさまるでしょう。そうしたことを手帳に書いておくと、次回、悪夢を見たときに落ち着いて対応できます。

夢と現実の出来事を見比べると、何がトリガーになったのか、どんな記憶がミックスされて映像化したのかがわかってきます。すると、「夢」と「現実」が整理されて「悪い夢は悪い出来事の予知ではない」ことが実感できるでしょう。

医療機関を受診する目安

睡眠を阻害されるほどの悪夢を頻繁に見る場合は、医療機関の受診をお勧めします。具体的には、「恐怖のあまり睡眠の途中で目が覚めてしまう」「悪夢から目覚めたあと、眠れない」「悪夢のことが頭から離れない」「眠るのが怖くなってしまう」などです。特に、強いトラウマがあると、そのシーンがそのまま再生される悪夢を見ることがあります。覚醒中にもフラッシュバックが起こって、夢と現実の境が曖昧になってくると非常につらく、日常生活にも支障が出てきます。受診先としては、認知行動療法ができる臨床心理士のいる精神科や心療内科、睡眠外来のクリニックがいいでしょう。

まとめ

コロナ禍で生活が変わり、だれもが不安を抱えています。それが夢に現れる人も多いでしょう。嫌な夢を見た日は目覚めも悪く、気分を引きずりがちですが、「夢の素材は自分の記憶だけ。神秘的な要素はない」ということを思い出し、気持ちを切り替えてください。そして、頑張っている自分をほめてあげましょう。嫌な夢を見ることなく(覚えていることなく)、ぐっすり眠って気持ちいい朝をお迎えください。

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