「モンテッソーリ」という名前に著作権はないので「モンテッソーリ」とうたう学校はたくさんあります。どの学校が本当にモンテッソーリ博士の理論を守っているか調べるのは難しいでしょう。見学などの際にチェックすべき点や日本のモンテッソーリスクールの探し方、またどんな子どもに合うのか等、ご紹介します。【解説】シモーン・デイヴィス(国際モンテッソーリ協会(AMI)認定モンテッソーリ教師)
執筆者のプロフィール
シモーン・デイヴィス
国際モンテッソーリ協会(AMI)認定モンテッソーリ教師。ブログ・インスタグラムMontessori Notebookではモンテッソーリのちょっとしたヒントや読者からの質問に答え、世界中の親を対象にオンライン・ワークショップを開いている。オーストラリア出身。現在は家族とともにオランダ・アムステルダムに在住。ジャカランダ・ツリー・モンテッソーリスクールを立ち上げ、親子クラスで指導を行っている。
訳者プロフィール
宮垣明子(みやがき・あきこ)
和歌山県出身。翻訳者。『奇跡の動物家族~命をつなぐ』(K&Bパブリッシャーズ)、『内向型のままでも成功できる仕事術』(辰巳出版)など翻訳多数。保護猫と暮らして三年目。
本稿は『おうちモンテッソーリはじめます』(永岡書店)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
モンテッソーリスクールに何を求めるか
「モンテッソーリ」という名前に著作権はないので、「モンテッソーリ」とうたう学校はたくさんあります。どの学校が本当にモンテッソーリ博士の理論を守っているか、調べるのは難しいでしょう。
見学などの際にチェックすべき点を10か所挙げておきます。
▼(1)その学校は物を触って手を使った理解を勧めているか。子どもは手で触ったり、調べたり、本物の道具を使って作業をしたりして、自分で発見することができているか
▼(2)道具や教具は、棚に子どもの手が届く高さに並んでいるか。教具はトレイやカゴにきれいに、興味を引くような形で並んでいるか、足りないものはないか
▼(3)ひとつのクラスに年齢の違う子どもが混ざっているか。3歳から6歳クラス、6歳から9歳クラス、9歳から12歳クラスなど、大きい子が小さい子のお手本になったり、お手伝いをしたりできるクラス編成になっているか
▼(4)お仕事は自由にできるようなスケジュールになっているか。子どもはやりたいお仕事を自由に選べるか、(理想的には)3時間くらいは何の邪魔もされずにお仕事をできるか
▼(5)子どもたちが幸せそうで、自立しているか
▼(6)テストがまったくないか、ほぼない。どの子がどのお仕事をできるようになっているかを教師が把握していれば、テストをする必要はないはず
▼(7)教師は承認されたモンテッソーリスクールの教師養成講座を修了しているか。国際モンテッソーリ協会(AMI)はモンテッソーリ博士の家族が設立した研修組織で、内容も正確さを保っている
▼(8)教師は子どものガイド役としてていねいに話し、「わからないな、一緒に探してみようか」と、子どもが自分で疑問の答えを見つけられるよう対応しているか
▼(9)従来の学習システムよりも、自然に学ぶことを勧めているか。教師が子どもたちの前に立って教えるのではなく、子どもが自由に調べ、自分で自由に発見して学べるようになっているか
▼(10)学校は子どもを、ひとりひとり個性のある人間として扱い、いろいろな点で発達できるよう指導しているか(社会性、感情、身体、知能、言語)
モンテッソーリスクールの1日は?
モンテッソーリスクールの教室では、同時に30人の子どもがそれぞれ違う作業をしているということが、保護者には理解しづらいでしょう。わたしもよくこんな質問を受けます。「これを、先生はどうやってまとめているんですか?」
実際にどんな1日を過ごしているか、ご紹介しましょう。
子どもたちが来る前に、モンテッソーリスクールの教師は教室の準備をします。お仕事の教具は子どもの背の高さに合わせた棚に、種類ごとに並べます。ひとつひとつていねいに整えられた教具は、ひとつのスキルを身につけると、次の教具ではそのスキルを使ってまた別のスキルを身につけ、その次はまたそれを使って別のスキルをといった形で順に学べるようになっています。教室のなかにいるあいだ、教師はどの子がいま何を学んでいて、何をもう身につけたのかを見分け、次の段階に進む準備ができた子にはそのお仕事を勧めます。
活動をしている教室をのぞいてみると、ひとりの子は算数のお仕事をしていて、別の子は言葉の遊びをしていて、そのとなりではふたり組でひとつの活動をしていたりします。子どもはそのとき自分のしたい活動を自分で決めるのです。
教室では「集まって」と呼び集められ、みんなで座って先生の話を聞いたり、並んでトイレに行ったりすることはありません。そのぶん、教師は子どもたちを観察し、必要な子には手を貸す余裕があるのです。
また、クラスは年齢混合の編成なので、大きい子は小さい子のお手伝いをします。ほかの子になにか説明するときには、頭のなかで自分が学んだことを整理します。小さい子も、大きい子たちのやることを見ていて覚えます。
子どもの自由にさせておくと、苦手な分野の活動には手を出さない子も出てくるのでは、と心配になるかもしれません。でもそういう場合には、その子がまだその活動には準備ができていないのだと教師は判断し、取り掛かりやすい、その子にとって魅力があるものから進め、興味に沿った方法で、苦手な分野にも取り組めるよう進めていきます。
モンテッソーリはどんな子どもにも合う?
モンテッソーリはどんな子どもでもできるものなのか、それともちゃんと計画できる、自立した子やじっと座って作業できる子でないと向かないものなのか気になりますよね。
(1)モンテッソーリは学び方の
違う子でもできるのか?
わたしは、モンテッソーリはどんな子どもにも向いていると思います。目から学ぶ、耳から学ぶ、体を動かしたり触ったりして学ぶ、言葉で学ぶ、などいろいろな教具があるので、学び方が違う子でも何かしら魅力を感じることがあるでしょう。
ほかの子がしているのをじっと見て学ぶ子もいます。子どもは、教室にいるあいだずっと何かしているわけではありません。ほかの子がしているのを見ているだけでもいいのです。じっと見ているうちに覚えてしまい、実際に自分がそのお仕事をやってみるともうほぼできるという子もいます。もちろん、自分で何度も何度も手を動かさないと覚えられない子もいます。同じことを、同じ環境のなかで、違った学び方で学べるのです。
(2)子どもに、予定をたてることはできる?
モンテッソーリの子どもたちは、だんだんと自分で1日の予定を決めるようになります。小さな子のグループでは、自分なりのリズムや興味のおもむくままに1日を過ごしますが、年齢を重ねるにつれて、少しずつ自分がその日やることを決められるようになります。
中には、ちゃんと教えてもらわないとそれができない子もいます。ほかの子よりも手助けが必要な子には、しっかり訓練を受けたモンテッソーリスクールの教師が指導をします。
(3)じっとしていられない子には?
モンテッソーリは、じっと座っていられない子こそ理想的でしょう。教室に入ると、驚くほど静かなことがよくあります。子どもたちはそれぞれに自分の活動に集中していて、教師が静かにしなさいと声を荒らげる必要もありません。
そんななかでも、子どもたちが教室内を歩き回ったり、ほかの子が作業しているのを見に行ったり、トイレに行ったりするのは自由です。もちろん、活動をするなかで体を動かしたりもしますから、じっとしていられない子にはぴったりの環境でしょう。
(4)モンテッソーリはおうちでの
しつけにも向いている?
モンテッソーリはどんな子どもにも向いているとはいえ、教室に入れられることを強制的だと思う人もいますし、子どもたちの様子を見て自由過ぎると考える親もいます。
教室と同じように子どもがたくさんの体験をでき、子どもを尊重しつつはっきりとした限界を親が決められるなら、そして子どもがそのなかでちゃんと学ぶことができるのなら、モンテッソーリはおうちで行うのがベストだとわたしは思っています。
モンテッソーリスクールで学んだ子どもが、普通の学校で学べる?
子どもがある程度成長したら、普通の学校に通わせようかと悩む親もよくいます。
「みんな同じ内容を、先生の言うとおりに学ぶという授業に、うちの子どもは慣れるだろうか? 自分の学びたいことを学ぶのではなく、先生が決めた時間割で1日を過ごせる? 授業中、じっと座っていられるだろうか?」そう心配するのは当然のことです。
でも、たいていの子どもはモンテッソーリスクールから普通の学校にうまくなじんでいきます。最初から普通の学校に通った子と比べても、自立し、思いやりがあり、気が利くことが多いですね。モンテッソーリ式で身につけたスキルは、別の学校に行っても役に立ちます。
別の学校に行くと決めた子どもが、こう言っていたことがあります。「簡単だよ。先生が言うとおりにしていればいいんでしょ」
別の子は、中学までモンテッソーリスクールで学び、高校からは普通の学校に行くことになりました。そのとき困ったことは2つ。
(1)トイレに行くときに先生に声を掛けなくてはいけない
(2)テストのとき、わからなくても教科書を見てはいけない。モンテッソーリスクールではわからないときには自分で調べていたので
子どもを普通の学校に移しておもしろかったことがある、とある親が話してくれたこともあります。その子は新しい学校で、テスト中にわからない問題があるとすぐ手を上げて先生を呼んだそうです。モンテッソーリの子どもはわからないことはすぐに調べたがりますからね。テストに出るから前もって勉強しておくという感覚がなかったのです。
日本のモンテッソーリスクールを探すには
日本には、マリア・モンテッソーリ自らが設立し、現在は親族が運営する「国際モンテッソーリ協会(AMI)」(本部はオランダ・アムステルダム)や、日本独自の協会で、国際モンテッソーリ協会に友好団体として承認されている「日本モンテッソーリ協会(学会)」などの団体があり、モンテッソーリ協会の普及や教員養成などの活動を行っています。これらを目安に、インターネットでモンテッソーリスクールについて検索してみましょう。
なお、本稿は『おうちモンテッソーリはじめます』(永岡書店)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。 詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※(7)「家庭でのモンテッソーリ教育・実践編2」の記事もご覧ください。