2018年、東京・新橋に1号店がオープンした焼肉ライクは、現在50店舗に成長。このコロナ禍にあって新しい顧客を発掘し続けている。焼肉ライクは、焼肉店という業態を「肉質のこだわり」で差別化していくのではなく、「創造力」を駆使した便利な業態への進化で差別化しようとしている。業界を活性化するリーディングカンパニーとなるか。その現状をレポートする。
執筆者のプロフィール
千葉哲幸(ちば・てつゆき)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)
女性に受けた「ひとりで焼肉」
2018年8月29日に東京・新橋に1号店がオープンした「焼肉ライク」は、フードサービス業界に「創造力」というものを改めて気付かせてくれた。閉塞感とは全く真逆の、アイデア一つで市場は脈々と広がっていくという感覚だ。
1号店オープンから約2年半で全国に50店舗
焼肉とは、これまで「ハレの日」需要が色濃い業種であったが、それを客単価1350円というポピュラープライスに落とし込み、提供時間を3分以内に短縮化したことによって利便性が一段と増した。これまでの一般的な焼肉店で、ひとりで焼肉を食べるのとは趣が異なり、堂々と店に入ることができる。そこで、これまでひとりで焼肉店に行きたいと思いながら躊躇していた女性にその利用動機を開放した。
1号店がオープンしてから早2年半近くとなる焼肉ライクは、現在全国に50店舗(うちFC45店舗/2020年12月末現在)となっている。フードサービス業界は、コロナ禍第三波によって大きな影響を被っているが、この間どのように営業に取り組み、どのようなビジョンを描いているのだろうか。
コロナ禍で売上40%減も
焼肉ライクの営業状況は、2020年の年初からじわりじわりと打撃を受けるようになり、出店場所での違いはあるが、特に4月、5月は前年同月比で60%となった。営業は政府の要請に従い時間短縮営業を行った。
このように厳しい状況に置かれた背景として、まず、主としてビジネス街に出店していたこと。ここでは店前で人が歩いていなかった。さらに同社代表の有村壮央(ありむら・もりひさ)氏は「焼肉ライクそのものの認知度が低かった」と語る。この真摯な指摘がこれ以降の同社の行動に現れていく。
「これらを打開するために、店の間口を広げることが重要であると考えて、ここから(コロナ禍から)新たな需要や顧客層を取り入れていこうと動きました」(有村氏)
3密の回避に最も適した店
最初にアピールしたことは「環境(感染症対策)に配慮している」ということ。従業員の検温と手洗いの徹底から、飛沫防止のためにアクリル板の仕切りを設定している等々、さまざま原則的な内容に加えて「客席全体の空気が2分30秒で入れ替わる」ことを随所で告知した。
「コロナ禍で最初に言われたことは『3密の回避』でした。当社の店はこれに最も適した店です。先ほどの換気もありますが、お客様が自分で調理をするということ。さらに『個食』となっているので、これらの特長をアピールしていきました」(有村氏)
それが、「今こそ!!ひとり焼肉」キャンペーンとなった。「ひとりで換気の環境が整った焼肉ライクで安心して食事をしてください」ということを次々とアピールしていった。
緊急事態宣言を機に矢継ぎ早の企画
まず、緊急事態宣言が解除された翌日の5月26日から、一番人気の「タン・カルビ・ハラミ」を通常価格の1480円(税抜、以下同)から200円引きのキャンペーンを展開した。これは、「緊急事態宣言が解除されてから一番食べたい外食が焼肉」という調査会社のアンケート結果からひらめいた企画だったという。
次に、外出自粛やテレワークによって運動不足等による「コロナ太り」が気になる人に向けて、ご飯を外してたっぷりのチョレギサラダに変えて、これにミスジとハラミをセットにした「赤身肉とチョレギセット150g(キムチ、スープ付き)」1150円を8月10日から販売した。さらに、「この商品を女性一人でも焼肉を楽しんでいただきたい」という趣旨で「WoMonday(ウーマンデー)」と称し毎週月曜日に1000円で提供し、現在も継続している。
1ポンド肉と「無限ご飯」で1540円
9月15日から「学割ライク」を販売。これは「バラカルビセット100g&ちょいたしカレー」のメニューを「ご飯食べ放題」にして、通常価格710円のものを学生証提示によって500円で提供する。
食べ放題としては、10月1日から11月30日まで全店舗で、ご飯・キムチ・スープがおかわり自由になる「メガ盛りパウンダーセット、無限ご飯キャンペーン」1540円を行った。パウンダーとはお肉が450gということだ(300ℊ1080円もある)。
11月23日より全店舗で「松阪牛50g」500円を6万食限定で発売。これは、コロナ禍で行き場を失った和牛を焼肉ライクで販売することによって、お客様には和牛のおいしさをお得に味わっていただいて、生産者応援につなげたいと考えて行ったものだ。
▼焼肉ライクの店舗とメニュー一覧
※Uber Eats、出前館も対応
「フェイクミート」に反響
画期的なことは「フェイクミート」をメニュー化したことである。これは大豆や小麦、エンドウ豆などを主原料として作った肉の代替食品のことで、主にヴィーガン(絶対菜食主義者)や健康に気遣う人が求める食べ物であるが、これをどのようなきっかけで導入することになったのだろうか。有村氏はこう語る。
「フェイクミート自体については、アメリカの様子を興味本位で眺めていた程度で、日本の焼肉屋さんで取り扱うものではないと考えていました。それがある人の紹介でフェイクミートのベンチャー企業、ネクストミーツ(株)の佐々木英之社長を紹介していただき、実際に試食しました。この瞬間、この食味に感動して『焼肉好きの人も喜ぶのではないか』と思い、どこよりも早くフェイクミートをメニューに取り入れようと考えました」(有村氏)
テークアウト・デリバリーは売上の10%を確保
2020年10月23日から渋谷店で先行販売して、徐々に取り扱う店を増やしていき、12月14日から全店で提供している。
フェイクミートをメニュー化したことによって、にわかに多くの反響があったという。これまで焼肉ライクを利用していなかったヴィーガンや、健康を意識している人が来店している状況を見て、有村氏は「フェイクミートの市場は広がり、縮むことはない」なという手応えを感じているという。
テークアウト・デリバリーにもいち早く取り組んだ。これは5月から、保健所に新たに申請して、客席の一部をキッチンに変更できる店で行っている。商品はテークアウトで500円、デリバリーは800円程度。一般的に焼肉弁当は1500円となっている中でとてもよく売れていて、平均して売上の10%を確保しているという。
これらの売り方のために、新規出店の店では自動焼き機を入れている。ベルトコンベアによって両面を遠赤外線で焼くことから、焼きムラがなく、部位にもよるが概ね1分弱程度で焼き上がる。こうして作った焼肉弁当は時間がたってもおいしい状態を保つことができている。今後新店ではこの機能を基本的に導入していく方針で、テークアウト・デリバリーの売上構成比が10%から20%になることを目指している。
「朝焼肉」開始
さて、2021年1月7日より2回目となる緊急事態宣言が発出されて、東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県エリアの飲食店では20時までの時短営業(酒類の提供は19時まで)を要請されている(緊急事態宣言は、その後他府県に拡大)。
これに対応して、焼肉ライクでは1月12日から朝の営業開始時間を11時から10時に1時間前倒しして、10時から11時までの新商品として「朝焼肉セット」500円の販売を一都三県の店で順次導入している。「朝焼肉」の内容は、バラカルビ100ℊ、ごはん(お替りサービス)、スープ、味海苔付きで、さらに生玉子かキムチを選ぶことができるというものだ。
ちなみにこのメニューは、昨年8月から新橋本店、9月より田町芝浦店で導入をしていた。これらの店では夜勤明けのお客や出勤前のビジネスマンから「この時間にやっている店がないから助かる」「ランチタイムの混雑を避けることができる」と好評を得てきた。
「朝食の時間帯にラーメンを食べること」を「朝ラー」と言って、今では当たり前になっているが、15年くらい前に外食で話題になった時は実に斬新であった。「朝焼肉」も「朝ラー」と同じ存在感になっていくことだろう。
フェイクミートのデリバリー専用弁当も開始
さらに、1月15日よりフェイクミートのデリバリー専用の弁当を約半数の店舗で提供している。「ソイ焼肉弁当」サラダ無し1080円(税込、以下同)、「ソイ焼肉サラダ」1290円など4種類と、トッピング「ソイ焼肉カルビ50g」410円というラインアップである。
まとめ
これまでの「焼肉店」という存在感を飛び越えて、消費者にとってより身近なポジションを開拓し続ける焼肉ライクは、この度のコロナ禍でチャレンジを連発している。焼肉店という業態を「肉質のこだわり」で差別化していくのではなく、実に間口が広く、便利な業態へと邁進している。このようにミッションが定まっていることから、フードサービス業界を活性化するリーディングカンパニーとなり続けていくことだろう。
取材・文◆千葉哲幸
フードサービスジャーナリスト。柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。