家庭でモンテッソーリを取り入れるには、まず「活動」から試してみましょう。モンテッソーリの活動は、子どもの心も体もすべてを発達させるように作られています。大人はまず、子どもがいま何をしたがっているかをよく観察しましょう。そこから、子どもの興味に見合った活動を準備します。【解説】シモーン・デイヴィス(国際モンテッソーリ協会(AMI)認定モンテッソーリ教師)
執筆者のプロフィール
シモーン・デイヴィス
国際モンテッソーリ協会(AMI)認定モンテッソーリ教師。ブログ・インスタグラムMontessori Notebookではモンテッソーリのちょっとしたヒントや読者からの質問に答え、世界中の親を対象にオンライン・ワークショップを開いている。オーストラリア出身。現在は家族とともにオランダ・アムステルダムに在住。ジャカランダ・ツリー・モンテッソーリスクールを立ち上げ、親子クラスで指導を行っている。
訳者プロフィール
宮垣明子(みやがき・あきこ)
和歌山県出身。翻訳者。『奇跡の動物家族~命をつなぐ』(K&Bパブリッシャーズ)、『内向型のままでも成功できる仕事術』(辰巳出版)など翻訳多数。保護猫と暮らして三年目。
本稿は『おうちモンテッソーリはじめます』(永岡書店)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/朝倉めぐみ
おうちモンテッソーリを始めよう
家庭でモンテッソーリを取り入れるには、まず「活動」から試してみましょう。
モンテッソーリの活動は、子どもの心も体もすべてを発達させるように作られています。大人はまず、子どもがいま何をしたがっているかをよく観察しましょう。そこから、子どもの興味に見合った活動を準備します。
モンテッソーリの幼児向けの活動は大きく5つに分けられます。
(1) 目と手のつながり
(2) 音楽や運動
(3) 日常生活(家事)
(4) 図画工作
(5) 言葉
どんな活動がモンテッソーリ?
モンテッソーリでは、活動のことを「お仕事」と呼びます。教具を使った「お仕事」ではスキルをひとつだけ身につけるようになっています。たとえば、箱にあいた小さな穴からボールを中に入れるというお仕事では、穴に入れるというスキルだけを身につけます。似たようなことをしているように見えても、市販のプラスチックのおもちゃでは押す、ボールを落とす、音を鳴らすなど、ひとつのおもちゃでいろんなスキルを使う作りになっています。
またモンテッソーリでは教具や道具としてできるだけ木など自然素材のものを使います。幼児は手だけでなく体のあちこちを使って物を調べたがるので、自然のものなら口に入れたりしてもまず安全です。またプラスチックとは違い大きさに応じた重さがあることも大切です。活動に使う道具を入れておくのも、布製のカゴなど自然素材のものがいいでしょう。手作りのものは木製のおもちゃとマッチするので、片づけてもきれいにまとまります。
ひとつの活動に必要な教具は、トレイかカゴにすべてまとめておきましょう。子どもがひとりでその活動をするときに必要なものは全部、ひとつのトレイにそろえておくのです。たとえば、水を使う活動の場合には、教具と一緒にこぼれた水を拭くためのスポンジやぞうきんもトレイに載せておきます。
子どもはひとつのことを何度も繰り返してできるようになります。必ず、その子に合ったレベルの活動をするようにしましょう。簡単すぎてもダメだし、もういやだ! と放り出すほど難しくもない、がんばればできるようなものを。
どんな活動を選ぶかは、子どもの自由です。わたしのクラスでは、子どもがやりたいものを選びやすいよう、その年齢の子にできるお仕事だけをよく考えて並べています。
▼活動の3段階
ひとつの活動のなかには「始め」「途中」「完成」の3段階があります。子どもは活動の一部分から始め、少しずついろいろな部分ができるようになり、ついには最初から最後まで、その活動をすべて通してできるようになります。もちろん、使い終わった道具を片づけることまでがひとつの活動です。活動に取り組んでいるあいだの子どもは穏やかで、全部できるようになれば満足します。たとえば、花を活けるという活動では、最初は花びんに水を注いだり、水をこぼしてスポンジで拭くことばかりおもしろがるかもしれませんが、少しずつ手順を覚えると、ひとりで花びんに水を入れ、花をきれいに飾って、できたら道具をしまい、こぼれた水を拭くようになります。
活動のやり方を教える
子どもが興味のあるお仕事を選んで始めたら、大人は途中で止めたりせず、好きなだけやらせましょう。何か落としても大人は動かず、子どもがどんな反応をするか、自分で拾うかどうか、ただ見ていましょう。うまくできないといらいらし始めたら、そっと近寄って「見て」と言い、ゆっくりともう一度、たとえばビンのふたをゆっくりと回してみせ、すぐに後ろに下がって、子どもを見守るのです。
子どもにお仕事を
してみせるときのポイント
▼その動きだけを、ゆっくりと、子どもがちゃんと見えるようにする。たとえば、ボタンを外すなら、その動作を細かくいくつもの手順に分け、ひとつひとつ、ゆっくりとみせること
▼してみせているあいだは、言葉で説明しない。大人が声を出すと、子どもはその口元に目がいくので、動作を見られない
▼何度もして見せる場合は、必ず最初と同じ動きにすること。同じ動きなら子どもは見落とした手順にすぐ気づく
▼物を持つ場合には、子どもが持ちやすいやり方にすること。たとえば、トレイやグラスを持つときは両手を使うように
▼子どもが手伝わないでというなら、「押して、押して」といったように言葉で助けてもいい。子どもがひとりで全部できるようになるまで、全部ひとりでやらせる。できなくてぷいと向こうへ行ってしまっても、また戻ってやり始めることもある
▼できたという感覚
モンテッソーリでは、最初から最後までやることに意味があります。ひとつの活動を最後までやって、できたという感覚を持つことが子どもにとって大切なのです。だから、パズルをやっていて、途中でピースが足りないと泣き出してしまったら、そこでいったんやめて教具ごと全部片づけましょう。
SHOW(やってみせる)
※「SHOW」はそれぞれの頭文字
これはモンテッソーリを学んだ友人、ジャンヌ・マリー・ペイネルに教えてもらった、大人のための合い言葉。子どもにとって初めてのことを教える場合には、ゆっくりと手を動かし、言葉を使わないですることが肝心。
子どもに楽に理解してもらうには、大人がその動きをゆっくりと、わかりやすく行うだけ。動きながら言葉で説明してしまうと、子どもは話を聞いたらいいのか、動きを見たらいいのかわからなくなってしまう。大人は口を閉じ、ゆっくりと動くことに集中しよう。
モンテッソーリを行ううえでの共通ルール
(1)子ども主導でやる
子どもの興味やペースが優先です。子どもがやりたいことを選べるよう、ゆっくり時間をとりましょう。
(2)お仕事は好きなだけ
早くできるようにと大人が急かしてはいけません。たとえ上の子や下の子が待っていても。ひとつのお仕事をやり終えたら、もう一度やりたいか聞いてみましょう。何度やってもいいとわかれば、子どもはそのお仕事を完璧にできるまで繰り返しやりますし、集中力も高まります。
▼子どもの邪魔はしない
子どもが集中しているときはとにかく邪魔をしないこと。ほんのひとこと声をかけただけで子どもの気がそれ、全部できそうだったのに台なしにしてしまうかもしれません。子どもの方から大人に意見を求めたり、いらいらしているようなら手を貸してもいいですが、子どもが自分で終わりにするまでは、ごはんを食べなさいと声をかけるのは待ちましょう。
(3)たしかめクイズはなし
ついつい、子どもが分かったかどうかを確かめるようなクイズを出してはいませんか。「これは何色?」「このリンゴ、何個ある?」「おばあちゃんに上手に歩けるところを見せてあげられるかな?」などど、わたしも息子が小さい頃にはよくやっていました。ちょっとしたことでも、これできるよね? と何度も聞いたり。
でもいま思えば、それはわたしが子どもを試していたのです。大人は自分の用意した答えとは違うことを子どもが言えば、「青じゃないよ、黄色」などと言います。でもそれが子どもの自信をなくさせてしまいます。
たしかめクイズはやめて、物に名前をつけてもらったり、より好奇心が高まるようなことを言って、子どもがどんなことをできるようになったのか、どんなことをできるようになろうとしているのかをちゃんと知っておきましょう。
(4)お仕事が終わったら片づける
子どもがお仕事を終わりにするなら、道具を元の棚に戻すよう声をかけましょう。これを習慣づけると、物事にははじめと中間、終わりがあると子どもは学びます。また道具をいつも棚の同じ場所に戻すことで、整理整頓になりますし、秩序が生まれます。
▼片づけの流れ
幼児のなかでもまだ小さい子には、まずどこに何があるかを見せ、それからお仕事が終わったら道具をそこに片づけるという流れをしてみせましょう。そのあとで、子どもに自分で棚から必要な道具を取ってこさせます。小さい子の場合は、子どもがカゴの片方を持ち、もう片方は大人が持つようにするとよいでしょう。たとえば空っぽの棚をとんとんと叩いて示してあげるといったような、自分で片づけさせる声かけを続けていれば、片づけることが当たり前になります。そのうちに子どもは自分でどんどん片づけるようになるでしょう。
そうは言っても、やりたがらない日もあるでしょう。そんなときは、やりなさいと声を荒らげるのではなく「かわりにやってほしい? いいよ、それじゃこれを持ってあげるから、あなたはこっちを持っていって」というふうに声をかけてみましょう。
(5)とにかく、大人がしてみせる
子どもは大人のやること、自分のまわりにいる人がしていることを見て学びます。小さな子どもでもちゃんとできるということをいつも頭において、そのお手本になるような動きをしましょう。椅子を持ち上げるのは必ず両手、テーブルや棚に腰を掛けないなど。何かを運ぶときには一度にひとつずつ持つようにしましょう。
(6)何を使ってもいいけれど、
よくない使い方は止める
子どもは、教わったのとは違うやり方でやってみたいと思うことがあります(だいたいが大人の考えもしないこと)。モンテッソーリでは、それは間違っているとやめさせると子どもの創造性を制限することになると考えています。道具を壊したり、本人やまわりの子が怪我をするようなことでなければ、わざわざ止めなくてもよいでしょう。あとから、そのお仕事は何をするためのものかを、その子の前でもう一度してみせる、と大人が心に留めておく程度でよいのです。たとえば、子どもがじょうろでバケツに水を注いでいたら、その場ではなく別のときに、じょうろを使って植物に水をやるところを見せましょう。
▼こんなときは
よくない使い方をしていたらやさしく止めましょう。たとえば「窓にガラスのコップをぶつけてはいけません」とていねいな言葉で止め、コップは水を飲むためのものだという動きをやってみせます。それから、ドラムをたたくとか、小さなハンマーでくぎを打つといった、物を叩くスキルを身につけられるお仕事をしてみせましょう。
(7)その子のレベルに合ったものに替える
お仕事を少し簡単なもの、あるいは少し難しいものに替えてあげるのもいいでしょう。丸や四角のブロックを同じ形の穴にはめるお仕事がうまくできないようなら、それより簡単にできる、円筒形のブロックを子どもに渡し、難しいものは大人がさっと片づけます。じっくりやってできるようになったら、難しい形のものをいくつか加えてみましょう。
▼教具の数
小さい子の場合、教具が少ないほうが集中できることもあります。わたしのクラスにある、小屋の形をした木箱のなかには、動物のおもちゃはいつも5個から8個しか置いていませんが、子どもたちがかわるがわる手にとるにはそのくらいがちょうどいいのです。もう少し大きい子どもの場合は、数を増やしてもいいかもしれません。
(8)お仕事を入れる棚は、
簡単なものから難しいものへ順に並べる
お仕事を入れる棚は、いちばん左に簡単な教具を入れ、右に行くにつれて難しくなるようにそろえましょう。子どもは、左から順に進めていきます。もし、いまやっているものは少し難しいなと思ったら、ひとつ左側のお仕事に戻ります。
(9)手に入るものを使う
この本に載っているものを全部買いそろえる必要はありません。ここで紹介しているのは、あくまで幼児が興味を持ちそうなお仕事の一例です。家にあるもので、似たものを作ってみましょう。
家にあるものを使う
▼子どもが、自販機にお金を入れることに興味を示していたら、わざわざ貯金箱を買うより、空き箱に細い切れこみを入れて、そこに手芸用のボタンを入れる遊びを取り入れてみる
▼子どもがひもに興味を示したら、乾麺や靴ひもを絡ませて端に大きな結び目を作っても
▼子どもが開ける、閉めるといった動きに興味を示していたら、きれいに洗った空きビンで好きなだけふたの開け閉めをさせてみよう。使わなくなった財布やポーチなど、留め金が違ったものもおもしろい。中に何か入っていると、宝探しのように楽しめる
(10)小さなもの、尖ったものには注意
モンテッソーリの活動では、小さな道具やカッター、ハサミを使います。そういう道具を使うお仕事は、必ず大人が一緒にやりましょう。いちいち気をつけてと声をかけるのではなく、じっと見守り、安全に使えているかチェックしましょう。
お仕事の準備
幼児は目で見ておもしろそうなお仕事を選びます。
ただ棚に並べればいいわけではありません。ちょっと工夫して、子どもの興味を引くような並べ方にしてみましょう。
(1)棚に、見せるように
教具を箱に入れて棚にしまうよりも、どんな教具なのかが子どもにも見えるように、出して並べてみましょう。
(2)おもしろそうに見えるように
教具をカゴかトレイに並べると、子どもにはおもしろそうに見えるものです。あまり興味を示さなくなったものは、別のトレイに変えるとまた興味を持つことも。
(3)使うものがすべてあること
トレイでもカゴでも、そのお仕事で使うものはすべてそこにそろえておきましょう。たとえば、粘土のお仕事のトレイには、容器に入れた粘土と一緒に、形をつくったり切ったりするための粘土ベラのセットと、テーブルに傷をつけないための粘土用マットをのせておきます。
(4)子どもが最後までひとりでできるように
たとえばお絵かきのスペースでは、イーゼルの両脇にフックをかけ、片方にはエプロンを、もう片方にはこぼしたところや手が汚れたときに拭いたり、使い終わったらイーゼルを拭くための濡れぞうきんを下げておきます。カゴに新しい紙を入れて置いておけば何枚でも描くことができますし、洗濯ひもを渡して洗濯バサミをいくつかつけておき、描いた絵をそこへぶら下げて、乾かせるようにしておくといいでしょう。小さな子には大人の手伝いも必要ですが、だんだんと最後まで自分ひとりでできるようになります。
(5)もとどおりにする
先にできあがったものを見ると、いまからやる子はつまらなく思ってしまいます。お仕事のあとは、作り終えたものをそのまま戻すのではなく、ばらばらに、元通りにしてトレイに並べるようにしましょう。
こんな家事は何歳から?
家事を子どもと一緒にやるにはどうしたらいいだろう。年齢別に、いくつか紹介しよう。
1歳~1歳半
▼キッチンで
●コップに水や牛乳を注ぐ。こぼしても少量で済むよう、水や牛乳は買ってきたままの容器ではなく、子どもが持てる大きさの容器に移し替えておく
●コーンフレークに牛乳をかける
●コーンフレークをスプーンですくってボウルに入れる
●手袋型のふきんでこぼしたところを拭く
●食べ終わった皿をキッチンへ運ぶ
●コップを使って自分で飲む
▼お風呂で
●自分で髪をとかす
●大人に見てもらいながら、自分で歯みがきをする
●自分で手を洗う
●お風呂のおもちゃを片づける
●タオルを自分で出してタオル掛けに掛ける
▼ベッドルームで
●おむつ/下着を取ってくる
●汚れた服を洗濯カゴに入れる
●カーテンを開ける
●2つのうちどちらを着るか、自分で決める
●大人に手伝ってもらいながら、着替えをする
●靴下を脱ぐ
▼その他
●大人に手伝ってもらいながら、おもちゃの片づけをする
●靴を出す
●親の手伝いをする(「じょうろを取ってきてくれる?」などに答えて)
●電気のスイッチをつける/消す
1歳半~3歳
▼キッチンで
●おやつやサンドイッチの準備をする
●バナナの皮をむいて切る
●ミカンの皮をむく
●果物や野菜を洗う
●オレンジジュースを絞って作る
●テーブルに食事の準備をする/お皿を片づける
●テーブルを拭く
●ほうきとチリトリで床を掃く
●お父さん、お母さんのためにコーヒーを淹れる(コーヒーメーカーのスイッチを入れる、カップとソーサーを準備する)
▼洗面所、お風呂で
●鼻をかむ
●歯を磨く
●ボディーソープで体を洗う(容器は旅行用のミニサイズのものを、こぼしても少量で済むように)
●顔を洗う
▼ベッドルームで
●ベッドカバーを引っぱって、ベッドメイクの手伝いをする
●その日着る衣服を選ぶ
●少し手伝ってもらって、自分で着替えをする
▼その他
●小さな花びんに花を活ける
●カバンやリュックに、持ち物を入れる
●コートを着る
●面ファスナーで留める靴を履く
●植物に水をやる
●おもちゃ箱におもちゃを入れ、棚にしまう
●窓を拭く
●洗濯機に洗濯物を入れる、洗濯が終わったら出して、カゴに入れる
●靴下や衣類を色別に分ける
●スーパーで品物を取る、カートを押す 持ち帰ったものを袋から出す
●ごみを捨てる
●イヌの散歩に行くときにリードをつける、イヌのブラッシングをする
3歳~4歳
▼キッチンで
●食器洗浄機からお皿を出す
●パンを作るときの材料をはかりで量る、材料を混ぜる
●ジャガイモやニンジンなどの野菜を洗う、ピーラーで皮をむく
●調理の手伝いをする(サラダづくりなど)
▼トイレ、お風呂で
●ひとりでトイレを使う、トイレを流す、トイレのふたを閉める
●濡れぞうきんを干す
●大人に見てもらいながら、お尻を拭く
●自分で頭を洗う(容器は旅行用のミニサイズのものを、こぼしても少量で済むように)
▼ベッドルームで
●ベッドメイクをする、カバーを広げる
●服をたたんでタンスやクローゼットにしまう
▼その他
●ペットにエサをやる
●リサイクルのお手伝いをする
●洗濯物をたたむ
●靴下をたたむ
●掃除機をかける
●リモコンキーで車のカギを開ける
なお、本稿は『おうちモンテッソーリはじめます』(永岡書店)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。 詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※(5)「モンテッソーリ教育の基本ルール」の記事もご覧ください。